五条悟に転生した凡夫のお話 作:かふぇらて
「なんだと?」
長らく誰も住んでないような寂れた家屋の奥でひび割れた窓から差し込む月明かりが二人の人影を照らし出す。
男とも女とも見て取れる和装の人物が、その特徴的な白髪頭を揺らして隠し切れない苛立ちを発露させていた。
「今こそ、その時期だと言ったのは他の誰でもない貴様だぞ!! だからこうして協力してやったというのにそれをよくも……」
「そう言われてもさぁ」
激しく詰め寄るおかっぱをうっとおしげにしっしと手で払いながら
その額には横一文字に縫われた裂傷が刻まれていた。
「呪霊操術が手に入らなかったんだから仕方ないよね。計画は中止だよ。本当、遺体もきっちり消し飛ばされちゃってるし、あれだけの使い手が産まれるのにどれだけ持てば良いのか……泣きたくなってくるよ」
悲観的な言葉とは裏腹に男の表情は然程沈鬱ではなかった。
寧ろ未知の現象を目撃した幼子のような喜色を滲ませている。
それを受けて白髪頭の人物は更に顔を歪めるが──先んじて片手を挙げた男によって激情の爆発は押し留められた。
「二回目だ」
「はぁ?」
「これで二回目だよ。五条悟に妨害されたのは」
顎に片手を当てて男──羂索は思案を巡らせる。
その脳裏には今より幼い碧眼を宿した五条家の麒麟児が浮かび上がっていた。
「最初は虎杖香織として暮らしていた時──あの時は本当に焦った」
夜道を歩いていた時、無言の奇襲──それを回避出来たのは偏に五条悟が未熟な術師だったからだと羂索は確信していた。
実際に過去の六眼の使い手だったならばその時点で戦闘向きの肉体ではない羂索など造作も無く滅ぼされるだろうことは想像に難くない。
二手目。我ながらこれだけは譲らないと自負している人生経験に従い、即座に状況を把握した羂索が逃走を試みると遮ったのはもう一人の術師。
『どんな女──いや……男がタイプかな?』
『…………!』
その時ばかりは言葉を失った。
前門の五条悟。
後門の九十九由基。
それは長きに渡る生涯に於いて間違いなく三本の指に入る窮地だった。
しかし羂索はこうしてこの場に存在することが許されている。
それが答えだ。
「本当に幸運だったよ。同じことをやれって言われても十回──いや、百回中、九十九回は間違いなく死んでるね」
「それが何だと……」
「分からないかい? 前回の奇襲と今回の夏油傑の死亡──どちらも五条悟が関わっている。私はこれを偶然だとは思わない」
「はっ、馬鹿馬鹿しい」
白髪の女が鼻で嗤う。
この期に及んで何を言うかと思えばどうしようもない妄言だと。
「それならどこから露呈したというつもりだ? 術師が死ぬことなど珍しくもない。貴様が襲われたのは、大方何処かでヘマをしただけだろう」
「──未来予知の術式? いや、違うな……。だが何らかの方法で私の策を看破している……」
額に指を当てながら思考に没頭していく。
悟られた原因が見出せない以上、これ以上の結論は望めないだろう。
なにより既に次の行動は決まっている。
「ま、どちらにせよもういいかな。振り出しに戻って、私はまた暫く隠居することにするよ」
「……ちっ」
忌々しげに舌打ちしながらも白髪の女──もとい、裏梅は反論しなかった。
彼女もまたこれ以上の議論は時間の無駄であると理解していたからだろう。
足早にその場から立ち去っていく。
「ああ……でも……そうだな。これは断言できる」
一人きりになった空間で羂索はぽつりぽつりと呟きを零した。
誰に語るでもなく、視線を宙に。ここではない何処かを見詰めながら羂索はそっと嘲るような笑みを浮かべる。
「夏油傑を殺したのは──五条悟だ」
✽ ✽ ✽
祓う、祓う。その繰り返し。
俺は最強の術師ではなかった。六眼を有して尚、満足に扱えない無下限呪術は当人の呪力センスの程を如実に現している。しかしそれでも尚、他の術師と比較して一線を画した実力を持っていることは間違いなかった。
最強の術師と持て囃され、任務は全て一人で駆り出される。
