男性器の細かい描写があります。
苦手な方はご注意ください。
薄っすらと明るい部屋で寝台が軋む。
『軍曹・・』
真っ白なシーツに黒髪が散らばって広がる。
『可愛い・・』
身じろぎする度に吐息が漏れ、体温が上がり・・
『ねぇ・・軍曹も、気持ちよくなって?』
紅い瞳が煌めいて、白髪が視界を過ぎり・・首筋から痛みと快感が同時に与えられ―
「二等っ!!」
自分の喉から発せられた声に驚き、目を開けば視界に映るは見慣れた天井。
—夢・・か・・—
強く握りしめていた上掛けから両手を離し、力んでいた体をゆっくりと弛緩させる。
心臓は早鐘を打つように響いていて、見てしまった夢を意識せざるを得ない。
あの夜会での出来事から一月ほど経ったが、数日置きに見る卑猥な夢の所為か体調がおかしい。魔力が安定せず、気を抜くとすぐに乱れる・・こんな事は初めてだ。
魔力が乱れるから夢を見るのか、夢を見るから魔力が乱れるのか・・
内容が内容だけに未だ誰にも相談できていないが、そろそろどうにかせねば業務に支障が出てしまう。
気だるい体を無理やり動かして、素足で支給されている軍靴を履き洗面所へと向かう。
その途中、体液が下りてきた感覚がして足を止めた。
―溢れたか・・—
溜息を吐いて仕方なく衣装棚の方へ進路を変えた。
替えの下着を手にして、洗面所へと向かう。
ミネコラルヴァ王国の軍属。
主に新兵の訓練を取り計らう第七部署の軍曹。
エトラ・ホークは洗面所にて下着を手洗いしながら、自らの情けなさに溜息を吐いた。
「気を付け!―直れ!」
ザッ!ザッ!と一糸乱れぬ行動に満足して、軍曹は頷いた。
「ご苦労兵長。本日の訓練はここまで!各自装備を点検、整備して解散!明日が休日だからと羽目を外し過ぎるなよ!以上!」
「軍曹へ敬礼!」
ザッ!
汗と泥に塗れた十数人の男たちが兵長の号令にビシッと敬礼をする。
第七部署の訓練場は今日も暑苦しくもピリッとした空気に包まれていた。
「お疲れ様ですホーク軍曹」
床板を鳴らしながら歩いていると、背後から声を掛けられた。
立ち止まって振り返ると、先ほどまで今期の新兵たちを一緒に扱いていた熊獣人の兵長が速足で追いかけてきている。
「ああ、ベアド兵長もご苦労。これから上がりか?」
並んで歩きながら気さくに会話を続ける。
「ええ、あいつらに美味い店を教えてやろうかと・・軍曹は、この後は?」
「事務処理が残っててな。着替えてから暫くは事務室に詰める」
「それはご苦労様です。でも、根を詰め過ぎないように早めに上がって、休んでくださいよ?軍曹最近お疲れ気味ですから!」
「・・・あぁ。そうするよ。気遣い、感謝する兵長」
「どういたしまして!では、自分はこれで!」
軽い足取りで走っていく兵長を見送り、窓に映った自分の姿に目をやる。
そんなに、疲れているように見えてしまっているのか?
確かに少し体重が落ちたが・・顔色が悪く見えるのは外が薄暗いせいだと思いたい。
軽く汗を流し、訓練用の戦闘服から軍服に着替えて第七部署の事務室に入ると、人は殆どおらず・・居たのは上司である曹長と—
「あ。軍曹、お疲れ様です」
「お疲れ二等」
通信兵として事務室に詰めているジルコニア・ソルシオ二等だけだった。
あの夜会以降、
出来るものか。
自分から「忘れろ」と言ったのだ。蒸し返してはならない。
と、言うか他人の目がある所で話す内容ではない。
わざわざ人目を憚って話をするのも・・違う気がする。
しかし、二等の方の体調は大丈夫だろうか?
