北条加蓮さん、枕営業のお客さんをイカせる賭けに勝つ 作:ふりーじ屋/家庭内禁書
原作:アイドルマスター
タグ:R-18 アイドルマスターシンデレラガールズ 北条加蓮 女性上位
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※転載 pixiv、ハーメルンとくるっぷに転載しています。
われわれが、見かけに騙されまいとして物事に慎重になるのは、たいてい利得が少ない場合だけである。
――ラ・ロシュフコー(著)、武藤剛史(訳)『箴言集』道徳的考察302
※
「乱交パーティみたいでそわそわしてしまうんですが」
「だいじょうぶだ、それが楽しくなる……“あの子”らとはともかく、“仲間”と仲良くなれる」
「しながら仕事の話はできませんものね」
“彼”が入っていったそのビルは、駅からそれなりに近く、空に向けてなかなか高かった。都心部にある大規模再開発の1棟らしく思えた。下層階はファッションブランドや菓子店やカフェやドラッグストアがテナントに入っていた。中層階は催事場で、上層階にはオフィスが入っていた。上層階エントランスの案内端末を見ると、某芸能プロダクションとその関連企業がまるごと入居している、と読めた。
「あいつと俺とは……お互いに、オンナを抱いているところを見たり見られたりしている……ってなると、妙な仲間意識が湧くんだよ、同じ部活のしごきに耐えて同じ釜の飯を食ったみたいな」
「部活っていうとハードに聞こえますね」
「見て見られて、ってセックスって……気持ちいいだけじゃなく、どこか勝負や試練じみた気分になってしまうんだ……いや、それは、あの子のせいか……?」
その日の彼は、二周り近く年上だが懇意にしている某社重役から“乱交パーティみたい”な秘密の会合に誘われていた。
といっても2人がビル2階のカフェで落ち合ってからしばらく色気のない風景が続いた。エレベーターで上層階エントランスまで昇って、あらかじめ配られたQRコードをゲートに読ませてさらに上層階用のエレベーターへ……という流れは、ふつうの商談をしに某芸能プロダクションへと向かうまでと大差なかった。
エレベーターが目的のフロアにたどり着いた。
「僕らは、こっち」
“僕ら”ではない客が使う出入り口と同じ、つや消しアルミを全面に張った自動ドアだった。配置も動線から近かった。彼はかつて仕事で出入りした某政令市の市役所を思い出した。そこも複合ビルの上層階に入っているが、市議会議員だけが使える出入り口があった。
「ところで君は、乱交パーティに参加したことがあるのかな」
「海外のクラブで、何回か」
「そこだと会話はセックス関係だけ、がルールなんだっけ」
「それは場所や時間によりますね」
「いまから始まるイベントも、セックス以外の会話をしちゃいけない……わけじゃないんだが」
「不文律ですか」
5人ぐらいならぎりぎり並んで歩けそうな幅の通路を進む。やがて角にクロークのある丁字路に突き当たり、重役がひと声かけてから左折する。防音扉を2つ抜ける。天井がふつうのオフィスの2~3階ぶんぐらいに高く、やたらにだだっ広いホールのような部屋に出る。
「……乱交というには、明るい部屋ですね……まぶしい」
「アイドルは、明るい場所でいちばんきれいに見えるから、らしい」
その部屋は、羽板をタテに並べたルーバーのようなパーティションで、半ば区切られているような、ほとんど区切られていないような、境目のあいまいなブースがざっと20コマほど、散らばっているような、並んでいるような、これまたあいまいに配置されていた。