硝子は元々危険な任務で外に出ることはない。
隣に並ぶ術師は居らず必然的に──俺は一人になることが増えた。
祓う、祓う。その繰り返し。
誰のために──違う。
あの日から、俺は自分に言い聞かせている。
罪から逃れることは許されない。それを理解した上で、俺は自らの意思で選択をした筈だ。
ブレるな。部品として──役割を果たせ。
「久しぶりだね。五条君」
「──由基さん……」
任務帰り、懐かしい顔が俺を出迎えた。
✽ ✽ ✽
「すみません……来ると分かっていたらもっと良いお店を予約したんですが……」
「気を遣わなくていいよ。今日はキミに会いたくて此処まで来たんだ」
完全個室の居酒屋で俺と九十九は向かい合って座っていた。
呼び付けた店員にスラスラと注文を済ませると、彼女はちらと俺に目配せする。
「五条君は飲まないのかい?」
「いや、俺はそういうのはまだ……」
「相変わらず真面目だね」
くすりと笑う九十九は上機嫌そうに僅かに肩を揺らした。
何を語るでも無く、じっと俺の顔を観察するように見詰める。
妙な気まずさに耐え切れず俺は九十九から視線を逸らした。
やがて頼んでいた飲み物が運ばれて来ると彼女は一口飲んで口を湿らせる。
それから何かを懐かしむかのように目を細めた。
「……こうして面と向かって話すのは二年ぶりになるのかな? 大きくなったね」
「はい。由基さんはお変わりなさそうで……」
柔和な笑みを浮かべる九十九に俺は当たり障りのない返答を返した。
注文した料理はあらかた出揃い、それを適当に摘まみながら俺達はぽつりぽつりと取り留めのない話を繰り返す。
主に俺の高専での話。
彼女が聞き手で俺が話す側に回っていた為、自然とそういう流れになったのだが……彼女の興味は専ら俺の学生生活に関する話題に集中しているようだった。
友達は出来たとか、高専は楽しいか、など。
問われるままに俺は答えていたが、
一通り聞き終えた九十九は顎に手を当てて頷いた後、真っ直ぐに俺を見た。
「さて、取り繕っても仕方ないから本題に入ろう。──羂索の話だが……」
「…………」
彼女の口から飛び出した名前に俺は僅かに身を強張らせる。
原作の九十九由基ならば知り得ないその名を何故知っているのか。
理由は単純で、俺が自身を自覚して真っ先に行なったのが彼女への接触と、俺が持つ全ての原作知識の開示だったからだ。
──五条悟は、その生涯に於いて九十九由基に対し一切の虚言と隠し事をしない。
そういう縛りを結んだ上で、俺は自身が持つ、呪術廻戦という漫画の知識を洗いざらい話した。包み隠さず、記憶にある全てを。そして恥も外聞もかなぐり捨てて懇願した。
敵の情報も可能な限り詳細に説明した。
それだけが、俺が持つ唯一の明確なアドバンテージだった。
そして、その判断は過ちではなかったと今でも思っている。
特級の名に恥じないその実力と、豊富な手数に裏打ちされた知性。生まれ持つその善性。
俺が五条悟として産まれた以上、九十九由基という呪術師が汎ゆる観点から鑑みても現代最強の存在であることは疑いようもなかった。あれがあの時の俺の打てる最善手だったと確信している。
──それでも、羂索には一歩及ばなかった訳だが。
「すまない。あれから出来る限りの人脈を使って羂索の跡を追ったが……影すら掴めていないのが現状だ」
「……そうですか」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる九十九に、俺は努めて冷静に返した。
彼女に期待していなかった訳ではないが、予想外だと言えば嘘になる。
こればかりは相手が悪かったと言わざるを得ない。
虎杖香織の肉体を取り逃がした時点で、俺は既に敗北していた。
「切り替えましょう。……次の手は既に打ちました」
「それは……」
乾いた口内を冷やで湿らせ、俺は一つ頷く。
努めて素っ気無く言ったつもりだったが、九十九は俺の態度から何か感じ取るものがあったのだろう。此方を見るその表情に微かな憂いの色が混じった。
「同級生が亡くなったそうだね?」
