ホシノ×クロコ×シロコのアビドス加湿作戦 作:亡霊の文章置き場
気になってしまうのは、やっぱり、私と同じ目をしていたから。
別世界のシロコちゃんにとっての先輩は別世界の私のはずで、あの決戦の合間に聞いた言葉の様子だと、私は死んでしまった後で……だから、私がどうこうしてあげようっていうのは過干渉なのかなぁ、とは思う。そういうのは、ちゃんと言葉を交わし合った先生とかシロコちゃん本人同士で支えるかどうか決めるべきだろうし。……それが分かってるのにそうできないのは、どうしてなんだか。どっちにしろ元がシロコちゃんだから放っておきたくない? それとも───自分みたいな気負い方をしてほしくない、とか? そうだとしたら、なんて身勝手なんだか。
「やっ、『シロコちゃん』」
あえて呼び方はそのまま。だって耳馴染みがいいだろうから。別の呼び方なんてしちゃったら、きっと自分の居場所の無さを意識してしまうだろうから。……シロコちゃんがシロコちゃんであるように、この子にとっても、それは重要だ。
ネオン色の薄明かりが銀髪を照らしていた。眠たげな雰囲気のはずの目を丸くして、固まって、ああ、身長なんてとっくに私じゃ背伸びしても頭を撫でてあげられないくらいなのに、どこかその姿は小さく見えた。私と相対しても逃げる気配のないまま。それはいい。そのくらいには気持ちが落ち着いてきてるんだろう。でも、それでいて、腕をギュッと抱いて顔を逸らしてしまってる。叱られる子供みたく。
「……ホシノ、先輩」
「んー、いいんだよ別に、遠慮しなくってさ。先生とか、こっちのシロコちゃんにも色々聞いたし」
「その……まだ今は銀行強盗とか、危ないことはしてないから。指名手配犯をちょっと捕まえるぐらいで、」
「ん……んん? 待って待ってシロコちゃん、私は別に叱りにきたわけじゃないんだよ」
「───そうなの?」
「えっ……も、もしかしてシロコちゃんから見た私ってけっこう、怒ってばっかり……? うへー……」
わしゃわしゃと髪を掻きながら、とぼけてみたりして。……でも、確かに正直そういうところはあるかな。もちろんウチのシロコちゃんに関しては普段一緒だから危ないことした時に叱りがちっていうのはあるわけで……。でもそれは真っ先に心配の気持ちがあるわけで、こっちのシロコちゃんみたく会う機会が少なければ、叱る以外のコミュニケーションだってありうるのに。そこはもうちょっと信頼して欲しいなぁ、と思いつつもへらへらと笑う。不安げに言い淀むシロコちゃんに「なんてね」と。
「シロコちゃんが一人暮らしして、寂しがってないかなーってね。それだけだよ」
「それは……一人でいるのは、もう、慣れたから」
「ほんとに〜?」
不意に歩み寄ったりして、覗き込んでみれば揺らいでる。淡い水面で瞳孔が揺れて、ああ、それこそあれだ。少し前の銀行強盗の時、現金まで持ち帰っちゃった時の『このままじゃ怒られちゃう、そんなつもりじゃないのに』って思ってる時のシロコちゃんとおんなじ。ちょっと背伸びしたがりで、褒められたがりなのが分かりやすくって。……安心した。まだ、シロコちゃんはシロコちゃんだ。
「私たちの迷惑になりたくないから我慢してるだけじゃないの、それ」
「………それは、」
「ウチのシロコちゃんも君のことは大丈夫、って言ってたけど……君もあの子も危なっかしい同士だからねぇ。おじさんからすると心配になっちゃうよ〜」
「…………」
「変に悩まなくたって、対策委員会は人手が増える分には万々歳だよ?」
シロコちゃんの息が詰まる、音がする。泣きそうな顔で見つめてくる。それは……うん、さすがにいきなりぶつけるのは、酷な話だったかもしれない。このシロコちゃんが別世界のシロコちゃんって分かってる以上、私も含めみんなウチのシロコちゃんとは違う扱いをしてしまうだろうし。この子の中で色濃い記憶があるアビドスの校舎の中で、そういうズレがあったら……ますます孤独を感じてしまうかもしれない。結局、自分一人が異物なんだと。言葉を選ぶ。なんだかな。やっぱり……あの先生のようには、どうもうまくいかない。
「…………別に、お手伝いとかじゃなくっていいからさ。たまに遊びに来たりしてもいいんだよ」
「うん……ごめん、ホシノ先輩、」
「いいよ、ほら。おじさんの薄っぺらい胸でよかったら貸したげる。今は……シロコちゃんの先輩ってことで、いいからさ」
