ちょっとこれ無しでは書けなかったので
少し注意
「いいザマだね」
「くっ、なんて事を……」
驚いているこちらの姿をまじまじと見下ろしながら、絶え間無く圧迫感を伝えてくるリーニエちゃん。彼女の白くすらっとした足が股間の上に乗せられて、弄ぶかの様に踏みつけられているのだ。
少し前屈みになったリーニエちゃんは、極めて冷酷な表情を以って俺に嘲笑を浴びせてきた。
「思ってたの、してもらえなくて残念だったね」
今まで覚える事の無かった未知の感覚によって痺れる頭をどうにかして、現状の把握に努めることちょっと。
どうやら俺はリーニエちゃんに騙されてしまったらしい。
彼女にご奉仕して貰おうとそのまま転がったのは良かったものの、何をして欲しいか明確に伝えていなかったのがあだとなった。行き場を失った分身はまるでぬかるんだ泥地を踏み抜かんがごとく、投げやりに扱われてしまっていた。
これが巷に聞く、足コキというヤツなのだろうか。
「うわ、こんなのでも興奮するの? 気持ち悪い」
そう罵倒しながらも、少し体勢を崩してよろめくリーニエちゃん。おそらく慣れていないのだろう、自らの腰になんとか片手を当てながらバランスを取ろうとしていた。
彼女から与えられる刺激はどこかぎこちないものが有って、思う一番の刺激が得られない事によってやきもきしていたものの――
――なぜか身体は快感を受け入れてしまっていた。
「なんか最初に立たせてた時よりも大きくなってない?」
「そ、そんな事は……」
「こんな興奮するなら、もうこれだけで良いと思うよ変態」
俺はリーニエちゃんの言葉に反論したくなった。娼館で学んだ知識によるとそういった男女間でのプレイが有る事は知っていたが、それは所詮前戯に過ぎないモノだと俺は考えていたからだ。本番が本番として締めの様な存在で扱われている以上、やはりそれで一番に気持ちよくなりたいと思うのが普通だろう。
でもそんな意思と反して、己の身体は拒む事を選んでくれなかった。
「くっ、くそ……」
「なに? 嫌なら抵抗すればいいじゃん。別にそれほど力入れてないけど」
依然として冷たい面持ちのままこちらを見下ろしてくるリーニエちゃん。しかしその口調はどこか少し弾んでいる所があった。もし彼女がもっと表情に出るタイプだったのならば、心底嬉しそうに、愉しそうに甚振ってきたのが目に浮かぶ。憎い相手を素気なく扱っているのは、それはもう気分が良いに違いない。
対して俺は、彼女の攻めを受け入れたままだった。
生殖器は男にとって急所の場所。そんなところを足で踏まれているのだ、どこか恐ろしい未来を感じずにはいられないはずなのに。
なのにこの身が感じてしまっているのは、全身がそのまま弛緩しまいそうな抗いがたい甘美なモノ。
こんな方法で、こんな感覚を得てしまった事は初めてだった。
いったい、どうして。
分からない。
「は、離せ……」
「離して欲しいなら動けば良いよ。適当に振り払って、それで終わり。なのに、なんでそうしないの?」
「それは何故か、できないから……っ」
「違う」
そんな現実を受け入れられず、唯一まともに動く口を使って抵抗するが、しかし身体は付いてきてくれない。彼女の言う通り、嫌なら振り払えばいい。
それほど上手く踏みつけられていないのも有るが、力はあまり加えられていない。それは良く分からないナニカが作用しているからなのか、それとも彼女が持つ僅かな慈悲のおかげなのか――どちらにしても、嗜虐を受けた身体は思い通りに動いてくれなかった。
踏まれる度に揺れる肢体が、一番に滅茶苦茶にしたかったモノな筈なのに。思うがままに腰を振らせて、快感に歪む彼女の顔を堪能したかった筈なのに。
それなのに、思いもしない全く別の事で反応してしまっていた。
「
「……!」
見透かした様な言葉に、思わず震える。
「ほんと、人間の男って単純だよね」
「ぐっ……」
「気持ち良いならなんでもいいんじゃない? その辺の地面や建物の穴とかに突っ込んでも大きくしてそう」
「なっ……い、いやそれは」
「魔物とかでも良さそうだね。この変態ならすぐに発情する」
リーニエちゃんの声のトーンが一段階……いや、もっと下がった様な気がする。魔族の思考概念にも、人間と同じ軽蔑や侮辱といった概念が存在する事を俺は強く認識した。流石に無機物や魔物に発情する事は無い、と思いたいが……。
いやでも、世間一般的に言葉を話す魔物として分類される目の前の女の子に興奮してる次点で、そんな言い逃れは無理かもしれない。
「馬鹿にしてるのに、なんで大きくなってるの? なんか逆に腹立つな」
「そんな無茶苦茶な……」
「ああ気持ち悪い。……そうだ、いい事思いついた。今あなたが置かれている状況、詳しく教えてあげる」
「え」
リーニエちゃんは鬱陶しげにそう言うと俺から視線を離して、どういうか辺りを見渡し始めた。
いったい何が。誰か来たのだろうか?