「はい。──俺が殺しました。言い訳はしません」
当然のように言い放つ俺を九十九は何を言うでもなくじっと見つめていた。
空気に重しが掛かったかのような錯覚に陥るが、何度も身動ぎをしたくなる衝動を堪えて俺は淡々と言葉を並べ続ける。
「任務中……夏油に先導させて……背後から襲いました……術式が暴走する前に肉体ごと……即死だったと思います」
今でも手に残る血肉を貫いた感触。
指先から脳髄まで駆け抜ける衝動を誤魔化すために俺は机の下で何度も指を擦り合わせた。
「これで呪霊操術が羂索の手に渡ることは一先ずありません。最悪の呪詛師が生まれることもない……しかし」
「…………」
「……将来呪詛師になるかもしれないから、敵に利用されるかもしれないから。そういう個人的な……身勝手な理由で、俺は何の罪もない一人の人間の命を奪いました」
高専で出会った夏油傑は俺の想像通りの人間だった。
若く、才能に溢れていて。弱者生存という澄んだ意思を持っていた。
正しい道を歩めば頼もしい味方として、共に生きる未来があったかもしれない。
「俺は……楽な道を選んだんです」
「……羂索の暗殺に失敗した以上、奴が次にどういう行動を取るか分からない。リスクを考えて、夏油傑は早急に殺しておくべきだと、そう言ったのはキミ自身だよ」
それまで俺の言葉に耳を傾けていた九十九が静かに答えた。一瞬迷って、紡ぐ言葉が浮かばない俺に向かって諭すような笑みが向けられる。
「責任を問うなら、それを阻止しなかった私も同罪だ」
「…………」
「私がこんなことを言う権利はないかもしれないけど……余り思い詰めるな。
キミに強いられた選択は、大人でも答えを出すのは難しい。それでこの話は終わりだ」
「……俺は大人ですよ」
苦し紛れに呟いた俺の言葉は快活な笑い声に吹き飛ばされた。
重苦しい空気が四散して、景色に明度が戻っていく。
「なら、お酒くらい早く飲めるようになろうね」
その嘲るような声色に俺は反射的に手近のボタンで店員を呼び付けていた。
「瓶ビール追加で、グラスも一つ下さい」
「おっ、いいねいいね!」
グラスに注いだ黄金色の液体を一気に飲み干せば、ぱんぱんと小気味良い音を立てて九十九が手を叩いた。
未成年飲酒を推奨している、という点を除けばその様はノリが良く、好感に値する女性だと言えるだろう。……少し欠点が致命的かも知れないが、呪術界全体を鑑みればかなりの良識を持った人間である。
「そういえばさぁ、私、来年は丸々日本で過ごすことにしたから」
「……は?」
思い掛けない発言に思わず目を剥いた。
そんな俺に九十九は悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべる。
「──星漿体の護衛任務。あるんだろう? 依頼が来たら私に連絡してくれ。直ぐに駆けつけよう」
「……大丈夫なんですか?」
「私じゃ不満かな?」
「そういう訳ではありませんが……その、星漿体ですよ?」
「……まあ、思う所が無い訳じゃないよ。でも……禪院──いや、今は伏黒甚爾君だったかな? 彼には個人的な用があるしね」
「ああ、そういう……」
得心いった俺はそこで言葉を区切った。
彼女の性格を考えたら、積極的に関わりたいとは思わない案件の筈だ。
最悪、単身で挑むことを覚悟していただけに、少し拍子抜けした。
天与呪縛のフィジカルギフテッド──その実力は疑いようがないが、流石に無警戒から九十九由基を相手取る展開を切り抜けるとは思えない。
「キミのことは私が守るよ」
「………………」
正面から堂々とそんな宣告を受けては、もう黙るしかなかった。
気恥ずかしさを誤魔化そうと俺は再び酒を呷る。
その様子を頬杖をついて眺めては、九十九はくつくつと喉を鳴らして笑っていた。
✽ ✽ ✽
「五条君……大丈夫?」
「はい……も、問題ありません……」
夜が更けるに連れ、一層賑わいを増すネオン街で寄り添うように歩く男女の姿があった。
どちらも目を引く美貌を有しており、すれ違う人々の注目を一身に浴びている。