ぼたぼたと溢れてく涙を抱き止めてあげる。この子は……その涙を、どれだけ自分の膝で受け止めてきたのだろう。それは本当は私が抱き締めるべきではないのかもしれない、けど。……あの空の果ての決戦で、子供みたく蹲って呻いて、涙を拭うこともできないでいたこの子には、少しの間だけでもそうしてあげる誰かが必要だろう。───なんて、それは言い訳。単に、放っておいたら私の方が心配でたまらなくなるからって、そういうだけだ。だらしない先輩、ってみんなには呆れられちゃうかな。
やっと撫でてあげられた頭は、確かに背丈は伸びたけれどシロコちゃんそのもの。行き倒れてるところを拾ってすぐの頃、よくわしゃわしゃと撫でてあげてたあの感じと同じ。強いて言えば、少し髪が傷んでる気がするかな。
「どう? お金稼いでるってことは、最近はちゃんとご飯食べてる? よく眠れてる?」
「ん……それは問題ない。自分の身体はちゃんと───」
と、言い終わらないうちにきゅう、と可愛らしいお腹の虫が鳴った。シロコちゃんは恥ずかしがるより焦り、ばたつく。よりにもよって、こんなタイミングで、って。
「せ、先輩……! これはその、普段から食べてないとかじゃなくって、単に今日はあんまり食べる気分じゃなかったっていうだけで、」
「んー、それって気持ちが落ち込んでて食欲出ないってことだよねぇ? おじさん心配だなぁ」
「う……」
「でも……今はお腹空いてるんだよね。なら、ちょうどいいや。おじさんもちょーっと夜食の気分だからさ」
戸惑う手を引く。ふらふらとされるがままの姿は、風に舞う落ち葉みたいだ。掴んで割れてしまわないよう、おそるおそる。
だから多分、怯えているのは私の方なんだ。
「うい~、マスターまだやってる~?」
暖簾をくぐれば、丸々とした柔らかな毛並みの大将が訝しげに出迎えてくれる。それは『ここはバーじゃなくラーメン屋なんだぞ』って突っ込み混じりなのか、それとも私の後ろにいるシロコちゃんへの反応か。……まあ、後者か。
「あー、マスター。この子はねぇ、アレだよアレ。シロコちゃんの……………お、お姉ちゃん……?」
シロコちゃんは明らかに「え?」という顔でこっちを二度見してきて、大将は私とシロコちゃんを交互に見る。主に私に疑いの目を向けてくる。なんでさ。私がまるでいたいけな少女を拾ってきて好き勝手に育てる誘拐犯みたい───前例がある? いや、まあ、うん。それはね。だけどまあ、そこに関しては通い詰めた縁もあってなのか(昔の私ならひと悶着あっただろうけど)、実際前に拾ってきたシロコちゃんがいい子に育ってるからなのか、「座んな」と言いつつ支度をし始める。
「うへ~ありがとねマスター。あ、こっちの子は大盛りで~」
「っ、ホシノ先輩……!?」
「まあまあ、食べ切れなかったら私が引き受けたげるからさ。まあでも……」
くうくうと繰り返しお腹が鳴って、シロコちゃんがドレスで絞られたウエストにさっと手をやりながら、頬を赤くしてる。ひょいひょいと手招きする。シロコちゃんは一瞬迷って、私の座った席からひとつ空けて、ちんまりと腰を下ろす。……無言でその隣に詰める。シロコちゃんは狼狽してあたしを見る。
「遠慮しなくたっていいじゃんか。ほら、いっそ膝の上だっていいんだよ~?」
「……ホシノ先輩はどうして、そんなに私を構いたがるの?」
「えー? シロコちゃんだって分かってるんじゃないの? 私が後輩ちゃんたち大好きってこと」
「うん……知ってる」
シロコちゃんはあたたかい思い出に触れたように、だけど寂しそうに笑う。
この子の優しい記憶っていうのはもう、どうしたってそういうものと隣り合わせで。だから……どうやったって、傷口に触れながらでないと優しくできないことに、苦しくなる。
「だけど私は、こちらの世界の私を攫って、皆のことも傷つけた」
「あー……んんー……難しいのはそこだよね~。それにシロコちゃんからすると、私ってけっこう外の人と距離置いてるように見えるのかな? 線引きがあるはずなのに、どうして自分がっていうのが気になるんでしょ」
シロコちゃんは俯いて、カウンターの面を見つめる。
……その頬を突っついてみたくなる。そんな顔を見せられて、ほっとける人間がいるだろうか? そりゃあ……まあ……ブラックマーケットで暴れ回ってるような連中はこれ幸いと襲ってくるかもしれないけど。
「んー……確かにまあ、シロコちゃんがシロコちゃんじゃなかったら、私もほったらかしにしてたと思うんだよね。後は───」
