本作品のオリ主ちゃん。
色々あって結束バンドのキーボーディストとして活動中。
失声症のリハビリ中につき筆談で会話している。
本編でのやさぐれ具合がウソのようだ!
•喜多 郁代
本√のヒロイン。
陽キャの化身。
本編では家出どころじゃなかった。
•後藤 ひとり
下北沢のツチノコ。
この世界線では花奏ちゃんの家庭事情を知らない唯一の結束バンドメンバー。
•伊地知 虹夏
下北沢の大天使。
今回はチョイ役。
•山田 リョウ
世界のYAMADA。
同上。
•小林さん
花奏ちゃん家のハウスキーパー(メイド長)さん。
それ以上でも以下でもない。
「着替え終わりました〜?」
今日はクリスマスライブの日。
皆でサンタ服を着てライブをする約束をした。
当然、私は今、サンタ服に身を包んでいる。
「こんなふざけた格好でライブする日が来るなんて……」
「今日くらい、良いじゃないですか!」
伊地知先輩はちゃんと着てきてくれた!
「トナカイです」
「私もそっちが良かった〜!」
「全員サンタ服って約束したのに……!」
リョウ先輩はトナカイ服……!
先輩のサンタ服、見たかったのに……!
「あっ、サンタ服全部売り切れてたので……」
「それ見つけてくる方が難しくない!?」
フライドチキンのコスプレってなに!?
「……………………」
「確かにサンタ服だけれども!」
姫榊ちゃんは、まさかのスカートではなくズボンのサンタ服。
皆、結束力がなさ過ぎる……!
「みんな帰ってい〜よ!」
「あっ、さっ、さようなら……」
「良いお年を」
「明日も練習だからね!」
「それじゃあ、また明日〜!」
「……………………」
クリスマスライブと片付けが無事に終わり、解散となった。
駅でひとりちゃんと別れ、今は姫榊ちゃんと並んで一緒に帰っている途中だ。
……と言っても、私は自分の家に帰る気は更々ない訳だけど。
「…………?」
姫榊ちゃんが立ち止まってこちらに視線を向ける。
そして、首を傾げる。
……やっぱり、気付くよね。
『喜多さんのお家、先程の道を曲がった方ですよね?』
「あ〜……うん、そうね」
「……?」
「あの、さ」
姫榊ちゃんの視線をしっかりと捉える。
これは姫榊ちゃんにしか頼めない事だ。
「姫榊ちゃんの家に泊めてください!」
「お帰りなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませ、喜多様」
『お風呂の準備と客間のベッド、用意しておいて』
「畏まりました。喜多様、ごゆっくりとお休みください」
「あっ、はいっ」
ここに来るのは2度目だけど、やっぱりこの雰囲気には慣れない……というか、飲まれる!
『私の部屋で事情、聞くから』
「ん……うんっ」
姫榊ちゃんに着いて行き、彼女の自室へ入る。
前に来た時と変わらない……いや、模型が詰まってる棚の横にある箱の数が増えてる気が?
