ホシノ×クロコ×シロコのアビドス加湿作戦 作:亡霊の文章置き場
目を褒められたのはいつのことだったか。
たとえば平地での戦闘であれば狙撃手をいち早く見つけたり、市街地戦なら敵の潜んでる遮蔽物を見抜いたり。至近距離であれば、筋肉の膨張や足運びの予備動作で動きを予測したり。……言ってしまえばそれは、体格でも数でも劣る側の戦略でしかないのだけど。ああ、きっとあの人が褒めてくれた時もそんな風に言ったのかな。それとも、「先輩がどんくさいだけでしょう」なんて言ったかな。
だとしたら、思い出したくもないや。
全身を使って、車輪を回す。
肌にまとわりつく風は涼しいはずが、沸騰した汗でぬるくなつてる。動いてないのに暑い、じゃあなく風に吹かれてるのに暑いよってヤツだ。血管が煮えたぎって骨が溶けそう。そのくせ手足は普段動かしてない筋肉が動いてるせいかじわじわと痺れて感覚が薄れかけてる。それを強引に骨ごと押し込んでいる───っていうのが、おそらくは良くないんだろう。
シロコちゃんたちの動きを見ながら真似た基本動作は、果たしてトレースできているのだろうか? そもそも基礎としてBDによる前提知識があるCQCとは違って、いわゆるロードバイクの漕ぎ方だなんてのは知識にない。それに普段から漕ぎ慣れてる二人と私とでは肉付きも体格も違うし、車両の仕様も違っていることを考慮に入れるべきか。二人の提案を聞きつつ選んだのはキヴォトスの生徒基準で乱暴に扱ってもよく、多少治安の悪いところでも問題のないモデル。もしかしたら重いものを無理に漕いでいるのかもしれない。けど、あと少し。あと少しで坂を越える。そうすればその先は天国、極楽浄土。
「……うへ〜」
開けた視界の先、余裕を持ったペースで漕いでいる二人。専用のウェアに強調されたシロコちゃん二人のボディラインは、後ろから見ると弾力のあるお尻からすらりと伸びた脚が眼福の限り。英気も養われるというもの。
シロコちゃん……うちの子の方、って言うと厳格な表現に困るところだけど───が振り返って目が合うから、慌てて『先輩』の顔に引き締める。
「ホシノ先輩、そろそろ小休憩する?」
「ふへっ!? そ、そうだねぇ〜」
焦りを疲労と勘違いされたのか、まあ、正直なところそれはそれでありがたいのだけど。シロコちゃん同士が目配せして、緩やかに減速していった。それに続く。路肩からはみ出て、開けたスペースに車両を持ち込み、柵をスタンドかわりにして立てかける。ホルダーから水分の入ったボトルをひったくる。ごくごくと喉を鳴らして、冷却水を注入。頭の中に焼石に水滴を垂らすイメージがよぎる。余韻はまるで、フィクションの中の大人がジョッキ一杯の生ビールを飲み干した後みたく。……先生とかもこういう風な感じだったりするんだろうか?