あんな風に泣いてる姿を見ちゃったらそれどころじゃないよ、と言いたいんだけど、果たしてどうか。シロコちゃんからすれば、それは自分の悲しみでしかないのかもしれない。上辺だけの同情だけで慰めないで、なんて言うことはないだろうけど、対策委員会としての日々を過ごしているからこそ、それを害した相手を可哀想だから助ける───なんて構図はシロコちゃんからすればこそ、受け入れがたいだろう。だからそう、ここで挙げるべきなのは。シロコちゃんの先輩としてじゃなく、私個人としての理由。
「おんなじ目をしてたからかな、私と」
「……ホシノ先輩と?」
「そうだね。……そっちの私は話したりしてなかった? シロコちゃんがアビドスにやってくる前のこと」
「っ、まさか、ホシノ先輩は───」
「へいお待ち! 並イチ大盛りイチね!」
「うへ~仕事が早いねぇマスター」
シロコちゃんの分の箸も取ってあげて、差し出して促す。
何か言いたげにしていたけれど、スープから立ち上る湯気が鼻にかかって、それでそちらの方に気が向いたようだった。……そう。シロコちゃんにとっては思い出の味。箸を取って、覗き込んで、息を止める。おそるおそるレンゲを手に取って、こくりと嚥下した。すると……ずるずると音を立てながら、俯いたままで啜る。
「うおっ……いい食いっぷりだねぇ」
「ん〜すっごいお腹減ってたみたいだし……ラーメンが好きらしいからねぇ」
「へえ、まあ、そんな喜んでくれてるなら嬉しい限りだけども」
カウンターにぽたぽたと滴った透明な雫は、スープの飛沫だってことにしてあげて。私もラーメンを啜る。胸の芯まであったまるような味だ。するするといけちゃう。別に私はがっつくほどお腹を空かしてたわけじゃないけど、途端に完食。隣にはもう既に空の器を見つめて、ぽわぽわしてるシロコちゃんがいる。
「ん〜、マスター。二人とも同じのをもう一杯おねが〜い」
「ふうん……ここが今のシロコちゃんの寝床?」
「ん。ここはもう建物ごとゴロツキが入り浸ってたせいで、元の持ち主が手放したみたい」
「ブラックマーケットあるあるだねえ」
ちょっとした事務所くらいのスペースの部屋はどこか埃っぽい。テーブルと椅子とはもう年単位で使われてなさそうな様子で、清潔なのは奥に見える簡素なベッドくらいだ。本当に身体を休めるためだけの部屋で、あれだけどうにか調達してきたんだろう。
窓からは淡い星明かりが差し込む。シロコちゃんがベッドの端にちょこんと腰掛けるのに合わせて、隣り合った。
「必要最低限って感じだね〜、おじさんが何か色々買ってきてあげよっか?」
「……いい。留守の時に盗まれたら大変だから」
「だよね〜。でも、何もないとこでじーっとしてるのは寂しくない?」
「それは…………」
シロコちゃんは困った顔をする。寂しい、けど素直に言えるわけもないか。意地悪だったかな。そっと手の甲に手で触れてあげる。泣きそうなその子の手を、きゅっと抱きしめてあげて。
「今度カメラとか持ってきて、写真でも飾っちゃう? ……や、それじゃあ余計に遠くにいるみたいになっちゃうか~」
「ホシノ先輩、」
ずい、っと迫ってくる所作はやっぱりウチのシロコちゃんとおんなじで、純粋そのもの。
「シロコちゃんは気が早いね〜」
「でも……だって、気になる」
「ま、それもそっか。そこを話さなくっちゃ気軽に甘えられないだろうし」
「別に、そういうつもりじゃ……」
「んー、じゃあ話すのやめちゃおっかな〜」
「……先輩?」
「いやあ、だってさ、楽しい話じゃないし」
つとめて、明るく言ったつもりだったんだけど。シロコちゃんが目を見開いて、さっと目を伏せて、「ごめんなさい」って呟いたあたり、私もどうも大根役者のようだった。
「あー、いやぁ……私こそごめんね〜。そこまでは思い詰めてはないんだけど」
「……さすがに、それは嘘」
「んん……まあ……否定はしないけども〜」
シロコちゃんは手に手を重ねてくれる。ああ、なんて優しい子だろう。でも、どうかな。本当に痛くて苦しいのは、シロコちゃんの方じゃないの。
「シロコちゃんから見てさ、おじさんはどう? いい先輩?」
「……ん。危ないことしたら叱ってくれて、悪いことから守ってくれる、すごい先輩」
「うへ〜誉め殺しだねぇ」
「でも、だから……居なくなってから、ずっと怖かった。もう、何をしたってホシノ先輩が叱ってくれなくなったから」
「…………そっか、ごめんね。最後まで付き合ってあげられなくて」
シロコちゃんは首を横に振る。
感じるのは申し訳なさと、少しの安堵と。シロコちゃんの世界では、私は最後まで先輩らしくいられたんだなぁって思いはしつつ、だけど……昔のことに囚われたままだから、残していっちゃったのかな、なんて。
