※この作品はR-18です。

FGO.心身疲労がエグいぐだ男の為の特異点発生を確認しました   作:蛇兎ガガガ

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2.宮本武蔵(data lost)
第一聖杯:三度目の剣豪


第一聖杯:虚空を破った先で 

 

「おっと」

 冷たく、硬い床の上に立っていた。放り出されたような、目覚めたような感覚も無い。気付けばそこに居た、というのが正しい表現だ。

 

 さて、私が生きている理由が数秒で見つからない。定型文が口から出てしまう。

 

「どこよ、ここ……?」

 

 あの瞬間。破神を見事切り伏せた新免武蔵守藤原玄信こと、宮本武蔵。冠位も霊基も燃やし尽くし、座からも消滅。

 それほどの強敵と相対し、本物の神に届かせた一撃。だった筈……?

 

 しかし気付けば、ここは且つて彼等が活動の拠点としていた……そう、南極という氷に覆われた大地にあるカルデアという場所だ……った筈。

 

「ふーむ」

 

 理由は一切不明。

 魂まで燃やして消滅し尽くしたのだから、当然もう世界を巡ったりもしない。私という物語は、あの時あの瞬間に終末を迎えたのだ。末尾までしっかりと我が人生・完と偽り無し。

 

 だが途切れた先にここに出たという事は、何かしらの意味。もしくは誰かの意図が関わっている可能性が高い。前に藤丸立香、マスターが言っていたことだが。聖杯による頓珍漢な現象によるものだろう。

 何しろ私もそれを引き起こした事のある1人なのだから。

 

「むむ……むぅぅ~~~……この気持ち、どう表現するべきなのかしら?」

 

 ……これは感謝すべきなのだろうか。それともあんなかっこいい別れ方したのに何してくれてんだぁ、と怒るべきなのか。

「まぁ、とりあえず彼等に会えば分かることでしょう。きっと吃驚するだろうなぁ~~♪」

 兎にも角にも、誰かにはであるだろう、私は散策を始めたのだった。

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど……」

 散策を始めて数時間。分かったことを食堂で適当に見繕った食料を食べながら頭の中で纏めていく。

 

・食料が完全な形で備蓄されているので、ここが現実世界でない聖杯で作られた特異点であることがほぼ確定。

・拠点の外には出られるが、そこから先には行けないようになっている。

・記憶の中の符合しない通路と部屋が多く存在している。

・その全てに各サーヴァントの名と聖杯の記号、そして数字があった。その部屋には入れない。

・自分のも存在している。

・後は全て同じ。争いの形跡も見つからない。

 

 といった感じだ。

 

(私の名があった部屋にはまだ入っていないけれど、これは合流してからの方が良さそうね。何が機点となって異変が始まるか分からないし。この特異点のルールも分からない。それにきっと、あの名の者達は全員この特異点に呼ばれる事になる。後は……)

「外国の方の名はともかくとして、日本名が全て女性だった……男性の方の名は一つも存在しない……それが示す答えは……まさか、ね」

 

――――ガシャンッ!

「―――ッ!!」

(まずったっ!?)

 物思いに耽り過ぎたが、何物かの何かを落とす音が耳に響き渡る。椅子から跳び上がり刀を抜いて音の先を見る。先手必勝、相手が何かを言う前に首を斬り落とせば仕舞いでしょ―――――――ん? 何か身体が―――――

 

「……武蔵、さん?」

「あっ」

 首の一寸先で刀を止める。

 私の耳に届いた少女の声が止めたのだ。

 

 薄桃色の髪。陶器の様に白く透き通った肌。今をいつも懸命に生きる目をしている瞳。西洋の黒甲冑に身を包んだ、私からすれば少し似合わない装い。

 落としたのは彼女の最高の盾だった。それほど驚いた、私の姿を見たことが嬉しかったのだと、こちらも嬉しくなり、直ぐに刀を引いて抱き締めてしまう。

「マシュさん!」

「わっ!? んひゅむっ! む、むひゃひ、ひゃん……っ!」

「あ~~最初に出会えたのが貴方で良かった! 新免武蔵! 1人でどうしようか迷っていたところなの!! ついでに可愛らしい少女養分も不足していたわ!! だからもちょっとこのままで!! あぁ~なんとスベスベなお肌! おねーさんいつも羨ましいと思っていたのよね!」