「ホシノ先輩、おじさんみたい」
「えぇ〜? そりゃあまあおじさんはおじさんだからねえ」
「……あんまりやってると、本当に老け込むよ」
「うへ、なんだか愛娘が思春期になった気分だよ」
そう茶化してみれば、別世界から来た方の『シロコ』ちゃんはうつむきながらはにかんで笑った。それを覗き見ながら、シロコちゃんも頬を緩める。
「そういえば、あなたも久々だけど───」
「ん、大丈夫。確かに感覚は薄れてるところはあるけど、体力が落ちてるわけじゃないから」
「そうだよね、今の私より育ってるわけだし」
と、シロコちゃんが言うと条件反射で『シロコ』ちゃんの……その膨らみに目がいく。というかシロコちゃんもそれをじっと見つめて。二人分の視線を察して、『シロコ』ちゃんはあわあわと惑う。
「そ……そういう話は別に、」
「そういう話だよ。だって、ホシノ先輩なんて最初からずっと私たちのお尻眺めてたし」
「えっ」
「うへ〜バレてたかぁ」
「ん、先輩の考えはお見通し」
「しかしシロコちゃんも業が深いねえ」
「別世界の自分なのに? ……逆だよ、ホシノ先輩。近しいからこそ、引き寄せられるおっぱいがある」
「なるほどねえ」
「なるほど……? 二人が何を言っているのかわからないんだけど、」
シロコちゃんが『シロコ』ちゃんに無言で歩み寄って、手を伸ばす。最初こそ手で制そうとしていたものの、シロコちゃんの押しに負けて、結局胸に手を這わされていた。シロコちゃんにじっと見つめられながら、『シロコ』ちゃんは膨らみを撫で回され……私に救難信号のアイサインを送ってきたものの、ひらひらと手を振ってあげた。
……おっぱいの英才教育っていうのがあるのかもしれない。なんだかんだ今の私があるのらスキンシップ好きのユメ先輩が居たおかげでサブリミナルおっぱいが脳を侵食していたせいもあるんだろう。シロコちゃんはどうかと言ったら、私とノノミちゃんに拾われてからセリカちゃんアヤネちゃんが後輩になって、って具合で……対策委員会はシロコちゃんにとって家族のようなもの。それは多分、『シロコ』ちゃんにとってもそうだっただろう。だからシロコちゃんからすれば妹分───実際には姉の方がより正確なんだろうが───が増えて嬉しいって気持ちがあるのは分かるし、『シロコ』ちゃんも自分が大切にしてたからこそどこか線引きしてしまうって感覚はわかる。…………だんだん話がズレてきてるけど、要するにこうだ。シロコちゃんは別世界の自分っていう気兼ねなく揉めるおっぱいによっておっぱいに目覚め、『シロコ』ちゃんは自己肯定感の希薄さもあって私みたいな乳狂いならともかく自分自身におっぱいを揉まれることに戸惑ってるって話。
シロコちゃんたちは火照った身体を寄せ合って、その視線を絡ませた。無言でじっとりと見つめあって、それから。目を瞑って、唇を触れ合わせ始めた。
おぉ、と驚嘆の声を漏らしつつドリンク片手に眺めていると、シロコちゃんが『シロコ』ちゃんの胸元を緩め、手を入れようとしてる。『シロコ』ちゃんは目を丸くして、咄嗟に唇を離して。
「っ、待って、さすがにこのままは……」
「だめ? 私は気にならないけど」
『シロコ』ちゃんはもごもごと何か言いたげにしながらこちらを見てくる。……っていうか、ふうん、そうなんだ?
「二人とも、知らないうちにけっこう仲良しになってるんだねぇ」
「ホシノ先輩と3人でした時から、たまに。ね?」
「…………うん」
いや、仲良しって隠語のつもりじゃなかったんだけどな。まあでも聞きたかったのはそこだからいいや。『シロコ』ちゃんはなおも申し訳なさそうに私を見てくる。何故だろう、って思うけど、ああ、まさか、そういう?