共に頬を紅潮させ、酒気を漂わしていることが尚の事、両者の艶やかさを強調していた。
まるで映画のワンシーンの様に見映えのする一組の姿に僅かに色めき立つ衆人の前で、男の方がふらりと一度大きくよろけた。
「おっと」
そのままいけば自ずと倒れ伏す勢いだったが、自然な動作で回された女の腕によって受け止められる。
「駄目だよ。飲み過ぎは」
「………………」
女は優し気に背を撫で擦るが、男の方は半ば意識を失いかけていて、返答を返す余力もないのか意味を成さないうめき声を上げて視線を宙に彷徨わせていた。
数分と経たぬ内に男は限界を迎えたのだろう、女の腕の中でその身体から力が抜ける。
「ふふ……」
必然的に自分の一回り以上の大きさはあるだろう男性を抱きかかえる羽目になった女は、しかし涼し気と言った表情で微かな笑みすら浮かべていた。
「私が悪い大人だったら……どうするのかな?」
泥酔状態のまま、無防備に体重を預けてくる男を横目で眺めながら女──九十九由基はその整った顔に指を這わせた。その無垢な寝顔を晒す姿は、彼の首を狙う呪詛師であれば生唾の呑む状況だろう。
面食いという程ではないが、どちらが好みか聞かれたら間違いなく美形と答える程度の趣向を持っていた九十九にとって、横抱きにした青年は別の意味で──ある意味は正しく垂涎の的と言って良い存在だった。
「本当、大きくなったね……」
目を瞑れば今でも鮮明に瞼の裏に浮かぶのは、初めて彼と出会った日の光景。
そうして展開された荒唐無稽な話を九十九が信じようと思ったのは、何も縛りという確約があったからという理由だけではない。
『どうか俺の話を聞いて頂けないでしょうか』
対面するや否や額を地に擦り合わせて懇願してきた幼い子供。
まだ第二成長期すら迎えていない、稚さの残る矮軀から発せられた真摯なその態度が九十九の心を大きく動かした。
若く、無様で……視点を変えれば愚かにも映るその行為。
そういう泥臭い男こそ、九十九由基の好みだった。
「──着いたよ」
程なくして予め自身が泊まる予定だったホテルに辿り着いた九十九は、泥酔した五条悟を部屋のベッドに寝かせる。
放り出された四肢を丁寧に横たえさせた後、布団を被せようとして──ふと着崩れたシャツから覗く白い肌に視線が吸い込まれた。
「……ふぅ」
じゅるり、と。
垂れかけた涎を九十九は慌てて腕で拭った。
年月を重ね、精悍さが混じるようになった端麗な容姿は然ることながら何より呪術師としては本当に珍しい癖の少ないその人格に大いに惹かれる。
近頃の彼の様子が芳しくないと耳にしたら飛んで行くくらいには、九十九は五条悟に好感を抱いていた。
「少し、癒やして貰おうかな」
誰に言うでもなく、言い訳がましく呟いた九十九は軽い足取りで五条の横たわるベッドにするりと潜り込んだ。そのままその逞しい胸板に顔を埋めると、深く息を吸い込み──ゆっくりと吐き出す。
「はっはっ、はーっ……はぁーっ」
徐々に間隔が短くなっていく呼吸音を自覚しながら、九十九はやがて縋るように五条の身体に手足を絡ませた。更に濃密な匂いを求めて、彼の首元に顔を埋め、何度も何度も深呼吸を繰り返す。
「や、ヤバ……これ……癖になるっ……」
幾ら中身が凡夫であろうともその肉体は紛うこと無き五条悟──本人である。
過去、未来に於いても指折りの“完全無欠”そんな身体から放たれる強烈なフェロモンは、九十九の潜在意識に秘めた雌の部分を確実に侵略し、屈伏させつつあった。
則ち、眼の前の男こそ上位であると。
本能が理性を塗り潰すのに、そう時間は掛からない。
「──ふ、ふふふっ」
それでも九十九は流石の精神力を以てして己の情欲を完全に制御した。
沸々と煮えたぎる欲望を精神の奥深くに仕舞い込み、年長者として不甲斐ない態度を見せることの無いよう理性で己を律する。
そもそも未成年飲酒をさせた後に同衾している時点で人間として失格であるという思考は九十九の中には元より無かった。
名残惜しくも顔を離して薄く微笑む。