『適当に座って』
「……やっぱり姫榊ちゃんの家って緊張する……!」
姫榊ちゃんが、真剣な表情と眼差しを向けてくる。
『家出?』
「うっ……、うん。……親と喧嘩しちゃって」
「……………………」
姫榊ちゃんはスマホを取り出し、操作し始めた。
「姫榊ちゃん!?」
スマホを操作し終え、テーブルの上に置く。
『一応、他のメンバーに知らせておいた』
「あ、あぁ……なるほどね?」
私の家の連絡先、知ってるのかと思っちゃった。
『小林さんに親御さんへ連絡してもらうから、連絡先教えて』
「あっ、ロインで姫榊ちゃん家に泊めてもらうって知らせてあるから大丈夫よ。それに安心GPSも付いてるから」
『それって家出なの?』
姫榊ちゃんがジト目で見つめてくる。
ひとりちゃんの奇行を目の当たりにしている時によくしていた表情だけど……最近は見なくなった表情だ。
なんだか懐かしい気持ちになった。
『喧嘩した理由は聞いてもいい?』
「バンドなんてやってないで、地に足つけろって言われて……」
「……………………」
姫榊ちゃんが顎に握り拳を置く。
そしてしばらく経ってからメモ用紙にペン先を走らせた。
『喜多さん、辞めちゃうの?』
「辞めないわよ!? 辞めるつもりなんてないから家出してきたんだし……!」
『そっか、良かった』
安堵の表情で頬を緩ませる。
『でも、喧嘩しっぱなしじゃ良くない』
「それは……そうだけど」
『家庭の事情なら首突っ込む訳にはいかないけど、バンド活動が影響してるなら話は別。明日、メンバーみんなで話し合いましょう』
「そうね……うん、ありがとう! 姫榊ちゃん!」
姫榊ちゃんが少し俯く。
そしてそのまま床に視線を向けたまま、数秒が経った。
……私は気になる事を質問してみた。
「姫榊ちゃんは親にバンド反対されてないの?」
姫榊ちゃんは元ピアニストだ。
それにこんな良家のお嬢様なら……バンドなんてもってのほかだ! とか言われそうだけど。
『反対も賛同もされてない』
「えっ?」
『悪い事しなければ私の自由にしていい、って』
それって、もしかして……
「ネグレクト、とかじゃないわよね……?」
姫榊ちゃんの家庭環境が特殊なのは前に聞いた。
それに、前にこの家に来た時も、今日も……姫榊ちゃんの両親は居ない。
『怒りますよ?』
「えっ、あ……ごめんね……?」
姫榊ちゃんがキツい目付きになった。
あの時……姫榊ちゃんが、白雪さんにビンタをした時のような、鋭い目だ。
『月1で手紙が来てますから』
「そうなんだ。……信頼されてるのね〜」
「……………………」
姫榊ちゃんは椅子にもたれ掛かり、腕を組んで虚空を見つめる。
この話題は……姫榊ちゃんにとっては地雷なのかもしれない。
そんな姿の姫榊ちゃんを眺めていると、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。
その後、メイドさんの声も聞こえてくる。
「お嬢様、お風呂の用意が済みました」
姫榊ちゃんは机の上に置いてあるベルを軽く鳴らした。
……多分、了解の合図。
姫榊ちゃんは言葉が話せないから。
『お風呂入りに行きましょう』
「私は姫榊ちゃんの後でいいわよ。泊めてもらう身だし」
「……………………」
姫榊ちゃんがジッと見つめてくる。
『喜多さんと一緒に入りたい』
「んんっ!」
この子は不意打ちのように……まあ、姫榊ちゃんがそう言うなら、従うとしよう。
脱衣所で服を脱いで入浴場へ入る。
相変わらずの大衆浴場のような所だ。
「せっかく一緒に入るんだし、今回こそ洗いっこしましょう!」
「……………………」
「ガン無視!?」
姫榊ちゃんは私の言葉にピクリと反応した後、振り返る事もなくバスチェアに座ってシャワーの蛇口を捻った。
「もう〜……」
仕方なく、隣のバスチェアに座って自分の髪と体を洗っていく。
一緒に入りたいって言ったのは姫榊ちゃんの方なんだけどなぁー……。
「……………………」
「ふ〜……」
そうして体を洗い終わり、大浴槽に浸かる。
泳いだり潜水できるぐらい広いのだから本当に驚きだ。
