よろしくお願いします。
「おげぇぇぇぇ…………」
ゲロゲロゲロゲロ…………。
「よしよし、アタル君、大丈夫?」
「…………だいじょばない…………」
船酔いによって、俺が死ぬほど苦しんでいるのを見て、姉は嬉しそうに背中を撫でている。
くそが…………。
試験が終わったら、お仕置きしてやる…………。
そんで、二度と船には乗らねぇっ…………!
「アタル君、どうしてあの娘を助けたの?」
「は? あの子…………? あぁ、1次試験の子ね……。人殺すのとか、気持ち悪くて嫌だったのと、割と余裕があったから…………。あと、出来れば強い女の子とこの試験で知り合えれば、いいなぁ、とは思っていたから…………。…………やっぱ気持ちわりぃっ! おええぇぇっっ…………」
「ご、ごめん! アタル君! もう話さなくていいから! よしよし……」
下手な試験より、船酔いの方がキツいっすわ。
そして俺は死にかけながらも、何とか2次試験会場の島にたどり着くことができた。
整備されていない船着き場の感じからして、無人島のようだ。
「お兄様たち、どこにいたんですか? 船室では見かけませんでしたけど……」
「アタル君は、船酔いで大変だったから…………」
「甲板でて、ゲロゲロしてたんだよ…………。…………もうその話はいいよ…………」
そんなことを話していると、いつの間にか受験者は全員船から降りきって、その後から大柄な海賊風のオッサンが現れた。
「ひぃ、ふぅ、みの、よ…………。ほうほう、14人か、今回はわりかし残ったな…………。えー、それではこれから第2試験を始める! 準備はいいか! …………。いいようだな。それでは、これから行う試験について説明する! 7日間生き残れ! 以上だ、健闘を祈る」
それだけ言うと、船に乗って俺たちを置いて行ってしまった。
え、お前試験官じゃないのかよ。
というか、試験内容よ。
7日間生き残れ、か…………。
つまりそれが、試験内容になるような環境だってことだよな?
無人島見たときはてっきり、何かを捕獲するような試練だと思ったんだけどな……。
流石に原作みたいに、受験者同士をハントさせ合うには人数が少なすぎるし。
まぁ、いいだろう。
試験内容もシンプル。
襲い来る脅威も予想可能だ。
すなわち、試験官がこちらをハントしに来るか、またはこの島の自然が殺しに来るか。
「アタル君、私たちはどうする?」
俺がこの試験について考えている間に、他の受験者は移動を開始していたようだ。
「…………俺たちも、移動を開始するか。なるべく身を守りやすい高台のような地形を……」
「ね、ねぇ、私も一緒に行動していいかな!」
そう言うと、俺たち以外で唯一移動せずに残っていた、1次試験で助けた女の子が近寄ってくる。
えぇ…………、マジか。
俺でもわかるマズい選択だぞそれ。
既に出来上がっている集団に、今回のような試験内容で混ざれば、危険があった時に真っ先に使い捨てにされる恐れがある。
それなのにコチラを頼ってくるということは、1次試験で自信をよっぽど喪失したのか、よっぽど俺が信頼を得たのか。
…………まっ、いいか。こちらにとってもデメリットは少ないだろうし。
「おう、一緒に行こうぜ。4人で合格してやろう」
「うん!」
そうして俺たち4人は島の中へと、進んでいった。
守りやすそうな地形を探し始めて、40分ほど経った頃だろうか、どこからか人間の悲鳴が聞こえてきた。
「……。どうする? 助けに行く?」
「様子を見に行こう。今回の試験で障害になるであろうモノを確認できる絶好の機会だ。障害が分かれば対策が立てられる。いくぞ?」
「うん!」
女の子の方としても助けに向かいたかったようで、返事の声も弾んでいた。
「そういや自己紹介していなかったな、俺はアタルだ。そっちのが、姉のアサヒ。あっちが妹のヨルツキだ。お前は?」