自分のデスクに向かいながら、近くを通る時にちらりと見やる。
長い前髪で目元は見えないが・・肌や髪の艶は良いな。
椅子を鳴らしながら引き、座ると卓上トレーから書類を取り出し、インク壺とペンを取り出して記入を始めようとした時だ。
上座のデスクで腕を組んで静かにしていた曹長が話しかけて来た。
「ホーク軍曹。ちょっと良いか?」
「はい」
立ち上がり、曹長の席まで移動すると申し訳なさそうな顔で切り出された。
「ザッパ中佐からの通信を待っているところなのだが・・私は今日は早く帰りたいんだよ・・今度埋め合わせするから、代わりに内容を聞いといてくれないか?」
「構いませんよ。家族サービスですか?」
上司の性格からして、その辺りが理由だろうと聞けば嬉しそうに「娘の誕生日なんだよ・・」と頬を染めた。
「それはお目出度い。早く帰ってあげてください」
「うん。すまんな。中佐からの通信内容はこの用紙に記入しておいてくれたら良いから・・」
「了解です」
「二等!そういう訳だから中佐からの回答は軍曹に頼むな!」
「了解です!」
上司は二等にも声を掛け、いそいそと帰り支度を整えると「頼むな。お疲れ様!」と言い残して退出して行った。
母と子と。互いに素敵な時間を過ごせるように願いながら席に戻る。
「曹長。お子さんいたんですね」
「ああ、二等は知らなかったか?ご主人は民間人でな。家の方を切り盛りしてくれるから助かる。もう頭が上がらないと酒の席で聞いたことがある」
「へぇ・・そうだったんですね」
「あぁ」
会話しながらも、ペンをインクにつけて書類を作成していく。
暫くの間、室内にはカリカリとペンの走る音だけが響いていたが、机の上にコトリと湯気の立つカップが置かれた。
「どうぞ、お茶です」
「あぁ。助かる」
キリの良い所まで書き上げてからペンを置き、カップに手を伸ばす。
口元に近づけると、柑橘系の香りが鼻孔に広がった。スッキリとした香りで目の奥の重い感じが幾分マシになった気がする・・なんと今の自分に打ってつけのお茶なのだろう。
思わず口元が緩む。
「良い香りだ・・レモンか?」
「レモングラスというハーブを使ったお茶です・・お気に召しました?」
「あぁ。気に入った。どこで買える?」
「二番街の外れの方です。良かったら、今度案内しますよ?」
自分のデスクでふふっと笑いながら冗談めかして言う部下に「あぁ、頼む」と返事をした。そのまま会話が途切れて室内には静寂が満ちた。
目を閉じ、香りを楽しみながらカップを傾けていたが、空気が変わったのに気づいて部下の方に目をやると、両手でカップを包むように握りしめたまま顔を赤くして俯いていた。
「?・・二等?」
声を掛けるも、身を固くして動く様子がない。
自分が何かしたのだろうか?やはり体調がおかしいのか?
そう言えば、今は他に誰もいないのだ。この間の件に関する話が出来るではないか。
しかし・・なんと問う?率直に「私はあれから時々夢見がアレで体調がおかしいのだが、そちらはどうか?」とは言いづらい・・
どう切り出したものか・・と思案している内に落ち着いたらしい部下の方から話しかけて来た。
「軍曹・・最近お疲れのようですから、リラックス効果のあるお茶なんかがお勧めですね」
「好きな香りはありますか?」と続いた言葉に「二等にも分かるか・・」と返した。
「実はここ最近夢見が・・悪いというかおかしいというか・・とにかく変でな。睡眠の質が落ちている感じはする・・香りの好みか・・甘ったるいのは苦手だが、実際嗅いでみないとわからんな」
「なら、お店に行ったときに安眠効果のありそうな茶葉のお勧めを聞いてみましょうか」
「そうだな、そうしよう。二等の方はどうだ?眠れているか?体調に変化は?」
「えっ?!俺ですか?・・俺はもともと睡眠をあまり必要としないので・・夢は、まぁ見ますけど・・体調は悪くないですね。むしろ前より活力が余ってる感じがあります」
ふむ。元気なのは良い事だが・・部下は活力が余る・・自分は魔力が不安定・・これは互いの魔力バランスが崩れているのでは?