「……またね」
最後にその輪郭をなぞるように指を走らせた後、九十九は身体を起こしてベッドから離れようとする。
「あんっ♡」
刹那、きゅぅっと尻たぶを鷲摑みにされ、自分でも信じられないような艶の入った声が漏れ出した。
思わず目を剝いて眼前の青年を凝視すれば、半開きに覚醒された透き通るような碧眼が胡乱げに此方へ向けられている。
「お、起きたんだね五条君。よかっ──」
続く言葉は迫ってきた唇に遮られて出てこなかった。
ちゅっと柔らかい感触を唇に感じた後、にゅるりと何かが口内に侵入してくる。
「むうっ」
くぐもった声を反射的に漏らしたが、そんな抵抗を意にも介さず侵入してきた舌は九十九のそれを搦め捕った。互いの舌がねっとりと絡み合い、歯列をなぞられ、唾液を流し込まれ──蹂躙される。
「ん……ふっ……はっ……ちゅっ、れる……」
たっぷり数十秒にも及ぶ長い接吻を終えて、どちらからともなく互いの唇が離れた。
惚けたようにはあと熱っぽい息を漏らす九十九を五条が見下ろす。
「……駄目だよ。私たちはそういう関係じゃないだろう?」
そんな台詞を嘯きながら、九十九は唾液で濡れた唇を舐めとった。
だらしなく垂れ下がった瞳を潤ませ、抵抗らしい抵抗すらせずに口許には微かな笑みさえ湛えている。
それは男を煽る行為でしかなかった。
「やん♡」
無言で抱き締められ、生娘のような声を上げながら九十九は顔に喜色を浮かべる。
きゅん、きゅんと甘く疼く欲求に従い、身体をくねらせた。
眼前の男に抱かれたいという強い感情が胸の奥で沸々と沸き立つ。
そんな九十九の反応を知ってか知らずか、五条の両手は彼女の肢体を衣服越しにまさぐり始めた。無遠慮に這い回る手に敏感に反応し、喘ぎ声を漏らす九十九の耳に柔らかな囁きが届く。
「──硝子」
「……はぁ?」
一気に底冷えした声が出た。
一転、雰囲気を台無しにされた九十九はすっと表情を消し、目の前の男の正気を疑うように目を細める。
そんな剣呑な視線を真正面から浴びながらも五条の顔はぼんやりと遠くを見るような表情のままで。
──コイツ……私が誰だか分かってないのか……。
余りにも遅蒔きながらそんな事実に気が付いて、九十九は額に青筋を浮かべた。
「……男に他の女の名前で呼ばれた時ってこんな気分になるんだね。貴重な経験になったよ」
ひくひくと頰を痙攣させる九十九を他所に、五条の手は未だ彼女の身体を這い回っていた。
「あ、あのさぁ……まだヤる気──んっ」
一言、注意してやろうと口を開き掛けたところで指先が下着を押し上げている突起に触れたことで小さな嬌声が漏れる。
その反応を目敏く察知したのか、五条の手は執拗にそこを攻め始めた。指先で弾かれ、こねくり回され、ぐりぐりと押し潰される度、身体に甘い痺れが走るのを九十九は自覚する。
──へぇ……そういうつもりなら。
腰に両腕が回されたタイミングで、九十九は身体を反転させた。五条の上に乗る体勢となり、無抵抗なのを良いことにその衣服に手を掛ける。
視線と視線が交わり──九十九は艶やかに微笑んだ。
獲物を前にした捕食者のように嗜虐的な笑みを浮かべ、相手の眼をじっと覗き込んだ。
「──どんな女を相手にしてるのか……少し分からせてあげるよ」
✽ ✽ ✽
「んお゛っ♡お゛お゛お゛ぉぉぉっ♡」
がくがくんっと激しく痙攣しながら、この日何度目になるか分からない獣じみた絶叫が室内に響き渡った。
「や、やめ……んお゛お゛っ♡い゛っ♡」
ぷしっ、ぷしっと潮が吹き散らされ、ぱたたと汗と混ざり合った液体がシーツに大きな染みを作る。
様々な体液が混ざり合い、べとべとになった顔を大きく歪めせながら九十九は腰まで伸びる金髪を振り乱しながら懇願していた。
「わっ、わかったからっ! ちょっと休憩──んむっ」
強引とも思える強さで唇が塞がれる。
殆ど吸い付くような接吻が、じゅるるるっと音を立てて交わされると、一通り蹂躙された所で五条の唇が離れる。
たらりと二人の間を糸が伝い、重力に引かれてぷつりと切れた。