「でもねシロコちゃん。私はさ、いい先輩に見えるかもしれないけど、あんまりいい後輩じゃなかったんだ」
「ホシノ先輩が……?」
「うん、昔は口も悪くって生意気でさ。シロコちゃんや皆みたいなかわいい後輩たちとは大違い。……その時のアビドスの生徒会長さん、不器用で優しくって、ふわふわしてたけどアビドスのこと、本気で立て直そうとしてたのにさ。私、『真面目にやってください、先輩』って言うばっかりで。いや、もっとキツいことも言ったし、手をあげそうにもなったなぁ……」
自分でも驚くくらいに口が回って、とまらない。……抑え込んでた分、一度開くと、溢れてしまって。だけど、じわ、と視界が滲み始めるのまでは想定外だった。おかしいな、シロコちゃんを安心させるために話してるのに、すごく……不安な顔させちゃってる。何か言いたげなシロコちゃんに、ひらひら手を振って、大丈夫、と制した。
「でもさ、それでも楽しかったんだよ。後になって思うと恥ずかしいことも自分が許せないことも色々あるけど、会長と過ごした中で楽しい思い出はあったし、私にとっては……眩しいくらいの青い春だった」
「───ホシノ先輩は、その人のこと、好きだったの?」
「好き……か、どうかかぁ。どうだろ。あんまり考えてこなかったな。私が好きでいるのも、許してくれるか分からないし」
「その人は……」
「死んだよ」
シロコちゃんは言葉を絞り出そうとして、でも、私はどうにかへにゃへにゃの表情筋を笑顔の形にして、それを制した。泣かれるようなことじゃない。慰めてもらうようなことじゃない。思い出すのは辛く苦しい行為だけど、その原因は私の自業自得だ。自分がどれだけ滑稽な姿をしてるかは分かっている。でも、それでいいと生き方はもう決めた。せめて最後までいい先輩でいられたら、それで。それ以外はいらないから。
「私……ホシノ先輩のこと、何も知らなかった」
「まあ、多分シロコちゃんの世界の私も、かわいい後輩相手にあんまりそういう話したくなかっただろうからね〜。……私も、本当は一生話さないつもりだったし」
「…………」
「まあ、そんなこんなで絶賛傷心引きずりまくりの寂しがりのおじさん相手で申し訳ないんだけども、シロコちゃんは───構ってくれるかな?」
ぎゅっ、と抱きしめられる。それはもう苦しいくらい。勢い余って、そのまま倒れ込んじゃいそうなくらい。果たしてそれは抱擁なのか、縋り付いているのか。たぶん、私もシロコちゃんも曖昧にしたがった。私がかわいい後輩に自業自得の傷を撫でてもらうのを呑み込めないのと同じように、シロコちゃんも私たちに優しくされるだけじゃ笑えないだろうから。……私は、果たして何をやっているのか。別世界から来た後輩にそこまでするのか。それとも、別世界の後輩だから好き勝手押し付けてるのか?
頭上の耳の後ろを撫でてあげたら、くすぐったそうに目を細める。ああ、おんなじだ。私の後輩のシロコちゃんとおんなじ。
「いじわる」
「おじさんはおじさんだからねぇ」
「……ん、でも、そういうの懐かしい」
「そう? このくらいなら幾らでもしてあげるけどね〜。他に無いの、何か」
「……私がまた、悪い子になったら叱ってほしい」
シロコちゃんはそう言って、俯いて。
その願いの、なんてささやかなことだろう。
その祈りの、なんて切実なことだろう。
それは私にとってはシロコちゃんに対して当たり前のことで、だけどシロコちゃんにとって、私の全てだったんだろう。
「いいよ。シロコちゃんがどこに居たって、悪いことしようとしてたらすぐにでも駆けつけて、叱ってあげる」
「……本当に?」
「ほんとだよ。おじさんが可愛い後輩との約束を破ったことある?」
「ん、心配してるのにけっこう一人で抱え込んで無茶したりする……」
「そ、それはねぇ……ほら、シロコちゃんたちが心配だから」
「でも、ホシノ先輩がみんなの頼れる先輩な分、居なくなった時の傷も大きくなる」
「んん……そっか、シロコちゃんは知ってるんだもんねぇ……」
黒服の口車にまんまと乗せられて閉じ込められた闇の中、あそこから抜け出した後の、陽の光よりも眩しい皆の表情を覚えている。それまでにどれだけの焦りと怯えがあったのか、あの安堵の表情が物語っている。……あの時はみんなと先生がいた。それにアビドスの外からも助けに来てくれる人がいて。だけど、このシロコちゃんがあの空の果てで吐き出した言葉を信じるなら、アビドスの校舎で、たったひとりで。あの暗い砂漠の夜はひどく寒かっただろうに。……ユメ先輩がいなくなった後の自分を思い出す。あの頃はまだ自己嫌悪と八つ当たりで荒れっぱなしで、立ち止まると押し潰されそうでずっと忙しなく動いてて、でも、それでも胸がすいてしまうからマフラーを巻いたんだっけな。