原因は・・まぁ。この間のアレ以外考えられんか・・
「二等。今、手は空いているか?」
「え?はい。中佐からの通信待ちですが・・暇ではあります」
「何か?」と首を傾げる部下に「ちょっとこっちに来て座れ」と隣の席を示す。
今度は逆向きに首を傾げつつ、隣の席に移動すると部下は対面する形で着席した。
うん、素直なのは良い事だ。
「お互いの体調の変化だが・・原因は魔力バランスが崩れた所為ではないかと思う」
「はい」
「そこでだ。確認の為にもちょっと協力してほしいのだが・・良いか?」
「?・・はい。俺は何をすれば?」
「何。そう難しい事ではない。手の平を上にして両手を出してくれ」
「はい」
言われたとおりに両手を差し出す部下。ちょっと素直すぎやしないか?
いつか誰かに騙されやしないかとほんのり不安が過ぎりながら、差し出された手を握った。
「ぐ、ぐんそう?」
「この間。互いに魔力を循環させたろう?不調の原因はそれだと、私は思う」
「!・・は、はい・・」
「再度循環させて、互いの魔力バランスを整えれば、私の不調も元に戻るかもしれん。協力してくれるか?」
「・・ハ・・い・・」
「ん?・・二等?大丈夫か?」
「ハイ・・モンダイ、ナイデス」
俯いてしまい顔色は見えないが・・言葉は硬いし耳も赤い・・でもまぁ、問題ないと言っているし、少しの不調なら魔力を調整していれば一緒に整うだろう。
「では始めるぞ?右手から受け取り、体内を巡って左手から送り出すイメージだ」
「リョ、リョウカイデス」
手のひらを重ねて互いに握ると、置いた手の甲に部下の指が掛り、きれいに整えられた爪が現れた。
自分の方はというと、手の淵に指が軽く引っかかる程度。
手の甲側に揃えた指を回すことは出来ない。
部下の指が長いのもあるだろうが、大きさ自体に差があるのだ・・
男性の手だな・・と認識すると同時に、自分が女なのだと無理やり思い起こされたように感じて僅かに動揺する。
と、右手からじわりと部下の魔力が流れてきた。
少し慌てながら自分の左手からも魔力を流す。
流れて来た部下の魔力を受け入れ、体内を循環させると「ほぅ・・」と小さく溜息が零れた。
—なんと・・心地良い・・—
温かい陽だまりにいるような・・
熱めの湯に浸かったときに染み渡る熱のような・・
いつまでも浸って居たい心地よさが全身を包む。
目を閉じ、流れて来る魔力に集中する。
受け取った魔力と同等の魔力をこちらからも与える。
そうして互いに魔力をゆるりと循環させ、ふわふわとした心地よさに身を任せていると—
すり・・
手の上にあった部下の親指が、甲を優しく撫でた。
「んっ・・」
小さく声が漏れると、流れて来る魔力がぐっと増えた。
反射的に、こちらも与える量を増やす。
結果、心地よかった温もりは肌を炙るような熱へと変わった。
子宮に響くようなゾクゾクとした感覚が腰辺りから背中を駆け上がり、腕を伝って小指の先までをビリビリと痺れさせる。
自然と体温が上がり、吐き出す息にも熱がこもり始めた。
「ふっ・・ふっ・・二等・・」
「―っ!く・・ふっ・・はい。軍曹・・」
「これ、以上は体が・・付いていかん・・ふっ・・今の量を維持しろ・・」
「了解、しました・・」
性欲の扉を撫でるような熱が気持ちよくて、思わず現状維持を指示していた。
繋いだ手が、ジリジリと炙られる体の中でも一番、燃える様に熱く感じられた。
短く、早く、熱い息を逃がして喘ぐように呼吸する。
気が付けば、握手するように繋いでいた手は、互いの手首を握り合うようにして上着の袖口から侵入し、熱を与え合うように腕の内側に指を添わせていた。
手の平を当てたまま、指の腹で柔らかい内側の肌をやさしくさする。
すり・・すり・・と指が肌を撫でる度、流れる魔力量は変わらないのに体温ばかりが上がっていく。
撫でられた箇所から痺れを伴う快感が首筋まで駆け上がってきて、ビクッと体が勝手に跳ねる。
それは部下も同じなようで・・
指で撫でる度に伝わる振動が。
押し殺しきれずに漏れ出た声が。
目を閉じていてもありありと感じられて・・
そんな部下の反応が性欲の扉にカリカリと爪を立てる。
「ふ・・ふっ・・・ぐん・・そ・・」
「んっ・・なん、だ。二等・・」
「・・・きもち、いい・・ですね」
「・・概ね・・同意だ・・ふっ・・」
「ふふっ・・・概ね・・ですか・・・ん・・」
部下の揶揄うような響きに、閉じていた目を開いて反論しようとしたが、淡く微笑むその表情を目にして、言葉が出なくなった。
