※この作品はR-18です。

FGO.心身疲労がエグいぐだ男の為の特異点発生を確認しました   作:蛇兎ガガガ

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初投稿になります。元の名はサーペントですが、ここでは使えないので蛇兎ガガガとしてどうぞよろしくお願いします。


プロローグ

特異点 人為保障原理界 人理継続保証機関フィニス・カルデア

 

 人理の守護者。歴史の護り手。期せずして人知れず世界を救い、人の未来を守り抜いた機関。

 

 そこでは且つて、あらゆる歴史の隙間へ入り込み、人理焼却を企む者達との壮絶、筆舌し尽くし難いあらゆる超常の戦いが繰り広げられ、お伽話に語られ続けた英雄達と……凡人と誰もが言うであろう一人の”魔術師もどき”の旅があった。

 

 誰もが最初は彼を侮った。誰もが見下し、誰もがその存在を歯牙にも掛けなかった。

 

 だが彼の生き方が。素朴さが。ありふれた当たり前が。超常を生き、歴史を刻んだ者達からすれば遠く、余りにも遠く、”それになれることは決して無い”と尊敬すら抱く様な何かがあった。誰もが望んだ平和な未来の人理を彼は持っていた。

 

 それは誰かが望んだ理想だったのかもしれない。それは誰かが夢見た平和だったのかもしれない。それは誰かの悲哀の果てで、それは誰かの可能性に映ったのかもしれない。

 

 非凡なる物を何も持っていない彼。その生きる意味は単純明快。人間の持つ根源的な希望であり、誰もが抱えるべき本来の恐怖と表裏一体の物だった。だからこそ共感を覚える。だからこそ首を縦に触れる。だからこそ隣に立つことを許され、だからこそ共に戦う確かな価値がある。

 

 天も地も。冥府や夢の中も。あらゆる特異でさえも、彼の意志を、生き方を変える事は出来なかった。軋み上げる身体も、ひび割れた心も、どちらも最後まで砕ける事なく、ただただ【生きる】為に。それは過去でしか無い彼等にとって輝かしき未来の希望そのものなのだ。第二の陽炎の様な生の全てを捧げられる程に甘美なのだ。

 

 故に人類を憂いた、且つて神と契約し人を導いたソロモンの王に。その成れの果てである人類悪に薄氷一枚で打ち勝てた。

 

 

 そうして人理焼却の事態は守られ、また現実世界の非情さが彼等を引き裂こうとした時。その人理焼却すら超える地獄が起こる。

 

 異聞帯。人理の漂白。

 

 彼等はそれによって自分達の本拠地を捨てざるを得ず、塩の海と化した残酷なほど無垢な塩の大地へ旅立つ。孤独なる戦いを、前よりも更に、過酷で悲惨な戦いへ赴く事になるのも知らず……

 彼等が相手にした異聞帯。且つて仲間達だったクリプター達と王の世界。それは往々にして正しく、だが決定的に間違えてしまった歴史の切れ端。そうであったかもしれないもう一つの刻まれ続けた人の、神の、英雄の歴史達。彼等はそれ等に触れ、理解し、その上で自らの手で切除した。そこに生きる人々を、本当の意味で殺し続けるしかなかった。全てを否定する他無かった。それは、剪定されるべき間違った歴史なのだからと。自分達の大義名分を盾に消し去ったのだ。

 

 英雄達ならばまだその重さに耐える事は出来る。彼等はその重さを知っているから。他者を否定し、自らを押し通す傲慢と、それによって起こった数多の悲劇を経験しているから。

 

 だか、魔術師の心得すら知らないただの一般人である”彼”は違う。

 

 例えその顔に笑顔を貼り付けていようと。その生き方を信じて突き進もうと気張っても。どれだけ修羅場を潜り、その場数を増やそうとも。誰かの笑顔に背中を押されて前を見ようとしていても。

 彼の持つ人間性が失われない限り、その重みは蓄積されていく。誰かを否定した言葉は、そのまま自分へと跳ね返り、身体や心に傷跡を残し続ける。

 皆それを分かっていた。分かっているからこそ、無理を通し、道理を蹴っ飛ばし、導き、導かれ此処まで来た。その結果に待つ物がなんであれ、立ち止まる選択肢など無いのだから。

 

 そうして辿り着いた束の間の安息。いつか見たカルデアに少し似た異界の海にそびえる島の中から、希望の船で飛び出し、今日も彼等は人理継続の為に活動していた……筈だった。

 

 

 ある日、突然観測した特異点にレイシフトしたところから、この物語は始まる……

 

 

 

 

『えー、皆集まったかな? やっほー、皆の何でも屋。稀代の天才レオナルド・ダヴィンチちゃん……の、美少女ちゃんだよ~♪ いやいや、混乱しているところ集まって貰ってすまないね』

 

 場所は”特異点と化したフィニス・カルデア”の一番広い部屋。ブリーフィングルームだった。そのモニターには、彼のカルデアの頭脳でもあるキャスター、レオナルド・ダヴィンチのコピー体。愛称ダヴィンチちゃんの幼女が輝かしい笑顔を少し曇らせて映っていた。

 心なしか声の抑揚も高くはなく、不可解な事に直面した様子の少女は、それでもいつもの如く理性と感情を切り離した様な元気さで話し始めた。

 

『えー、皆の質問を受け付けてもキリが無いので、これは私からの一方的な”現状”の報告となるよ。だからとりあえずは静かに聞いていてくれると助かるかな?  