「いやぁ、おじさんとしては眼福だし二人とも幸せなのが一番だからねぇ。いいと思うよ」
「ん、ホシノ先輩もああ言ってるから」
「でもねシロコちゃん、さすがに野外は衛生上よくないと思うよ」
「…………だめ?」
「可愛く言ってもダメ。汗だくっていうのはロマンだけどもねぇ」
じっ、と見つめ続けてくるシロコちゃんに、首を横に振る。……すごすごと、シロコちゃんは手を引っ込めて、ようやく離れる。『シロコ』ちゃんと目が合うと、さっと気まずそうに恥じらうように逸らされる。
「……先輩はその、私が先輩の知らないうちにシロコと仲良くしてるのは」
「いいことでしょ。先生の受け売りみたいになるけどね、君も生徒なワケだしさ〜。……でも、やっぱり一歩引いちゃうか」
「ん、やっぱり改めて3人で親睦を深めるべき」
「シロコちゃんの言う通りかもね。方法はともかくとして」
『シロコ』ちゃんはややあってから、控えめに頷く。……うん。それにしても、二人でそういうことしてるんだ。絵になるなぁ、うん……。顔が思わずフニャつくのをどうにかこうにか抑えつつ、休憩の終わりを宣言する。体力はバッチリ。改めて3人で会って話すべきこともひとまず話せてる。じゃあ、次はツーリングの目的地までの到着だ。
意気揚々と準備する私に、シロコちゃんが微笑みかける。
「そうだね、ここからならあと30kmくらいだし」
「……そんなに?」
†
滝のように絶え間なく降り注ぐ、雨。
一階が屋根付きの駐車場になっている建物に急いで駆け込んで、髪や服の吸った水分をばたばたと払った。
「うへ〜……嘘でしょ、こんな急に降ることある?」
「朝の予報では晴れの筈だったけど……あっ」
シロコちゃんが端末の画面を弄って、天気予報アプリを開く。差し出してくる画面を見ると、確かに今からしばらくは豪雨の表示が出ている。
「はあ……これは雨宿りさせてもらうしかないねえ」
「ここは何? 看板がよく見えなかったけど、お店があるの?」
「地図アプリで見ると…………うん、ホテルみたいだね」
「へえ、デイユースみたいなプランがあるならちょうどいいかもねえ。フロントで聞いてみよっか。……それにしても、この辺ってレストランとか観光スポットも無いのに変な立地だねぇ」
果たして、どこでブレーキをかけるべきだったのか。
フロントに人が居なかった時か、部屋を選ぶパネルが設置されてるのに気付いた時か。パネルに表示されてる部屋がそれぞれ尖ったコンセプトをしてたのを確認した時? それとも上りと下りのエレベーターが別々になってて、フロ
アに着いたら指定の部屋のランプが光ってた時だろうか。…………そう、なんとなくというか明らかに分かっていたのだけど、ここはラブホテルだった。
怪しい雰囲気の間接照明に照らされた室内。やけに大きなベッド。端っこの方で自販機方式で売られてるアダルトグッズ。頭を抱える。
「ホシノ先輩、これって……」
「いやぁ……ラブホだねコレ」
「どうしてこんなところに……オフィス街ならともかく、この辺りなんて生徒もあんまり通らないと思うけど」
「それがいいんじゃない? こういうのってなんていうか……人目を避けるもんでしょ」
「そうなんだ……」
『シロコ』ちゃんは不思議そうに。……いや、私もそんな詳しいわけでもないけども。それでも、シロコちゃん同様未知の事柄に関しては素直な反応。それがなんていうか、犬っぽいって言うんだろうか。いや、あの大将の話じゃなくってね。
と、ふとシロコちゃんの不在に気づくと、浴室の方からどぼどぼと浴槽にお湯を張る音が聞こえる。ふかふかのバスタオルを持って戻ってくる。
「ん、ちゃんと大人数用の部屋にしてよかった。タオルもバスローブも人数分あるみたい」
「おぉ……それはまあ、ありがたいね」