底が浅めになっている縁側に2人で並んで座り、縁にもたれ掛かる。
「……………………」
姫榊ちゃんが見上げるように私に視線を向け、手をバタ足のようにして水面をバシャバシャと叩く。
「今日は泳がないの? って言いたいの?」
姫榊ちゃんがコクンと頷く。
お風呂ではメモ用紙を持ってこれない、だから意思の疎通がいつもより難しいけれど……なんとか姫榊ちゃんの意図が汲み取れた。
「今日は流石に疲れちゃったからね」
ぐーっ……っと両腕を上に伸ばす。
疲れは確かにあるけど、それよりも……そんな気分じゃないなぁ、って思ったのもある。
穏やかに揺れる水面を、静かに眺めていると……ふと、右手の甲に何かが触れた。
「ん……?」
視線を自分の手に向ける。
姫榊ちゃんの左手が、私の右手に添えられていた。
そして……淀んだ闇色の瞳が、私の目をしっかりと捉えていた。
「……………………」
あの日から……私たちの距離は近くなったような気がする。
手を重ね合わせるような身体的な距離も、心の距離も。
嬉しくて心地よい、と思う反面……怖い、と思う一面もあった。
この距離が……この関係が壊れてしまうんじゃないか、って。
脳内で色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合いながら、姫榊ちゃんの視線に応えるように目を向ける。
彼女の瞳はいつもより、熱を帯びているように見えて……頬もほんのりと上気している。
お風呂の熱気に当てられて、そうなっている。
そうに違いない。
「っ……」
「んっ!?」
姫榊ちゃんの肩が私の肩に触れる。
身を預けるように、寄り掛かってきた。
そして……涙の溜まったような瞳を閉じ、顎を上げる。
こんなの、まるで……
「……………………」
姫榊ちゃんはそのまま、ジッとこちらに顔を向けたままでいる。
……キスをせがんでいるようにしか見えない。
どうしてこんなことを?
そもそもなんで私に?
……本当に、してもいいのか?
答えの出ない自問自答を頭の中で繰り返す。
その間も、姫榊ちゃんはずっと……そのままでいる。
ずっと……待っている。
私を突き動かしたのは、理屈じゃなかった。
彼女の顔に自分の顔を近づけて……唇を重ね合わせた。
触れ合うだけの、軽い口付け。
けれども、姫榊ちゃんの唇の感覚と熱が確かに伝わってきて……顔を離した後も、その感覚と熱は残り続けていた。
「っ……」
姫榊ちゃんが瞼を開くと……闇色の瞳から、ポロポロと光が水面に降り注いだ。
「ごっ、ごめんなさい姫榊ちゃん! こんな事しちゃって……!」
「っ……!」
彼女は力強く何度も首を横に振る。
「ぅ……、れ……しい……」
か細くて、容易く搔き消えてしまいそうな声。
そんな彼女の声が……鼓膜を通り、心に響いてくる。
お風呂の熱と雰囲気に飲まれ、取り返しのつかない事をしてしまったかもしれない……そんな想いは、その言葉で振り払われた。
「も……と……」
再び瞳を閉じて顔を上げる。
閉じた瞼から、一筋の光が零れ落ちる。
溢れる衝動を抑えて、拳を握り締める。
これ以上、進んだら……きっと歯止めが利かなくなる。
「……逆上せちゃうから、もう上がっちゃいましょう?」
ぽんぽん、と軽く頭を叩いてあげる。
姫榊ちゃんは目を開き、小さく頷く。
こんな状況でも聞き分けが良い……お陰で助かった、かもしれない。
お風呂から上がり、寝間着に着替えて……姫榊ちゃんの部屋に戻る。
椅子に座って対面している彼女の目は……未だに熱が篭っていた。
「……………………」
視線がぶつかり合ったまま、どれだけの時間が経っただろうか。
お風呂から上がってから、2人の間に会話は無かった。
あるのはただ……互いの視線が交差する、それだけ。
「……なんで、あんな事したの?」
「……………………」
「あっ、いや! しちゃったのは私だけど……!」
姫榊ちゃんはメモ用紙をテーブルの上から取り出してペン先を走らせる。
『繋がりが欲しかったから』
「繋がり?」
『繋がりが無ければ、喜多さんは離れていってしまうかもしれない。そう思って』
「そんな事……!」
そんな事は、絶対にない!
