「時間操る系のチート能力」を手に入れた 作:あああああ
はじめまして
「おいっぶた山が泣いてるぞっ」
剛川がそう言うと、どっと笑い声が響いた。
教室のみんなが笑ってる。
それを確認した剛川の強面が、加虐心丸出しの顔で歪んだ。
僕は今いじめられている。
剛川と、その取り巻き連中に囲まれて。
パンツ一丁に剥かれている。
俺は惨めで悔しくて、うずくまって泣いていた。
泣いたら剛川達が喜ぶから泣きたくなかったけど、どうしても涙が出てきてしまった。
なぜいじめられてるのか、よく分からない。
多分、太っているからだ。
あと目付きが悪いから、それがにらんでる風で反抗的と見られてしまった。
「ねぇ。やめなよぉ。かわいそーじゃぁん」
取り巻きの構成員、ブリッ子の桃崎が独特のねっとりとした口調で言った。
半笑いだった。
本気で止める気はなくて、
「いじめを静止する私って優しいしぃ可愛い女でしょぉ?」ってアピールなのがよく伝わってくる。
突然、髪の毛を掴まれた。
「かわいそーだってよ、ブタ山。
なぁ。おい、お前はかわいそーなのか?」
剛川の顔がすぐそこにあった。
なんて答えればいいか分からなくて、黙った。
鈍い音がした。腹を殴られた。
ひゅっと空気が口から漏れる。
体勢的に気道が締まってる状態だったから同時に咳も出た。
みぞおちの辺りだったからか、痛いというより苦しい。
「お前はかわいそーなのか?
ちげぇよな。俺たちは遊んでるだけだよな」
俺は「はい」とか「うん」とか、そういう肯定的なニュアンスの声を発っした。
感情がぐちゃぐちゃすぎてあんまり上手く喋れなかったからだ。
剛川はそれを認めると、ニヤニヤと笑った。
帰り道は涙も枯れていた。
ただ呆然と前を見て歩いている。
あの後、剛川達はカラオケに遊びに行くらしくとりあえず解放された。
俺がぐるぐるとあいつらの事を考えるこの瞬間、あいつらは俺の事を忘れて楽しんでる。
お前らのことなんて考えたくないのに考えてるのに、あいつらの頭の中に俺は居ないだろう。
悔しかった。
『お前はかわいそーなのか?
ちげぇよな。俺たちは遊んでるだけだよな』
剛川の声が脳内で響く。
本当は「ふざけんじゃねぇ」って言いたかった。
もうやめてくれ、なんでこんなことするんだ。
俺がお前らになんかしたかよ。
そう言ってやりたかったのに。
なんで、俺はお前らに都合のいい答えを言ってんだよ。「はい」じゃねぇだろ、情けねぇよ。
なんでだよ。なんで。
いや、理由はわかってる。
俺が弱いからだ。
容姿も精神も力も脳みそもちっぽけだからだ。
他人と比べて優れた所が無いからだ。
でも今から何ができるんだってよ。
それって俺が悪いのかよ?
お前らが偶然、容姿が悪くなくて性格も暗くなくて勉強ができてスポーツができて、
それぞれ、そう産まれただけじゃないか。
不公平じゃん。
なんで俺が努力して他人の平均を目指さなきゃいけねぇんだよ。
「いじめられない学校生活」ってそんなに頑張らなきゃ、叶わないものなのか?
────家に帰ってからもずっとそんな事を考えていた。
巡り合わせの問題であって答えの出る事じゃないと俯瞰するのは簡単だけど、
消えない汚れのように繰り返す思考は拭えない。
ふと、母親に
「学校は楽しい?」と聞かれた事がある。
うん、楽しいよ。って答えた。
母親はそれなら良かったと言って、視線をこちらからテレビに戻す。
ガッカリした。
嘘ついて楽しいと言ったけど、
俺は傷ついて限界な事に気づいて欲しかった。
親子の絆でなんでも分かるなんて幻想だ。
でも、気づいてない事に安堵もしていた。
母親が動揺する様子を見たくは無いし、
自分がいじめられてる事実は恥ずかしいし。
俺は高校2年生だから、あと1年耐えれば地獄がとりあえず終わるしな。
いやでも、このまま終わるのは癪だ。
1発、なにかしてやりたい。
見くびられたまま終わって、アイツらがこれから元気に幸せに生きていくなんて許せない。
報いを受けるべきだ。
そんなことを考えて、眠った。
◾︎
朝、目が覚めたら時間を操れることに気が付いた。
予感も前兆も脈絡もなく、ただそれに気がついた。
呼吸や歩行──―それ以前に「見る」「聞く」といった人体に刻まれた機能の1つとして、
「時間を操れる」が自分に備わっているという確信があった。
驚愕。歓喜。困惑。
頭の中が様々な感情に支配される。
気持ちと現状の整理の為にとりあえず能力を試してみる。
某吸血鬼をイメージ。
「時よ止まれ」
────―急に、音が消えた。
感覚でわかる。耳が悪くなったわけじゃない。
俺以外の世界が静止してるんだ。
さっきまで動いてた時計も秒針が止まってる。
窓越しの小鳥が空中で静止している。
俺はニヤリと笑った。
我ながら醜悪な笑みだったと思う。
俺は「強者へのチケット」を手に入れたんだ。
変わるためのチケットだ。
俺の立ち位置は今日からガラッと変わる。
その瞬間が待ち遠しかった。
本当に久しぶりだ。
早く学校に行きたいと思うなんて。
次回:ぶりっ子桃崎を犯す。