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「はぁ…これ…重っ…!」
資料の詰まった段ボールをなんとか机の上に下ろす。私の仕事場であるこの執務室には、同じような段ボールが所狭しと並んでいた。
中身は資料が二、三箱と、私物がいくつか。自分で買っておいた衣類や日用品も含まれる。買ったはいいが結局使わず、埃を被ったものまでが沢山。普段から処分しておくべきだった。
少佐の内定と、前線への異動が決まってから数ヶ月。諸処の手続きなんかが終わり、三ヶ月後の引っ越しに向けて荷物の整理中だ。ここで過ごしたのはたった数年だけれども、家と呼べるこの鎮守府を離れるのはどこか寂しい。
でも、私についてきてくれる子達もいる。サミュエル・B・ロバーツ、フレッチャー、ジョンストン。まあ、正確には私の方が彼女についていく側なのだが。
汗を滲ませながら別の段ボールを運び、中身を仕分けしていると、椅子にかけておいた上着から着信音が鳴り始めた。
「……?誰かしら。」
ポケットから支給品のスマホを取り出す。つまりは仕事の電話のはずだが、スマホに来るのは珍しい。上からの指示は鎮守府の固定回線にかかってくるのが普通だ。しかも表示されている番号に全く心当たりはない。
「……もしもし?」
『もしもーし?あ、北山サン?』
この女性の声には聞き覚えがある。
「もしかして、長田さんですか?」
『あー、そうです。お久しぶりです。』
彼女は長田と言って、この鎮守府がある離島と本土を繋ぐ連絡船の船長をしている。物資や人を定期的に輸送する民間の嘱託職員。
「長田さん、この電話番号ご存知だったんですか?」
『いちおう、緊急連絡先って事でね。それで…』
緊急連絡先、そう聞いて一つ思い出した。今日はジョンストンが休暇を取って本土まで外出する日だ。
「ジョンに何かあったんですか!?」
『んー、まあ、何かあった…とは思うんですけどねえ。』
緊急連絡にしては何かはっきりとしない物言いだった。
『ジョンストンさんね、今朝港まで送り届けて帰りは三日後、って聞いてたんですけどねえ。なんか今日の午後うちに急に来て、帰してくださいって言ってきたんです。』
「ジョンが…?」
確かに、彼女の休暇申請は三日分だった。私はどこへ行くのかとかあまり詳しくは聞かない。各々に任せてはいるものの、彼女にしては珍しく長期間だとは思っていた。
『うちも、帰してくれと言われちゃあそれに従うしかないし、なんだか様子がおかしかったから一人にさせるわけにもいかないってんで、鎮守府まで来たんですけど。』
窓の外を見る。灰色の雲に霧雨のストライプが映えるその光景の中、埠頭にはゆっくり揺れる連絡船があった。豆粒ほどのサイズだが、人影がこちらに手を降るのが見える。
『顔も真っ青でね。何か思い詰めてる、というか…ただ事ではなさそうなんで、連絡差し上げました。』
「ありがとうございます。ジョンは…?」
『ふらふらっと鎮守府に入っていきましたよ。少なくとも身投げなんかはしてません。目を離したらどうかはわかりませんけど。』
「わかりました。すぐ迎えに行きます。」
『大変だろうけど、頑張ってくださいね。じゃ。』
通話を切ってすぐに宿舎に向かった。まるで心当たりがない。外出先で何かあったんだろうか?あの気丈な子が、そこまでの様子になるなんてただ事じゃない。
悪い考えばかりが頭を過る。早足はいつか駆け足になっていた。
宿舎のジョンストンの部屋へ向かった。サムやフレッチャーと同室だが、今は他の二人も部屋にはいない。やたらと濡れている足跡がその部屋へと続くのを見て彼女の在室を確信し、扉を開ける。
「ジョン!どうしたの?何が―」
ドアは開いていた、が。中には誰もいなかった。ジョンストンが脱ぎ捨てたと思われる私服が、濡れたままベッドの上に投げ捨てられている。
「―ッ!」
廊下を出て、足跡を辿る。水滴は他の場所へと続いていない。部屋に戻った後にまた同じ道を引き返したんだ。そしてそれは、外へ続いている。
「ジョンストン!」
玄関を出て、降りしきる雨に向かって叫ぶ。少しの静寂と、雨音の後で、僅かに声がした。
「………なに?」
横を見ると、フレッチャー級の制服に身を包み、ずぶ濡れになってうずくまるジョンストンがいた。最初、彼女の頬を濡らすのが雨か涙かわからなかったが、その腫れた目が物語っている。