……そう言葉を紡ぎ出す前に、彼女は更に言葉を続けた。
『それに繋がりが無ければ私の心が狂って壊れてしまいそうだったから』
「えっ?」
姫榊ちゃんが椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。
『私のエゴイズムに付き合わせてしまってごめんなさい』
顔を上げ、そう書いたメモ用紙を見せてきた。
瞳は熱を帯びて潤んでいるけれど……表情にはどこか陰りが見え隠れする。
私は……勢いよく立ち上がった。
「エゴだなんて言わないで!」
そして、しっかりと……彼女に私の存在を確かめさせるように、強く抱き寄せた。
「え……」
「本気でイヤだったらしてないから!」
「っ……」
「だから……姫榊ちゃんの本当の気持ちを教えて?」
姫榊ちゃんの瞳が揺れる。
彼女も、頭の中がいっぱいいっぱいで……色々な感情が……期待とか、不安とか、孤独感とか……綯交ぜになってるんだ。
それでも……必死になって思考を纏めて、声を絞り出す姿が……堪らなく愛おしい。
「した……ぃ……」
「うん」
「き、す……」
「私も」
一瞬よりも長くて、永遠よりも短いこの時間を……ずっとずっと、大切にしていこう。
そう、心の中で決意した。
「……これで良しっ!」
日付けが変わり、次の日の朝。
昨晩はせっかく客間を用意してもらった手前を無駄にしてしまった。
姫榊ちゃんが起きるより前に私が起き、そして部屋を出る。
メイドさんに1つお願いをして……そのお願いは引き受けてもらえた。
そして今現在。
私はスヤスヤと寝息を立てているお嬢様を横で眺めている。
姫榊ちゃん、結構眠りが深いみたい。
ドアの開け閉めや足音にも全く反応しないんだもん。
「んっ……う……」
姫榊ちゃんが目を擦りながら体を起こした。
寝ぼけているのか、目が半開きの状態だ。
「おはようございます、お嬢様!」
「ん……」
姫榊ちゃんがこっちに顔を向けて、目をゆっくりと見開く。
「!?」
上半身が引き気味に仰け反り、口をぽかーんと開けている。
「ふふっ、どう?」
くるりと1回転してみる。
『なにしてんですか』
「何って、メイドさんよ?」
そう、今の私はメイド服を着ている。
ハウスキーパーの小林さんに貸してもらったのだ。
メイド服ならSTARRYや文化祭で着た事あるし、お手の物!
『さっさと着替えて』
姫榊ちゃんはメモ用紙を置いて立ち上がり、体を伸ばした。
「え〜、せっかく借りたんだから、泊めてもらったお礼に身の回りのお手伝いさせて!」
『友達にメイド服着させてこき使う趣味はない。早く着替えて』
頑なに拒否し続ける姫榊ちゃん。
寝起きなのもあるかもしれないけれど、表情も明らかに不機嫌そうだ。
「しょうがないわね……姫榊ちゃんがミニスカサンタ服着てくれたら着替えてあげる」
「!?」
「どう?」
『絶対にイヤだ。絶対に着ないから』
「昨日のうちに洗ってもらっておいてあるから、汚れてはいないはずよ?」
『ミニスカートを着たくないの』
そういえば姫榊ちゃんの私服っていつもロングスカートだった。
……何か理由でもあるのだろうか?
