だけど。
俺が入れられた馬車は上等なものではあるものの、中に入れられた無骨な檻の占有率が高くいい印象は持たなかった。
俺がもしも真っ当な転生をして、農民から勇者として成り上がり国の王から召し上げられこのような馬車に乗れたのなら年相応に喜べたのかもしれないが。
魔力を阻害する手錠は支障なく動作し俺を囲むものは冷たい鋼の檻。
俺の力は及ばない。
力もない、足は動かない。
俺はこの世界に来た意味を見いだせないでいた。
◆ ◆◆
「まずは、君が生きて帰ったことを祝おうでは無いか」
私は同居人を置いて逃げたあと、麓の村につき装備を整え、そこから大きい街へと逃げ延び星王国に帰ってくることが出来た。
私、カナリアは彼女には言っていなかったがこの国の公爵家の人間だ。
カナリア・フェレト・セメトナス。それが本当の名前。
師団に入り貴族の身分は返上しているものの何時でも貴族になることが出来る状況であり、私は貴族に戻りやりたいことがあった。
隊長は私が戻ったことを喜んでくれた。
家族のような部隊で実際、私も彼の事を第二の父親のように思っている。
だから私のやりたいことを、正直に言うことにした。
「先日、私が逃げ出した奴隷商館。そこで一緒になった同居人を助け出したいです」
「焦るな。既に上層部に報告し商館へ行軍する準備を整えている」
「…それでは、遅いのです」
「ああ…売国奴どもは撤退してしまうだろうがそれを見越した捜索網の展開、国内の奴隷商館の洗い出しなどの案も出ている…心配か?」
「…それが、これは報告していないのですが、同居人がなんというか、特殊で」
「特殊?」
「……古王国の王族と同じ魔法属性を所持していたのです」
「『光輝魔法』のことか?!?!」
古王国とは、この大陸を支配していた国のことだ。
古代魔法を用いて支配していた彼らだったが外海からの侵略者により滅ぼされ今のように4つの国に分裂した。
そしてその古代魔法の1つが『光輝魔法』であり、『祝福』も古代魔法に数えられるものだ。
人並外れた身体能力であったり感覚能力を人間に与えるら『上位存在から齎される魔力現象』が祝福であり、この祝福を持つ人間というだけでその人間の血筋がわかるのだ。
ただ祝福はどの国の王族でも持っているもので、それだけでは古王国の人間とは言えない。
だが、祝福をもち、さらに光輝魔法を扱うとなるとわけが違ってくる。
光輝魔法は古代魔法の1種であり、古代魔法自体今の人類では扱えないロストテクノロジーなのだが、光輝魔法はその中でも一等に珍しい最強の魔法なのだ。
戦闘系にも支援系にも化ける最強の魔法、戦闘系の初歩短剣形成ですら威力が弩形成の魔法と同威力な時点でその強さがわかると思う。
そして光輝魔法は古王国の王族であるプラストリア王家にしか発現しない魔法なのである。
真の王家、最初の王族と称されるプラストリア一族は侵略者に念入りに滅ぼされた歴史があるが、その歴史を私の同居人、アッシュは否定した。
最初の王族は生き残っていたのだ。
「なぜ、なぜ報告しなかったのだ…!」
「……」
「…いや、今はそんなことどうでもいい。こんなことが他国に知られれば奪い合いになる…!真の王家の人間の血を求めて、疲弊したこの世でまた全面戦争が起きるぞ!!」
「………」
「……仔細は後で報告しろ。俺はこのことを国に報告し判断を呷る。どのようなことがあれ、事態は動いた…アッシュと言ったか…俺としては助けてやりたいが…今回ばかりは諦めろ。それと、よく生きて帰った。明日は部隊で宴会だ。今日は休め」
そう言って、隊長は部屋を出ていく。
アッシュは、私の軽率な行動で各国から狙われる存在になった。
観測魔法を用いた時、光輝魔法のことを言わずに墓まで持っていけばこんなことにはならなかった。
だが、彼女は外に夢を見ていた。
空が好きだった。暴力が嫌いだった。
見つかった蜘蛛の糸にすがりつこうとしていた幼子をどうして叩き落とせるだろうか。
ただ、今をどうにかしたい。そのように考えることが嫌われることだろうか。
………私はアッシュをどのような形であれ、助ける。
方法は分からない。世界を敵に回すことになるかもしれない。
だけど、知ってしまった。
純粋な意思の存在意義を。
妹のような君を助けようとするこの意志を誰にも邪魔させる訳にはいかない。
私が助けられたように。
私は君を助けたいと思うよ。
◆ ◆ ◆
カナリアと会話していたことを思い出す。
ほんの2、3週間一緒に居ただけ。
俺は調整は毎日あったけど、彼女の調整は軽度かつ買手が決まっていたこともあってあまり行われなかった。
彼女は俺を同情してくれた、心配してくれた、魔法を使ってくれた。
姉のように。
普通の世界で、普通の生活で、普通に彼女を慕うことが出来たのならどれほど幸せだっただろうか。
腐るしかないと考えていた俺に希望を与えてくれた彼女と家族のように暮らせたならどんな生活ができただろう。
『姉ちゃん。魔法の使い方教えてよ!』
『しょうがないなぁ!』
こんな会話でも出来たのだろうか。
深層心理では無意識に姉のようだと思っていたのだろう。
次に会った時、姉さんと呼んだら嫌がられるだろうか、怒られるだろうか。
会えたらいいなと思わずにはいられない。
ガタン。
そんな音を立てて馬車が止まる。
馬車の扉が開かれたあと、檻も開けられ俺は地面に立たされるが、足が動かないため自立することすら出来ない。
当然の帰結として俺は地面に座り込んでしまう。
「立て」
鎧を着込んだ額に1本角を生やした女が俺に対して言うが、アキレス腱の他にも足が動かないようにするための様々な工夫が施されている。
丁寧な事だ。と内心唾棄する。
実際問題、足の先を動かせないから俺は俯くしかない。
「…コイツは」
「待て、スペシア。ソイツは商館で足を切られている。その足は飾りだ。運んでやれ」
女が訝しげに俺を見ていると、魔王が女に言う。
「なっ……王よ。なぜヤツらを叩き斬る許可をくれなかったのです!」
「…ヤツらはセムルスの病床だ。捨て置けば確実に彼の国を蝕み我らに勝機を与える。我らは救世主では無い。この国を守るものだ。弁えよ」
「……はい。すまなかったな。今起こすぞ」
………?
ま、おう?
女、スペシアと呼ばれた女性は俺を割れ物のように慎重に扱ってくれる。
あそこでは間違ってもなかった扱い。
鎧が少し硬いが、それも勘定に入れて抱き上げてくれている。
優しい人。
俺の困惑は、加速していく。
俺を見てやるせないような表情をするスペシアさん。
表情は薄いが、口振りから優しさが滲む魔王セナ。
周りの人間すら、俺に対して同情の表情を浮かべている。
メイドも、騎士も。
全員、ヒトじゃない部位を持っている。
でも全員、冷たい人間じゃない。
それを即座に理解できないほどに俺は、暴虐に晒されていたのだと、やっと分かって、
涙はでなかった。
ただ、ただ体の強ばりが少しだけ、解けた気がした。
if
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ある方が良い
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ない方が良い