「ジョン、そんな所にいると風邪ひくわよ。」
細心の注意を払いながら声をかける。今の彼女の状態は普通じゃない。
「ひかないわよ。あたし…艦娘だから。」
一際大きい雨粒が頬を伝う。
「そう。」
黙って隣へと座った。べちゃり、と泥の音が響く。降りしきる雨が体を濡らしていき、シャツがじめりと肌へ吸い付き始めた。
「何してるの?」
「さっきまで掃除してたの。暑いし埃だらけだし、ちょうどいいから。」
「ふぅん。」
笑い声の一つも聞こえてきそうなものだったが、声色すら変わっていない。
「それで、どうしたの?せっかくの休暇なのに。」
「あなたには関係ないでしょ。」
冷え切った雨のように彼女は答えた。
「……そうね。関係ないわ。」
「……………」
「なら、関係のあるフレッチャーやサムにはちゃんと話してくれるのよね?」
「……………っ。」
彼女は握っていた自分の腕を、強く握りしめた。それが答えだった。
「関係が深いからこそ、話せないものもあるでしょ。愚痴でいいから、私に話してみない?」
「……………………………あたし。」
ぽつりぽつりとジョンストンは話し始める。
「あたし、男を見る目、無かったみたい。」
ああ、そうか。彼女のこの姿は見たことがある。鏡の中で。
「優しい人だと思ったの。何週間にいっぺんしか会えないのに、いつもあたしの事、覚えててくれてて。」
「仕事の都合であんまり会えないって言ったら、コーヒーの淹れ方とか、ケーキの作り方とか、お店のレシピまで親身に教えてくれて。」
彼女の体験はそう珍しいものじゃない。生身の人間と触れ合える場は艦娘にとって貴重だ。軍人としてではなく、普段の姿を隠し、ただ一人の少女として過ごす時間は何者にも変えられない。
「会えないから、メールで文通したり電話で話したりとか、そういうのもしたわ。他の人からも評判良くて、悪い噂も全然聞かない。たまにしか会えないあたしのために、ずっと頑張ってくれてた。」
ただ数回会っただけの人間に入れ込むケースはざらだ。もっとも、それを口に出せるほど私達も立派な立場ではない。そんな境遇を押し付けているのは私達なのだから。
「それで、それで、今日、あたし、打ち明けたの。私が艦娘だって。」
その行為は…明確には禁じられてはいない。基本的に外で正体を明かすのはNGだが、それは大っぴらにしてはいけないという意味であり、親交を深めるためにある程度の情報を開示することは許されている。
「前線勤務になるから、来れる頻度が減るって。連絡も難しいし、もしかしたら…これが最後になるかもって。」
はっと頭を上げた。前線勤務という言葉が頭の中に響く。
「そうしたら、あの人、物凄く動揺して。淹れてたカップ毎床に落としたの。あたしも一緒に片付けたけど、あの人の手、ずっと震えてた。」
「それで、それでね。あたし、待っててくれる?って聞いたの。あの人、あの人は…」
最後の一言を言う前に、ジョンストンは大きく鼻を鳴らして嗚咽する。
「ごめん、って。それ、たった一言。たったの…一言……!」
私は、彼女の隣に座り直してその肩を抱いた。冷たい体のまま、追い縋るようにしてこちらに手を伸ばす。そしてそのまま、胸に顔を埋めて泣き出した。
ああ、冷たい。
私は…少なくともその男の人を責められはしない。遠距離恋愛していた彼女が、いきなり艦娘だと告げられ、明日死ぬかもしれないと言われて、動揺しない筈がない。
彼がジョンストンの事をどの程度想っていたかも私にはわからない。いや、ジョンストン本人にも。でも、彼女がこの世界に根を下ろすための楔、荒波に耐えるための錨になるほどの熱量と度胸は、持ち合わせていなかったのだろう。
彼女達はどちらも悪くない。責任があるとすれば、それは彼女達に重荷を背負わせた私達と…彼女達を引き裂いた私に全てがある。
そしてそんな私は、おこがましくも彼女を慰めるためにその胸を貸している。
ああ、本当に、私は何をしているんだろう。
数分か、数十分か。泣き続けたジョンストンはやがて私の胸から離れ、むすっとした顔で、宿舎の壁へ背中を預けた。
泣き腫らした目は赤いものの、頬は先程よりは濡れていない。
「………ばか。」
海の向こう、遠い遠い誰かへ向けて、ジョンストンが呟く。
ほんの少しだけれども、いつもの彼女に戻りつつある。微笑んで声をかけた。
「すっきりした?」
「……少しはね。」
そう言って、同じように微笑んだ。こちらもふっと鼻を鳴らすが、それと同時に背筋が震える。