一瞬乱れた心音が、今度は暴れる様に鼓動を再開する。
「うっ・・あ・・」
ドッドッドッと早鐘を打つ心臓のリズムが全身に響いて、僅かに残っていた冷静な思考を彼方へと追いやる。
感情ばかりが暴れまわって混乱しているのに、頭の片隅で『顔、みたいな』などと考えている。
夜会では額を出すようにセットされていた前髪は、今は形の良い鼻筋半ばまで下ろされていて、あの優しいヘーゼル色の瞳を隠してしまっているのが、酷く残念に感じられた。
ふっふっと、互いに荒く息を継ぎながら腕に指を這わせつつ・・名残惜し気に袖口から手を引き出して、手の平をすり合わせるようにして胸の高さまで持ち上げ・・
そうするのが当たり前であるかのように互いの指を絡め合った。
前髪越しに視線を絡めて、互いの上半身がゆっくりと傾きながら近づき・・
鼻先同士が掠めるような距離に迫った瞬間――
部下のデスクから着信音が鳴り響いた。
見つめ合い、一瞬の間。
握り合っていた両指を広げて外し、素早く距離を取る。
慌てて自分のデスクに戻る部下を見ながら、肩の高さに上げていた両手を抱きしめるように回し、二の腕を握りしめた。
体は熱いというのに、思考は冷静に現状を把握しようと動き始め、頭の中と体の状態の差異に混乱する。
ナンだったんだ今のは!?
おかしい。今の自分はオカシイ!変だっ!とても変だ!!
魅了をかけられた訳でもないのにっ!
魔力を循環させただけだぞ?!
なんの効力も持たせてないただの魔力だぞ?!
なのにあんな状態に・・相性が良いとは思っていたが、良すぎるだろう?!
渦巻く思考に捕らわれていると「軍曹!ザッパ中佐殿からの長距離通信です!」と呼ばれた。
「わ、分かった!」
急ぎ返事をして、意識的に思考を仕事仕様へと切り替える。
ペンとメモ用紙を準備して、部下の下へと急いだ。
≪―と、いう訳で大森林は現状落ち着いている。新人共の実地演習だったか?駐屯地から離れなければ、比較的安全に実施できるだろう・・ところで、物資は伝えた通りの量を送ってくれるのであろうな?こっちは飲むか食うかぐらいしか楽しみがないのだぞ?≫
「はっ!兵站部へお伝え致します」
≪それだけでは足りないなぁ・・そうだ。物資とともに夜の蝶たちも第七部署で手配して―≫
「それは直接、セブンス曹長へお伝え下さい。それでは、通信終わり」
≪いや、それは―≫
耳障りな声はまだ通信機から流れていたが、断ち切るようにオフスイッチを押し、動力を切る。
「あの・・よろしかったのですか?」
「構わん。相手が曹長ではなく私とみるや調子に乗りおって・・真面目に相手をすれば疲れるだけだ。内容は曹長に伝える。問題ないさ」
自分の席に戻り、メモした内容を見ながら預かった書類に記入を始めた。
暫くカリカリとペンの走る音だけが室内に響いていたが、ペンが止まったタイミングで部下が話しかけて来た。
「あの・・軍曹。調子は如何です?魔力バランスは整いましたか?」
「―ん?おぉ、そうだったな・・・・うん。不安定だった魔力が落ち着いたようだ。予想通り、魔力バランスの乱れが原因だったようだな・・助かったぞ二等。協力感謝する」
「いえ、お役に立てたのならよかったです」
はにかむように微笑んだ部下に、折角仕事仕様へと移った思考がガリガリと音を立てて削られるような感覚を味わう。
尻のすわりが悪い思いをしていると、躊躇いがちに部下が続けた。
「あの・・軍曹・・」
「な、なんだ?」
「先ほどの魔力循環・・・・また今度お願いしても?」
視線を真っ直ぐに向けながら言われた言葉に、何故だか叫び出したいような羞恥に襲われ、喉の奥でぐっ—と息を止めた。
「—・・いや、互いの魔力も安定しているようだし、もう必要ないだろう」
「そ・・そうです・・ね・・。はい。わかりました」
断りの言葉に、視線を逸らして両肩を下げてしまった部下。その様子に不思議な申し訳なさを感じて、何だか居たたまれない。
「こ、この書類だが、インクが乾いたらこっちのトレーに入れて置いてもらえるか?すまんが用事を思い出した。先に帰らせてもらうぞ?」
「・・・あ、はい。わかりました軍曹・・」
「お疲れ様です」と続いた言葉に「二等もお疲れ」と返しながらインクとペンを片付け、足早に事務室を後にした。
ツカツカと廊下を進み、角を曲がって人目に付きにくい階段下へ入ると、壁に両手を当ててズルズルと座り込む。
居たたまれない・・酷く、居たたまれないっ!