そこまで考えてから、それは無いだろうと思い直す。
街のすぐ近くの外とはいえ、遠回りをしないと来れない場所。こんな辺鄙な場所に来る物好きなんていないはずだ。
ならば、どういう事なのか。
「ここがどういう場所か分かる? ……って、今のお前には空しか見えないか」
「……?」
「あの壁の向こうに伯爵領。その外は、この辺りからは少し離れた場所だけれども――前に私達魔族が人間と大戦を行った場所だ」
それはもちろん、俺でも知っている。
酒場にて昔この辺りで暴れていた魔族の事を聞かされたし、この辺りで街の存続を脅かすほどの戦争が有った事も当然知っている。
たしか領内の若い衆が多く駆り出されて多くの命が散ったとか何とか。そのせいで、領の人口における年齢層は歪なほどに偏っているらしい。酒場付近の人口は主に高年齢の男性が多くなり、しかし住宅街となると若い女性が逆に増えていたと覚えている。
「取るに足らない奴らだったよ。まあ私は後方だったけど」
「……」
「でも、大変だった」
「そうか……」
「ねえ、なんで大変だったと思う?」
リーニエちゃんが一呼吸置いて、こちらに問いかけてきた。
それはどういう意味なのだろうか。
俺は思考が纏まらない中で考えようとしたが、どうにも考え付かなかった。
「――私が、生き残った人間達の首を斬り落としていたからだよ」
「……!」
思わず、息が止まった様な感覚に陥った。
「ああそうだよ、人間の首を刈っていたんだ。そうしないと、使えなかったからね」
「……――それが、どうしたと言うんだ」
「馬鹿だな、分からないの? ここで沢山の血が流れたということ以外無いだろ」
「……」
「そうそう、辺り一面真っ赤でね。服に付いた汚れを落とすのが億劫だった覚えがあるよ」
果たして何が言いたいのか。
上手く思考をこねくり回してみたが、依然として思い付かない。
――いや思いつかないのでは無く、あえて思わないようにしているのかもしれない。
たしか首切り役人というのだったか、そんな存在が居ることは噂されていて、それが魔族であろう事もなんとなく分かっていたが、あまり考えない様にしていたのだ。
首を切ると本人の意思が亡くなるとか、傀儡の生ける人形になるとか、聞いてて気持ちの良いものでは無かったからだ。
未知のものはやはり怖いし、触れたくも無くなるのが普通だろう。
「私達魔族は人間の魔力を食らう。だけど別に健啖家というわけじゃない。必ず余りは出るし、余った
だから、捨てるの」
「捨てるって……?」
「知ってる? この辺りの、ちょうどそこの森には凶暴な魔物が住み着いていたの。今はどうか分からないけどね」
「……」
「ソイツに適当にあげとけば、後処理もしっかりとしてくれててね。凄く助かってたんだ」
そう言って。
馬鹿でも簡単に理解できる様に。彼女は噛み砕いて、とても分かりやすく説明してくれた。
それはもう、とても。とても、分かりやすく。
ここまでされたら、理解を拒否していた俺でも何が言いたいか分かる。
すぐ近くに有るあの森は。
思わず誘いこまれてしまう様な錯覚を覚える、日もまともに差し込まない鬱蒼としたあの森は。
酷く冷たく、凍える程に幾多もの亡躯が積み上げられた暗い世界だったのだ。
あの森へと一体どれだけの命が浸されたのか。それを知ることは、もう不可能だろう。
あの森の近く。ちょうどこの辺りに人々が積み上げられ、まともに弔われる事無く魔物の餌となっていった。
死せる魂を弔う事が求められているこの人間の世で、それが叶わない事がどれだけ
「これは他から聞いた話だけど、人の魂は寿命をまっとうして死ぬと空高く昇って天国へ行く――って信じられてるんだったか。魔族と全く違って面白いね」
「たしかに、そうは言われているが……」
「――――――なら、魔物に食べられてしまった人間は?」
見上げても、相変わらず表情は変わっていない。
だがその口調には、嘲笑う様な意思が含まれていた。
人を人としてではなく、都合の良いモノとしか思っていない。
そんな存在が現れていた。
「間違いなく、天国には行けない。天国の反対は、地の底? よく分からないけど、まともな場所じゃなさそう」
「……」
「案外その辺に居てふわふわ浮いてるかもしれないね、死んじゃったニンゲン。お前もそう思わない?