「っぐしゅん!」
どうも長居しすぎたらしい。ジョンストンは何もないようだが、この体には辛かったようだ。
「ふぅ。少し、お風呂でも入らない?すっかり冷えちゃった。」
「…うん。」
濡れた足跡を二人分作りながら、浴場へと向かう。
「ジョンの着替えってどこにあるの?」
脱衣所で濡れた下着を脱ぎ始めたジョンに声をかける。
「あたしのは…部屋のタンスに青いシールを付けた段があるから。そこに仕舞ってるけど…あなたは入らないの?」
ずぶ濡れのシャツを身に着けたままの私を怪訝な目で見つめてくる。
「着替え、持って来なきゃいけないでしょ?タオルもそうだし。」
安心して一息付いた私は、着替えなんぞ頭にないまま彼女を連れてきてしまっていた。濡れた制服を放る後ろ姿を見てようやく気がついたのだ。
今、ジョンストンは一糸纏わぬ姿でこちらを向いている。普段の快活な表情ではなく、どこか落ち込んだような、冷えた目をしてはいるが、それが却って美しさを引き立てているようにも見える。
私の目を見たまま、じっと立ったままのジョンストン。よくわからないが、流石にこの姿で出歩きはしないだろう。濡れた制服も回収したし、目を離しても―
そうやって、目を離した瞬間。彼女が抱きついていた。
「……ジョン?」
「…行かないで。」
思わず口が緩む。気丈な彼女が出した数少ない本音。それを私に吐き出してくれた事と、そして、こんな彼女にも人に甘えたい部分があるのだという人間味。それが愛おしかった。
「わかった。好きなだけお風呂に入って、後から来た誰かに頼みましょうか。ジョン?」
服を脱ごうとしたが、雨に振られて抱きついてきた時よりもその手は硬かった。そしてどことなく…体は熱を帯びている。
「ねえ。あなたは…あたしの体、綺麗だと思う?」
……なんの話だろうか。
「それは…綺麗だと思うわ。」
実際そう思う。他の子と同じく童顔だけど、キリっとした眉を見ると美人寄りの顔つきであるように思う。少女というには似つかわしくないモデル体型で、くびれ周りの曲線が眩しい。バストは流石にフレッチャーに負けるようだけど、線の細さとバストの豊満さに乖離のある彼女と違って、そこまで細い印象はない。よく言えばバランス型。
同性ということもあるだろうけど、そうして私に見られることはまるで嫌がっていない。フレッチャーや、サムですら多少は恥ずかしがるだろう。今の彼女がやけっぱちなだけなのか、それとも自分の体に自信がある故の事なのかはわからない。
でも、今になって何故そんなことを?思い浮かんだ疑問は、次の瞬間には消えていた。
「あたしの事、抱いてくれる?」
私の胸元へ、心臓へ向かって、ジョンストンはそう呟いた。
「えっ…じょ、ジョン、何言ってるの?」
「……あの人の事、忘れたいの。」
それは…体を重ねた仲だった、という事だろうか。そうであるのなら、あの狼狽ぶりにも納得は行くけど。
「待ちなさい。私は女よ?」
「でも、サムとはしてるでしょう?たぶん、フレッチャーとも。」
びくん、と体が震えた気がした。でも震えたのは私の心臓だった。鼓動がバクバクと音を立てている。頬に伝わる鼓動を感じたのか、ジョンは微笑んだ。
「……ふふっ。やっぱりそうなんだ。あなた、とっても『やり手』じゃない。」
「…カマをかけたの?」
「ごめんなさい。でも、すっごくわかりやすいわよ、あなた。」
私の駄肉に挟まれながら、眼の前の少女は悪戯っぽく笑う。
ああ、この子もあのフレッチャーの妹ということか…。
「そう…ね。私はサムとも、フレッチャーともしてる。そういう関係よ。そういう…上下関係を利用している悪い女なの。」
「あたしも、悪い女になろうかなぁ。サムはフレッチャーとしてる事知らないわよね?」
痛い所を疲れた。確かに、私は最初はサムとだけしていたし、一人選ぶなら間違いなくサムだと断言出来る。でも、そんな私をフレッチャーは求めてくれていて、それで押し切られて、結局サムには秘密のまま関係が続いている。
「…これもアタリ、ね。」
鼓動する心臓に、愛おしく頬を擦り付けるジョン。
「聞いて、ジョン。私が…昇進を決めたのはね、私自身のためなの。私が望むなら、私も、サムも、そしてフレッチャーやあなたもずっとこの鎮守府で過ごせてたと思う。あなたの恋人とも。あなた達を引き裂いたのは…私なのよ?」