余りの居心地の悪さに、思わず逃げてしまった・・
どうして、二等はまたの魔力循環を願ってきたのだろう?・・
何故、自分はこんなにも取り乱しているのだろう?・・
どうして私は・・なぜ・・彼は・・・
壁と床の境目を見つめながら、自身の行動に疑問符が躍り思考が振り回され顔にも熱が集まる。
滅茶苦茶に体を動かしてしまいたい衝動をなんとか押さえつけて、ゆっくりと深呼吸。
目を閉じると、頬を染めながらはにかんだ二等の微笑みと、肩を落としてシュン・・とする姿が脳裏にチラついた。
―書類仕事を投げ出してきてしまったな・・―
目の前の疑問と落ち着かない感情に蓋をして、一先ず冷静になるべきと判断して仕事の事を考える・・
今、あれこれ考えても答えは出ないだろう。状況は常に変わるのだ。なるようになるかもしれないし、ポロリと答えが出て来るかもしれない。
うん、そうだな!と何かに納得したつもりで頷き、立ち上がると自分の部屋へ帰るため、よろよろと歩き出した。
軍人にあるまじき、それは思考の放棄だった。
書類を押さえ、パタパタと風を送りながら先程の出来事を振り返る。
ここのところ、少し調子が悪そうにしていた上司・・今日は薄っすらと隈が出来ていて心配が募った。
人よりは鼻が利くので香りには少々こだわりがある。そんな自分の趣味でもあるお茶を上司に振る舞おうと、準備していた茶葉を使い給湯室でお茶を入れた。
そっと差し出せば、思っていたより喜んでくれて・・嬉しくなった。
会話の流れに乗る形で、冗談半分に買い物に誘えばまさかの快諾で・・
これって、デートだよな?と思い至れば心臓がキュゥーと痛くなり、照れと嬉しさで赤面してしまった。
でも、上司は二人で出かけるというのに何の感慨も覚えていないようで・・内心—軍曹らしいな—と苦笑した。
約束、忘れないでいてくれたらいいな・・
そして、魔力循環で繋がれた手・・全く、動揺が隠せなかった。
男とは違う、柔らかな感触に思い出す、夜会での上司の姿と自身の醜態。
恥ずかしさと申し訳なさより上回る、好きな人の肌に直接触れている事への歓喜と興奮。
状況に流され言われるがまま、魔力を流し・・受け取る。
すると訪れたのは、心地よい熱。
ふわりふわりと全身を包む上司の魔力に、体が蕩けてしまいそうで・・
幸福感に満たされ、愛しさが溢れてつい・・彼女の手の甲を撫でた。
漏れ出た声に心臓が跳ねて、流す魔力を増やしてしまい・・その後は・・端的に言って最高だった。
赤らむ顔と、体温が上がったことにより香る肌。
互いに触れ合う心地よさに全身がゾクゾクと震え、興奮が抑えられなかった。
口内に唾液が溢れて、何度も喉を鳴らした。
互いの荒い息づかいが空間を満たして、混ざり合う熱に煽られた。
息継ぎの合間。途切れがちにした会話は、くすぐったくも濡れたように艶やかで・・腰が疼いて仕方なかった。
欲に塗れながらも、愛しさが募っていく・・
あの時、通信機が鳴らなければ・・口付け出来ただろうか?
