やっと前哨戦
次は後で投稿します
領と外界を繋ぐ大門よりも幾分荒んだ道を抜け、更に北へ北へと足を運ばせる。
結局使われず仕舞いになりそうだが、今宵身体を休めさせる宿は商人用の出入り口よりも離れた場所に有ったので、領の結界の外へ出るには大きく回り込む必要が有った。
「はぁ、はぁっ……ここ、だろうか……?」
息せき切らして走り込むこと早数分。
街道から大きく離れ、結界の境界線を弧状に沿って進めば、月へと揺蕩うあの影を見た場所へと辿り着いく。
陽が地の底へと沈み浮かび上がる事の無い魔の刻。そんな時間帯にろくな明かりも持たずに飛び出してきた無謀さは――しかし今はどうでも良かった。
「誰も、いないな……」
いざそこへと来て辺りを見渡してみれば、一面に広がるは冷たい森の始まり。木々は獲物を待ち構えるかの様に膨れ上がり、それでいて辺りは静寂に包まれていた。乱生してる雑木の間には名も知れぬ蔦がおびただしい数を成して纏わりついていて、その床には数々の落葉が不安定なままに積み上げられている。。
まともに入り込めばおよそ生きてはいられない自然。しかしよく見ると、それに連なる様に小さく切り開かれた道が存在している。人ひとりがなんとか通り抜けられるくらいの、そんな道が。
こんな所にわざわざ入る用が有る人間はまずいない。
となればこれは、いったい。
「――」
そんな僅かな違和感に気を取られた、刹那――
とても鋭い音が、澄んだ空気を一瞬にして切り裂いた。
轟音とも言えよう聞き覚えの無い異音は、しかし何なのかと記憶から比較する間もなく、ただ一直線に揺るぎない衝撃を内包しながらやってきた。
「え……?」
特にこれといった身体能力や強化魔法も無いと自負している俺には、まともに避けられるはずもなく。
ちょうど心臓の位置くらいだろうか、それは思いっきり直撃した。
まるで地を穿つかの様に、勢いは身を抉ってきて――
「いた……痛くない?」
別に痛くはなかった。蚊に刺された時の様な、いやそれすらも感じ取る必要性は無いくらいに。
弾かれたそれは、からんと無機質な音をたてて大地へと転がった。
地に落ちたものを見てみれば、はたして弓矢で射られたのだろうか。
鏃らしき物体が、下に突き刺さっていた。
「意識外からやったのに、これすらも効かないんだ」
すると馴染みある声が彼方より聴こえてくる。
頭上を見上げてみれば木の股にちょうどこちらへと弓矢を構えた女の子――そう、リーニエちゃんがそこには居た。
いつも通りクールな感じを保ったまま、しかし僅かにその眉を顰めながら。
俺は平静を装い、まるで長年の付き合いをしている友人に会った時かの様に極めてフレンリーに挨拶する事にした。
「やあ、リーニエちゃん。久しぶりだね」
「……」
「あの日から数月経つけど、今でも君の肢体を忘れられなくてね。つい、君が居る気がしてここまで来ちゃったよ」
「……っ」
そう言ってみれば、無表情ながらも隠しきれていない怒気がより強まった様な気がした。
そりゃそうだ、俺がもし魔族だったらこんな事言われた瞬間にブチ殺してる。
「――あれから、私はお前をどうやって殺すかどうかずっと考え続けてきた」
「そうなんだ。俺はというと、君のあられも無い姿をずっと想像の中で弄りまわしていたよ」
「ぐ……っ! 私は、わたしは……お前から受けた屈辱を一度たりとも忘れた事は無かった――っ!」
リーニエちゃんは強く怒りを覚えているのだろう。彼女が持つ武器である弓が、張っている弦が、感情と共鳴するかの様にぷるぷると震えている。
まじか、リーニエちゃんもずっと俺の事を考えていてくれたのか。
これもう両想いでしょ。
「お前が持つその謎の力は、防御魔法ですら無いナニカだ」
「防御魔法? なんだそれ初めて聞いた」
「……。せめて感知して初めて動くものなら、魔力をあまり通さない隕鉄の矢で殺せると思ったのに。意味が、分からない」
なるほど、リーニエちゃんの攻撃が俺に効かなかったのは理由は分からんが偶然じゃなかった様だ。
この世には結構一から百まで色んな種類の魔法が有るらしくて、しかし俺はその初めの一すらも知らないワケだけれども、リーニエちゃんは彼女なりに色々と調べてくれていたみたいだ。
尽くしてくれる女の子とか最高かな?