「じゃあ、入ろっか。お風呂」
「……3人で?」
「そのままだと風邪を引いちゃう。みんなで入るのが効率的」
……いやあ、そうだけどさあ。
浴室は広く……広い。それはもう三人で寝転べるスペースがあるくらい。というかどうも人が寝転ぶ用のバルーンのようなものが立てかけてあるあたり、コレはそういう浴場なんだろう。
「まあ、快適な分にはいいけどね〜。……ちゃんと浸かるのも久々かも」
「! ホシノ先輩、まさかシャワーだけで済ませてるの?」
「うぇっ、へへ、ま、まあね〜。ちょっと帰りが遅くなったりしちゃって、ほら、いちいち沸かすのめんどくさくって……あ、でも『シロコ』ちゃんもでしょ、」
「それは……」
「ん、話を逸らすのは良くない。ホシノ先輩はよく変な姿勢で寝てるんだから、湯船にはちゃんと浸かって身体をほぐさないと」
「う、うへへ〜、そっかぁシロコちゃんのぴちぴちのお肌はきちんとした入浴習慣から来てるわけだねえ」
タオルを巻いた華奢な身体は、そこから大理石の彫刻みたいな白くきめ細やかな肌の手足をすらりと伸ばしてる。どこかつやつやとした感じで、少しの興味本位で横を見れば、『シロコ』ちゃんはといえばシロコちゃんに比べるとどこかしっとりとした肌具合。あと、おっぱいがこぼれそうだからなのかタオルの前を押さえてるのがなかなか健気でイイ感じ。そういう話じゃない? だよねえ。
シロコちゃんが椅子にお湯をかけて、手招きする。
「さ、ホシノ先輩。洗ってあげる」
言いつつ、『シロコ』ちゃんにアイコンタクト。こくりと頷く。
「おお……背中流してくれるなんて感慨深いね〜。いやあ先輩冥利に尽きるっていうか、夢だよねえこういうの。よっこらせっ……と、」
「タオル取るね」
「あぁ〜、そりゃあそうだよねえ洗うんだから…………?」
と、少し躊躇いつつもこういうコミュニケーションって大事だよねと思い直し、はだけてから、気付く。
「ええと、お二人とも?」
「うん?」
「ん……?」
「私の背中を流すのに、なんで君たちまでタオルを取ってるのかな……?」
「それはもちろん、裸の付き合いのため。そうだよね?」
「……うん」
そう言って、シロコちゃんたちはボディーソープを泡立て、その身体にまとわり付かせて。……いや、なんとなく予測は出来たけど。じり、と擦り寄ってくる二人に、思わず身を縮める。
「お、おじさん、さすがにそういうプレイまでしちゃうともう女子高生を名乗れないかも……」
「ん、後輩の身体を張ったご奉仕を受け取るべき」
「私の身体は、ホシノ先輩のものだから……」
「ひえ、」
左右から腕を掴まれて、それを抱かれて。ボディーソープでぬるぬるとした肌の感触が、二の腕に絡みつく。シロコちゃんの将来的にはさらに膨らむ胸の弾力に満ちた感触に、『シロコ』ちゃんの膨らんだ柔らかな感触のマリアージュ。手の先の方はみっちりと内腿に挟まれ、ごしごしと擦られる。
「『シロコ』、後ろをお願い」
後ろ……後ろ?
理解が及ぶ前に、背中へとぬめる柔らかい感触が押し付けられる。おっぱいワイパーによる背中洗浄。くすぐったさと興奮が入り混じる中、「どう、ホシノ先輩……?」って控えめな声。「いいです……」と何故か敬語で返事しちゃったりして。そうしてるうち、シロコちゃんが前に来て。私の足を伸ばして、内腿で挟むようにして洗っていく。銀色の毛並みが、少しだけちくちくして……浴室のあつさと、きっと別の理由があって、悩ましげに紅潮した表情でら見つめ合う。
「ホシノ先輩、」
『シロコ』ちゃんの手が脇腹から前の方へすべってきて、思わずひゃっと声を出す。それは私の胸とお腹を這い回って、まんべんなく綺麗にしていって。それが、どこか……、
「物足りなそうだから、胸、いじめてあげて」
「ん、」