ブースの中はそれぞれ某芸能プロダクション所属のアイドルが立っていたり座って“客”と談笑していたり、軽い飲食をしていたり、ソファをベッド代わりにセックスらしきことをしていたり、全体としててんでバラバラな印象だった。あるブースではサイネージでライブ映像を映しながらアイドルが小物を手売りしていて、彼はこの場を商談会かどこかと勘違いしかけた。
高天井から降り注ぐやたらな明るさと、それをピカピカ反射する滑らかな黒い床だけが、かろうじてこの部屋を一つの空間として認識させてくれた。
「はぁ……多いですね、アイドル」
彼が重役とともに歩きながらブースを窺う限り、客1人に対してアイドルが2人か3人で応対している、というブースがいちばん多かった。どこのブースにも入らず休憩中らしき客はごく数人だった。全体としては客1人に対しアイドル2人よりやや多い、と計算した。
「一度にお迎えする“客”の人数をしぼってるんだと」
「……あんまり多いと“仲間”って気分が出ませんものね」
「それもある」
「ほかにも?」
「“客”が一堂に会すると、俺たちが支えてやってるって雰囲気になって、接待する側がやりにくい」
「あぁ、あなた自分の会社だと接待する側のときもありましたね」
彼はムラムラした性欲とふわふわした物見遊山が入り混じった気分で、強いてゆっくり呼吸し歩くようにしていた。重役から……アイドルとセックスし放題の会合がある、ただし見て見られてだが……とほのめかされて食いつく程度に彼は性欲やセックスに自信があった。
この場にいて、性的な興奮を催してはいた。このビルの数百倍のキャパシティがあるアリーナを単独ライブで埋め尽くすオンナがイラマチオでえずかされていたり、ネットでもリアルでも広告で見ない日がないほどの顔のオンナが汗だくになりながら騎乗位で奉仕していたり、著名な映画賞を受賞してニュースを騒がせたオンナがオナニーを演じさせられていたり、さまざまなアイドル――アイドルとは何でも屋なのか、とさえ思った――が性的にむさぼられている光景を見るだけでもペニスが勃起した。
いっぽうで、それらがある種の見世物かアトラクションのように見えた。自分がそれに参加するイメージが湧いてこなかった。奉仕するアイドルも奉仕される客も、この妙な会合の雰囲気をつとめて作り上げようとしている点では同列だった。それに外から参加するのは、確かにどこか試練じみて感じられた。
最後のブースをのぞきかけて、彼と重役は初めて声をかけられた。
「あら、はじめて?」
最後のブースは、大きなソファが間口に背を向けるように据えられていた。その背もたれ越しに1人ぶんの頭がにょっきり姿を表し、首を半ば振り向かせていた。明るい茶色のセミロング、左目あたりの額でさっくり分けられた前髪、目頭から挑戦的に跳ね上がって目尻に向かってゆるゆる下がるアイライン――北条加蓮、と彼は名前をくちびるだけでつぶやいた――吸い寄せられるようにブースのあいまいな境目をまたいだ。
北条加蓮はにやにや笑っていた。彼が知っている――彼がきょうこのビルの最寄り駅に行くまでのあいだ、いくつもの駅で8×3メートルのセットボードの中に化粧品の広告モデルとして澄まし顔を掲げていた――姿より年若く見える。白くふわふわしたカーディガンを羽織っているが、それがあまりにオーバーサイズで加蓮が手を振ると余った袖がぺらぺら揺れているし、裾が腰や尻まで覆ってミニワンピースのようになっている。裾から色白のむっちりした太ももがいきなり伸びている。
それぐらい着込まないと肌寒いほどあられもない恰好なのだろう、と彼は納得する。
彼が納得できたのはそこまでだった。
「奈緒、奈緒ーっ、出番だよー」
「……え?」