「それにしても運が良かったなあ、君に会えるなんて。探していたんだよ? この辺を襲っていた魔族の外見や名前は調べていたけど、だいぶ君とは違っていたからね。確か、えっと、アウ……なんだっけ?」
「アウラ様だ」
わざと名前をボカしてみれば、すぐに訂正される。ほう、様付けですか。少し驚いた、上司的な存在なのだろうか。
ううむ。魔族の生態自体はあまり知られていないけれども、意外な事に人間と同じ様に縦社会なのかもしれない。
魔族も大変そうである。
まあ、それはそうとして。リーニエちゃんが実際にその街を襲っていた魔族の下についているとなれば、結界のこんな近くまでやって来たのは何か理由が有るのだろう。
「ふーん。まあどうでも良いけど、どうしてこんな所に居るの? ここ街の外の、結界が有る場所だよ? 魔族の君は背伸びしても通れないけど」
「……」
「答えてくれないか。なら、もしかして俺が居ると分かって会いに来てくれたとか?」
「――ふざけてるの?」
「ごめん」
場を和ませようとおどけてみたが、かえってリーニエちゃんはより怒ってしまった。
そりゃそうか。流石に思考がお花畑過ぎた。
……でもここまで来る理由って、一つぐらいしかないよね。
「なら他の理由か。例えば、街の偵察……いやもっと端的に言えば、街へ侵入するための結界を解く手段――それを探しているとかかな?」
「……!」
そう言ってカマをかけてみれば、息を呑む音が聴こえた。バレバレじゃないか、これ。無表情だから心情を悟られない立ち回りが上手いのかもしれないと考えていたが、実はそうでもないらしい。
魔族は人を欺いて陥れるのが仕事だろうに、良いのかこんな分かりやすく反応しちゃって。
なんというかまあ、人とか魔族とか関係無しによく騙されそうな子である。
それは生来の気質か、それともまだ魔族としての生が短く未熟だからか――
ともかく。これは何か、利用できそうである。
そこまで気付き、しばしの間悪巧みに耽った後――
俺はとっても良いことを思いついた。
成功した未来を考えただけでも唆る、最高のコトである。
「……っ」
「くくく、そうか。いや、言わなくても分かるよ。そこまでして結界を解く手段を見つけたいんだね」
「違う」
「もしかして上司に褒められたいから、こんな感じで単独行動してるのかな? 健気だな~」
「黙れ」
「で、そんな可愛いリーニエちゃんに耳寄りな良い話が有るんだけど。どう?」
俺はそんな最高の未来を思い浮かべながら、策を講じる事にした。
「……は? 良い、話……?」
「そう。取り引きって言うのが正しいかな?」
さて、ここらが正念場だ。
俺は極めて淀みないなく、脳内でシミュレートした誘い文句を繰り出した。
硬い壁に囲まれた街の向こうを指さしながら、薄っぺらい言葉を紡ぎ始める。
「俺はよくこのグラナト領に来る商人でね。君も知ってる通り、リンゴやら何やらを作ってる農家でも有るんだけど」
「……」
「ある日街のとあるお店に果物を納入してたら、お忍びでやって来たお偉いさんに名産品だって気に入られちゃってね。その人、どうもグラナト領の領主様みたいなんだ」
「……!」
「それでよく街へ来る度に屋敷に誘われていてね。今では顔パスってくらいの仲なんだ」
もちろん、嘘である。
作ってる果物を領主様に褒められた事も無いし、直接会った事も無い。というかそもそも名前すらも知らない。
まったくの他人である。
「ここだけの話、領主様はどうも結界を解く為の魔法を代々先祖から伝えられているようでね……そのカギとなる秘密も屋敷内にあるみたいなんだ」
「そう、なの……?」
適当に考えたでまかせを、とても慎重かつ少しでも聞き逃さないといった感じで一字一句噛みしめるリーニエちゃん。なんて流されやすい子なんだろう。
「そうだよ。で、そんな領主様の屋敷へと俺は自由に出入りできるわけだ」
「自由に?」
