午前零時、一日の始まりと終わりが交錯する静寂の時間帯。
とあるビルの屋上で、二人の女が激しい戦いを繰り広げていた。
「たあっ!」
青いレオタードを着た長い黒髪の女が、助走をつけた膝蹴りを放つ。
「がはっ!」
顔面に膝を受けた金髪の女が、ヨロヨロと後退する。
そこへ黒髪の女はアッパーを叩きこみ、さらに回し蹴りで追撃した。
「ぐふっ!」
吹き飛ばされた金髪の女が、ビルの屋上をゴロゴロと転がる。
そして倉庫の壁へと叩きつけられた。
「はぁ……はぁ……今度こそ終わりよ、偽キャッツ!」
黒髪の女――女怪盗キャッツアイ、来生瞳は肩で息をしながら歩み寄った。
しかし金髪の女――フランスから来た女怪盗カトリーヌは、薄笑いを浮かべながら立ち上がる。
「クックック……残念だったねキャッツアイ、この程度じゃ私は倒せないよ」
ダメージなど無かったかのように、カトリーヌは真正面から突進した。
それを受けた瞳は、カトリーヌと両手を組み合わせる。
互いに腕力で押し合う筋力勝負。
カトリーヌは体格差を生かして瞳をグイグイ押すと、ビルの端へと追い詰めていった。
「ほらほら子猫ちゃん、このままだとビルから落されるよ」
「くっ!」
瞳は手を組み合わせたまま長い脚を折り曲げると、カトリーヌの顎を蹴り飛ばした。
そして後退したカトリーヌに拳を叩きこみ、さらに背後へ回り込んで蹴りを放つ。
技のキレ、そしてスピード、筋力以外はあらゆる点で瞳の方が勝っている。
傍目から見れば、圧倒しているのは常に瞳だ。
「たあっ!」
月を背に跳躍した瞳が、体重を乗せた蹴りを放つ。
顔面から受けたカトリーヌはたまらず吹き飛び、筋肉質の体がドスンと音を立ててコンクリートの床へと叩きつけられた。
「手応えあったわ、今度こそ倒したはず……」
勝利を確信した瞳が、仰向けに倒れた金髪の女怪盗へと近づく。
しかしカトリーヌは、何事も無かったように勢いよく跳ね起きた。
「そ、そんなバカな……普通ならあの一撃で気絶するはず!」
唖然とする瞳に、不敵な笑みを浮かべてゆっくりと迫るカトリーヌ。
その圧力に押された瞳は、本能的に後ずさった。
「どうしたんだい、仕掛けないならこっちから行くよ」
言葉と同時にカトリーヌの鋭いパンチが瞳を襲う。
かろうじて避けた瞳だが、疲労のせいで動きが鈍っている。
もはや避けるのが精いっぱいで、反撃に移る事も、間合いを取ることもできない。
一方のカトリーヌは、息すら乱さず次々と攻撃を繰り出してくる。
(な、なんてタフなの……このままでは、負けてしまう!)
焦った瞳は、強引に蹴りを放った。
だがカトリーヌはそれを避けもせず、鍛えられた腹筋で受け止める。
「痛ぅっ!」
まるで大木を蹴ったような痛みに、瞳の美貌が歪む。
カトリーヌはその隙を見逃さず、鋭いミドルキックを放った。
「ぐっ!!」
鳩尾を蹴られた瞳が息を詰まらせる。
胃を押し上げられる鈍痛に、思わず手で腹を押さえてしまう。
カトリーヌは前傾姿勢になって足を止めた瞳を捕まえると、肩と頭を抱えた。
そして青いレオタードに包まれた肢体を高く持ち上げ、肩車の高さから地面に叩きつけた。
「あうっ!!」
背中からコンクリートの地面に打ち付けられる瞳。
かろうじて受け身は取ったが、電気を流されたように手足が痺れて動けない。
「さあ、そろそろお返しをさせてもらうよ」
口元を吊り上げたカトリーヌが、高々と跳躍する。
仰向けのまま動けない瞳の鳩尾に、たっぷりと体重を乗せた膝が突き刺さった。
「がふっ!」
腹部への打撃に呻き声を漏らす瞳。
あまりの苦痛に息が詰まり、全身が痙攣する。
カトリーヌは大袈裟に脚を振り上げると、瞳の豊かな胸を踏みつけた。
「がはっ! がはっ! ぐうっ!」
「ほら、誰が休んでいいと、言ったんだい? 反撃してごらん、キャッツアイ」
大胆にV字カットされたレオタードの上から胸を踏みつけたカトリーヌが、言葉の一区切りごとに体重をかけて乳房を押しつぶす。
屈辱的な攻撃に、瞳は息を乱しつつも上目で睨みつけた
そしてカトリーヌの足が緩んだ隙にストンピングから抜け出し、立ち上がる勢いのまま両手でカトリーヌの顎をかちあげた。
