よろしくお願いします。
3時間ほどトラックに揺られると、ようやっと試験会場についた。
そこには、だいたい…………50人ぐらいの人が集まっていた。
俺たちの後にも人は来るだろうから、実際の試験人数は100人ぐらいになるのかな?
そう思っていると、執事のようなおじいさんが現れた。
「ここにいる皆様で、ハンター試験を開始いたします。…………会場に案内いたしますので、私について来て下さい」
そう言うと、スタスタと歩き始めてしまった。
参加人数、こんなもんなのか……。
人の流れに逆らわず、歩いていく。
そして、3キロほど歩いただろうか、段々と原作1次試験みたいな長距離歩きみたいな試験じゃないだろうかと思い始めたころに、目的地にたどり着いた。
…………。
試験場所は崖の近くであるようだ。
そしてそこにあるものを見ただけで試験内容が分かった。
周りもなんとなく試験内容を理解できたようで、氷のような沈黙に包まれている。
崖の端に先端が固定されている丸太が8本並んでいる。
カイジの鉄骨渡り、ブレイブメンロードだ、コレ!
「皆様、これからあなた方にはこの丸太を渡り、崖の対岸に行ってもらいます」
「な、長さはどれくらいなんですかっ!」
「お答えしかねます」
「制限時間はあるのかっ!」
「制限時間はございません」
その後もポツポツと質問があったが、その中で「前の人間を落としてしまってもいいのか」という質問に対して「かまいません」と答えていたのが、印象的だった。
「アタル君、私たちはどうする?」
「制限時間はないって言っているが、日が暮れればその時点でゲームオーバーだ。渡るのは早い方がいいだろう。誰もが後ろから押されるかもしれないと思って、躊躇している今がチャンスだと思う。あー、ヨルツキは、あそこの誰もいない丸太を進め。アサヒ、お前は俺の後ろについて、後ろからの攻撃を防げ。いいな?」
「わ、わかりました、お兄様」
「うん、アタル君は私が守るね」
そう言って、行動を開始した。
俺が渡り始めた丸太には前に一人、女の子が渡っている。
珍しいな。
ゴリラみたいな奴か殺し屋みたいな奴しかいないと思っていたから、姉と妹以外の女、それも若い娘が最速で丸太を渡り始めているのが意外だった。
歩き方にも何やら、技術があるような、ないような感じがするし、押されるかもしれない先頭を渡っているということは、戦闘に自身があるのだろう。
とはいえ、前の女の子なんかに構っている暇はない。ソロソロと氷の上を歩くかのようにゆっくりと渡っていく。
あー、ロープとか安全帯とか出したい!
でも出せない!
こんな人目がある場所で
バランス感覚とか別にオーラで強化できるわけじゃないし……。
そのまま30分ぐらいだろうか、一生懸命渡り続けていたのだが、ゴールが一向に近づいた気がしない。
…………。
我々はスタンド攻撃を受けているっ!
というか、多分これあの執事姿のジジイの念能力じゃね?
いつ能力を発動されたのかわからなかったが、長すぎるし。
前を行く女の子の方も、一向に近づけないゴールに、自信を揺らがせているようだ。
ゆっくりと振り返ってみると、姉の方は余裕そうだ。
「お前は、まだまだ余裕そうだな」
「うん、私は大丈夫だよ! 後ろから押されそうになったけど、蹴り落としてやったし! …………あっ、大丈夫だよ! アタル君が落ちそうになっても、私が助けるから!」
…………俺の方は精神的に少しキていたのだが、いつも通りの姉に癒された。
というか蹴り落とした?
一杯一杯で、まったく気づいてなかった。
人を死なせたストレスとか、感じないのかな?