「そういえばシロコちゃん、マフラー……」
「……ごめん、気付いた時にはもう、失くしてて」
「ううん、べつに───失くしちゃったなら失くしちゃったでいいんだよ。どっちにしたって、うちのシロコちゃんとおんなじで大事にしてくれてたんでしょ」
「ん……」
「なんなら、新しく買ってあげよっか?」
「……いい。それより、約束してほしい」
「約束?」
「もう、置いていかないでほしい。……みんなに秘密にしたいのなら、私が手伝うから。その時は後輩だなんて思わなくていいから。だから───」
「ごめんね、それは約束できないかなぁ」
「……どうして?」
「おじさんが負けず嫌いだからだよ」
正直、羨ましいと思ってしまった気持ちはある。
一番は後輩の皆を卒業まで守ること。できるならOGとしてシロコちゃんたちやその後の代の新入生が来てくれたら、それも支えて。でも、別れの日っていうのは準備期間をくれるようなものじゃない。私にとってユメ先輩がそうだったように。だからこそ、自分の選択によって別れるあの時は貴重な機会だったから手紙を書いたんだ。……もがきながら生きてるんだから、死に方なんて選びようがない。だから……自分が当事者になったら、こんなの無責任だと後悔しながら死んでいくんだろうけど……それでも、可愛い後輩たちの為に生きて、先に死ねたのなら、それは幸せだったと思うから。
シロコちゃんの見開いた瞳の中で、私が微笑んでいた。ぞっとするくらいに穏やかな笑顔だった。ああ、私ってこんな笑顔ができたんだな。シロコちゃんは寂しげに目を伏せる。……ごめんね。寂しくて心細いだろう君を、こんな風に突き放して。だけどそれは、君もまた私にとって、大事な後輩だってことだから。
「……そうだよね。ホシノ先輩は、そういう人だから」
「うへ~、分かってくれてて嬉しいねぇ」
「でも、それと私がどうするかは別」
「へ?」
「ホシノ先輩が怪しいことしてたら……見つけて、追いかけて、捕まえに行く。先輩が『シロコ』に対してそうしたように」
「ん、んん~? あのねえシロコちゃん、」
「それで、力づくでも止まらなかったら……しがみついて、泣いて、泣いて、離してあげない。私が───私の先輩に、出来なかった分まで」
「…………ずるいよ、シロコちゃん」
それは、私がやりたかったことなのに。
夢に見るくらい、あの日あの時を心の中で繰り返したとしても……それでも、私はユメ先輩の前で、一度だって泣けなかったのに。
「ん、私は悪い子だから」
「……困ったねぇ。それじゃあ、おじさんが助けられるばっかりで、シロコちゃんにはひとつだってしてあげられることがないよ」
「それは……その……」
「お? いいよいいよ~言ってみな。ほら、一つ二つお願いしたって何か減るもんじゃないからさ~」
「ん……寂しかった頃の分、触れてほしい」
「スキンシップだねぇ。それはおじさんとしても願ったり叶ったり───」
「ちがう、そうじゃなくって……」
シロコちゃんが私の手を取って、真っ白な胸元へ。
きめ細やかな肌は少し低い体温を伝えて、微かに心臓の鼓動を感じさせて。……シロコちゃんは、何か言いたげにもごもごと口を動かしては思い止まって。じっと熱のこもった視線で見つめてくる。おおう情熱的だねシロコちゃん、なんて呑気なノリでニコニコしてたら、だんだんと……あれ、これってほんとに、そういう?
「や、やだなぁシロコちゃん、おじさんってけっこうスケベなんだからそういうことしちゃうとホントに、」
「……ホシノ先輩、おっぱい好きだよね」
「うぇっ!? あ、あ~ノノミちゃんにけっこう甘えてることかな~? それはどっちかというと精神的な、」
「いいよ、触って」
薄手のドレスの胸元がはだけられて、膨らみが零れる。
柔らかに跳ねる。白い肌に淡く混じる薄桃色がきれいで、思わず目を奪われて。……視線を上げて表情をうかがう。きゅっ、と唇を結んだシロコちゃんが頬を染めている。白桃が熟れたみたいに、きれいで。ぐらりと、思考が傾く。……シロコちゃんは可愛い後輩で、というかほんの少し前に私が見つけて拾うまで、右も左も分からなかったような子で。破天荒だけど私の言いつけはしっかり守ってくれる、友達想いのいい子で。たぶん、この別世界のシロコちゃんもそれは同じはずで。───埃っぽい部屋で、果実みたいな甘いにおいがした。はあ、と吐く息があつい。早まる心臓の鼓動をどうにか整えながら、手のグローブを外して、それから。