加蓮と同じソファで、やはり某プロダクション有数の人気アイドル・神谷奈緒が腰掛けていた。彼は、さきほど数個ぶん離れた別のブースでアナルバイブを抜き差しされ汗とよだれと涙にまみれ濁った嬌声を振りまいていた渋谷凛を思い出し――加蓮、奈緒、凛と女子高生アイドルが3人揃えばトライアドプリムスだ、と意識が流れ――落差にめまいを覚えた。
奈緒は、オーバーサイズの白いカーディガンとむっちりした太ももが加蓮と似ていた。しかしイヤホンを耳に突っ込んでブースの奥に視線を注いでいて、加蓮に頬をつつかれるまで何も気づいていないようだった。
彼が奥を見ると、目測で80インチ前後の液晶モニターがスタンドで設置され、数年前に放映されていた日曜朝のアニメを映していた。スピーカーが無音で、どうやら奈緒だけがイヤホンで主音声を聞いているらしかった。モニターとソファのあいだのテーブルに気の抜けた炭酸飲料入りグラスが2つ、平皿が1枚あった。平皿に食べられて半分ほど欠けたホットスナックの盛り付けが気だるげに残されていた。
このブースだけ自宅の休日のように雰囲気がのんびりしていて、彼はギャップに言葉を失ったままだった。
「加蓮ちゃんご明察、彼は初めてだよ」
「……ぅわーっ!? こんなとこ見られちゃった……!」
「奈緒~、用意しておいて~、アタシが説明しとくから~」
神谷奈緒がイヤホンを引っこ抜いてソファからぴょんと跳ね起きて、グラスや平皿をブースの端に片付けたり、タブレット端末をぺたぺた操作したり、やにわに動き始めた。彼は黒い鏡のようなフロアごしに奈緒の太ももの付け根あたりをのぞいたおかげで“会話はセックス関係だけ”という不文律をなんとか思い出せた。
「初めてならアタシのところだよね♥」
「……決まりがあるんですか?」
「まぁ、その……だいじょうぶかな」
何が“だいじょうぶかな”ですか、と突っ込みかけ、彼は無理やり笑って抑えた。
「何がだいじょうぶじゃないの~?」
彼の内側を読み取ったように、加蓮がソファからゆったりと腰を上げて、するすると白いカーディガンを脱いだ。下に着ていたのはマリンブルーと白のセーラー服……の断片のような衣装だった。青地に白のラインが入って肩まで覆う独特の襟と胸元に垂れるスカーフと、加蓮のこんもりふくらんだバストを覆う白い身頃までがセーラー服らしかった。あとは、袖がばっさり省かれ加蓮の腋下までさらしていたり、アンダーバストから鼠径部まで素肌とくびれとを誇示していたり、太ももにようやく届くかどうかの丈でプリーツスカートと呼べるか疑わしいボトムスが太ももを誇示していたり、つまりセーラー服らしくない露出過多だった。
さきほどの奈緒とおそろいであるなら、プリーツスカート(?)の下はそのまま秘所をさらしているはずだ、と彼は想像してしまう。
「あとね、アタシのところは特別にあるの……決まりっていうか、ルール」
「……初めての来場者限定、とかですか」
「んー、そういうつもりではないんだけど」
加蓮が彼の目前に立ってもったいをつけながら腕を組む。バストがこんもり押し上げられ、セーラーもどきのトップスがきりきり張り詰めてはち切れるのが心配になる。
それ以外も、重役でなくとも“だいじょうぶかな”とつぶやきたくなるシチュエーションだった。
加蓮に失礼にならないよう気をつけながら、ブースをあらためて観察する。体液を始末したあとも残り香も欠如している。このブースに閑古鳥が鳴いていたかと疑うが、すぐ捨てる。ここにいるアイドルの顔ぶれがいかに選りすぐりとしても、容姿、知名度からして北条加蓮、神谷奈緒に御座敷がかからないとは異様である……“初めて”がこの場に彼だけで、“初めて”が条件である、と考えればつじつまは合う。
「ルールを説明しま~す……そんなまじめに聞かなくていいよ~、カンタンだから」