記憶を反芻しながら、手首に鼻を近づけると、彼女の残り香がして—―
ズクリ—と、スイッチが入った。
書類に触れ、インクが乾いているのを確認して上司の机のトレーへ入れる。
帰り支度もそこそこに、不審がられないギリギリの速度で宿舎へ急いだ。
自室の鍵を焦りながら開け、中に入って施錠するとドアを背にズルズルと座り込む。
上着を脱ぎ、カチャカチャとベルトを外してズボンと下着をずらし、分身を解放した。
既にガチガチに硬くなっていた分身に右手を添えると、すぐに先の方から先走りが零れて来る。
次々に溢れるそれを塗り広げるようにして指に纏わせ、掻いた。
―好き・・―
左手首の匂いを嗅ぎながら、右手で上下に擦る。
―愛しい・・―
脳裏に夜会での上司の姿や、先ほどの上気した表情を思い浮かべて興奮を加速させると、根本が下へ引き絞られるような感覚の後、包み込むようにした右手に放ってしまった。
ビクッ、ビクッ、と震える分身を握り、襲い来る快感の波を逃がすように背中を反らす。
はふーと詰めていた息を吐き出し、下を見ればドロリとした体液に塗れた右手と・・依然として固いままの分身。
口内に溜まった唾液をゴクリと嚥下して、塗れたままの右手で根本を握る。
一度達して、敏感になった先の方に触れないように、根本や裏筋、先の膨らみの段をゆるゆると揃えた指の列で刺激する。
チュクチュクと粘着的な音が室内に響き、そこに熱い吐息が混ざる。
―・・好き・・―
左手首に鼻を寄せ、肘の内側に舌を這わせた。
上司の肌に舌を這わせる様を想像して、腕への刺激も相まって背筋がゾクゾクと震える。
管の中に残っていた体液が押し出されて白濁から透明な先走りへと変わるころには、刺激にも慣れて来た。
段の窪みを指で挟み支えて、人差し指で鈴口を優しく押しつぶすように撫でる。
腕を噛みながら、溢れる唾液を啜り・・やわい刺激に体を震わす。
―ぐんそう・・好き・・繋がりたい・・すき、すき、すき・・―
引き延ばすように続けていた緩い刺激から、性急に強い刺激へと移る。
膝立ちになり、左手で根本の皮膚を押さえると右手で先の方から裏筋までを強く掻いた。
擦れる度、チリチリと脳の深層が痺れ、腿の内側が引き攣る。
腰から背中、首筋にゾクゾクとした快感が駆け上がり・・
きゅうー、と下腹部が引き絞られる感覚がして限界を迎えた。
―っ!!
分身を握ったまま、腰を突き出すようにして背中を反らすと、後頭部がゴツンとドアにぶつかり先の方からびっ!びっ!と白濁が飛んだ。
反った態勢のまま僅かの間余韻に震え・・後頭部を支えにズルズルと体を下げる。
膝を曲げた状態で、そのまま床に背中を着けた。
はぁ、はぁ、と荒い息を吐きながら興奮から醒めていく。
洗濯と、掃除が面倒だなと考えながら、上司に対する愛しさと少しの申し訳なさを噛みしめた。
「軍曹、俺・・今度があったら我慢できるか・・自信ないかも」
ポロリと零れた呟きが、空しく部屋に響いた。
まぁ、「また今度」は断られたけど・・もしかしたら・・と淡い期待を止められない。
また触れ合えたら・・幸せだろうなぁ・・
目を閉じて、愛しい人の姿を思い浮かべる・・
うん。いいや、触れ合えなくても、あの人が笑顔でいてくれさえすれば・・
のろのろと体を起こして、目の当たりにした惨状に溜息を吐き、諸々を洗うべく洗面台へ向かった。
この日、この後もう二回ほど抜いて、一日にした回数の記録を更新した。