「触るね」
「ん……」
シロコちゃんの胸は、私の掌に吸い付くみたいに。
包み込もうとしたら柔らかく食い込んでいって、とろける。ふわふわしたマシュマロのような感触。思わず感嘆の声が漏れる。……我ながら、演技でもないのにおじさんみたいな反応だ。ひとしきり感触を楽しんで、それから、指を薄桃色のあたりに添えて、擦って。
「っ、くすぐったい、先輩……っ」
「ん~、ほんとにくすぐったいだけ? ほら、だんだん硬くなってきてる」
「ん、ふふっ……そこはあんまり触らない、から」
可愛げのある反応の合間、不意に混ざった言葉に下心が湧いて。
「…………シロコちゃんって、するの?」
「え、あっ……それは、み、皆がいて平和だった頃は……たまに、」
どこか薄暗い色気に満ちた表情が、恥ずかしさで色付いて。
それはこっちのシロコちゃんのミステリアスな雰囲気とも、元々のシロコちゃんの不思議な感じとも似つかわしくない思春期の青さで。しょっぱい果実の味に、どうしてだか昂る。……いやあ、私もかわいい後輩ちゃんをそういう目で見てただなんて。色々な人のことを言えないなぁ。
「へぇ~シロコちゃんがね。普段から運動してたし、そういうのって発散出来てるのかと」
「……そうしてた時もあるけど、夜中にそういう気分になることもある、から」
「おぉ……えっちだねぇ」
隣り合って、腰を抱き寄せてみたりして。
シロコちゃんはその眩しい白さの太ももをぎこちなく擦り合わせる。
「ホシノ先輩のこと考えながら、してた」
「……どんな風に?」
「ん、撫でてもらった時の指の感触を思い出したり、思い切り叱られたりして……お仕置きされたらどうなるかな、とかいろいろ想像して」
「おぉ……な、なんだかすごいねぇ」
聞いているうちに脳裏をよぎるのは、そう。
平和な頃はしてて、色々大変になった後は多分それどころじゃなかった───ということはつまり、それはそのまま、今アビドスにいるシロコちゃんの性事情を赤裸々に話されてしまってるってことで。……ごめん。ほんとごめんシロコちゃん。いやほんと。この子が寂しがってたからっていうのはあるけど、一番の原因はこのセクシーな感じに成長したシロコちゃんの色気にスケベ心が抑えきれなかったせいだ。だから言い訳はしない。けどまあ、それはそれとして。……明日からどんな顔してシロコちゃんに会ったらいいんだろ。
「ホシノ、先輩」
シロコちゃんがじっと見下ろしてくる。
薄く染まった頬が、青白い月明かりに照らされて、ほんとうに綺麗だ。ああもう、こんな美人に成長した後輩ちゃんに言い寄られるなんて先輩冥利に尽きるなあ。いやほんとは私の後輩じゃないんだけども。迷ってしまうのはやっぱり自分の内面のせい。外面をいい先輩として取り繕い違った私は、こうして我欲が表に出るのをどうしても気味悪く思ってしまう。……シロコちゃんが望んでくれてるなら、それでいいはずなのに。
シロコちゃんのつめたい手が、私の手を取って腿の上に添えて。
「……ホシノ先輩が、気持ち悪くなければだけど。私のここも、触れてほしい」
「気持ち悪いなんてことはないよ。でも……いいの? こんななし崩しじゃ、まさに一夜の過ちって感じでしょ」
「私にとっては、そんな後ろめたいことじゃないから。……ホシノ先輩にとっては、どう?」
「んん……いや~、そもそも表立ってこういう話はしないんじゃないかなぁ!? ……でも、まあ、シロコちゃんと、っていうのは私にとっても悪いことじゃない、けども」
「それなら───ホシノ先輩の手で、深くまで触れてほしい。撫でてもらった思い出も、抱き締めてもらった記憶も別れと結びついてしまったけど、新しい思い出はきっと、色褪せないでいられるから」
「シロコちゃん……。───ほんとにそういうつもりで誘ってる?」
「ん、ホシノ先輩とこういう雰囲気になったわけだし折角だからえっちしたいだけ……」
「素直でよろしい、いい子には……ご褒美、あげなくっちゃね~」
目と仕草で促せば、シロコちゃんは腰を浮かして。
スリットから手を滑り込ませて、ショーツをするすると下ろしてあげる。膝のあたりまでずらして、そのしっとりと濡れた布地を認めて。……そういえば。
「このドレスってさぁ、どうなってるの~? こんなぴらぴらじゃすぐ脱げちゃうと思うんだけど……」
「ん、これはその……色彩のせいで元々着てた制服が変質した物だから、ある意味身体の一部みたいなもので……」