その細い指が、胸の先端周りにスライドして、じれったく揺れる。私が快感に目を細めると、シロコちゃんはうっとりとして、私の膝を跨いだまま押し当てて、息を吐いた。背後の『シロコ』ちゃんは、私を抱きしめるようにしていて、背中越しにぴんと固くなった感触がわかる。私の先端はその指先に弄ばれて、息が躓いた。シロコちゃんはぐりぐりと押し当てながら、苦しげに呼んでくる。ホシノ先輩、と。
二人の後輩に前後から抱きしめられながら、ぱちん、と脳の中で甘ったるいシャボン玉が弾けた。はあはあと三人ともで息継ぎをする。湿気と熱気で熱が下がらない。
「……とりあえず、一回洗って、湯船に浸かろっか」
さすがに今のを全員順番にやってたら途中で倒れそうだ。既に疲れ混じりの顔で苦笑いをすると、余韻混じりの顔つきで、シロコちゃんたちはにこりと応じた。
「うい〜……いやあ、ラブホテルのお風呂っていうのがちょっと風情がないけど、温泉旅行みたいなもんだと思うと良かったのかもねえ」
「ん、ホシノ先輩は頑張りすぎだし、ちょうどいい機会」
それを後輩に言われちゃうと先輩としては終わりだよ───とは、さすがに言えない。『シロコ』ちゃんの瞳が穏やかに思えるのは、私の肩に添えた手が振り払われないからでしかない。私の気持ちよりも、後輩の気持ちだ。先輩に対して生意気な後輩でしかなかった私でも、それでも、もうコミュニケーションのキャッチボールが返ってこない虚しさは分かるつもりだ。
湯船に身体を委ねて、その胸元に寄りかかるようにする。
……先生は生徒の自由な選択を尊重してくれるけれど、どうしたって得手不得手っていうのはある。強大な力を持った子が勇者になることが出来たとしても、私のような鉄臭い生徒が果たして、柔和で穏やかな先輩という箱の形に在り方を合わせられるのかっていう話だ。べつに、先輩らしさってそういうのだけじゃない。強烈なリーダーシップだったり、綿密な厳しさであったり、そういうのだって後輩の助けになるだろう。けれど、それはあのアビドスに相応しくない。……そんな風に思ってるのは、私だけだろうか。だとしても、持って生まれた性質は……、……。
「ホシノ先輩、難しいこと考えてる顔してる」
「へっ!? えー、いやぁ、これはねぇたそがれてるって言うんだよ」
「……私と、『シロコ』を見比べながら?」
シロコちゃんがむっとしながら、湯船をぷかぷかとしながら近付く。素直な子の感情表現の広がりに関しては嬉しく思うものの、困ってしまう。だってこの子は線引きの向こう側、まっさらな子で、本当に後輩でしかない子だ。変えようがない過去として私と同じものを見た『シロコ』ちゃんと違って、あまり深くは共有すべきではない。
……それでも、私の思い悩むところはといえば、この子達のこと。生まれ持った性質をどうしようもないと言ってしまったら、この子達をどうするのか。悩んだところで、思いつきもしないくせに、一丁前に格好だけつけたがってさ。結局私は、形が変わってしまうことや失うことばかりから遠ざけるばかりで、そういう寄り添っていくしかない事柄に慣れていなくて、恐ろしいだけなんだ。
「……不安に思ってるだけだよ。私がちゃんと先輩としてやってけるかどうか」
「なんだ、そんなこと」
「そんなって───」
「ホシノ先輩は、私たちの将来とか、人生とか、幸せのことを考えすぎ。……先輩と後輩っていうのは、今ここにある青春の共犯者でしかないんだから」
シロコちゃん同士で目が合う。『シロコ』ちゃんも、私の肩を撫でながらこくりと頷く。
「ホシノ先輩が思ってるより、大丈夫だよ。私は」
「……そっかぁ」
「でも、一緒に過ごせるのは嬉しい。先輩っていうのは、そういうものだと思う」