「あの北条加蓮さんを間近で見て、しかも話すなんて初めてで、緊張してまして」
「やんお上手♥ そっか、最近は……握手会とかそうそうできなくなっちゃったし、ねぇ」
「いまの加蓮ちゃんが握手会なんて開いたら、一人あたり3秒でも何日かかるのやら」
北条加蓮はアイラインを筆頭に、涼やかな印象を与えるクール系の美人である。ただ色が白く――まだ“片付け”でぱたぱた動いている奈緒と比べるといっそう――儚げな雰囲気もまとっている。儚げな雰囲気はデコルテまで広がっていて、バストで急に消し飛ぶ。乳房が、果樹園でしっかり雨風虫鳥から守られ思い切り栄養を与えられ丁寧に収穫され念入りに選りすぐられた桃のように瑞々しく甘ったるい。しかし桃というにはゆさゆさ柔らかく着衣からにじみ出るほど熱っぽく、いささか大きすぎる。
そのバストで彼の視界から遮られているが、アンダーバストやウエストはアシナガバチのように――彼は女王蜂への連想を禁じ得なかった――細くくびれている。うっすら浮いたり濃く浮いたりする肋骨が、バストへ栄養を渡している根であるかのように続いている。
ヒップのふくらみはバストより緩やかながら、加蓮が足や腰をさりげなく動かすと、柔らかな脂肪の内側に骨や筋肉がみちみち詰まっていると見て取らせる。さきほどむっちりと感じられた太ももも、このヒップと比べるとスラリと細く長い。
一時期は事務所の稼ぎ頭として《シンデレラガール》に位し、いまもその座を争っているオンナである。その支持には、情欲だけでなく羨望や崇拝の眼差しも多いという。
「アタシが30分のあいだ、手コキとかフェラとかパイズリとかであなたを射精させようといじわるします♥」
「いじわる……?」
「勝負だよ……1回射精したらあなたの勝ち、それ以外は負け」
それだけでは見惚れるだけで近づきがたいのだが、近くで“にやにや”笑っていたり、鼻歌のように軽やかな声音でルールを説明してもらったりしていると、だんだん緊張がゆるんでいく。握手会でブースに立っていたころの加蓮もそうやって緊張をほぐしていたかもしれない、と思いを馳せる。
「勝ったら?」
「勝った瞬間から1日、加蓮ちゃんと別室で、二人きりで、加蓮ちゃんがなんでも言うこと聞いてあげます♥ 楽しみでしょう?」
「……負けたら」
「罰金ね」
「ぁあ、よかった、出禁にはならないんだ」
「うわぁっキツい冗談を~!」
彼は考えるより先に強がっていた。出禁未満の罰などなんでもない、というポーズを言葉でも態度でも加蓮に示した。
「……射精1回でこっちの勝ち、ですか?」
「そうしないと成り立たなくってさ」
「何が成り立たないんですか」
「加蓮ちゃんが勝つかどうか賭けになってる」
「えっ」
横から重役のささやきを聞かされ、彼のポーズが早くも崩れた。
「射精1回だと加蓮ちゃんが勝ちすぎて、みんな負かされるうちに……僕も完膚なきまでに……仲間で誰が最初に勝つかって話題になって、それが賭けになって、でも1回だと賭けにならないのをみんなわかりきってる」
「そのうち、ほかじゃ勃起や射精できない人が来て……アタシお医者さんじゃないんですけど~! ってことで1回は射精してね、ってルールに」
「加蓮が負けちゃったらここあたしがサービスすることになってるんだけど……つい、気が抜けて、すみません」
奈緒が本当にすまなそうな表情でぺこりと頭を下げた。すぐ隣のブースで嬌声や悲鳴が流れていていつ自分もそうなるか……という状況でアニメ鑑賞に興じていたくせに、それを客に見られてきまり悪がる認識はあるらしかった。神経が太いのか、よほど加蓮が負けなしなのか。
「奈緒はほかにも仕事あるでしょ」
「そうなんですか?」
「……審判を」
「それとカメラさん、音声さん、実況さん」