「えっ、つまり……シロコちゃんは普段から裸ってこと!?」
「ち、ちが……そういうわけじゃ、」
「ん~、でもなかなか目に毒な衣装だし、おじさんとしてはもうちょっと厚着してほしいかなぁ」
「……ん、気を付ける」
強張ってた身体から力が抜けて、雰囲気が緩んで。
別に狙ってやったわけじゃないのだけど、緊張しすぎてるお互いにはちょうどいいのかもしれなかった。囁くような声で、さわるね、と告げた。微かに頷くのを認めてから。指で。そこを掬うように。とろりと溢れたものに包み込まれて、それが伝う。柔らかい銀の毛並みがしっとりとしていた。
「わ、大洪水だねシロコちゃん」
「……っ」
「恥ずかしがらなくていいからね、どう? ……痛かったら言ってね?」
「ん……き、きもち、いい……」
裂け目を形に添って撫ぜるように、優しく。そうしたら恥じらい混じりに答えながら、気持ちよさそうに目を細めてくれる。頭上の耳が忙しなくぴくぴくと動いてる。
「せん、ぱい」
「……もう、欲しい?」
「ん、奥まで、さわってほしい……」
舌足らずに求めてくる仕草に、たまらなくぞくぞくする。わざとふざけてるが故の悪い振る舞いとは別の、邪な気持ちがふつふつと溢れて。入り口に指を添え、シロコちゃんの表情を窺う。汗ばんで、瞳は生理的な涙で濡れて、口元は緩んで。どろりと熟れた果実のよう。その瞳を見つめながら、ゆっくりと、ゆっくりと指を進めていく。……シロコちゃんの内側はあつく柔らかくて、それでいて最初の入り口はきつく強張って、私の指をぎゅうぎゅうと咥え込む。私が中を軽く探りながら進むたび、シロコちゃんは顔を逸らして、手の甲で口元を抑えて、でも、隙間から擦れるような喘ぎ声が漏れていた。それでもなお、時折視線が混じり合った。不安と期待が入り混じる瞳。
「……指、ぜんぶ入ったよ、シロコちゃん」
声に合わせて、私の指に絡みつくように収縮して、まとわりつく。その感触にまたびくついて、声を漏らす。
「あっ……ホシノ、せんぱい、」
「きゅっとなったね、気持ちいい?」
「ん、きもち、いい……」
「そっかそっか~。じゃあ、こことか、」
「あっ……!?」
目を白黒させ、身体を反らす。ぎゅうぎゅうと指を締め付けてくる力が強くなって、シーツをしわくちゃにして。行き場のない手を導いてあげて、肩を掴ませてあげる。そうして指をお腹の方へ、擦るように動かせば強く、強く抱き着いてきて。
「いいよ、シロコちゃん」
とんと背を叩いた。シロコちゃんは身を震わせて、跳ねる体を無理矢理に私に抱き着いて抑え込んで。指に絡みつく感触が痙攣して、そこに、亡霊めいた少女の命を感じる。色付いて濁った声が、吐息と一緒に繰り返された。ぐったりと……やわらかな身体が脱力して、体重が預けられる。火照った体温がじわじわと身体の芯に熱を伝わせた。
「ん……すごく、よかった……ホシノ先輩」
「シロコちゃんも魅力的だったよ~、でも……びしょびしょだねぇ。何か拭くものとか、」
「ん。心配ない。二人がいい雰囲気になってるのを見越して箱でティッシュを買ってきてる」
「うへ~準備万端だねぇ。シロ…………え? シロコちゃん?」
ぴょこん、と銀の耳と髪が目に入る。
そこには誇らしげに箱ティッシュを差し出してくる……シロコちゃん。紛らわしいのであえて表現するなら、この世界でもともとアビドス高等学校の対策委員会の二年生として生活してる方のシロコちゃん。なんで? どうして───混乱とともに、さっと思考が冷静になっていく。今の私と別世界のシロコちゃんの格好を意識する。ドレスがはだけて、胸を出して、スカートの中では指を食い込ませて繋がったまま。……どうしたらいい?
迷う私を差し置いて、第一声を放ったのは別世界から来た方のシロコちゃんで。
「こ、これは私がホシノ先輩に、無理矢理───」
「ううん、そうじゃない。……私には分かる。私なら……ホシノ先輩を襲おうとしても肝心なところで勇気が出なくって、とりあえずいい感じのムードで手を出してもらうのを待つはず。ホシノ先輩も優しいけどなんだかんだスケベだから流されてくれる」
「う、うへ~……なんか変な方向性の信頼を感じるなぁ……」
「……抜け駆けだって、思わない? 『シロコ』」
「ん。私はそういうの気にしないから大丈夫だよ、『シロコ』。……でも、仲間外れになるのは、ちょっと寂しい、から」
ベッドが軋む。こっちの世界のシロコちゃんが迫ってくる。……どういうことかと、別世界のシロコちゃんに視線を向けたら、何かを察したみたく微笑んで。え? 何?