情けない贖罪の言葉を吐くと、彼女は笑い、細めた眼から涙がこぼれ落ちた。
「じゃあ…責任…取ってよ…!」
そしてまた、顔を埋める。涙で濡らした顔を見せぬようにと。
「あたしの事、艦娘じゃなくてさ…!一人の、人間として、見てよ…!」
自然と右手が伸びた。少し赤みがかった金色の長髪。涙に濡れるその髪をも抱え込んで、震える少女を抱きしめる。
結局、私にはこうする事しか出来ない。それで彼女の傷が癒えるなら。
こちらを見上げたジョンの瞳。涙の中で燃える瞳に吸い込まれ、口づけを交わした。
「んっ!…んう…んじゅっ…ふっ……!」
「んぐっ…ぐすっ……うぅ…はぁ……あたしっ……ん……♡」
ジョンのキスは激しかった。目を瞑ったまま、涙を流して私の唇と舌に食らいつく。細い腕が肩まで回ってくると強い力で抱きしめてくる。
もっと、もっと、もっと。彼女の口からはやり場のない愛が際限無く漏れ出している。向かう先を見失った、淡い少女の恋心。
今までのキスを上書きするかのように、舌先がしつこくこちらの舌や歯を舐って、全てを飲み干そうとジョンはもがく。そんな事をしても、味わうのは涙の塩気だけだろうに。
「やだ…んぷ…逃げないっ…でぇ…はぁっ…んぅ……あなたしか……もうっ……ん…♡」
「んっ…はぁっ…♡ジョン…そんな…んっ…急がないで…。」
自分とジョンの間に腕をねじ込みシャツのボタンを開けていく。更衣室のはずがそこだけはサウナのような熱気に包まれていた。ボタンを外す度、むせ返る熱風が立ち込める。
「んっ………っと。んふっ…待って…ジョン…」
びしょ濡れになったシャツをなんとか剥がしつつ、無理にブラジャーを下ろした。何か破けたような音がしたけれど気にしない。
肩を押してジョンを制止すると、名残惜しそうに舌を離した。端正な顔つきだった少女の顔は蕩け、垂れた涎をごくりと飲み込む。そのままお預けを食らったようにこちらを見つめて動かない。
「これ…しゃぶって欲しいの。」
シャツから溢れた二つの駄肉をジョンへ見せつけると、すぐにそれに食いついた。
先ほどの激しさとは打って変わって、吸い上げるような、撫でるような繊細な舌使い。肌を伝う雨粒と汗の混合液がどんどん飲み干されていく。
「ん…♡上手よ、ジョン…♡」
彼女の舌使いはとても優しかった。充血した乳首を傷つけることなく、それでいて刺激は強く、舌のざらりとした感触が私の心までをなで上げる。
多分、そういう経験がある。歯を立てることもなく唇で吸い付き、唾液を入念に刷り込んでくる所作。それを男ではなく女の私にやっている。それが、不思議な興奮と高揚を与えてくれている。
ああ、やはり私は悪い人間らしい。
「んぐっ…♡じゅるっ…♡ふぅっ…んむぅ……♡」
「ぁ…♡はぁっ…♡もっと……♡」
ベルトを緩めてスラックスを下ろそうとするが、雨で張り付いた布が肌を離れない。ジョンにお乳をやりながら、腰をくねらせてなんとか脱げた。
びしょ濡れで張り付くシャツを羽織り、下は全裸。なんとも奇妙な姿になってしまったけれど、もう止まれない。
「ジョン、こっちを見て。」
両手で彼女の頬を包む。小さい。とても小さい。こんな小さな少女の中にも、あれだけの人間臭さと少女らしさ、そして女の欲が詰まっている。
髪色と同じ金色の瞳、涙に塗れて輝くそれに吸い寄せられるように、また口づけを交わした。
「もう少し、足、開いてもらえる?」
「…こう?」
「いい子ね。」
ジョンの開いた足の間に、ゆっくりと自分の足を挟み込む。小さな両足がぴくんと震えて私の足を挟み込んだ。でも、それが抵抗でないことはわかっている。緊張から、ただ反射的に誰かの体に縋るような、そんな感覚。
私は深く足を滑り込ませて…太ももをくいっと上げた。濡れていて、それでいて温かい、柔らかなものに肌が触れる。
「ぁああっ♡」
割れ目に触れられたジョンが、可愛らしく声を上げた。
彼女の女性器、粘膜が私の太ももに張り付いてくる。何かを欲して、その大陰唇でキスをするかのように、せわしなく震え蠢いている。
私が太ももを動かす前に、ジョンの方から動いてきた。自身の体重を太ももに預け、ゆっくりと前後に腰をくねらせる。
「んんぅ…♡はぁっ……♡」
這うような、あるいは縋るような腰使い。懇願か哀願か、眼の前の少女はただ愛を求めている。
上目遣いで寂しそうに見つめる双眸が、再び私の唇を吸い寄せていく。
「んっ…♡」
「ふぅっ…んむっ…♡ちゅ…♡」