どちらのものとも分からぬ唾液をごくりと嚥下し、九十九は疲弊した身体に鞭を打ちながら緩慢な動きで再び体を起こした。
直後──ぱちゅん♡ ぱちゅん♡ぐちゅ、ぱちゅっ♡ と再び粘着質な音が響き渡る。
「お゛ごっ♡ ひぅっ♡ ぐっ……うう゛ぅっっ♡」
肉感的な尻に腰が何度も打ち付けられ、その度に濁った喘ぎ声が響いた。
既に体位を幾度となく変えているにも関わらずその行為には一切衰える様子が無く、寧ろより過激になっていく。
ずるるるっと亀頭が引き抜かれる寸前まで腰を引いたかと思えば、一息で根本まで落とし込み子宮口をどちゅんと強く叩く。深いストロークの度に亀頭が子宮を嬲り、執拗に押し潰される。
絶え間なく襲ってくる快楽の波に、九十九は少しでも逃れようと身を捩るが五条によってがっしりと頭を押さえこまれていて動くことも出来なかった。
平素ならばこの程度の拘束を抜け出すことなど容易いだろう。
しかし幾度となく及ばれた性交によって疲弊した身体は限界を迎えており、思考は熱に浮かされ正常な判断力を著しく欠いていた。
今の九十九にとって五条から受ける行為は悦楽以外の何物でもなかった。
まるで人格までも作り変えられていくような快楽を強制的に叩き込まれ続けた彼女の瞳には既に正気の色は残っておらず、そこには一匹の雌がいるだけだった。
頭を押さえていた手がするりと抜ける。次の瞬間には逞しい腕ががっしりと強く抱き締められた。
耳元に顔が近づけられ、耳朶にぬるりと湿った舌が這わされる。
ぞわりとした快感が背筋を伝い、一瞬硬直した膣肉を押し退けるようにぐりっと硬く張り詰めた亀頭が押し当てられた。
「かひゅっ……」
腹から一気に空気が抜ける圧迫感。
ずりゅっ──一際強い力で最奥を叩かれ、子宮が押し潰されると同時に容赦なく熱い塊が放たれた。
びゅるるるっっ♡ぶぴゅっ♡どぷっ♡どくんっ♡
「あっ……あぁ……♡」
無言の射精。極限まで濃縮された精液が流れ込み、膣内を満たしていく。
勿論其処には避妊具なんて物は無く、正真正銘九十九は中出しをされていた。
こってりとした白濁液がどぷどぷと膣を満たしていき、最奥にぐりぐりと亀頭が押し付けられて残り汁まで全て注ぎ込まれる。
──孕む。このままでは確実に、孕まされる。
そんな考えが脳裏を過り、理性が必死に警報を鳴らすと同時に──その表情は淫靡に蕩け切っていた。
舌をだらしなく露出し、アヘ顔を浮かべた九十九は全身を小刻みに痙攣させ続けている。
長い射精が終わり、にゅぽんっとそれが引き抜かれると同時にぶぼっという音と共に大量の精液が逆流した。
「お゛っ♡」
びくびくと身体を跳ねさせる九十九の頬にそっと五条の手が添えられ──優しく唇を重ねられた。
ねっとりと、恋人が愛を確かめ合うような優しい口付け。
「ん……ちゅっ、はむ……れる……れろ」
その間もねちっこく尻を揉まれ、完全にスイッチの入った九十九は先程までの抵抗など何処へやらといった態度で五条の唇へ吸い付いていく。
無意識の内にも男を誘惑するような妖しげな腰使いで秘部を押し付けて、快楽を求めるような懇願が行われる。
そんな媚びきった雌に施される熱烈すぎる口づけが終わりを迎えた頃には九十九は浅ましくも物欲しそうな表情で五条を見つめていた。
「はっ♡はっ♡はっ♡はっ♡」
ずしりと腹部を押し潰すような存在感。
再び硬度を取り戻した男根が膣口へずりずりと擦り付けられ、その度に軽い絶頂へと導かれながら、九十九の視線はその逞しい男の象徴に釘付けとなっていた。
「いいよ……」
九十九は両手を伸ばし、掻き抱くように身を寄せると甘く、蕩ける感覚に従い眼前の雄に微笑んだ。
「私の膣内で──コキ捨てて?♡」
そうして一度吐露してしまえば、圧倒的多幸感が全身を駆け抜ける。
噎せ返るような精臭を鼻腔いっぱいに感じながら、九十九はそっと目を閉じ、悦楽の海へとその意識を投げ入れた。
ちょっとご都合主義過ぎたかもしれない
でも原作知識フル完備で環境も整ってるならこれくらいしてくれとちょっと思います