そう、シロコちゃんとか、対策委員会のみんなとか、そういう個々人の過去や未来の話じやなく。それは言葉を交わして、肌を触れ合わせて、思いを馳せて初めて見えるような形ないもの。……それを壊れないようにするには、自分の身を投げ出したりとか、全部を背負い込んだりなんて極端なことじゃあいけない。ただお互いに、懸命にその輪郭を確かめ続けること。近道なんて無い。
「参ったねぇ、すっかり二人をおじさんのカウンセリングに付き合わせちゃった感じだ」
「ううん、それは違う。3人で出かけようってなった時、それも私の趣味に合わせてくれるって聞いた時、嬉しかったし」
「悩んだりすることも青春、だって話だから。先生の受け売りだけど」
「……2人がいいなら、私はそれでいいけどねぇ」
心地良い空間に、身を投げ出す。『シロコ』ちゃんは肩を、シロコちゃんが足ツボを揉み始める。私は喚きながら緩い抵抗をして、されるがまま。「とほほ〜これじゃぁあたしゃ本当のおじさんだよぅ」なんて言ったりして。
†
割高な室内販売のミネラル・ウォーターのキャップをぱきんと開けて、こくこくと嚥下する。……建物の表に自販機があったような気がするなあ、なんて思うけどいまさら後の祭りってものだ。土砂降りに濡れた衣服は干してあって、バスローブを着てみてるのだけど、これがまあしっくり来ない。油断したら裾を踏んづけそうだし、肩のあたりが余ってる気がしてしょうがない。私よりは体格のいいシロコちゃん、更にそこからグラマラスになった『シロコ』ちゃんはわりとサマになってるのに。……ていうか、
「二人とも、何見てるの~?」
「ん、専用番組」
「専用?」
「アダルト系の……」
「ああ……まあ、あるよね、うん」
突っ込んでおくべきか悩んで、いやまあ今更かと思ってやめる。
怒られるよねぇこれ、先生はもちろん、セリカちゃんアヤネちゃんには言えやしない。ノノミちゃんは……たぶん、仲間外れにしたのを根に持つんだろうなぁ。うへ、想像しただけでぞっとするや。まあシロコちゃんたちもその辺は分かってるだろうし大丈夫でしょ、たぶん。リモコンを持ってるシロコちゃんの肩あたりに頭を寄せ、覗き込む。タイトルは……
”陰謀と罠総集編4時間SP㊙︎映像あり”
”褐色の誘惑vol2〜白砂のプライベートビーチで捕まえて〜”
"湯けむり探訪 ゲヘナ編6 メガネと帯は取らないで"
"愛しのあの子は委員長〜あなたにだけは甘えさせて〜"
「何この……何?」
「あ、カーソルを合わせると予告編が流れるんだね。これは……激しいね」
「SMってやつかなぁ、凄い格好だし」
「えす……?」
「うん、二人とも覚えなくていいからね」
「ん……こっちはタイトル通り褐色の役者さんが寝転んでる。凄いカメラワーク」
「近すぎない? っていうか脚映しすぎじゃないの。フェチってやつなのかな」
「湯けむり……温泉ものみたいだね。あっ、さっきの私たちみたいな、」
「はいはいはいはい次次次、おっ、お仕事系っぽいけど小柄な子だね……?」
「ドラマパートが多いみたい。ん、これにしよっか」
「いやいや、どれもダメだから」
「あっ」
リモコンを奪い取る。取り返そうと伸びてくる手からそれを逃す。餅みたく膨らんだほっぺをからかったら、飛び掛かってきて、ベッドに倒れ込んで。もみくちゃになって、お互いにけらけら笑った。馬鹿みたいなことしてる私たちを『シロコ』ちゃんが困った感じで見つめるから、手を差し出す。「ほら、君もおいでよ」って。おそるおそる添えられる手を掴んで、ぐっと引き摺り込む。転がり落ちてきた彼女が戸惑うのを、間髪入れずにわしゃわしゃと撫でてあげる。痛々しい寂しさもくだらない躊躇いも思ってる暇がないように。……だって、青春に目を向けるって、そういうことでしょ。後先のことを考えちゃうなんて、それは物足りないって話だ。そうやって、拗ねて間に入ってきたシロコちゃんもはいはいと宥めてあげたりして。よしよしとやってあげたら、そうじゃないって言いたげに。ん、目を瞑ってねだってくる。