「私は、アオイ、よ。よろしくね。…………そろそろ着くわ、ここからは静かに進みましょう」
そうして、俺たちがこっそりと(アオイ以外は絶を使って)移動していると、人間の死骸と、それを食い荒らしている生き物が見えてきた。
……あれは…………。
オオカミに似ていると言えば似ているが、4対8個の目玉や3対6本の足、タールのようなヌトヌトした黒色の表皮などといった異形じみた特徴を有していたので、凝で確認してみた。
案の定念獣である。
試験官がハントしてくるタイプかぁ。
その上、今回の試験官は俺たちの命まで獲ってくる気満々である。
「ど、どうしよう。アタル」
「とりあえず、ひと当てしてみようか。アサヒ行けそうか?」
「大丈夫。行ってくるね」
そう言うと姉はいまだに死体に夢中になっている念獣達へと、突っ込んでいった。
姉の蹴りによって、1匹目は首をへし折られ、そのまま抵抗できずに2匹目も頭を潰され、最後の3匹目が噛みつこうとしたところに、カウンターを入れて殲滅は完了する。
終わらせた姉が戻ってきたので、脅威度を聞いてみたところ、
「うーん、普通の野生動物より少し強い程度だと思う。魔獣や危険度の高い動物よりは、全然御しやすいはず。…………この程度の相手に、本当に殺された、のかな?」
そう言って、姉が死体の方に振り返った時に、その疑問は解消された。
死亡した念獣がズブズブと地面に沈んでいき、その代わりに殺した念獣を倍する数の念獣が地面から湧き上がってきたのだ。
「ど、どうしよっか、ア、アタル君」
珍しく焦っている様子の姉。
「ま、また、変なコトが起こっているの!? ハンターってこんなのと戦わなきゃいけないの!?」
「落ち着け。とりあえず島の奥側に逃げるぞ。犬のような見た目だから海に逃げても無駄だろう。それよりは他の受験者に擦り付けることを試そう」
「わ、わかりました。お兄様。急ぎましょう」
そうして走り始める俺たち4人。
時折円で周囲を探りながら走っていると、ほとんどの受験者が一塊となって、念獣に囲われているのが見つかった。
…………マジかよ。
30匹はいるぞ。
念獣の総数が分からない以上、孤立するのは危険だ。
その一心で、何とか集団を包囲していた念獣の一部を、(姉が)ぶち破り、集団に合流する。
そして俺たちが集団へと加わると、周囲を取り囲んでいた念獣は、静かに木々の間に姿を消していった。
「引いていった…………?」
「ようやく休める…………」
そうして集団が少し気を緩めると、今度は数匹の念獣が特攻を仕掛けてくる。
それには姉や俺、他の念能力者らしき受験者が対処できた、が。
またも、その死骸が地面へと飲み込まれていく。
「地面に飲み込まれる前に、死体を遠くに投げろっ! 死体から新たな奴らが湧くぞ!」
たぶん!
そう指示を出すと、集団のナカでまだ余裕のある奴が率先して、死体をぶん投げ始めた。
そして何度か念獣の特攻攻撃が繰り返されるうちに、戦闘組と死体投げ組に分かれて協力して対処を開始した。
しかしながら、念獣達の数は減った様子を見せず、日が暮れ始めた。
マズいな。
火の用意すらできていない。
…………これは仕方ないな。
「ヨルツキ、ザック」
「っ! はい! お兄様!」
そう言うとヨルツキは俺の方に近寄ってきて、背中に背負ったザックを向けてくる。
ザックには中に何も入っていないように見えるが、俺が手を入ると、そこから薪や着火剤を取り出すことができた。
…………なんてことは無い。ザックの中で
だが、俺の念能力を知らない奴から見ると、ヨルツキの方が不思議なザックを持っているように映るだろう。
事前に
手札を切った甲斐もあり、何とか念獣を処理しながらも、焚火を用意することができた。
こ、これで一日目? マジ?