「なんで?」
『いいから着替えて。友達のメイド服とか落ち着かない』
姫榊ちゃんがしっしっ、と手を払う。
本気でイヤがってる……というか、怒ってる。
これ以上、無理強いするのは良くないかな。
メイド服から着替えて、一緒に朝食を摂った。
準備とか片付けを手伝おうとしたら、やっぱり姫榊ちゃんに不機嫌そうな顔をしながら止められた。
彼女なりの線引きみたいな物があるのだろう。
こんな事でつまらない思いをさせてくはないし……ここは姫榊ちゃんの家だ、彼女の意思に沿おう。
「スタ練は午後からだけど、午前中は何か予定あるの?」
そして今、姫榊ちゃんの部屋で寛いでいるところだ。
互いに、いつも通りの表情といつも通りの雰囲気。
そう、いつもと何も変わらない。
『厩舎の掃除しようかと』
「きゅうしゃ?」
『馬小屋の事です』
ああ、そういえば姫榊ちゃんて馬を飼ってたっけ。
……伊地知先輩の頭を丸齧りにした馬が。
『なので喜多さんは適当に寛いでいてください』
「私も手伝うわ!」
「……………………」
というわけで、私と姫榊ちゃんは長靴を履きツナギの作業服に着替えて馬小屋にやってきた。
いくつもの部屋に区切られているけれど、飼っているのは伊地知先輩の頭を丸齧りしたあの馬1頭だけみたい。
『建物全体の事を厩舎、区切られてる部屋の事を馬房って言うの』
「へ〜、そうなんだ」
『私はナポレオンの馬房を掃除するので、喜多さんは通路や空いてる馬房をお願いします』
「は〜い!」
とは言っても、毎日掃除してあるからか……通路や空き部屋は大して汚れていなかった。
姫榊ちゃん曰く、平日は厩務員に任せてるけれど休日は自分で世話をしているそうだ。
……馬飼ってて専属のスタッフさんまでいるとか、改めて見ると凄いなぁ。
程なくして割り振られた場所の掃除は終わってしまった。
やる事も無いし……姫榊ちゃんの方を手伝おう。
「姫榊ちゃーん、手伝うわ〜」
そうして姫榊ちゃんのいる馬房に足を踏み入れる。
「あ」
私の声に気が付いた姫榊ちゃんが振り向き、短い言葉を漏らす。
そして大慌てで、退室を促すように手を払った。
「ん? どうかしたの?」
私は構わずに歩みを進めた。
その時だった。
ぐしゃり。
そんな感覚が、足の裏を襲った。
何か、柔らかい物を踏みつけた、そんな感覚。
「……………………」
「……………………」
馬の糞を、踏ん付けていた。
午後になり、練習に赴く。
そして他のメンバー全員に事情を話した。
私以外は特に親からバンド活動を反対されているわけではないらしく……結局のところ、私自身で解決しなければならない問題なのだと再確認した。
とりあえず、ほとぼりが冷めるまで姫榊ちゃんの家にお世話になる事にした。
姫榊ちゃんは快く引き受けてくれた。
でも、メイド服を着ようとすると全力で止められるのは変わらなかった。
姫榊ちゃんの家に厄介になり、数日が経ったある日。
お母さんからロインに連絡がきた。
「後藤さんを連れて帰ってきなさい、だって」
「なっ、なんで私が……?」
今日はひとりちゃんが偶然、私の様子を見に遊びに来ていた。
私と姫榊ちゃんとひとりちゃんの3人で、大広間で自主練をしていた最中だった。
「分かんなけど、なんか怒ってるみたい」
「ひぇっ……!」
「……………………」
けれども、これはある意味チャンスかもしれない。
どうにかしてバンド活動を認めてもらえるように説得をする……!
「ひっ、姫榊さんも一緒に……!」
『私は呼ばれてないみたいだし、そもそもこれから病院に行かないといけないから無理』
「そんな……」
ひとりちゃんが膝から崩れ落ちて項垂れる。
「ひとりちゃん! 早速行きましょう!」
「えっ、あっ、はい……」
ひとりちゃんを引っ張って起き上がらせる。
「片付けと行く準備するから、ひとりちゃんは先に外に出てて?」
「はっ、はい」
ひとりちゃんが退室し、大広間には私と姫榊ちゃんだけになった。
姫榊ちゃんはいつもの無表情フェイスでキーボードを片付けている。
「姫榊ちゃん!」
「……?」
こちらを向き、首を傾げる。
私は彼女を抱きしめて……3度目の口付けを交わした。
「え……ぁ……」
「今日まで泊めてくれてありがとう! 私、頑張って親を納得させるから!」
「ぅ、ん……」
ほんのりと上気した頬に潤んだ瞳。
私だけが知っている、彼女の表情。
無くしたくない、大切な人。
これからもずっと、一緒にいられるように……頑張ろう。
この《繋がり》を誰にも消させたりはしない。