さらに1時間渡り続けて、だいたい1キロは渡ってきたと思う。
あまりにも長すぎる丸太の橋に、前を行く女の子は怯え始めている。
まぁそうなるよ。
念能力の存在を知らなかったら、心霊現象か、自分自身の精神に異常をきたしたかのどちらかだと考えるよねぇ。
それにしても奇妙な能力だな。
最初は時間間隔と距離を測る感覚をずらす能力かと思った。
でも俺は丸太を同じ動作でズリズリと移動し続けているし、時間を懐中時計で測ってもいる。
やはり、実際に結構な距離を移動しているし、結構な時間が経っている。
うーん、異界を作ってそこに引き込むタイプの念能力かなぁ、とも思うが、脱出するには何かしらのルールに従わないといけないのだろう。
こいつのルールは明白だ。
丸太を渡りきること、それが脱出の条件だろう。
つまり初めからやることは変わらない。
丸太を渡る。
それだけだ。
だいたい丸太を渡り始めてから、3時間が経った。
単調な作業を繰り返していて、段々暇になってきた。
前を行く女の子の方は疲労困憊といった様子で、汗をポタポタ零している。
…………いやまぁ、別に滑りそうになるほどの汗ではないのだが、いつ落ちてしまうのか見ていて心配になるほど疲弊している。
なるほどなぁ。
やっぱ念能力者はこの試験でも有利だわ。
この異常事態について、原因が分かっているから精神的に余裕ができるし、普通の人よりも体力や筋力があるから、この長時間の丸太渡りも余裕でこなせる。
そう言えばヨルツキはどうしているだろうと思い、横を見てみるが、丸太すら見えなかった。
…………丸太1本、1本が別の異界に繋がっているのかもな。
それから15分ほど経ったときに、急に前を行く女の子がうずくまった。
俺の方は自分のペースで、渡り続けてついに女の子に追いついてしまう。
「おい」
「うぅぅ…………。ぐずっ…………。むりぃぃぃ…………。もうむりぃぃぃぃ…………」
「おい! 押すぞ!」
「押すのやだぁぁ…………。でも、むりぃぃぃぃ…………。むりなのぉぉ…………」
「大丈夫、大丈夫! もうすぐゴールだって」
「…………ゴールなんてないのよ。私が落ちるまで、この丸太は終わらないの…………。永遠に…………」
「そんな能力、作成不能だっつーの。特に絶対だの、永遠だのの要素を絡んだ能力は誰であろうと使えねぇから」
「そうなの? 私は、死なない?」
「ああ、うん。大丈夫大丈夫」
「な、なら、頑張ってみる」
そう言うと彼女は立ち上がって見せるが、体力の方も精神同様限界のようで、プルプルと震えるだけで、進めないようだ。
よし。
「おい、俺が運んでやる。振り返れるか?」
「う、うん。やってみる」
そういって、ゆっくりゆっくりと丸太の上で向きを変え、俺の方を向く。
「よ、よかった! あなた、本当にいるのね! 私の、妄想じゃなかった!」
「あぁ、うん、いるいる。ほれ、俺に寄りかかって来い」
「う、うん!」
彼女のぐっしょぐしょに濡れたカラダがゆっくりと、俺にもたれ掛かってくる。
そのまま子供を抱っこするような形で彼女を持ち上げ、渡るのを再開する。
さらに1時間が経ち、本格的に暇になってきた。
暇すぎてアクビをしているのを、抱えている女の子に見られたときには、唖然とした表情で見られた。
いやだって、そんなに大変な作業をしているわけじゃないし。
念能力者なら誰でも、…………は言い過ぎにしても、多くの奴が突破できる試練だと思う。
「…………? ……っ? …………っ!! あ、あれっ!!!」
「おい、急に動き出すんじゃねえよ! ぶっ殺すぞ!」
「ご、ごめん! でも、あれ! 終わりが見える!」
俺がのんびり移動している間も、何度も振り向いて進行方向を確認していた彼女が真っ先に、ゴールが見え始めたことに気が付いた。
「やっと、終わりか」
それからさらに15分かけて、やっと丸太の端にたどりつき、地面へと降りた。
抱えていた女の子をその辺に放って、振り返るとそこには丸太は存在しなかった。
数秒後に虚空から姉が現れる。
やっぱりな。
…………ゴリゴリに念能力使ってるけど、いいのか? これ。
自由になった体をブラブラと解しながら、周囲を確認すると俺らを含めて、8名ほどがいた。
その中で余裕そうなヤツが、俺の妹(先についてた)の他にあと2人いた。
その2人は念を既に習得してる様子だ。
そうして夕日が差し掛かる時間になるまでに、さらに6名が現れた。
日没後に、あの執事のようなおじいさん、もとい試験官が俺ら14名の前に姿を現した。
「お疲れ様です。これで、1次試験は終了です。もう丸太の上には1人も残っておりません。また、落下された方についてはこちらで回収いたしましたので、ご安心を。命に別状はございません」
それを聞いて何人かは青ざめる。
…………まぁ、後ろから落としたなら気まずいよな。
完全に無反応な姉も怖いが。
「それでは、次の試験会場までは船での移動となります。私について来て下さい」
そう言って、歩き始める試験官。
…………まだ、歩かせるのかよ。
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