ああ、今回はあの回りくどい事で定評な名探偵は居ないよ。此処には私達”女性”サーヴァント、もしくはそう”認識”されたサーヴァントしか居ない筈だからね』

 

 その言葉の通り、今このブリーフィングルームには、カルデア唯一のマスターが出会い、絆を育んだサーヴァント。その女性達や”それに類する者”だけが、思い思いに席に座り、ダヴィンチの言葉に耳を傾けていた。山の様な文句や質問は勿論あったが、それ等を払拭させる様に彼女は話しを進める。

 

 無論、その説明の後によりそれが強まる可能性の方が高いぐらいだったが……

 

『どうして、何故という疑問は置いといて、事実を先に報告するね。まず、この特異点にマスター”藤丸 立香”以外の人間は存在していなかった。全くの無人であり、だが施設内は元のカルデアと全く同じ物だと思ってくれて良い。違いはこの施設の供給源が『大聖杯』という本来は”存在し得ない筈”の願望器であることと、この特異点の時間軸が完全に歪んでいる事なんだ』

 

 大聖杯。本来は7騎のサーヴァントによる聖杯戦争に使われる様な物であり、カルデアが所持している”魔力ソース”にしている物とは違い、本物の万能器として知られている物。

 

『けど”大聖杯の方に”に願望器としての力は無い。どころか、その器に入っている筈の魔力ソースは、全て個別に別れた”聖杯”という形で皆の部屋に置かれている筈だ。それはある程度の文字通り”願いを叶える”事をマシュが確認している。試しに簡単なお願いをしてみたら、叶えた後に消失し、大聖杯の魔力リソースとして戻っていたんだ。今までの傾向からしてみて、これは”必要なファクター”だと考えられる。だから、”考えて使ってくれ”という他ない。そしてもう一つ、それぞれのネームプレートが入った部屋を割り当てた形になっているけれど、まだ皆入ってないよね? うん、その部屋全てに”マスター・藤丸立香が存在している”と思ってくれ』

 

 この特異点に来て最初にした事は、施設内のクリアリング。そこで皆が自分達が居た部屋を調べに行った結果、そこにはマスターが居た。今は全員隔離中である。

 

『それで、ここからが本題だ。さっきも言った通り、この特異点の時間軸はとても歪んでいて、なんと外の時間の1時間は、ここでは1ヶ月に相当する。そして部屋に居るマスター達をスキャンした結果、彼等は全員が同一人物と断定された。それも聖杯の所為なのか、サーヴァント数器分の魔力を保有している。まぁそっちは各自確認すれば分かるけれど、一体どうしてなのか、その魔力が……あー……”性欲”となって現れてしまっているんだ』

 

皆が息を呑む中。彼女は安堵した様な表情になる。

 

『詰まりは、うん……暫くの間、ここで、それぞれの部屋の藤丸君と適当に過ごして、聖杯で願いを叶えながら暮らそうかって話なんだ。さて、ここからはマシュを交えて話そうか。マシュ、いいかな?』

『はい、ダヴィンチちゃん。もういつ口を出そうかとずっとそわそわしていました』

『それは我慢ご苦労様。早速だけれど、キミの調査結果を聞かせて欲しい』

『はい。私の自室にも先輩が居たのですが、知っての通り”部屋に入った”のは私だけです。で、入った瞬間なのですが……その、記憶が流れ込んで来たんです』

『それはどんな記憶だったんだい?』

『それは……先輩の、私に関する記憶でした。更には、私が忘れていたこと等が瞬時に思い出される様になって……推測するに、あれは私が特異点に於いて先輩と過ごして来た日々の中で、先輩が私について発言した様々な事柄だったのだと思います。それも、私にとって必要な部分を充填的に』

『なるほど。マシュは正式なサーヴァントではないから座には還らない。だから記憶が失われることは無いけれど、サーヴァントがその部屋に入ったらどうなると思う?』

『えっと……おそらく、その特異点で且つて行った事の全てや、マスターと過ごしたあれこれ全てを思い出すのでは、ないかと……』

 

