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特別な依頼
「ハァ~⋯⋯⋯うぅう~」
冒険者になってから3ヶ月が経った。私は今、冒険者が集うギルドのテーブルの一角で顔を突っ伏して項垂れていた。この場所は沢山の冒険者が依頼を受けたり食事をしたり、時にはパーティを組んだりすることもある冒険者にとって重要な拠点となる場所だった。
そして成功し、喜びを分かち合う者もいれば失敗して涙を流す者もいるのがこの冒険者ギルド。他の冒険者達から見れば今の私は後者…依頼を失敗してしまい意気消沈してる女の子に見えてるはずだ。だが原因は全く別のところにあった
(せっかく酔っ払いおじさんでスッキリして治まったと思ったのに、なんでまたこんな⋯⋯全然落ち着かないよ)
「⋯⋯⋯セ⋯⋯」
私が落ち込んでいた原因…それはせっかく治まった筈の身体の火照りが、暫くしてまた起こってしまったからだ。発散する分には問題無い。暫くは自分でなんとか出来るし、どうしても我慢出来なくなったらまたスラム街で酔っ払いか寝てる人にこっそり近付き行為に及べば良い…あんまり褒められたやり方じゃないとは思うけど。
問題は冒険者としての活動に支障が出ることだった。駆け出しである今はともかく、ランクが上がれば活動範囲と依頼の難易度も上がり外で活動する時間も自然と長くなる。他の冒険者とパーティを組んで、何ヶ月もダンジョンに籠ったりするのも珍しくない話だった。もしそんな時に発情してしまったら───
「⋯⋯シーセ⋯!」
(その時のパーティの人に頼んだりする?でも変な人だと思われたら二度とパーティ組んで貰えなくなっちゃうだろうしなぁ。最悪魔物でも⋯⋯いやいや、終わった後どう逃げ出すの?そもそも殺される事の方が多いんだよ?)
「はぁ~あ⋯⋯」
「リョシーセったら!!」
「わひゃあっ!?⋯⋯あれ、ベケスちゃんどうしたの?」
うんうんと唸っていると、いつの間にか私の正面に燃えるような赤い髪をツインテールにした女の子が腰に両手を当ててふくれっ面を見せて座っていた
「どうしたの?じゃないでしょ!さっきからずっと話しかけてるのに、あんたがぼーっとしてるからでしょ!」
テーブルを挟んで正面に座り私に怒りを見せている女の子は、魔法使い見習いで私と同じ駆け出し冒険者のベケスちゃんだ。フルネームは一度聞いたことあるけど⋯正直長すぎて覚えられなかった
初めて出会ったのは冒険者になるための試験を受けた時。同い年だった事もあってすぐに意気投合し、駆け出し冒険者になった後も何度か一緒に依頼をこなした事もある
「あはは、ごめんね。ちょっと考え事をしてて⋯」
「まあいいわ。あんた今暇?ちょっと一緒にやってもらいたい依頼があるのよ」
ベケスちゃんはそう言うと手に持った依頼書をヒラヒラと見せる
「依頼かぁ、うーん⋯」
「あら、都合が悪かった?」
「都合が悪いというか調子が悪いというか⋯」
流石に発情してて今は鎮めてくれる相手を探しています。とは口が裂けても言えず返答を濁す。けれどベケスちゃんはそこで引き下がらなかった
「じゃあせめて話だけでも聞いてくれない?というか聞けば絶対リョシーセは頷いてくれると思うわ。なんせ冒険者のランクが上げられる依頼だもの」
「え!?冒険者のランクを上げる依頼!?駆け出しの私達が!?」
私は驚きのあまり思わず立ち上がる。冒険者の活動範囲は国が指定するランクによって決められている。冒険者のランクが上がる条件はどれだけ難しい依頼をこなしたか、その一言に尽きる。ランクが上がれば上がるほど高難易度の依頼を成功させないと上がれないが、逆に低いランクなら1つか2つの依頼で済む。
だけどそれはEランクからの冒険者の話だ。冒険者になったばかりの私達みたいなのはEランクの1つ下、駆け出しと呼ばれ街の中か街を囲む壁が見える範囲でしか活動できない。そんな依頼を受け続け早くても半年、遅くとも1年は経験を積まないとEランクに上がるための依頼は受けられないはず⋯⋯そんな疑問に彼女は説明を続けた
「そ。ちょっと特殊な依頼みたいでね。内容はこれよ」
「えっと「ゴブリンの討伐」3匹⋯⋯待って余計に分からなくなってきた。ゴブリンの群れ討伐とか、Dランクの冒険者がランクを上げる為に受けるような依頼だよ?」
ベケスちゃんから手渡された依頼に書かれていたのはゴブリンの討伐、しかも3匹だ。群れという程でも無いが、今の私達にとって充分格上の強敵だった。
「だからちょっと特殊って言ったでしょ?そのDランクの冒険者がゴブリンの巣を壊滅させる依頼を受けたの。巣は壊滅出来たんだけど、手負いのゴブリンを3匹逃がしちゃったらしいのよ。しばらく捜索してたらしいんだけど、ある村から近くの洞窟にいるのを発見したから倒して欲しいって依頼を出されたってのが一連の流れ。そしてここがその村がある場所よ」
手渡された地図を見る。この街から2日ほど離れた目的地の「クチノカ村」に印が付けられていた。
「⋯クチノカ村、ここから少し遠いんだね」
「そこよ、リョシーセ!手負いのゴブリンとはいえそこそこ危険、群れてないとはいえ3匹、Eランクの冒険者は足掛かりにはなっても達成してもランクは上がらない、おまけにちょっと遠い⋯絶妙に誰もやりたがらないから駆け出しの私達に回って来たのよ」
「なるほどね」
「それにもしゴブリンが3匹以上確認できた場合、即撤退しても失敗扱いにはならないわ。偵察任務ってことになるみたい。その時はランクは上げられないけど、他の駆け出しの子より早めに昇格試験を受けられるようにしてくれるって。どう?」
ここまで聞いてようやく納得した私に、ベケスちゃんが握手を求めて手を差し伸べる
「やりましょリョシーセ。あんたとわたしなら余裕でこなせるわ」
「──うん、分かった。一緒にやろう!」
快く頷き、私は彼女の握手に応じた
「契約成立ね!」
特別(面倒)な依頼