「うん。君が知りたい秘密も、俺ならすぐに触れられるってこと。これが何を意味するか、分かるかな?」
「……!」
もちろん、これも嘘である。
当然アポも何も無いので何も考えずに行けば衛兵に引っ捕らえられるだろうし、そもそも平民には許可すらも出してくれないだろう。街を守る長がそんな簡単に会える存在だったら、街を取り巻く治安が心配である。
人間社会ではこれは当たり前の事なのだが、どうも魔族であるリーニエちゃんは真に受けているようで……。
「君がもしちょっと良いことしてくれたら、俺も協力してあげようかな~なんて」
「……何が目的だ」
かかった。
絶対にかかった。
俺は今にでも飛び出しそうな歓喜の感情を何とか抑え、次を続ける。
「そりゃ当然、イイことだよ。初めて出会ったとき酒に酔って君には結構酷いことしちゃったけど、俺としては不本意でね」
「……」
「女の子に無理やり、ってのはあまり趣味じゃないんだ。できれば一緒にイチャイチャしたくて」
「夢見過ぎだろ、童貞かよ……」
「それは違うよ。よしんばそうだとしても、君で卒業した事になるけどね」
「ふざっ……」
「どうどう」
リーニエちゃんのドレスが風も無いのに揺れていた。
今にも怒り出しそうなので、冗談はここまでにしておこう。
「もしリーニエちゃんの方から攻めてくれたら、誠意として俺も君が望む物を渡してもいいかな~なんて。もちろん、性的なことだよ?」
「……本当に? 間違いなくそれは、人に対する……」
そう言ってリーニエちゃんは口籠ったような感じを見せた。
おそらく反逆だと言いたいのだろう。
そりゃそうだ、結界の鍵となる情報を明け渡す事は長い間守られてきた安息の地を危険に晒すわけで。その覚悟が本当にあるのかどうか、問われているのだろう。魔族の手に落ちてしまえば、何百万もの命が犠牲となってしまうこと間違いない。
もし完遂されたら人類史に残る大罪だよコレ。
「ん? あ、そんなこと大丈夫大丈夫。気にしないで。俺、性欲に流されがちなタイプだから。人を裏切るなんてよゆーよゆー」
「……!」
まあ、そんな度胸は欠片も持ち合わせていないのだけれども。
どうにかなるでしょの精神でいるが、多分いざ現実になったら尻尾を巻いて逃げちゃうね俺は。
まったく、なんて無責任なヤツなんだろう。こんな事を言う男がもし居たら、ご尊顔を拝んでみたいね。
……俺だったわ。
さて、そんな問いかけをしてから。
リーニエちゃんと俺の間には結構な時間が流れていた。
「……くっ」
誘いを受けてから、しかしリーニエちゃんは明確な返答を返していない。
おそらく彼女は考えてあぐねているのだろう。
俺がその約束を守ってくれるのかとか、それは辱めを受けてまで得る価値が有るものなのかとか、そもそも本当に領主と関係が有るのかどうかとか、その他もろもろ。
分からんでもない。自分に屈辱を覚えさせられた人間だ、普通に信用も無いし何より軽薄そうである。
だがしかし、今俺は確かな手応えを感じていた。
彼女の反応を見るに、結界の無効化は実際結構な良い条件なのであろう。もし本当に街を陥落させる事ができれば、それだけで人間に対する復讐という本懐へ、確実に一歩踏み出す事ができる。それが果たして、その身を犠牲にしてまで得る価値が有るものなのかは、人間の俺には分からないけども。
リーニエちゃんに限らず、魔族は人間を取るに足らない羽虫の様な存在と考えている節がある。なら、ここは羽虫に噛まれるだけだと思って受け入れてくれたり、してくれたり。どうでしょう、試してみる価値はありませんか?
そんな事を考えながら、彼女の返答を待っていた。
すると、しばしの時が経ってから。
リーニエちゃんは口を開く。
「……分かった。従うよ……」
「――――――――――――――ッ」
俺は思わず、心の中で叫んだ。
歓喜した。
勝った。
勝った……!
チョロ過ぎるだろ……!
人の悪意を知らない世間知らずな女の子を騙して楽しいか?