上と下、両方の口で求めてくるジョン。私はそれに答えながら、ぐりぐりと太ももを彼女の下半身に擦り付ける。その度に甘美な声と息が吐き出され、私はそれを咀嚼する。
ジョンの足元は快感に砕け、ふらふらとおぼつかない足取りだ。私はそんな彼女の腰に手を回し、ゆっくりと後ろに下がらせていった。
曇りガラスのドアを開け、女の匂いがしない、無機質な湯気に包まれる。ただでさえ熱い体に、白い蒸気が纏わりついた。
「じゅるっ♡はー…んっ♡ジョン…♡」
「んっ♡はぁっ♡もっと…♡ねえ…もっと…♡」
浴場の壁まで追い立てられた少女は、両手を私の背中へと回してきた。
私の太ももに足を絡めながら両腕で抱きつき、涙を流してこちらを見る。ジョンがいつも見せる気丈さはどこにも無い。眼の前にいるのはただの傷ついた少女だった。
でも、その姿に憐憫を感じることはなかった。ジョンは、彼女はそれだけの信頼を他人に寄せる事が出来たのだから。人としての情も欲もその身に宿し、触れ合い、傷つき、そして成長していく。
ジョンストン…彼女は兵器でもなんでもなく、血の通った一人の人間なのだ。
「……どうしたの?やっぱり…あたしとはダメ?」
そんな私の思考は露も知らず、少女はそう呟いた。
「………ううん。大丈夫。ジョンは…可愛いなって。」
「あたしが?」
「ええ、とっても。」
多分、ジョンはいずれ私の元を巣立っていくのだと思う。そんな気がする。
ただの直感だけれども、どこか心の中で惜しいと思ってしまった。戦士としての気高さと、少女としての繊細さを併せ持つ彼女。私の心もまた、ジョンを欲している。せめて今だけは、この子と愛し合っていたい。
「私が支えててあげる。だから全部、私にぶつけていい。」
「…………うん。」
ジョンの情熱的な唇が私に食らいついた。餌をねだる雛のごとく、無邪気で、無垢で、それでいて飢えている。
「んっ…はっ…はむっ♡むぅっ♡ふぅ♡」
「んく…♡ふっ……ん……ふぅ♡」
彼女の舌はどこまでも欲しがりで、寂しがりやだった。私の舌に絡みつくと、それを引きずり出そうとする。どうして愛してくれないの、と言わんばかりだ。
私はただそれに答えるだけ。彼女がそうしたように彼女の口内に舌を突き出し、全てを撫でる。彼女の傷に唾液を塗り込んで慰撫し、愛し合う。
ジョンは口で求めながらも、体でも私を求めてきた。乳房を濡れたシャツに擦り付け、割れ目を太ももに擦り付け、自分の匂いを移していく。
そんな姿を見せられると、私も高ぶってしまう。彼女がこちらに差し出した左足に足を絡ませて、私の割れ目を左太ももにぴったりとつける。絡み合う蔓のように交わり、一つになった。
「ん…♡ふぅ…♡」
「じゅるっ…♡んぅ…♡」
ジョンの滑らかな肌が私の下半身を削っていく。彼女が少し身動ぎをするだけで、全身に心地の良い熱が回ってきた。それはジョンの方も同じようで、キスの合間に振りまく吐息はどこまでも熱くて、胸を貫く激しい鼓動と、太ももを巡る脈動が手に取るように伝わってくる。
少女の大陰唇はぱっくりと口を開き、私の太ももに齧り付いて離れない。その唇は切なそうに太ももにキスをして、だらしなく涎を垂れ流していた。
二つの唇で愛を求めるジョン。私は口を開いて、その想いに答える事にした。
「ジョンストン…好きよ、あなたのことが。今はただ何もかも忘れて…一つになりましょう?」
ジョンの眼から透明な一滴が滴り落ちた。お湯でも汗でも愛液でもない、ただ人間であることを証明する一雫。その愛おしさに惹かれて、彼女を抱きしめる。
「……………っ!」
その背中を縛り付けるように握りしめると、ジョンもまた私を握りしめた。相手の鼓動が、自分の鼓動をさらに早くさせる。お互いの鼓動が重なりあって、心臓同士が触れるほど近くなった瞬間、私達は限界を迎えた。
「んっ♡~~~~~~~~~~~~~っ♡♡♡」
「あな…たっ♡あっ……!~~~~~~~~~~~♡♡♡」
ジョンは私の唇を奪ったが、快感に打ち震えるだけでそれ以上の事はしなかった。舌ではなく、吐息でするディープキス。彼女の熱く、それでいて甘い吐息が私の口腔を支配する。私は彼女の吐息を受け止め、咀嚼して吐息で返す。それの繰り返しだ。
彼女の足は弱々しくも私の足に絡みついて離れず、その全身を預けてジョンはただ震えて愛を貪っていた。きゅっと閉じた割れ目は、キスマークを残しそうなほどに強く太ももを締め上げる。