 そこで何人かが頭を抱え始める。無論それを見越してダヴィンチは藤丸の最も信頼、信用する相棒であるマシュ・キリエライトを呼んだのだが。

 サーヴァントは座に還れば前の記憶は失われる。アーカイブとして記録を見ることが出来ても、それは違う自分であって、俯瞰的なモノでしかない。強いて言うなら、人が勝手に誇張して作った神話を本人が首を傾げて見ているようなものである。

 

『それと、聖杯を使ってみたのですが、例えば先輩の故郷の国でもある日本の東京という所に行きたいと願ったら、シミュレーターが異空間化して、そのまま行けてしまいました。ですが……』

『んー、言い辛いなら私が言おうか?』

『い、いえ。大丈夫です。んっんっ。聖杯は、私達が先輩と結ぶ絆……を数値化したのだと思われます。部屋に入ったと同時に、パネルに映し出されている様です。最高は15個……だと思います。それで、聖杯を使うと……先輩が、あの、性的な意味でその、興奮し易くなるようです』

 

「「「―――――」」」

 

『聞いての通りだ。あーあと、今やこのカルデアの魔力供給源は”マスター自身”であるという事を明言しておこう!! 時間は……未定ではあるけれど半年以上は出られないと予測している。その間、する命令があるとするなら……どうか、彼を癒してあげてほしい。君達のやり方でね。”最近の彼”の精神状態を考慮するならそれが適当だろうからね』

『あ、私からも最後に……先輩の状態は皆さん把握していると思われます。だからこそ……どうか、それぞれの判断で先輩を、どうか……お願いします!』

『そういうこと、じゃあ解散だ!』

 

 逃げる様にして画面を切ると、彼女は汗を拭っていた。画面越しであろうと感じるサーヴァント達の殺気はクるものがあった。

 

「大丈夫ですかダヴィンチちゃん?」

「ああ、大丈夫だよ、うん。特に問題は無いさ……けど、これで彼女達はどう動くか考えると、彼がどうなることやらと思わないでもないよね……」

「……皆さん、無茶はしなくても、ある程度は暴走してしまうでしょうか……」

「それがある程度で抑えられることを祈るしかないかなぁ」

 

 皆をブリーフィングルームに集めた際に確認させた絆の数値は、皆揃って高いものだったことが判明していることから、かなりの確率でマスターは性的に襲われるであろうことは分かり切っていた。

 

 その上で最後にダヴィンチは「マスターを癒す」という名目で命令を下している。サーヴァントである以上マスターに対して、特に”藤丸立香”という存在に対して執着心は人によっては致命的でもあった。

 

「まぁ皆彼のことは慕ってはいるんだ。命まで取られることは無いだろうさ」

「そう、ですね……記憶による影響さえ許容出来ればですが……」

「……あー」

「してなかったんですね!? やっぱり心配です!!」

「大丈夫、大丈夫だって!! ほ、ほら、キミも早く彼の下に行き給えよ!? 待っているんだろう?」

「むぅ……」

「観測は続けておくから、ね?」

「……分かりました。所長達との連絡も取れる様になったら教えて下さいね?」

「りょーかい」

 

 漸く落ち着いた最後の一人も、渋々と自分の自室に、既に異界化した場所に居る彼の下へと走って向かっていった。

 

「……ふぅ。しかし、まるでハーレムだなこれは。私達に何をさせたいのやら」

(まぁ、ある意味私が一番の問題なのだろうけどね……)

 

 レオナルド・ダヴィンチという存在の記憶。それはこのカルデアを出て、本体と記憶を同期した姿である自分とは違うのだ。そして今、このカルデア内にはその本体が居る。彼女には帰るべき自室は無い。

 

 傍らで寝ている”本物のマスター”の寝顔を撫でる。規則正しい寝息を立てる彼の身体を保存する為に魔術を行使しているが、それも他とは違い、ダヴィンチ自身に融合している聖杯を魔力ソースにしているに過ぎない。

 

 今、彼女はロマニが自室にしていた医療室に居る。それが全てだった。

 

「はぁ……やっぱり、私は偽物なんだよ。間違っても、あの旅を共に潜り抜けた私じゃないんだ。私は……私……は……っ」

(だめだ、止めろ……っ、私はこんな事を考えない!! 大丈夫……大丈夫だ……)

 

 今更分かり切っていたことだった。自分と彼等の間に溝があることなど。自分が敷いてしまった溝ではあるが、それを無視出来ないほど自分は劣等なことは自分自身が一番よく分かっていたのだから、と。

 

 彼女は自分のアイデンティティを失いかけていた。本体が居るのに、自分が此処に居る意味などあるのだろうか? と。マシュも、立花も。自分など要らなくなるんじゃないだろうかと。

 それを、自分が所持している聖杯を見て自覚してしまいそうだった。

 

「ふぅ……ふぅ……よし。とりあえず私の聖杯を使って、彼が目覚めるかどうかやってみようかな? ……聖杯を使うだけで解決できるっていうのも変な話だけれど」

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