「……シロコちゃんもマセちゃったなあ」
キスをしてあげる。最近慣れ始めた、舌を絡めるようなやつを。シロコちゃんはまだ慣れないみたいで、舌使いも拙くって、私が触れるたびに一瞬強張っては引っ込めるような臆病さだ。ああ、こういうとことか、紛れもなく悪い先輩やってるなあ。
ひゃっ、と声が漏れ出る。シロコちゃんの首筋、『シロコ』ちゃんが舌を這わせる。
「ん、弱いところは私と同じ」
「っ、それ、くすぐった……っ」
「ちょっと前、抜け駆けしたから。その埋め合わせ」
「私は別に、そういうのは───」
『シロコ』ちゃんが目を細めながら、するするとバスローブの隙間に手を這わせていく。シロコちゃんが悩ましげに眉根を寄せる。普段はぼんやりと柔らかい表情筋が硬くなって、目が合う。じわりと熱に濡れた瞳が恥ずかしいみたいで、すぐに逸らされる。無意識に喉が鳴る。
「ん~、シロコちゃんいいねえその顔。純粋なコが恥じらいを覚え始めた感じで」
「……たとえが、おじさんっぽい……っ、」
「うへへ~そんな言われ方されるとショックだねえ」
呻き交じりの声、熟れた桃みたく染まる肌。その頬を撫でてあげたりして、絡み合う輪郭を撫でて下へ下へ。バスローブの隙間から、そのぴちぴちの弾力の太ももを撫でる。お風呂上がりの肌はもちもちで、吸い付いてくる。指を這わせていく。ふと、それに応えるかのように、シロコちゃんが脚を緩く開く。
「期待しちゃった?」
「……っ!」
返事は吐息で。『シロコ』ちゃんの指はシロコちゃんの胸の先端をくりくりといじめて、耐えようと噛み締めてる歯の隙間から裏返った声が漏れていた。緩く開かれた脚の隙間、伝う汗に逆行するみたく近づいて、薄い銀色の毛並みの奥、ぬるりとした感触に触れる。
「すご、もうトロトロだね……キスの時から?」
こくこくと頷くシロコちゃんは、絡みつく『シロコ』ちゃんの責めに耐えながら。責めてる彼女の方もまた、うっとりとした感じで、熱が伝ったような様子で。
ぴとり、と指を入り口に添えて、沈めてく。シロコちゃんの目を、じいっ、と見つめながら。私の視線を感じながら、声をこらえて、それでも幾度か目が合って。シロコちゃんの内側はきゅうきゅうと思い切り吸い付いてくるような感じで、指から何か搾り取られてしまいそう。ずるずると侵入して、とどまる。第二関節までを埋めたあたりで、指にぴったりと触れ合って離さないシロコちゃんの内側の輪郭を感じる。……シロコちゃんは、ただ、すっかりと顔を逸らしてしまって。
「シロコちゃん、なか、すごいよ。動かしてないのに、びくびくしてる」
「……っ」
「ね、見せてよ。感じてる顔」
シロコちゃんは、おそるおそる顔を、こちらに向けて。紅潮した頬に、目尻から溢れた涙が伝って。喉の奥に喘ぎを堪える口元は緩く開いて。それに、かわいい、と囁いてあげたら、指にきつくまとわりつく。軽く指先だけを揺らしてあげる。指の原で、ゆるゆると擦るように。
「っ、せんぱ、い」
「ん、いいよ。シロコちゃん」
私が指を折り曲げて、『シロコ』ちゃんが責め手を緩めて、シロコちゃんを優しく抱きしめるようにして。くしゃりと歪んだ表情を私は受け止めて、びん、と足先が伸びてるのを認めて。絶頂の波に震える彼女が、荒く、激しく息を繰り返すのを、じっと聞いていた。指はきっと溶けてしまったようだった。
まるで限界まで潜水した後の息継ぎみたいに、シロコちゃんは賢明に息をして、額から滲んだ汗がベッドの染みになっていた。髪を撫でようとすると、余韻のくすぐったさで大袈裟に跳ねて、不意に合った目は潤んで。ちょっとやりすぎちゃったかなぁ、と思っていたら、額が胸に飛び込んできて、ぐりぐりと押し付ける。