私はそんな彼女の体に溶け込んで、自分の体のように悦びを分かち合っている。胸の高鳴り、腕の強張り、絡みつく足の震え。それのどれもが心地よい。
「あ……♡はぁ………♡」
ジョンの体から力が抜け、するりを私の体を滑っていく。彼女の両脇を支えて、床にゆっくりと座らせた。
「ジョン、大丈夫?」
「ん………うん……大丈夫。」
そう言って彼女は僅かに微笑んだ。
ただ、その微笑みはすぐ崩れて、またどこな切なそうな顔を見せる。ほんのりと赤く、逆上せた表情で私の腕を取った。
「………ねえ。もう一回、シて…?あなたの…指で。」
「…わかった。」
上半身に纏わりついたシャツを剥がして床に捨て、そこへジョンを座らせた。布切れ一枚でも、直に座るよりはいいだろう。
ジョンの後ろに座り、横から彼女の下半身に手を伸ばそうとする。
「待って。後ろからじゃなくて…前からがいい。」
「後ろからだと怖い?」
「……………。」
彼女が何を思ったかは定かではない。単純に後ろからされるのが怖いだけなのか、もしくは…彼氏の姿を、私の姿で塗り替えたいのか。
後者のような気がして、それ以上聞く事はなくジョンの前に出る。
「ジョン。私も…あなたの指でシて欲しいの。いい?」
ジョンは無言で頷いて、その手を伸ばした。
私も彼女に向けて手を伸ばす。その手は交わることなく伸び、互いのお腹に触れた。
彼女の体温を感じながら指をつうっと下ろして、女性器へと触れる。赤く充血したクリトリスは既に固くなっていて、シャワーを浴びたわけでもないのにぐっしょりと濡れている。
ここまで解れているのなら、遠慮はいらないだろう。人差し指と中指をジョンの割れ目へと伝わせ、大陰唇の最下部まで這わせる。中は蜜で満ちていて、指に絡むそれはとても温かい。
「んっ……はあぁ……あ……♡」
開いた割れ目の奥、膣口へ指を沈ませた。床に座り、脱力した彼女の膣壁は柔らかく、私の指をどんどん奥へと飲み込んでいく。
「ジョン…私のも…イジって?」
触れるだけだった彼女の指が、優しい手つきで私の中へと入っていく。
サムとも、フレッチャーとも違う手つき。初めての感覚に思わず声が漏れたが、それを聞いたジョンは手を止めてしまった。
「………大丈夫、続けて。」
そう言って微笑みかけると安心したのか、私と同じように二本の指をゆっくりと挿入した。細く長いしなやかな指が、閉じた膣にするりと入り込んでくる。痛みはなく、優しい圧迫が心地よさを生んでいる。
「あなた…痛くない?大丈夫?」
自分のそれを弄る経験はあっただろうけれど、他人の女性器を触る経験は流石にないだろう。
「ええ、大丈夫。ジョンも痛かったら言ってね。」
彼女も余裕があるとは言えないはずだ。それでも私の心配をしてくれている。いい子だ。
私は挿入した指をゆっくりと沈め、彼女の奥まで侵入させた。
「んっ……♡はぁ………♡」
ジョンの体は、私の指を飲み込んでもまだ少しの余裕がある。柔らかいヴァギナを割り、上へと押し上げるとようやく天井に指がついた。
「は…あ……♡そこ……♡」
天井を圧迫しながら指先でくすぐると、彼女の声に再び熱が戻ってきた。普段のよく通る声ではなく、今にも消えそうな嬌声。耳を通さず、心に直接呼びかけるような魔性の声は、私の下半身、ヴァギナにも響いて、その締め付けをさらに強くさせる。
「う…ぁっ♡はぁ……あぁ……♡」
指を深く挿入したまま、指先で彼女を味わっていく。男の性器では絶対に出来ないことだ。
一方でジョンの指使いは段々と激しくなっていった。指を上下前後させて膣壁を磨くように刺激してくる。彼女自身、激しいのが好きなのだろうか。
「んっ♡もっと…激しくてもいいわよ。全部…ぶつけて…♡」
耳元でそう囁くと、指使いはいっそう激しくなる。若さにまかせた勢いだけの手つき。技工ではなく情熱が伝わってくる。
「あたしの事…見てっ…♡」
ジョンの空いた手が、私の頬に触れた。それに手を重ねて微笑むと、彼女は涙を流す。
失意か、羞恥か、快楽か。多分、涙を流す本人にもわからないもの。
少女を貫いた手を優しく這わせて、彼女自身のヴァギナを手の平で包み込む。指だけではなく手全体で愛撫しつつ、眼の前の少女へ唇を差し出した。
涙に濡れた塩味のキス。もっと味わおうと舌を突き出し、交わった瞬間、ジョンは絶頂した。
「んっ♡ふうううっ♡うぅ♡ううっ♡」