楽しいに決まってるだろ。
俺はこの為だけに生きている。
この世に性を受けているんだ。
生きてて良かった。
そんな事をしみじみと思い入るのである。
「どうせこうなった以上、変な力をまた使われるかもしれないんだし。されるぐらいなら……」
リーニエちゃんが覚悟を決めたのか、大地へと降り立った。
彼女が纏う古風なドレスがいい感じに重力と抵抗しながら、しかし捲れあがる事なくふわりと舞い降りる。
どうやら早速シてくれるようだ。おそらく、彼女は好きな食べ物は最初に食べてしまうタイプなのだろう。なんて可愛いんだ、たまらないね。
「じゃあ、俺は横になってるから。後は頼む」
俺は彼女を見届けると、これ見よがしに野へ寝転んだ。
う~ん、ひんやりして気持ちが良いね。
夜空を見上げてみればどこか遠い所で蒼い色が輝いており、なんとも幻想的な気分にさせられる。
「ぐっ……」
そうしていれば、リーニエちゃんが苦虫を噛み潰したような声を出した。
俺が一番に何をして欲しいのか、それがすぐに分かったからだろう。
――突然だが、俺は女の子に上になって貰える体位が好きだ。
具体的に言えば、騎乗位が好きだ。娼館に行けば真っ先に嬢達にしてもらってたし、多分それが殆どを占めていたと思う。
それは何よりも、女の子から奉仕して貰っているという事実が良いからだ。この、奉仕をしてくれているというのがとても重要である。
例えば名も知れぬ極上の美女が、我が家の中で裸のまま横たわっているとしよう。余程特殊な事が無ければ男は迷わず性的興奮を覚えてしまうだろうし、中には女を組み伏して犯してしまう者も居るかもしれない。だが世間体を考えれば、理性で何とか抑えるというのが大半では無いだろうか。
だがしかし、女の方から迫って来られたらどうだろう。拒める男はほとんどいないのではないかと、俺は思うのである。
積極性――それはなんて甘美な響きなのだろうか。
馬乗りにされて、分身を受け入れられながら腰を振り乱され。乳房を揺らされながら、あられもない姿で踊られて。どちらのものだったのか分からないほどぐちゃぐちゃになりながら、ただ快楽を求める為だけにかき回されて。
こんな状況では、お互いのペースなんて把握できるはずも無いだろう。もし万が一を考えて直前に抜かなけれない時、男が上になる体位では簡単だろうが、逆だとそうもいかない。
だがそんな事も気にせず、ただ無用心に貪られたとしたら。それはきっと何かの裏返しかもしれないし、全く違う何かなのかもしれない。それはきっと終わるまで分からないが、感じるモノは一緒だ。
底知れないほどの肯定感と幸福感。
それが何よりも堪らないのである。
まあ要するに、リーニエちゃんに馬乗りになって欲しい人生だったという事だ。
ちなみに最初のあれは無理やりなのでノーカンである。
「早くしないと、教えてあげないからね?」
「うぅ……」
仰向けになっている俺のもとへ来たリーニエちゃんは、渋々といった感じで頷いた。
なんでこんな目に、といった想いがすぐに読み取れるなんとも言えない面持ちをしている。可愛いね。
「しょうがない。やってあげる……」
すたすたと足の間に割入ってきたリーニエちゃんは、するすると着ていた物を自分から脱ぎだした。俺としては、いつもの彼女を見慣れている分着衣のままでも良かったのだが、どうにも服の構造的に難しいらしい。
彼女を守るものがドロワーズしか無くなった所で流石に辛抱堪らなくなってきたので、声高にズボンの内で主張するモノだけは外に出しておいた。本当はリーニエちゃんにやってもらうつもりだったが耐えられん。
「君の裸を下から眺めていたら、こんなになっちゃったよ。責任取ってくれるかな?」
「ぐ……分かったよ」
しょうが無いなといった感じで、最後の砦を取り払うリーニエちゃん。銀雪の様に白くて儚げな身体が、月明かりをコントラストに一望される。
そして何よりも目が行くのは、その先に有る乙女の花園。あの日存分に楽しみ、花々を踏み躙った魅惑の所だ。そんな場所へとまた、彼女は男のモノを受け入れようとしている。
その事実に、俺はどうしようも無い程に興奮していた。
「……流石に外すか。そもそも効かないかもしれないし」
リーニエちゃんはそう言うと、機能性の有りそうな靴――確かパンプスと言うのだったか――を丁寧に脱いで、ちょこんと横へと置いた。
……ん? 靴?
別に外さなくても、騎乗位はできる様な――
そんな困惑の念を頭に浮かべた刹那。
それは振り下ろされる。
「ほれ」
「んん゛っ??!」
竿へと振り下ろされ、きつく踏み付けてくる何か。
一瞬の事に思考が飛んでしまったが、何なのかはすぐに理解できた。
それは、リーニエちゃんのおみ足だった。
正確に言えば、足裏だった。
「馬鹿だな、やってあげるわけないじゃん。お前なんかこれで十分だよ」
こんな感じで漫才続けていきます