深夜の遊園地、メリーゴーランドの前。
キャッツアイとカトリーヌ、3対1での戦いで、最初に仕掛けたのは瞳だった。
「たぁっ!」
鋭く短い気合いと共に、瞳の右足が鞭の様にしなる。
「がっ!」
脇腹を蹴られ、カトリーヌがバランスを崩す。
そこへ愛が顔面にエルボーを入れて追撃。
更に泪が足を払いカトリーヌに尻もちをつかせると、背後からスリーパーホールドをかけた。
「くそっ!」
カトリーヌは絞められたまま立ち上がると、強引に泪の腕を振りほどいた。
そして怯んだ泪に向かい、強烈なラリアートを繰り出す。
「危ない!」
瞳は叫ぶと、カトリーヌの背後からドロップキックを繰り出す。
背中を蹴られたカトリーヌはバランスを崩して転倒し、メリーゴーランドの柵へと叩きつけられた。
「ふぅ……危なかった。ありがとう、瞳」
「オッケー、どういたしまして」
笑顔で目配せする泪と瞳。
カトリーヌの支配から脱した瞳には、いつもの快活さが戻っていた。
「調子に乗るんじゃないよ!」
カトリーヌはすぐさま立ち上がると、鬼の形相で瞳に飛びかかった。
しかし瞳は冷静にそれを避け、カウンターを顔面へ叩き込む。
「がはっ!」
さすがのカトリーヌも、激痛の呻きと共に足を止める。
そこへ泪と愛が、掌底やエルボーを繰り出す。
カトリーヌも応戦するが、3対1の打ち合いでは敵うはずもない。
三姉妹の繰り出す攻撃を捌ききれず、まるでサンドバッグのようになっていく。
(行ける……今度こそ勝てる!)
瞳はそう思った。
泪と愛も同様であったが、それは甘い考えであった。
三姉妹の打撃を全身に受けながらも、カトリーヌはじっと防御を固めて隙を伺っている。
そして愛がスキの大きい踵落としを繰り出した瞬間、恐るべき気迫で反撃に転じた。
「ナメてんじゃないよ!」
高々と振り上げられた愛の右足首を、カトリーヌの左手が掴む。
「あっ!」
愛がバランスを崩して転倒しかけた所で、カトリーヌは足首を掴んだまま反動をつける。
そして棒切れでも扱うかのように、愛の身体を放り投げた。
「がっ!!」
なすすべもなくメリーゴーランドの鉄柵に叩きつけられた愛が、ずるずると滑り落ちる。
「愛!」
「次はアンタだよ」
愛に気を取られていた泪に、カトリーヌのショルダータックルが迫る。
「キャァァァァァ!!」
まるで交通事故のように、泪の身体が吹き飛ばされる。
カトリーヌはそれを追いかけ、仰向けで倒れた泪の腹へ右足を振り下ろした。
「がっ!!」
口を目一杯に開いた泪が、飛沫をほとばしらせた。
あまりの激痛に両手で腹を抱え、げほげほと咳き込みながら痙攣している。
「フフフ……3人がかりなら、勝てるとでも思ったかい?」
不敵な笑みを浮かべたカトリーヌが、残った瞳にゆっくりと歩み寄る。
「ひっ…」
瞳は肩を震わせ、怯えるように後ずさりする。
頭にはこれまでの「躾」で叩き込まれてきた、カトリーヌへの恐怖が蘇る。
「さっきまでの威勢はどうしたんだい、仕掛けてこないなら、こっちから行くよ」
カトリーヌが瞳へ向かって突進し、強烈なラリアートを繰り出す。
瞳はしゃがんで回避すると、カトリーヌの顎に掌底のアッパーを叩き込んだ。
「がっ!」
カトリーヌの顎が上がる。
瞳はさらに得意の回し蹴りで追撃した。
並の相手なら即座に行動不能へ追い込む連続攻撃。
だがカトリーヌは2、3歩よろめいただけで体制を立て直し、大振りの鋭いストレートを放ってくつ。
「ひっ!!」
寸前の所で瞳は拳を避ける。
迫力のあるパンチの空振りに瞳の背筋は凍り付き、カトリーヌに隙が出来たにもかかわらず、バックステップで距離を取ってしまう。
「どうしたキャッツアイ、せっかくのチャンスだったのに、攻めてこないのかい?」
「くっ…」
瞳は舌打ちすると、カトリーヌの周りを素早く動き回りながら、掌底やキックを繰り出した。
しかしカトリーヌは暴挙の構えすら見せず、全てを受け止めている。
顔はニヤニヤと笑ったままで、全く効いているそぶりがない。
カトリーヌに対する恐怖心は、無意識の内に瞳の踏み込みを浅くしていた。
「効かないねぇ……そんな逃げ腰の攻撃、蚊が刺しているのと同じだって、野球場で忠告したじゃないか」