――――思えよ」
そう言うと、離されていた足が押し付けられ、また踏みつけられた。
一度は忘れたハズの快感がまだ襲ってきて、思わず身震いする。
かの行為に恐怖し忌み嫌っていたのにも関わらず、全く衰える事の無い分身を見て、情けなく思ってしまう。
裸のメスがいれば、それが人間であれ魔族であれ構わず興奮できるのかもしれない。
なんて悲しい性分なのだろうかと思う。
「恥ずかしくないの? 先人が命を賭して守った地の、そのすぐそこで。お前は魔族に足蹴にされたまま、ろくな抵抗もできずに寝転がってるんだよ?」
いかにそれが惨めなことであるか。その身に理解させるかの様に、足元で翻弄される。
すらりとした太ももが、足先が、その度にちらりと覗いてしまい、どうしようも無いくらいに感情が昂ぶってしまう。
「ぐっ……?!」
「なのに、なんで悦んでるんだよ……っ」
押し寄せる悦楽に耐えていれば、さらなる攻めが繰り出された。押し付けられた足指が器用に動かされ、ちょうど亀頭を挟み込む様にして運動を始めたのだ。
がむしゃらに踏みつけられていた時よりも、遥かに気持ちがいい。
この短時間でコツを見つけたのか、妖しく動く足指がとにかく堪らない。
「もしっ、私がその死んだ人間だったらっ……! お前を見た途端、怒りが……いや、殺意すらも湧いて……っくるだろうねッ……」
「ぐあっ……!?」
「憎くて、憎くて。殺してやりたくなるかもしれないっ……!」
それをやられるだけで全身に、迸る様な快感の波が巡り、打ち付けられる。
身体と脳内と、どちらもぐちゃぐちゃになってしまう程に芯から揺さぶられる。
「はぁっ……魔族、一緒に、こんなことっ、してるんだよ……? 裏切り者だって言われてもッしょうがないよね」
「くぅっ……!」
「殺されてもしょうがないって……っ、思われてもおかしくないよね……ッ? なのにっ、なんで、なんで興奮してるの……っ?」
もう、脳内にはその問いかけに返す言葉を考える余裕は無かった。
このままでは足だけで射精させられてしまう。そんな確信めいた未来に気がついて、どうしようもない程に興奮してしまい、歓喜の感情と相対する屈辱の感情がドロドロに溶け合ってもう何が何だかわからなくなってしまった。
身体が求めるは、快感に流されるままただ欲望を出し切る事のみだった。
それに呼応するかの様に圧迫する足の動きも、吐息も、より強くなっていく。
「喉元をっ、掻き切ってやりたいくらいにぃ恨まれているのに……っ!」
すると、いきなり夜空が何も無い暗闇を纏い始めた。
――いや違う。何かが、覆いかぶさってきて。
そんなの、一つしかなかった。
「あぁ、憎い――憎い、憎い、憎い……っッ!!」
思い切り馬乗りにされ、首に手を当てられたと思ったら。
そのまま強く、強く締め付けられた。
特に何の知恵も無く、ただ力任せに相手の首を捻りあげる行為。
種族関係無しに人間同士でも行われるもので、もし完遂できればほぼ間違いなく対象の息の根を止める事ができる殺傷行為。
「どうして」
普通の人間でも、それこそか弱い女性でも抑えつけさえすれば大の男を殺せる行為だ。魔力も人間よりも遥かに優れる魔族が行えば、容易く捩じ切る事ができるだろう。
いや、魔力すらもいらないかもしれない。
それほどまでに、簡単な行為。
だけれども。
「どうして……」
それが、普通であればの話だったが。
「……どうして、死なないんだよ……ッ」
慟哭が聞こえた。
痛みも、締め付けて来たその手の圧力も感じなかった。呼吸も万全に行えている。
身体には何も起こってはいなかった。
もちろん、手の痕すらも。
天に持ち上げて両手だけで吊るせる力を以ってしても、動じる事は無かった。
「――――――………………」
そして。
首を締め付けていた手をするりと離すと。
力無げにうなだれ、そのまま動かなくなってしまった。
馬乗りになったまま。しかし、何も行動を起こされない。
「えっと……?」
後もう少しイけるでという所でおあずけを食らってしまった俺は、未だ煮えたぎる欲望を何とか我慢しつつ、しかし何が起こってるのか心配になってしまったので、身体を起こして様子を見る事にした。
「――――――……っ」
先程まで思うがままに攻めていた彼女は、あがってしまうような息を吐いていた。
酸素を求めて喉下が揺り動かされる度に赤い舌先がちろちろと見えて、ただただ機械的に呼吸を繰り返していた。
気絶はしていない。辛うじて意識を保っている。
ならばどういう事なんだろう。
よく分からないけど、もういい。とにかく、疾く迸る欲望をぶち撒けたい。
願わくば、その身体を使って直接。
そんな事を考えていた。
しかし。
「――――――」
言葉にならない程に熱い息と共に、肩が思いきりグッっと掴まれる。
熱が籠もっていて、簡単には外れ無さそうな程に力が入れられていた。
何が起こったのか理解できずに居るとちょうど股間の辺りを、強く包み込むような艶めかしい感覚が襲った。
それはとても熱く。
そして濡れそぼっていて。
「――――――………………っ、ぁ」
一度でも気を許すと途端におかしくなってしまいそうな、甘く愛おしいものだった。
次回ちょっと気合入れます