「へたっぴなんだけど、あたし……」
「へたっぴなところがみんなから大人気」
「なんだよそれ……だいたい一人四役っておかしいだろ~!」
彼は奈緒の嘆きに心底共感した。
いくら極上のオンナとセックスできるからといって……それが賭けの対象で、カメラ、音声、実況つきということはリアルタイムで観戦され……勝利条件が奉仕30分に射精1回だけ……奇妙な条件ばかりを前に混乱し、勝算がほとんど当てずっぽうになる。
「お兄さん初めてだから罰金10万円まで負けてあげるよ」
「あれ、僕の初めてはひゃく――」
「――かんべんしてやってください、この閑古鳥なんで」
彼は加蓮との勝負に乗る、と宣言した。罰金も100万円でよいと付け加えた。
「かっこいいね~! その調子で、みんなの前でアタシに勝ってみせて♥」
彼は言い訳を――どうせ加蓮とセックスするなら別室でゆっくり堪能したい――ふだんなら気後れする極上のオンナだが、ほかの男やアイドルに勝利を見せつけたあとならいい気分で楽しめそうだ――重役が100万で自分が10万では勝っても負けても後々しこりが残って本業に差し障る――いくつか思いついていた。
「じゃあ奈緒、あーんってして♥」
「……はいはい」
奈緒がいかにも投げやりな顔と手付きで、冷めたフライドポテトを3本つまんで加蓮にくわえさせた。加蓮がエサをもらったペットのように、手も使わずもしゃもしゃと食べてしまった。それが奇妙な勝負の奇妙な験担ぎらしかった。
※
「加蓮が細かいこと説明し忘れたんですけど」
「はい」
「経過時間に合わせてこのベルをチーンと鳴らします」
「そうだね、加蓮ちゃんを前にして時計なんか見てられないから」
「気をつけてくださいね……9分経ったら1回、18分で2回、27分で3回、30分で4回です。4回鳴ったときが終わりです」
彼は“紛らわしいな”と奈緒の説明を混ぜっ返しかけ、遠慮した。オーバーサイズの白いカーディガンを脱いで加蓮と揃いのセーラー服もどきの衣装になっていた奈緒が、まだタブレット端末をぱたぱた忙しげに操作していた。視線を感じてか、奈緒が端末の表示をさっと隠した。
奈緒は自分の肌や肉体はぜんぜん隠さなかった。加蓮に劣らぬスタイルだが、甲斐甲斐しく動いていたり肌の色が濃かったりロングヘアがふわふわウェーブしていたり、目鼻立ちがやや丸っこかったりで、加蓮がアシナガバチなら奈緒はミツバチといった趣だった。
「もうそろそろ張るの締め切りますので」
「“張る”って、賭け金の話?」
「そうですね」
「早くない? 僕さっき勝負するって言ったばかりで」
「賭けるのは……この場にいる人だけですし、お客さんもあたしもスマホでちょっとやるだけですし」
奈緒が回答に置いた間を変に解釈するな、と彼は自分に言い聞かせた。アイドル・神谷奈緒も加蓮に比肩する魅力を持つアイドルであるが、いま彼に迫っているオンナは加蓮である。
「あたしがたいへんなの、こっからですよ」
「……本当に、これみんなに見せるんだね」
「あたしの目だけだと加蓮がズルするんで」
奈緒は棒付き小型カメラを握っている。ヘッドセットを装着する。審判、カメラ、マイク、実況のうえタイムキーパー担当となれば“へたっぴ”もなにもあったものではない、と密かに呆れる。北条加蓮の撮影へ使うにしては安っぽく、悪い冗談に引っかけられている気分がぶり返す。
「奈緒ばっかり相手してないでよ~っ」
「こら、お客さんを急かすんじゃないよ」
「あやしいな~っ、お兄さんに買収されてるんでしょ~」
加蓮に返事しようとした瞬間、ブースの中で片付けられないまま鎮座していた液晶テレビにいきなり加蓮と自分と奈緒の姿が映し出され、開けた口が驚いて開きっぱなしになってしまう。