「よかった。けど……ちょっと恥ずかしい」
「うへへ〜、ごめんね。シロコちゃんがあんまりかわいいもんだからさ。ね?」
「……うん。あなたは、私のこの居場所のきっかけでもあるから」
『シロコ』ちゃんの言葉にシロコちゃんはむず痒そうにして、やがて、仕方ないって風に笑った。それはまだちっちゃい子供が、妹のわがままを許してあげる仕草のような。
「ん……でも、ホシノ先輩はダメ」
「えっ」
さっきまでの弛緩した様子はどこへやら、組み伏せられる。うへぇ、って鳴き声を上げる間もなく、見事な連撃で私は『シロコ』ちゃんの豊満な胸に顔面を包まれ、どこか甘い感じの匂いに満たされる。見上げると、『シロコ』ちゃんはちょっとサディスティックみのある怪しさで笑っていた。その間に足が掴まれて、こじ開けられる。私の……人に見せるようなものではない部位の近くで、シロコちゃんの髪の毛先が触れる。
「あー……ちょっ、シロコちゃん、それは、」
「…………ホシノ先輩が茶化して言う時は、照れてるだけ」
ああ、なんて察しのいい子だろう。『シロコ』ちゃんもくすくす笑ってるし。あれ、私って思ったより後輩ちゃん達に見抜かれてる部分が多いのかな。……なんて、現実逃避。よりにもよってシロコちゃんに、そんなとこの形も匂いも味も覚えさせたくはないのだけど、私のそういうところばかり、この子たち二人は優しく抱きしめてくれるから。
舌が触れる。
甘い堕落に身を委ねて、どろりとした輪郭に二人の手を探して、声をあげてないた。
†
「んん〜……しっかり晴れたねぇ」
雨上がりの日差しを浴びながら、伸びをする。部屋に残してきた余ったるい倦怠感を乾かしていく。
「……今度こそ天気予報も問題ない、はず」
「どうかなぁ、アクシデントはつきものだよ」
「ん、その時はその時。また同じようにする」
「さすがにそれは身が持たないよ〜」
建物の陰から出れば、海風が吹き荒れて、髪を靡かせた。砂嵐みたいだ。シロコちゃん、『シロコ』ちゃん。二人を見て目を細める。
「……ねえ、元々の目的地より、もうちょっと先まで行かない?」
「それは……たぶん、漕ぎ慣れてないホシノ先輩の負担が多いと思うけど、大丈夫?」
「うーん、さあ、それはどうだろねぇ。まあ、やってみようよ。とりあえず」
「…………」
「で、『シロコ』ちゃん。帰ったら一緒に住もっか」
「え?」
『シロコ』ちゃんは二、三度瞬きして固まって。シロコちゃんも興味深そうに、ずりずりと接近してくる。
「今の私たちのことと、将来の話だけどね、……先のことばっかり気にして、今を疎かにするのは良くないでしょ。だからこそ、これからの為に将来をどうしたいかを考えとくのもいいんじゃない?」
「将来っていうのは……私の?」
「うん。それと、私の方もね。……私が卒業した後、シロコちゃんノノミちゃん、セリカちゃんアヤネちゃん。みんなが無事に学生生活をやり切れたらそれでいいかな……って、終わりを決めつけてたんだけどさ。そうじゃなくって、別にそこで好きなことを終わらせなくたっていいんじゃないかなってね」
「……私もいいと思う。『シロコ』の生活のしやすさもそうだけど、ホシノ先輩が先輩じゃなくなっても、今みたいに笑えるなら」
「もちろん、卒業してもOGとして遊びに行くつもりだけどね〜」
「………良い先輩をしてたら、私も引き取ってくれる?」
「してなくってもだよ。優等生も問題児も、どっちだって後輩に変わりないんだから、───どう、『シロコ』ちゃん。そんな未来は」
「…………そんなの、まるで夢みたい」
「じゃあ、叶えちゃおうよ」
差し出した手を握った『シロコ』ちゃんは、雨上がりの青く澄んだ空を背にしながら、涙ぐんで、はにかんで笑った。