「時間操る系のチート能力」を手に入れた 作:あああああ
人間関係には序列がある。それも明確に。
ブタ山こと俺は、もちろん序列の最下層。
もちろんこのままでいるつもりはない。
「時を操る能力」を持った俺は最早この人類と比べてすら序列の最頂点に君臨出来るだろう。
まあ、話をクラスの序列に戻そう。
このクラスの頂点は「剛川」である。
なので当然、剛川を頂点としたピラミッドが出来上がっている。
剛川と仲のいい取り巻きが次に影響力があり、取り巻きと仲のいい奴らがその次。
取り巻きと仲のいいヤツらと仲のいい奴らがその次……。
下層にいくほど剛川たちと関わりの薄い連中である。
しかし下層にも序列はある。
冴えない奴らですらその内で優劣をつけ、少しでも自分をマシな人間だと思いたいのだ。
ピラミッドの中にある、小さなピラミッド。
明確な頂点にはなれないまでも、ミクロな関係値ではトップ。
そのグループ内では発言力がある。
そんな存在が、そのクラスにもいた。
「
◾︎
は。はぁっ。は。はひっー。
動かす手足以上に、肺と心臓が限界だった。
耳の裏まで心臓の音が響いてきて、うるさい。
心肺がこの強度の運動に対応してないって、悲鳴を上げている。
明らかに私のマシンスペック以上の動きだ。
「いやね。剛川達ほどじゃないんだけどさ、ムカついてんだよね。黒羽さんに」
リノニウムの床を力一杯蹴り飛ばす。
キュッ、キュッ、とその度に鳴る音はどこか悲鳴っぽくて、ヒステリックに感じられた。
廊下を全力疾走なんて、人生で初めてだ。
「だってさ、最初はそれなりに仲良かったじゃん。
俺たち。アニメの話したりさ。本気にしてた訳じゃないけど、コミケ行っちゃう? みたいな会話もあったわけでさ」
でも、逃げなければならない。
追いつかれたら、きっと殺されてしまうから。
「それなのに、剛川達に虐められてから目も合わせてくれなくなってさ。
それどころか、俺が裸にひん剥かれてた時、笑ってた事があったよね。
あれは凄く傷ついたなぁ……」
心当たりは、ある。
「まぁ、本命の前のエキシビションって事で。
サクッと復讐させてよ」
あっさりと追いつかれてしまった。
壁に背をついて座り、肩で息をする私とは対称的に、
彼は余裕たっぷりといった様子で私を見下ろしている
私は乱れた息を整えながら彼を見上げた。
きっと、最初から逃げ切る事なんて出来なかったのだろう。
HR中にみんなの動きが止まったと思ったら、
彼に鬼ごっこを持ちかけられたのだ。
「捕まえたら殺すから全力で逃げてね」と言われて。
尋常じゃないことを感じて逃げたが、追ってくる彼は常に一定の距離を保っていたし、そもそも見間違えでなければ
悠々と歩いて、まるで彼以外のこの世界が遅いのだというように、あっけなく追いつかれしまったのだ。
眼前の彼は息を切らしていないし、一滴の汗もかいていない。
理外の存在に成ったのだと確信するには十分すぎた。
「ごめんなさい」
私は土下座の姿勢をとった。
保身の気持ちだと言われれば否定はできない。
だけど、それ以前にも申し訳なさは張り裂けそうになるくらい感じてはいたのだ。
追い詰められた今だけの感情だけじゃなく、彼が苛烈ないじめに遭ってる時から、自分が見捨てた事への罪悪感はあったのだ。
「本当に、ごめんなさい……」
ただ、薄れていたのだ。
人間扱いされてない存在がクラスの中にいることが、普通になってしまって、酷いことだっていう認識が。薄くなってしまっていた。
だから、きっと、笑ってしまったのだ。
いけない事だと分かっていながら、彼の尊厳が奪われる様を、嗤った。
私は涙さえ流していた。身勝手な涙だ。
今になって最も彼に与えた屈辱に自覚的になっていたのだ。
私は薄汚い裏切り者だ。
「黒羽さんさ。ハンムラビ法典って知ってるでしょ? ほら。眼には眼を、歯には歯をってやつ」
無意識に体に力が入る。きっと復讐に脅えていた。その衝動に自罰的な考えがよぎった。
私は受け入れるべきだ。復讐を。
「あれさ。ちゃんちゃらおかしな話だと思ってるんだよね。どうして、やられた側がやり返す側に同じだけの報復しかしちゃいけないんだよって────────―気が済むまでだろ!? 普通!!」
そうだ。私は、死ぬべきだ。
どうか殺してください。
「黒羽さん。君は頭も良くないし運動もできない。
なのに許されてるのは、割と可愛い見た目と内気な性格で「無害」だと思われてるからだ」
「え、え、あの……」
「裏切りには、超・裏切りを!」
超、裏切り……?
「君が無害だという皆の認識を裏切ってもらう。
俺の気が済むまでな」
そう言ってニコリともしない彼の顔を見て。
私はここで殺されるべきということすら甘い認識だったのだと思い直したのです。
お久しぶりです。