「ホシノ先輩、」
ぼんやりとした、不思議ちゃんっぽい筈の、シロコちゃんの声が色付いて。
いつもの澄ました表情に、朱が混じる。まだ青いはずの果実が熟れていたような、そんな。
「……二人のことを見てたら、そういう気分になって。でも、まだ足りないから……私も、一緒に、してほしい」
プリーツスカートをたくし上げる。
そこには蜜を溢れさせる裸の身体が露で、ひくついて。
表情を窺えば、シロコちゃんはきゅっと唇を結んで、目を泳がせた。
「やっ、ホシノ先輩、そこばっかり……っ」
「ん、あっ……だめ、っ」
シロコちゃんに深く触れながら、隣り合って乱れる二人の姿を見つめて。
弱点はおんなじ。さっき責めたところを優しく揺さぶってあげると、どちらも息を荒げて身体を反らせる。ただやはり別世界のシロコちゃんの方が快感に身を任せつつあるのに対して、こっちの世界のシロコちゃんは私の指に緊張して、どこか初々しい反応で。……なんというか、なんだろ、眼福? いちいち表現がおじさん臭いなあ。
ゆるゆると責めていると、しばらくして別世界のシロコちゃんが、こっちのシロコちゃんを抱き寄せるようにして。───キスをして。そうしたら、お互いに私の指をぎゅうっと締め付けて、跳ねた。びくびくと震えて、力が抜けた身体が、覆いかぶさってきて。
「うへ~……役得だねえ。かわいい後輩二人を愛でながら二人が仲良くしてるのを見られるなんて」
「ん……っ、今のはちょっと悪いおじさんが出てた」
「ん、確かにホシノ先輩はそういうとこある」
「あ、あれ? 二人ともなんか辛辣だねぇ……?」
「……ん。そういうわけじゃない。でも、今からはホシノ先輩のかわいいところを私たちが見る番」
「へ?」
「! ……どうすればいい?」
「私は下から責めるから───」
「それは……いいの?」
「さっきも言った。そういうのは気にしない。……今まで溜め込んでた分、思い切りキスしたらいい」
「えっ、ちょっ、二人とも、」
制止しようとした口は、別世界のシロコちゃんの唇で塞がれる。
ぎゅう、と身体ごと押し付けられて……柔らかな胸の感触が思考を圧迫する。舌が絡みついてくる。純粋なシロコちゃんが、こんなキスの仕方を───と、ぐらぐらと、意識が取り返しのつかないところに飛んでいきそうになる。
そのくらくらする感覚の合間、腰が持ち上げられて、下着を取り払われる感触だけを、視界の外で感じて。内腿に、ふさふさとした感触が触れて。───状況を察して、待ってシロコちゃん、と懇願しようとした口は覆われて、手は手とぎゅっ、と絡められて。そうして、そこに舌先が触れるのを、私は抵抗もできずに受け容れるしかなかった。ちろちろと味わうように、形を確かめるように。私の───その、そこを、シロコちゃんに舌で探られるばかりで。ぞわぞわと背筋を上がってくる得体の知れない感触に、涙が溢れた。頬に伝うそれを拭ってくれた別世界のシロコちゃんは優しく微笑んで、その胸に顔を埋めて。
「ん、吸っていいよ、ホシノ先輩」
下腹から上がってくる快感に戸惑いながら、色素の薄い柔らかな胸の先端を転がして。微かな快感に震える表情を眺めていたら、私を舌で責めるシロコちゃんがクリトリスの膨らみを繰り返しなぞりはじめて、ちかちかと視界が明滅した。
「シロコちゃん、もう、だめ……っ!」
シロコちゃんの柔らかな胸に、顔を埋めて。
シロコちゃんに、其処に顔を埋められて。鋭い絶頂の余韻が波のように何度か寄せては返し、震える。その背中を優しく撫でてくれることさえ、心地良くて。……ああ、やってしまった。後輩の前で、こういう姿は見せたくなかったんだけど。はあふうと荒く息をする。吐息にさえ甘い声が混じってる。……私とは思えない、蕩けた喘ぎ声。
「……ホシノ先輩、かわいかった」
「へへ……うへ~……さ、さすがに恥ずかしいかなあ」
「ん。次は上下交代。……私も頑張るから」
え、と半開きの口をひくつかせる。
頭上のシロコちゃんは今まで見たことないような笑顔で、見下ろせば、スカートの中から出てきたシロコちゃんは海上に顔を出すクジラみたいな格好でごしごしと口を拭っていて。
「……う、うへ~、おじさんの身体がもたないよ~」
「ちょっと、ホシノ先輩!」
「へっ!? うへ~セリカちゃん? 今日も元気だねえ」
「……寝ぼけてるの? 朝から顔合わせてるでしょ」
「いやぁ~絶世の美少女っていうのはずっと見てても飽きないって言うでしょ?」
「はあ……? もう、今日はせっかく珍しいお客さんが来るっていうのに……」
寝ぼけてる。寝ぼけてるかぁ。
こんなにぐっすりと昼寝するようなつもりは無かったんだけど、シロコちゃんの一件が落ち着いて気が抜けてるのか。それとも……単純にアレのせいで寝不足なのか。思い出すと顔が熱くなってきて、咄嗟に手で覆う。私の怪しい仕草にノノミちゃんは何かを察したのか、微笑んで首をかしげて。
「あっ、来たみたいですよ!」
アヤネちゃんがなんだか嬉しそうに扉の方の足音に向かっていく。……そういえばシロコちゃんがいない。珍しいお客さんって言ったっけ、まさか───
がらりと扉が開く。
そこに、二人のシロコちゃんが並んでいて。
「……うへ」
「ん。ホシノ先輩が誘ってくれたから……遊びに来た」
別世界からの旅人のシロコちゃんは、不器用に笑う。
それはまだ、甘え方を忘れたままの子供の笑顔で。