その後夜の間も特攻攻撃は止まず、戦闘に、死体の運搬にと人手は全く足りていないため、休むこともままならない。
朝方、ようやく襲撃の頻度が減ったので、全体で休憩することができたが、余裕のある奴は一人もいなかった。
休憩ついでにザックから食事を取り出した。
もちろん、全員に配ってやった。
少しでも体力を回復してもらいたいからな。
あぁ、そうだ。
「アサヒ、ヨルツキ、アオイちょっと来い」
そう指示すると、三人ともこちらに寄ってきた。
それぞれの頭に触れ、
「な、なにこれ! すごい!」
「ただの暗示だ。体の疲労は取れていないから、無茶はするな」
そう言うとアオイは俺の耳元で「あ、あなた達も、試験官達みたいに、不思議な現象を起こせるの?」と聞いてきたため、試験後に秘密を話すことを約束する。
その後2日間、全員がヘトヘトになりながらも、なぜか犠牲者は出なかった。
試験官が念獣の数を調整しているのだろうか?
初日には受験者を殺したのに?
いったいなぜ?
この島に来て4日目の夜、体力に限界が来たのか、一人が気絶するように眠るとそいつめがけて念獣が殺到し、影の中にすさまじい速度で引きずり込んでいった。
俺たちがあっけにとられてその様子を見ている間に、そいつの仲間が助けに行こうと集団を離れていき、夜の闇に2人分の悲鳴が響き渡った。
なんとなくわかってきた。
今回の試験は即席でのチームワークと個々人の持久力を見ているんだ。
つまりタブーは2つ。
集団から離れるな。寝るな。
そう言うことだろうな。
それから俺は全員に対して、眠気と疲労感を飛ばす能力があることを告げると、俺たち以外の念能力者っぽい男2人を除いた全員が訝しみながらも、俺に頼り、その効果に驚いていた。
念能力者っぽい男2人からすれば、怪しいことこの上ないからか、俺に頼ってくることは無かった。
…………念能力者からすれば、どういう能力に見えているんだろうな。
脳に対して作用する強化系による治療念能力っぽいかな?
それとも覚醒作用のある成分を具現化してるように見えてるかな?
流石に操作系だと気づかれたわけではないと、思いたいが…………。
最終日。
脳よりも体の方が限界を迎えた奴らがバタバタと倒れていき、念獣に連れて行かれそうになったので、俺たち3人と俺たち以外の2人の念能力者で、他の奴らを担いで海岸まで走った。
試験官側も最後だからか、出し惜しみ無しで念獣を差し向けてくる。
海岸にたどり着くころには、後ろから何十何百もの遠吠えが重なり合って聞こえてくる。
蹴って、殴って、殺して、殺して、殺して。
無心で戦い続ける内に空が白み始め、船の音が聞こえてくる。
俺たち以外の2人の念能力者は庇っていた奴らを放り出して、船に向かって泳ぎ始めてしまった。
ゴールに我慢できなかったのだろう。
仕方ない。
しかしそれは集団からの離脱だ。
念獣は俺たちを無視して、一斉に2人に向かって泳ぎだし、ほどなくして海に赤い染みが浮かんだ。
助かったぁ…………。
囮になってくれなきゃ、ヤバかったぜ。
ありがとう!
そうして、船が岸にたどり着くと念獣達は、白昼夢のように唐突に姿を消した。
「おお! 今回の試験は生存者が出たか! 船から岸を見たときにまだ黒犬どもが騒いでいたから、もしかしたらと思ったら…………。よくやったなぁ、お前ら。ひぃ、ふぅ、みぃの…………。6人もか! 優秀だなぁ! そら、疲れただろう、船に乗ってゆっくり休め…………」
ガッテム!
船!
そうだ! そうだった!
帰りも船じゃん!
こんなに疲れた末に、またあの地獄を味わうのかよ! クソが!
よろしければ高評価お願いします。