「んんぅ~~~っ!!!」

 

 剣呑な私の殺気を消す勢いで、無理矢理和やかなムードに持っていく。このままだとマシュさん泣き出してしまいそうだったので。それだと事態が進まない。

 

 暫く苦しそうな彼女を堪能しつつ喜びを噛み締めてから離すと、マシュさんも気分が落ち着いたのか、目元を拭って話始める。まだ困惑気味だが致し方無し。

「どうして武蔵さんがここに……?」

「やー、私もそこはさっぱりでね。貴方達が来る数時間前にこの特異点に突然出現したっていうか。ああ、私の記憶は勿論、あのカオス神を斬り伏せたところまでよ。ちゃんと見てた? 私の雄姿?」

「勿論です!! 唯一無二の零に至る剣。眼に焼き付けました! 武蔵さんのお蔭で、私達は全員無事に、あの絶体絶命の窮地を切り抜けることが出来たんです!」

「やった、えへへ~~」

 

 なるほど……私はしっかりと彼等の道を斬り開けたらしい。斬殺することしかできない我が生涯でも、希望を見出せた。それはとてもとても誇らしい事。

 

「あ、ごめんごめん。話を戻しますね。それで、マシュさん達もこの特異点を観測してレイシフト、してきたのよね?」

「はい。ここは2017年。私達が人理焼却を阻止する旅を終えた頃のカルデアになります。ただ観測データは正常でも、観測地は南極ではないんです。だからここは南極のように見えても、全く違う海の上に存在しているとのことでした」

「なるほどねぇー、海上とはまた。外は大雪だから全然わからなかったわ……ところで、彼は?」

 いつもならば、特異点で彼女がマスターから離れることなど有り得ない。だが所在なさげににしている少女の顔は、僅かに悲痛さを感じさせた。何かあったのだ。

「あ……それは……その……先輩は……」

「待った。とりあえず情報共有といきましょ? 丁度ここは食堂だし、うどんでも食べながら、ね」

「は、はい。ご用意します!」

(んふー♡ うどんがまた食べられるとは♪)

 

 

 互いに互いの情報を得てわかったことは、やはりこの特異点には誰かしらの意図が介在している可能性が高い、ということだった。そして、予感も的中……と。

「…………」

「ですので、現在全てのサーヴァントが……女性の方々が、自分達の名前の割り振られた部屋に入って……その、同一とされる先輩と一緒に居る状態でして……」

 絶句。何それ、どんな頭快楽天な輩が考えた特異点よ?

「えぇー……とぉ……それじゃあ立香君は、現在数多の英霊達とキャッキャウフフな状況ってこと!? しかも聖杯使って!? どんなおいし、じゃなくて頓珍漢な状況よ!? じゃ、じゃあマシュさんも?」

「……そ、その。ノーコメント、ということで……」

 

 再度絶句。美少女の照れ顔はとても尊い物だが、まさかこの子まで爛れた性に身を堕とし……ている訳じゃなく純愛だろうけれど。2人は最後の最後に至ってからでないと、そういう風にはならないと思っていたのに。

 まさかこんな特異点が生まれようとは。黒幕はよほどの”お節介焼き”か野暮な存在なのだろう。

「それで、マシュさんは日課になりつつあるカルデア内のパトロールをしていた、と……」

「はい。間違っていなければ、この特異点に来てから既に1週間ほど経過しているかと」

「……ねぇ、私の名前の部屋には、誰か入ったの?」

「――――」

 彼女はハッとした顔になり、次第に震えだした。

 

「そ……その、それぞれの部屋には、当人、もしくは縁ある者しか入れないようになっていたので……それに、武蔵さんは……カルデアには居なかったので……確認、は……」

「……」

(ヤバッ……)

 