「失礼しますよ」
「あっ、うん」
奈緒が彼のスラックスをさわさわ撫でてベルトをかちゃかちゃ緩める。このまま脱がされるのか、と思うが緩めただけで止まる。
「オーケーです、どうぞ」
「……それ、映すためだったんだ」
「ええ、映り具合を見るとき……あたしと加蓮のヒマつぶし……にも、使ってますけどね」
加蓮と並んでふかふかのソファに座らされる――さっきまで炭酸飲料とホットスナックが並んでいたテーブル、家庭用としては大きな液晶テレビ、安直に見えるカメラ、ぱたぱた動く奈緒――安っぽい雰囲気のほうが初めての客に馴染みやすいのだろう、となんとか状況を納得しようとする。
「じゃあ始まりまでカウントしますよ~、ごー、よん……」
3からゼロまでだけ口に出さないで数えるようすだけプロらしいと思いながら、男は横に座る加蓮に目を向けた。
「はいお兄さんにもポテト、温め直しだけど。あ~ん♥」
勝負が始まっていきなり、温かいがちょっと湿気たフライドポテトを1本くわえさせられた。塩気がややきつく飲み物もほしくなった。
「最初っからおちんちんいじるなんて、慌ただしいよ~……してほしいなら、してあげるけどっ」
「緊張したままだと1発出せなくて負け、ってパターンありそうですもんね」
「丁寧語じゃなくていいよ~」
「ゼロで負けるのは悔しすぎるかと思う」
「テニスならゼロはラブゲームなんだけどね」
「……英語のloveは、タダでしてあげる、って意味もあったらしいよ」
「ホントに~?」
加蓮が彼の隣で座ったまま大きくのびをする。肩を広げて、セーラー服もどきできゅうくつそうにしているバストをぐっと押し出し彼に見せつける。
「優しくしてくれるんなら……触ってもいいよ~」
「あのさ、加蓮が奉仕するってルールじゃ……それじゃあ……」
「お兄さんがいいならいいよね~♥」
薄布1枚ごしに加蓮のバストに触れる。ほんのり火照っている――「やんっ♥ 優しくとは言ったけど、優しすぎかも~」――彼は考える、加蓮はセックスアピールを売り込む商売の手前、まさか射精ゼロ回で勝とうとはしないはず――「直に触ってもいいよ、脱がせるか脱がせないかは、お任せしちゃうっ」――まだ考えている、ルール通りなら残り数分で1回目を射精すれば勝ちはほとんど確定――「おっぱいだけじゃなくても、例えば……」――考えのなかに、加蓮のささやきが混じって霞む。
「はうぅ、んぷっ……ちゅっ、ちゅう……あはっ、きす、しちゃったっ……れぅ、はむ……んくっ……♥」
「うわ、ぁ、その、あの……え、えぇと、キス……ふれんち、ぐらいかな……?」
片手で胸をもみながら、残りで肩を抱き寄せキスする。くちびるをむさぼる。甘ったるい加蓮の匂いに塩辛いフライドポテトの残り香が混じっている。ほかの客が見ている――しかも金を賭けているのだから、それなりに真剣に――そのなかで加蓮を独り占めできている、という欲望が満たされる。
「れぅ、んぐっ、こく……はふ、む、んくっ……あは、情熱的……もし負かされちゃったら、一日中こんなにされて、アタシおかしくされちゃうのかな……?」
そう言いつつ、彼の視界のぎりぎりで加蓮が手をひらひらさせる。それから両手を使って棒状のものをいじる素振りを見せる。と思いきや彼の鼻先にかぷりと噛みつく。
「どっちでも構わないよ」
ベルが1回チーンと鳴って、彼は奈緒たちとルールの存在を思い出す。危ない、しかし10分も経たないうちにルールを忘れさせてしまえるなら、加蓮が勝ち続けるわけだ……と気を引き締める。
「ふふっ、もう大きくなってるけど……まだ気持ちよくなってないよね?」