両足と膣壁が硬直し、咥えこんだ手ごと快感に打ち震えた。ジョンの腕もまた硬直し、震えながら私の最奥部を捉える。
「っ♡じょんっ……♡♡♡」
熱気が支配する浴場の中で、背筋がぞくりと震える。私を貫くジョンの手に大量の潮を吹きかけながら、私も絶頂した。
「あ…♡はああああああっ……♡♡♡」
「んっ♡くうううううううう~~~~~~っ♡♡♡」
全身を駆け巡る快感が、体液となって放出されていく。手の平に収まらない私達の愛液は、指の隙間から勢いよく噴射され、淫らなシャワーとなってお互いに降り注ぐ。
ジョンの膣はびくびくと震え、愛液を放射し続ける。私も同じだった。もしかしたら尿の方まで漏らしてしまったかもしれないけれど、ここは水場だしどうにかなる。それ以上の事は何も考えず、ジョンのシャワーを浴びて、気持ちよさから声を上げた。
「…………ぁあ…………は……あ……♡」
二度か三度、大きな痙攣の後にジョンの震えは止まった。前に倒れ、私の肩に体を預けてぐったりとしている。
「ん……♡まって……ぬか…ないで…♡」
引き抜こうとした指を、ジョンが制した。
彼女のお願いには何の効果もない。これが男性器だったのなら多少は意味があったのだろうけど。
「もう少し……あたしの中に……居て……♡」
ジョンの膣がきゅうっと締まった。彼女の全身が、まだ私を欲している。そばにいて欲しいと願っている。
「……いいわ。もう少し、このままでいましょう。」
小さく震える肩を抱き、二人で抱き合った。ヴァギナに挿入した指はそのままで、少女の体はそれ以上求める事はせず、ただ優しく指に絡みつく。
ぽつりぽつりと、水滴が滴り落ちている。ジョンの金髪からだ。熱気は消え失せ、冷えた汗が涙のように流れ出していた。
でも不思議と寒くはなかった。眼の前の少女、ジョンストン。温かい人肌と、絶え間なく続く鼓動が、彼女が彼女である事を示している。
「……………喉乾いたわね、ジョン。」
「………うん。」
勢いに任せた情交が終わって、私とジョンはゆっくり湯船に浸かっていた。
修復材配合の薬湯ではなく、ただのお湯で満たされた大人数用のデカい湯船の方。ジョンは私の肩に頭を預け、湯船の中でこちらの手を握っている。
水面には二人の髪、黒と金の長い髪が交わって浮かんで、どこか幻想的な光景。そう思うのは私の頭が逆上せているのかも。
「……今更こんな事言うのもアレなんだけど。」
「なに?」
「あー…ジョンの…ボーイフレンド?もう一度くらいチャンスを上げてもいいんじゃない?」
「…………。」
私の手を握る彼女の手が、少し強張る。
「好きだったんでしょう?ヨリを戻すにしろ分かれるにしろ、ちゃんと決着はつけておいた方がいいわよ。ずっと引きずると思うから。」
「………あなた、引きずった事があるの?」
心の奥底をチクリと刺される。この子はどうも…他人の感情の機微がよく見えてしまうらしい。良くも悪くも。
「まあ…ね。それは置いといて……他人を背負うっていうのは大分勇気がいる事よ。あなたの恋人…喫茶店のその子も、ただ勇気が無かっただけかもしれない。あなたが艦娘で、もう二度と会えないかも、なんて。いきなり言われたら受け止めきれるかどうか。」
「そう…なの?」
ジョンはあまり理解出来てないようだ。無理もない、彼女達はいつ死んでもおかしくない戦場に身を置いている子達で、他人の命を背負う事も、背負われる事にも慣れっこだ。それに彼女の場合…昔の事もある。護るべき相手のためなら自分の命まで投げ捨てられる、それほどに強くて、そして儚い少女。
「もう一度、一度だけでもいいから話してみなさい。どんな結論を出したっていい。あなたが望むのなら、ここで起きた事は忘れてあげる。」
「でもー」
「またあなたが泣くような事があれば、一緒にいてあげる。あー…でも特等席はもう埋まってるわね。うん。」
ジョンがくすりと笑い、水面を揺らした。
「なにそれ。それが人を口説くセリフ?」
「そんな人に口説かれたのよ、あなた。お似合いじゃない?」
水面がまた揺れる。今度は二人分。
「…………うん。また会ってみる。そこでもっとお話して…それから決めるわ。」
「なら…善は急げ、ね。」
その翌日、私は外出してくだんの喫茶店の前まで来ていた。もちろんジョンも一緒に。彼女は元々休暇の予定だったし、私だって休暇は余りに余ってる。
私はただの付き添いなので外から店を眺めるだけ。黒が基調のモダンな作りで、看板もブラックボードでちょっと地味。でも隠れ家的人気はありそうな個人店だ。