カトリーヌは自分の周りを動き回る瞳の、長い黒髪をつかんだ。
「あうっ!」
自分の走る勢いで髪の毛を引っ張られた瞳が、悲鳴を漏らす。
カトリーヌは瞳の髪を掴んだまま右足を上げると、背中を蹴り飛ばした。
「きゃぁぁ!!」
前へ倒された瞳は、地面と強烈な口づけをする。
さらにカトリーヌは俯せに倒れた瞳に近寄り、背中を踏みつけた。
「がはっ!」
「どうだいキャッツアイ、そろそろ降参かい」
言いながら、カトリーヌが背中に体重をかける。
腹這いのまま瞳が悲鳴を上げる。
「あっ……ああああっ!!」
「さあ早く詫びを入れて、いつものようにブーツを舌で綺麗にしな。今なら胸と性器へ鞭10発ずつの罰で勘弁してやるよ」
カトリーヌが瞳を踏みつける脚に更に力を入れる。
その時、ダメージから回復した泪がカトリーヌへ飛びかかった。
「ぐっ!」
勢いの付いた膝蹴りを顔面に受け、カトリーヌが吹き飛ぶ。
「姉さん!」
助けられた瞳が立ち上がると、泪が目配せをする。
姉の意図を理解した瞳は、二人でカトリーヌに向かう。
「チョコマカとうるさい子猫達だね!」
カトリーヌが瞳に向かってミドルキックを放つ。
だが瞳はそれを避けて懐に入ると、至近距離から掌打を浴びせた。
「がっ!」
腰の入った一撃にカトリーヌがわずかに怯む。
その隙をついて泪が背後に回ると、再びスリーパーホールドをかけた。
「くっ……またかい!」
カトリーヌは力任せに泪を振りほどこうとする。
しかし、今度はそうはいかなかった。
カトリーヌの下半身に力が入らないよう、瞳が足にしがみついていたからだ。
「愛、今よ!」
泪が叫ぶ。
身体を押さえつけられたカトリーヌの正面には、ショットガンのようなものを構えた愛が立っていた。
暴徒鎮圧用のゴム弾を装填した、ライオットガン。
当たればヘビー級ボクサーのパンチにも匹敵する威力がある。
これがキャッツアイの用意していた切り札だった。
「いけぇ!」
愛がカトリーヌに向けてゴム弾を発射する。
先端に掘られた裂け目から風圧で十字に広がり、カトリーヌへ迫る。
バシッ!
鈍い大きな音と同時に、来生三姉妹の動きが止まる。
彼女たちの期待とは異なり、ゴム弾はカトリーヌの拳にいともたやすく弾かれてしまった
「こんな物で私を倒すつもりだったのかい、舐められたものだねぇ」
続いて愛が2発目を発射する。
だがカトリーヌはフンと鼻を鳴らすと、今度はゴム弾を素手で掴んでしまう。
「ば……バケモノ……」
泪がそう呟く。
瞳もただ呆然としている。
身体を押さえつけられていた力が弱まったカトリーヌは、瞳と泪をあっさりと振りほどくと、愛に向かって突進した。
「ひっ……ひいっ!!
恐怖に顔を引きつらせて愛がライオットガンを構えるが、その前にカトリーヌの拳が腹に突き刺さる。
「がはっ!」
「こういう物は人に向けちゃいけないって教わらなかったのかい。悪い子猫には、躾が必要だね。」
カトリーヌはライオットガンを愛から奪うと、彼女へ向けて発射した。
「ひぎゃあああぁぁぁぁ!!」
ゴム弾を足に受けた愛が絶叫する。
「足がぁ、足がああぁぁぁぁぁっ!!」
ふくらはぎを抱えて愛が転がり回る。
「ふぅん、そんなに痛いのかい」
言いながら、カトリーヌは愛の足を踏みつける。
「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!」
「愛!」
妹の余りの痛がり方を見た泪が、カトリーヌに飛びかかる。
しかしカトリーヌは泪の拳を簡単にいなすと、背中へ拳を叩きつけた。
そして前傾姿勢になった泪の頭を股で挟み、胴に腕を回して持ち上げる。
逆さになった泪の頭の下には、愛の身体があった。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
泪の悲鳴と同時に、渾身のパワーボムが愛へ叩きつけられる。
苦悶の表情を浮かべながら、愛はピクピクと身体を痙攣させ、白目をむいていた。
頭部を思い切り打ち付けた泪も同様に、愛の身体の上で失神している。
「さて、お次は……」
「ひ、ひいっ!!」
視線を合わせて震える瞳は、既に戦意を喪失していた。