夜通し泣き続けて。
疼く体もいつの間にか静かになっていて、俺も眠ってしまっていた。
次に俺が起きた時、気絶に近い状態だったのか起きるのがはやくまだ夜明けの時間だった。
未だに強い痛みを放つ両肩に軋む身体。
そして俺の腕の中で眠るように死んでいるセナの亡骸。
傷はなかった、だが手に着いた血痕があの夜セナが自害したことの証明のようで枯れたと思っていた涙がまだ出てくる。
俺を助け出した人。
鮮烈に、記憶に刻み込まれた人。
噛み締めるように、柔らかく綺麗な髪の毛を撫でながら抱きしめる。
人間性の砦だった俺の純潔のために自害した人。
俺が殺し、俺を弄び、俺を守った。
正に自業自得。
殺したことで悪魔が出てきて、俺はこんなことになって。
朝日に照らされて手の中の屍体が浮かび上がる。
綺麗な黒髪に、綺麗なまつ毛。
瞼を撫でれば、俺の親指の固まった血糊がポロポロと落ちていく。
そこで、不思議に思った。
暖かい。
これは、明らかに人肌の…
「…アシェンプテル。苦しい」
…しゃべった?
死体…じゃないッ?!
「生きてッいったいっ!肩ァッ!!」
慌ててセナを解放すると身体が悲鳴をあげた。
そうだ。そもそも最初にこいつを殺したのは俺だった。
人間とは思えない再生を見せてくれたじゃないか。
なぜ死んだと思ってたんだ!!
はっずかしいっ!!
「…おい」
「…生きてたんだ…」
「……すま「よかった…!」
?
セナがなにか言いかけていたが、俺がかぶせてしまったらしい。
いや、そんなことよりも。
生きていて本当に良かった。
…セナはベッドに腰かけ、こちらを見ながら呆然としている。
ちょっと珍しい
1回殺したけど。
「っつぅ……」
肩の痛みが引かない。
見れば青黒く変色している。
左肩はサッカーボールみたいに蹴られて荒療治。
右肩に至っては1回殴られたあと、無理やり嵌められた。
グラッ○ラーじゃあるまいし。
夜明けの光が俺とセナを照らす。
かたや血糊で彩られたズボンを履いた傷一つ無い体の偉丈夫。
かたや血糊と体液と青アザで汚れた奴隷の少女。
歓喜に震えた心は、感じた恐怖など気にすることなく。
ただ目の前にある朝日に照らされた男を見ていた。
◇ ◇ ◇
曰く、ダタールの悪魔。
殺しても死なない魔王であると。
前線に出る王として、殺しても生き返る悪魔として語り継がれる魔王なのだ。
月が頭上で輝く刻限に殺そうとすぐに起き上がり、悪魔の如き哄笑と共に敵を屠り、数多の犠牲をつみあげ脳天に斧を叩き込もうと朝日と共に起き上がる。
決まってダタールは月が輝く時を狙って開戦するのだ。
そして異形とかした魔族は一人で十人の敵兵を屠る。
朝日の登る刻限に襲撃しようと、守勢に入った魔族は巧みに国を守り、両国共に疲弊する結果になる。
であるからダタール魔笛国は恐れられているのだ。
◇ ◇ ◇
どうやらセナは夜に殺されれば魔王として復活し、魔王が殺されても朝日と共にセナとして蘇るらしい。
セナが語った事だ。
トラウマもあるだろうからと、俺は心の傷を癒すことに従事することになった。
しばらく休め、と氷のような表情でセナは俺に言った。
あの後、魔王は何らかの魔法を使って俺の肩を癒したあとスペシアを呼び俺を部屋に帰らせた。
初夜が失敗したと悟ったスペシアさんは何も言わずに俺を丁重に扱ってくれ、心に少しだけだが余裕が出来た。
だから俺はダタール、ないしは魔王について勉強することにした。
ダタールは魔族集合国家だ。
この世界において魔族とは、魔力で変異した獣、いわゆる魔獣と呼ばれるもの達の身体的特徴を持った人間のことを言う。
なぜそのような種族が生まれたのか、諸説あるがいちばん有力なのはプラスタリア古王国を滅ぼした侵略者が魔獣を殲滅したあとその場所に国を構えたことに遠因があるらしい。
様々な魔獣が屍体を晒し、魔力溜りを作ったことが作用し次世代の子どもたちにそのような特徴が現れたのだという。
未開拓であったり、このような事象を解明していたり、チグハグな印象を受ける。
1本角を持つスペシアさんは自分の潜伏魔獣因子はユニコーンであることを教えてくれた。
潜伏魔獣因子は影響を受けた魔力溜りごとに異なる。
授かった因子でどの部族かが変わり、そして因子は血筋よりも強固な絆になるのだとか。
ダタールは魔力溜りが薄れないように定期的に魔獣を狩っているということも教えてくれた。
この戦争を勝ち抜くために手段を選んでいないことが見て取れた。
夜の戦では常勝無敗、朝の戦でも堅牢な砦や城壁で迎え撃たれる。
歴史の上では他の三国を相手取った勇者大戦をも生き抜いた最強の国であると言われている。
そんな最強の国も力をつけた三国と戦って疲弊を強いられた。
それが現状。
大陸を疲弊させた原因だったのだ。
改めてとんでもない世界に転生したものである。
ただ日常を流していただけでこのような仕打ち。
恨まれるようなことをしたのだろうか。
力をつけた三国に元から強かったダタール。
互いに付けた力を削り合い、狭い世界で睨み合っている。
明日が見えないというのはこの状況のことを言うのだろう。
奴隷に見れるような明日など国の指導者としてはどうでも良いのだろうが。
「アッシュ」
「スペシアさん?どうしたんです?」
歴史書の読み込みを一区切りさせ、この国にどのような魔力溜り、部族がいるのかを調べていたらセナの側近、希少な魔族で固められた十騎士の一人であるらしいスペシアさんが声をかけてきた。
十騎士についてはまだ読めていない。
希少な魔族、というところで気になって調べようとしていたのだが…?
「魔王の指示で明日から十騎士が貴女の護衛と案内をすることになった」
「え?十騎士ってそんなに軽く扱っていいんですか?」
「目立った紛争は起きていないからな。それに軽い扱いでは無いぞ?貴女はこの国の未来と言っていいのだから」
「…うーん。嘆くべきか、喜ぶべきか…」
「ふふ。暫くは休養なのだ。ちょっとした旅行と思えばいいさ。それに、希少な部族の街を回る予定なんだからな」
スペシアさんは俺の手の中にある種族目録に目を向けながら、そう言った。
確かに…セナ直々に休養をくれたのだから有効に使いたい…かも。
「そ、それは気になる」
気づけば口を動かしていた。
スペシアさんは俺を見ながら微笑んでいた。
なんというか、平和だった。
if
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ある方が良い
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ない方が良い