スラックスと下着ごしに浮き上がったペニスのシルエットのうち最先端部を、加蓮が指先でちょいと軽くつまんでくる。同時に舌先でチロチロとくちびるから見え隠れさせる。ポテトの残り香が不思議と消え失せて、加蓮の甘ったるい匂いばかりになる。
「フェラもそれなりに得意なんだけど」
「自信たっぷりだね」
「準備運動から行こうね、いきなりだとおちんちんびっくりしちゃうから」
加蓮に“準備運動”と言われた瞬間、彼は入場前に重役に聞かされた“部活”を思い出させられた。加蓮までそんなことを、と失笑してしまう。
「あーっ、笑ったなー! 奈緒ーっ、アタシ抗議するよっ、スポーツマンシップにもとる態度だったっ」
「そんなルールないよ……そもそもスポーツじゃないよ」
「バカにしたつもりはないから、気を悪くしないでほしいな」
加蓮がスラックスのファスナーをジリジリと引き下げていく。下げながら別の指でペニスを外へ誘導して、下着ごしの亀頭と竿だけ外へ出す形になる。
「パンツ、先走りで濡れちゃっても良い?」
「構わないよ」
「オトコのヒトのパンツ我慢汁でぐしゃぐしゃにしちゃうのスキなんだ~」
スラックスのファスナーを下ろしたが下着の合わせ目を開かないまま、という姿勢で彼は意外なほど浮つくのを感じる。性行為でもトイレでもさっさと下着を脱いでペニスを露出させるのに、加蓮はそうさせない――「別に、直にでもいいけど~?」――思いのままにされている感覚がソファとくっついた背筋をうろついている。
下着越しで薄められた指の刺激だが、加蓮から――「アタシは優しくしてもらうのがスキ♥ だけど……あなたはどういう好みかな?」――甘ったるい匂いと声を至近距離で流しこまれ――「布の上から、指先で、亀頭をすりすり……ぐにぐに、ってほうがいい?」――勃起が増して、先走りがあふれ――「え、ええと……先走りで、ちょっとだけ濡れてきたみたいです」「奈緒、もっと煽って煽って♥」――加蓮の指関節がネコの手のように曲がり、執拗にかりかりともてあそんでくる。
「お兄さん、このぐらいが気持ちいい?」
「うん、うっかり出しちゃいそう」
「ウソつけ~♥」
加蓮が急に、彼の耳にキスする勢いで顔を近づける。
「アタシにウソなんか通じないよ」
ペニスどころか後頭部から足先までぞくり、とさせられる。
「加蓮ー?」
「……なぁに?」
「言葉責めは反則じゃないか?」
「えっちな会話がダメなら最初の時点で止めなきゃ」
「……うっ」
奈緒は無言のままベルを2回鳴らした。18分経過――もう折り返してから3分経っている――まさか加蓮は射精ゼロ回で勝つつもりか?――「かりかりっ♥ くにくに♥ つつ~っ♥ って……もうおまんこに入れられそう? それとももっと固くなる?」――べっとりシミがついた下着を開かれ、ついにペニスを露出させられる。
「……ふひっ♥ あ、輝子ちゃんみたいな反応しちゃった」
「おい、輝子がかわいそうだろ」
彼のペニスは、加蓮の片手が握るのにちょうどよい太さで、加蓮の両手を合わせればおおむねカバーできる長さに勃起している。
「うわっ、あっつ~い! 興奮してますねぇ?」
「そ、そりゃあ、血が流れ込んでるから」
「それにちょうどいい大きさっ♥ オンナノコはこれぐらいがスキなんだよね奈緒~?」
「し、審判を巻き込むんじゃないっ」
「奈緒は剣道ってしたことある?」
「……体育でちょっとだけ。加蓮は?」
「あるわけないじゃん」
「おい」
「剣道の竹刀にはサイズがいろいろあるの」
「いきなりどうした」
「長すぎたり太すぎたり竹刀は扱いにくいらしいよ」
「まぁ、シロウトにも想像できる」
「だからこれより大きいのはダメ、これがちょうどいい」
カリ首の裏筋側を、絶妙に物足りない、しかし歯を食いしばっても声を殺しきれない具合で撫でられる。奈緒がすぐ近くにマイク付きカメラを構えている。こんな声を拾われてしまった、と思うと羞恥が快楽に絡まってじわじわ広がる。