 性欲が肥大化したマスターが1人。部屋に居る可能性がある。それも1週間放置で。その可能性が浮上し、ゾワッと背筋が凍った気がした。

 彼女は部屋の様子は観測できないので、私が直接確認するしか方法が無いと言う。更に、仮に彼が居た場合、聖杯を使う必要があるということを。そして、それによって彼の性欲が更に倍増してしまい、発散させる必要があるということを。

 

 そこまで聞いて私はなるほど、と納得できた。

 

「詰まり、ここは彼を癒す場になっているのね」

「そう……だと推測している人も多かったです。真実は分りませんが……ただ言えるのは、適正あるサーヴァントだけが来れる以上、その、武蔵さんも……」

「私もまた、彼と床を供にする権利を得てしまったと……マシュさんはそれでいいの?」

 自分以外が彼に抱かれるという事実。

 私の時代であってもそれができるのは将軍様のみ。平時であれば彼は一般人なのだ。そんな状況になれば今は良くとも、解決後にどうなるか分かったものではない。

 女の私が言うのもアレだが、女の嫉妬と独占欲は虎をも殺す。それが英霊ならば神の3人や5人。如来様ですら容易に圧殺してしまうことだろう。

 

 そういう意味で、この話題はある意味で地獄の引き金になり兼ねないのだ。

「どう? 貴方だけじゃないわ。この異変後に彼は1人に戻ることになる。そうなったら始まるのは本物の争奪戦。女同士の醜い殺し合いよ? 世界を救う間もなく空中分解してしまうと思うんだけど……」

 

「それについては問題無いかな。剣豪、宮本武蔵」

 

 彼女に対する言の葉を、代わりに応える誰か。後ろからのその言葉に振り向けば、先程彼女がやってきた扉の場所に、絶世の美少女が立っていた。

 顔は見た事は無いが、声は知っている。2人にとっての頭脳。レオナルド・ダ・ヴィンチ殿だ。

「うおっほぉっ、美少女堪らないわぁっ!!」

「ふっふっふ、久し振りだね。マシュ、パトロールお疲れ様。2人のやり取りはモニターで確認してたから、私もこっちに来たよ」

「はい、お疲れ様です。ダヴィンチちゃん、先輩は……」

「スヤスヤ気持ち良さそうに寝てる。楽しい夢でも見ているのか、やけに寝返りが多くて見てて面白いんだ。ああ、さっきの質問の答えだけど、皆の記憶は残らない事になる」

「残らない?」

「さっき、どうにかして所長達と通信を繋げることに成功してね。といっても数分で直ぐ断絶されてしまったけれど、それでも情報を得ることができたんだ」

「それは、どのような?」

 少女はニンマリとした笑顔から真剣な表情になって告げる。

 

「我々女性サーヴァントは、マシュと私を除いて全員が”レイシフトしていない”ことになっているんだよ」

「「……は?」」

 

 話はこうだった。

 本来この場にレイシフトしたのは、今回の特異点に対する適正を持っていると判断された藤丸 立香、マシュ・キリエライト、レオナルド・ダ・ヴィンチの3名のみ。

 なのにいざ来てみてれば、現在召喚、使役している女性(適正のある)サーヴァント達全員が居たのだ。そして全員がマスターと契約している記憶を保有。「いつの間にかここに居た」と主張しているのだと。

 だが、数分間繋がった通信で得られた情報では、全女性サーヴァントが拠点に確認されている状態だったらしい。

 それ等が示す答えは幾つか考えられるが、一番有力なのはこうだ。

 

「複数の同一の記憶を持った立香君が生成された一方で、同一の記憶だけを持った女性サーヴァントも生成された……ってことね」

「正解!」

 何そのウインクキスしたい。あれ? 中身おじさんなんだっけ? 可愛いからいいか。

 

「それなら、皆に本来の能力や権能が無いのも頷けます。私も盾や鎧は出せますが、戦闘時の力は出せないようになっていました。今も、鎧は魔術で何とか持っている状態です」

「最低限の魔術は行使できるけど、力は見た目通りぐらいにしか出せないんだ。あ、宝具も出せないよ。まぁ詰まり、ガワだけが同じってことだね。マシュも盾や鎧は出せても力は一切無いでしょ?」