「がっ!」
瞳はさらに身を屈ませると、エルボーで追撃する。
思わぬ反撃に怯んだカトリーヌは、たまらず間合いを取った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「チッ、しぶとい子猫だね……もう容赦はしないよ!」
怒りを爆発させたカトリーヌが、ラリアットを仕掛ける。
瞳は冷静かつ素早く身をかがめると、太い腕を掴んで投げ飛ばした。
相手の勢いを利用し、流れる様に後ろに放り出す見事な早業だ。
だが投げ飛ばされたカトリーヌは、すぐに体制を立て直して襲い掛かる。
「だぁぁぁぁぁっ!」
鬼のような形相でカトリーヌがタックルを仕掛ける。
気圧された瞳は、とっさに逃げようとする。
だが疲労とダメージの蓄積で、体力はもう限界であった。
脚が思うように動かず、タックルをまともに受けてしまう。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴と共に、まるで交通事故のように青いレオタード姿が宙を飛ぶ。
背中からコンクリートの床に叩きつけられた身体は、ゴロゴロと転がり屋上を囲む金網へと叩きつけられる。
俯せに倒れた瞳は、もはや立ち上がることもできない。
「ほらほら、もう少し遊んでおくれよ、キャッツアイ」
カトリーヌは仕上げとばかりに、瞳の髪の毛を鷲掴みにして立ち上がらせる。
そして棒立ち状態の瞳に、膝蹴りを叩き込んだ。
「がはっ!」
無防備な腹へ強烈な一撃に、瞳は息を詰まらせる。
「がっ! ぐぇっ! がはっ!」
容赦のないカトリーヌの膝蹴りが、何度も瞳の腹へと叩き込まれる。
たまらず瞳は膝を折った。
するとカトリーヌは瞳の髪を離し、側頭部をボレーシュートのように蹴り飛ばした。
「あがっ!!」
ボールのように吹き飛ばされた瞳が、激しく弾んで床を転がる。
しなやかな肢体は倉庫の壁に叩きつけられ、ぐったりと倒れた。
「まったく無様だねぇ、だから私と手を組むと言っておけば良かったのに」
残酷な笑みを浮かべつつ、カトリーヌは再び瞳の髪の毛を掴んで起き上がらせた。
軽い脳震盪を起こしている瞳は、両腕をダラリと垂らしている。
「や……やめて……もう許して……」
瞳の口から遂に許しを乞う言葉が漏れる。
彼女に抵抗する力はなく、戦う気力さえも失っていた。
「フン、残念だけど許さないよ。アンタに私に逆らうとどうなるか、タップリと躾をしなきゃいけないからねェ」
そう言うとカトリーヌは、両手で瞳の首を絞めた。
はっと瞳が気が付いた頃には、つま先が床から離れていた。
「がっ! はっ! や……やめて……」
瞳はネックハンギングツリーから脱出しようと、脚をバタつかせて必死に悶え暴れる。
だが首を絞めるカトリーヌの手はびくともしない。
それは文字通りの絞首刑であった
「ハハハハハ、いい格好だよ、キャッツアイ」
高笑いをしながら、カトリーヌはさらに両手に力を込めて瞳の首を圧迫する。
食道と気管が圧搾される音が、瞳の頭に響く。
首絞めから逃れようと必死に抵抗するが、四肢に力が入らない。
脳への血流が遮断されているため、思考さえ失われていく。
「がっ……! がはっ……」
やがて瞳の口から、カエルが潰れたような声が吐き出された。
両手と両足が、だらりと垂れ下がる。
美貌は苦悶に歪み、だらしなく開いた口元からは唾が溢れ出ていた。
見開かれた目は焦点が合っておらず、ただ涙だけが流れている。
「フフン、今日のお仕置きは、ここまでだね」
カトリーヌが手を離すと、白目をむいた瞳の身体が床へと落ちた。
失神してしまったらしい。
「まったく反抗的な子猫ちゃんだったねぇ。ま、そっちの方が調教する楽しみがあっていいけどさ」
そう言うとカトリーヌは、瞳の唇にキスをした。
そして瞳の身体を左手一本で抱え上げ、屋上の手すりまで運んでいく。
「まずはその身体が理解するまで、誰がご主人様なのかをタップリと躾けてやる。うふふっ、楽しみだねぇ」
カトリーヌは手すりに引っ掛けたロープを握ると、ビルから飛び降りた。
そして瞳を抱えたまま、夜の闇へと消えていった。