「巨根は、大きすぎる竹刀と同じ。扱いにくいの。ハンデなの」
「……ドラゴンころしを思い浮かべちゃった」
「おっきいからやりやすいわけでもない。パイズリだってそうでしょ」
「はぁ」
「そのくせ巨根は自信過剰が多い。つまりセックス下手が多い」
「……まぁ」
「ということで巨根は偉そうにするな。恥じるぐらいでちょうどいい」
「お客さんのちんぽをほめるとき他人のちんぽをけなすな」
「はぁ~い」
“はぁ~い”の余韻が消えぬ間に、加蓮は彼に不意打ちを食らわす。
「……手と、舌と、おっぱいと、いちばん扱いやすいのは、どれでしょう?」
加蓮は彼の両ヒザのあいだに割りこんで正面から向き合い、両手で亀頭を包む。
「おててだけだからって油断しちゃってたの? そんなんでだいじょうぶかな~」
加蓮の手コキがペニスに襲いかかる。竿も手足もびくんとさせた彼を見て、加蓮は挑発的に空をなめて見せる。彼は自分に言い聞かせる――まだ射精はゼロ回だ、1発出せばこのオンナを独り占めに――裏筋をくすぐられて自戒が白飛びする。
「なめちゃだめだぞ~……例えば、フェラと手コキはいっしょに……あ、奈緒ー?」
「また剣道とか言うんじゃないだろうな」
「タマタマへの刺激はオーケー?」
「はいはいオーケーですよ」
ルールと同じぐらい、彼の快楽中枢が加蓮に良いように変えられていく。手コキだけでどんどん絶頂、射精へといざなわれていく。ペニスばかりでなく“タマタマ”と加蓮に聞かされただけで睾丸がうずく。ペニスがもてあそばれ射精へとひた走る。睾丸が自分の体温でぐつぐつ煮られている。早く精液を吐き出したい。加蓮の繊細な手コキに荒々しく反応してしまう。
「お兄さん、こっち見て」
彼は言葉も出せず首と視線だけ加蓮に引っぱられる。上目遣いの加蓮と、その両手がにちにち我慢汁の白い泡で磨くように愛撫されているペニスを見てしまう。
ベルが3回鳴る。
「ほら、かわいいっ♥」
腰から否応なく突き上げる彼の衝動を透視しているように、加蓮は射精の瞬間にぱっくりと亀頭をくわえ、激しい射精を口中で受け止める。
その表情は、若さと美貌を併せ持つ人間がときどき見せる、不遜なほど艶やかな澄まし顔だった。
「で、終わるわけないでしょっ」
射精直後の亀頭を、舌先と片手の指でぬるぬる撫でられる。残りの手が根本や睾丸をさする。同じような刺激でもいっそう敏感になって彼の神経を襲う。敏感さにつられるように、勃起の勢いが射精を経てさらに高まっている。それを疑問に思えないほど、彼は余裕を失っていた。
「じっくり準備運動してくれてるし、お兄さんなら連発できるよ~♥ というか、するしかないっ」
「あの……お客さん、あと3分弱、あと少しで……」
「みんなも覚えておいて~、セックスはアソコに触れ合う前から始まってるんだよ~、アイドルが得意なのは触れ合う前のセックスなんだよ~」
「それはさすがに言いすぎだろ……」
数えられない観客の視線とともに手玉にとられている、という感覚がとどめだった。精液を抑えようとしてもどうしようもなく湧き上がった。逃げ場を求めて暴れるペニスの竿を、加蓮がぎゅうとつかんで、竿を反らしながらしごいた。
しぼりだされるまま精液が飛んで、彼の胸や腹を汚していった。
「はい2回目~、惜しかったね、お兄さんっ♥」
彼は重役と奈緒に肩を借りるまで、ソファから立ち上がれなかった。
※
「もうからなかったよ」
「はぁ」
「だいじょうぶだ、負けもしなかった……加蓮ちゃんの勝ちに賭けて、元返し」
「はぁ」
「次は100万円じゃ済ませてもらえないな」
「はぁ」
「……だいじょうぶかな」
(おしまい)