話を聞く限りは…その青年は店主の息子さんか、近所の学生アルバイトとかそんな所だろう。今まさに、その青年らしき若い声とジョンの声が扉から漏れ出ていた。
声は途切れ途切れで、あまり詳しくは聞こえない。でも耳に入ったワードやその声色から、なんとなく会話はわかってしまう。
青年は気弱に謝罪してばかりで、ジョンはちょっと苛立ちを隠せていない。でも、彼女のこの苛立ちは彼が好きだからこそ出てくるものなのだろう。あたしの事はどう思ってるの、とか、あなたが居たからここまで、とか、とにかく「好き」をぶつけている。
そんな喧騒を、他人のふりをしながら聞いていると店の扉が勢いよく開いた。
「もう知らない!あたし、もう来ないから!」
そう宣言する彼女の目には涙が溜まっている。
「待って、待ってよジェーン!」
店員らしき青年の声がはっきりと聞こえた。ジェーン、というのはジョンの女性系の名前。外で使っている偽名だ。
彼は慌てて入口までやってきた。癖っ毛のある茶髪に眼鏡、童顔の文学少年といった出で立ち。ジョンとは正反対のタイプかも。
「何度あなたに言われても、艦娘は辞めないわよ。」
「それはわかってる、でも……危険すぎるよ!今からでも……異動の辞退とか出来ないの?」
「…………いつ死ぬかわからない子と、一緒にはなれない?」
ジョンの鋭い言葉が青年を貫く。彼は何も返せず立ち尽くしていた。
気持ちは…わからないでもない。いち喫茶店で働く彼にとって、艦娘は海の向こうの存在だ。どこで戦いどこで死ぬかもわからない。ジョンが轟沈したとして、彼に与えられるのはせいぜい紙切れ一枚の情報だけで、それすら確実とは言えない。
一歩踏み出してジョンの全てを、最悪の可能性まで引っくるめて抱きしめる勇気よりも、最悪の可能性がもたらす恐怖の方が大きい。最初から手に入れなければ、失う事もない。
「うっ…………………!」
青年の目にも涙が貯まる。ああ、これは散々鏡で見たことがあった。何も出来ない自らを嫌悪する表情だ。ジョンを護ることも出来ず、受け止める事も出来ず、一歩踏み出せない自分なんかが彼女と居ていいのだろうか、という葛藤。
………私も、相手がサムでなかったのなら、こうなったのかもしれない。
「…………意気地なし。」
頬を伝う涙と共に、ジョンはそう呟いた。
そして、他人のふりをしていた私へ向かい歩き出す。
「…………ん?ちょ、ちょっと!」
強引に腕を取られた。引っ張られた片腕はジョンに強く抱きしめられる。
「もういいわよ!あたし、この人と一緒になるから!」
「えっ。」
「えっ!?」
青年は呆気にとられて私を見る。眼の前の人物がどう見ても女性だったからだ。
(じょ、ジョン?別にそこまで言う必要ー)
「アンタみたいな度胸のない男とくっつくぐらいなら、女の方がマシよ!ばーか!弱虫!」
私は何の役をやらされているのだろう。当て馬なのか?
「もう行きましょ!ほらっ!」
「えっ、いいのこれ?えっ?」
そうして腕を引っ張られ、強引に帰路へと就かされる。後ろを振り返ると青年は何故かこちらに頭を下げていた。なんだこれは?私は何を託されたんだ?
何がなんだかわからないまましばらく歩き、角を曲がった所で、弱々しくジョンが泣き始めた。
「ばか……ばかぁ………うぅっ……うあああぁぁぁ………!」
あの場で泣き喚けばいいものを、彼女はここまで我慢した。彼をこれ以上傷つけないために。
私は黙って彼女を抱きしめる。ジョンはずっと、胸の中で泣き続けた。
「………ところで、私はなんでこんな所にいるのかしら?」
私とジョンは、ラブホテルのベッドの上で二人、手を繋いでいた。
「というかジョン、あなたホテル取ってるはずじゃないの?元々休みでしょ?」
「取ってるけど…あなたの分の部屋はないわよ。」
「なら私が追加で取ればいい話じゃない。」
「…………一人にさせないでよ。」
ジョンは頭をぽんと私に預け、胸元へと手を伸ばす。私服の上着を脱ぎ、インナーにも手をかけた。
「……わかった。いくらでも泣いていいわ。忘れさせてあげる。」
そう言いはしたものの、彼女は今日の事を忘れないだろう。昨日の事もだ。そして多分、明日の事も。
でも、それでいいと思う。今日の話を笑い話に出来る強い子だと、私はそう思っている。
だから今だけは、彼女の恋人でいてあげたい。
私はジョンに微笑んで、その唇にキスをした。