「はい、盾も身体強化無しで空気のように軽くなっていて驚きました」

「納得したわ。確かにここに来てから何となく体が重たい感じがしていたのよね。私も見た目には華奢な娘だし? 得物もなんだか軽い感触で」

「そういうこと。私も完璧な可愛らしさがより強調されてしまって困ったものだよ」

「それはそうね!!」

「え、えと。それでは、聖杯を使い切って大聖杯を満たしてクエストを達成すると、私達以外のサーヴァントは……」

「うん。特異点と一緒に消滅する運命、かな。記憶も引き継がれない、ここだけのものになる。後腐れも無い、正しく彼の為だけの特異点って感じだ」

 

(いや、貴方達に記憶が残っている時点で後腐れしないは無理があるのでは……?)

 

「そこから導き出される仮説では、寝ている彼は夢でそれを昇華させて、異常にスッキリ快眠しましたって感じになると思うんだ」

「本物の先輩は特異点が消滅するまでは起きない、と」

「そういうこと。だからまぁ、彼は私に任せて、君達は楽しんできてよ」

「ふーん……うん、承知しました」

「了承してくれるんだ?」

 以外そうなダヴィンチ殿に対して、あっけらかんと答える。

「まぁ、別にそういう事に関して抵抗はないし。彼に対しては戦友、友人、その上で好意的に思っているわよ? もう8年ほど若ければ最高だったけど、問題なくたべちゃえ―――う、ん”っ、お相手できると思うわ、ええっ!」

 

 

 

 

 説明しを得たダヴィンチ殿、いえ、彼女に倣ってダヴィンチちゃんが眠っている彼の部屋に帰るのを彼女と見送りながら、私は気になっていた。

(不安なのね、きっと……)

 

「それでは武蔵さん。私も先輩の元へ戻りたいと思います」

「ええ。もし力を貸して欲しい時があったら遠慮せず扉を叩いてねマシュさん!」

「はい! えっと……特異点消失前にもし本物の先輩が目覚めたら……」

「ええ、その時は駆け付けるわ。本物の方のスッキリした顔も見たいしね」

「……はいっ!」

 

 

 そうしてまた1人。ポツンと通路に残った。

 目の前には、私の名が入った扉が一つ。

 

『宮本 武蔵:聖杯・15』

 

「さーて……それじゃあいっちょ行ってみましょーか」

 気負い一切無し。

 私が消えた後の彼がその後どうなったのか。あの時の彼と同じか。それともまた少し精神的な成長が見られるのか。それとも……

(まぁ……私が彼とそういう関係になるとは思っていなかったけれど)

 嫌とかそういう気持ちは無い。本気になる必要も無いから私的には全然大丈夫な範囲である。むしろ彼の方が私を相手にして大丈夫だろうかと思ってしまうぐらいなのだ。

 

「……いや、待って。それがそれで……うーん……………………」

 

 しかしだ、とドアを開こうとする手が止まる。

 召喚を含めればこれで3度目の私。しかも今回はこの特異点限定で、世界を跨ぐことはない。つまり、この私は剣を触れないのだ。

 零の先へ到達し終え、悔いあれど満足して消滅したのに、これ以上を望む? 否、我が人生は強敵と斬り結んでこそ華やぐのだ。そこに疑問の余地無し。己が業に曇りなし。

 

 だとしても、私は既に私ではない。この体は女子のそれ。おそらく技術無しなら彼に力で負けると思われる。

「……あー」

 それは……ちょっと不味いかもしれない。かもしれないが……まぁ、ね。

「その時はその時か。よーし、気を取り直して行ってみましょうか」

 

 後に私は後悔することになる。

 百戦錬磨、酸いも甘いも知るこの武蔵でも。

 

 運命を感じてしまったら、後は堕ちるのが女だということを。

 

「あ、そういえば」

ゴソッ……ゴソッ……

「……付いてる、わね。よし、良い土産ができたわ♪」

 

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