今回もR18はありません。
普通にポケモンの小説でいいのでは……?
「わざわざ来て貰って悪いんすけど、
ジムリーダーは今ちょっと外してましてね……
森が妙に静かだから見回りしてくるとか」
「ありゃ、そうなんですか?」
草花の装飾が施されたジムに到着したのだが、何やらジムリーダーは留守らしい。ちなみにその景観からも分かるように、ここのジムは草タイプ専門だ。あまり強いイメージのない草タイプなのだが、ここのジムのトレーナーとポケモンはかなりレベルが高く、手練ればかりのジムとなっている。
あと今の手持ちで相手はほんとに無理ゲーだ。なので今度改めて挑戦する。
ジムの前で、サングラスのガイドさんが唸る。
強面だが割と気さくでいい人だ。
「なんなら伝えとくっすか?」
「うーん……いや、大丈夫です。
それまで時間でも潰してますんで」
「ほんと悪いっすね。
あ、時間潰しならイカリくん、
最近有名なあのウワサ、知ってるっすか」
「知ってるって……何がですか?」
「幽霊っすよ、幽霊」
「幽霊?」
こちらを脅かすように少し声を低くしたガイドさんの言葉に、俺は小首を傾げた。聞いたことのない話だ。幽霊、というと……
「ゴーストタイプのポケモンとか?」
「では、ないらしいんすよねぇ。
なんでも白っぽくて小さい影だとか。
それも真っっ白の」
「真っっ白の影……」
仮にポケモンだとしても、白っぽい影か。
あまり思い浮かばないがポケモンではないだろうか。ワッカネズミやイッカネズミ、トゲピー、チルットにチラチーノ。ぱっと思い付くのはこの辺りだが。
しかし、どのポケモンもこの辺りには分布しない。
白っぽいポケモンなら他にはこおりタイプが多いが、それらのポケモンもこの辺りには生息しない。
なら、なんだろうか。
「探してみたらどうっすか?
ジムリーダー、今は忙しいっすから
今のうちが狙い時っすよ」
「そうですね。見れたのってどの辺りですか?」
「ここから森を迂回する方っすよ、
次の町まで行くところとは反対側、海沿いっすね」
森の迂回路は海沿いと次の町へ向かう道路がある。
海沿いは人通りはあまりないし、確かに噂程度なのも頷ける。よし、ならそちらに行ってみよう。
ガイドさんに頭を下げる。
「ありがとうございます、行ってみます」
「いえいえ、お気をつけて」
ガイドさんに手を振り、海沿い側へと向かう。
さて、どんなポケモンなのだろうか。
─────
─────────
森の迂回路、潮風の道。
海が近いなら、水タイプのポケモンが多くなる。潮の香りと穏やかな陽気に誘われて、静かな磯部と海辺の道には多くのポケモンたちがいた。
顔を上げればキャモメ、またペリッパーが空を舞い、また磯部では泡を飛ばすクラブたち、そして海の沖でラブカスやタマンタが跳ねている。
草むらが広がる陸路には、ルリリやマリルがクラブの泡を追いかけて、またブイゼルたちの鬼ごっこも同じ場所で繰り広げられる、まさに穏やかな場所。
癒される場所ではあるのだが……
まれにクラブたちとライバル関係にあるヘイガニらが現れ、激戦の舞台となることもある。本当に稀だが、そいつらのボスであるキングラーとシザリガー同士が戦闘を始めてしまうと町まで被害が広がることも。
「……今日は平和みたいだな」
なんだかホッとする。
ボス同士の戦いは見たことないのだが見たくもない。あの蛇でお腹いっぱいである。危険多すぎるでしょ。
そうして胸を撫で下ろし、軽くウォーミングアップ。屈伸しながら呼吸を深く、浅くを繰り返す。いつでも走れるようにしておくべきである。本当に。
「きゅん」
「クロ。小さくて白っぽいポケモンを探そう。
なんでも珍しいのがいるみたいなんだ」
「きゅ」
小さく鳴いたそれは、肯定の合図だろう。
クロは俺の少し前を歩き出し、俺もそれに続く。
心地いい潮風を受けながら、周囲を観察しながら道を進んでいく。のだが………当然ながら。
「………普段通り。いや、当たり前なんだけど」
どれだけ珍しいポケモンがいようが、野生での彼らは特にそれを気にすることはないのだろう。クラブらが吐いた泡を追いかけるルリリとマリルがブイゼルへとぶつかり、怒ったブイゼルが放ったみずでっぽうが、二匹をびしょぬれにしてしまう。
泣き顔になるルリリに、マリルは怒り心頭。
丸い身体を活かしたころがるが、ブイゼルへ………
観察するのは楽しいし、幾らでも見ていられるのだが生憎と目的はそこじゃない。適当に散策する方法しかないのだが、どうにも情報が少なすぎる。
「ポケモンと話せたら楽なんだけどな」
「きゅん」
クロに向かってそう言えば、クロもまたこちらを向き小さく鳴く。まぁ、そんな便利能力あるわけないが。と、そんなことを考えながら道を進んでいたとき。
「……きゅ」
「ん?」
クロが目を細め、鼻を鳴らす。
そしてその視線を海とは反対側、森の方へと向ける。俺もそちらに目を向けると、そこには。
「ぶいぃ~……」
「!?」
思わずその姿に驚きながら咄嗟に膝をついて草むらに身を隠す。茶色の毛色、長い耳に襟巻きのような毛。この辺りでは、というかこの地方ではかなり珍しい。
しんかポケモン……イーブイ。
様々なタイプへの進化先がある珍しいポケモン。
実物を見たのは初めて………
いや、というか問題はそこではない。
そのイーブイは、一匹だけじゃない。
二、四、六、八………十匹近い。群れだろうか?
かなり凄い体験をしてるな俺。
メスも混じってるようだし、折角ならここから……
「…………………………」
「……………ごめんって」
クロの視線が突き刺さり、それについ謝ってしまう。いつの間に『にらみつける』なんて覚えたんだ。
性癖漏らしていくのはともかく、本当に珍しい。
出来ることなら捕まえたいが………
そうして観察していると、気が付く。
何匹か群れの中には怪我をしているのもいるらしく、どの個体もかなり体力を消耗しているようだ。それに後ろを警戒しているのか、どの個体も森に怯えた目を向けている。今ならチャンス、ではあるが………
「きゅおっ……!」
クロが警戒体勢に入り、身を屈める。
それに合わせて俺も集中し、周囲に注意を向ける。
そうすれば聞こえてくる。
羽音。
まるで軍隊のように整った、ごく短い一定間隔で続くそれは、虫の耳障りさはなく、だからこそ、それは、確かな恐ろしさを感じさせる。
イーブイたちの表情が恐怖に染め上げられる。
彼らは一目散にその場から飛び出し、散り散りになり逃げ出す。そして、その森の茂みから飛び出すのは。
「「「──────!!」」」
「(スピアー……!)」
どくばちポケモン。
その分類通り、毒針を持つ蜂のポケモンだ。
こちらもかなり攻撃性の高いポケモン。
まともに相手すればまず負ける。
それに、こちらも一匹ではない。
五匹……だが、そのうちの四匹はイーブイらを追う。
しかし、残り一匹は。
「────!!」
「来るぞ! クロ、頼む!!」
「きゅおおん!」
咄嗟に後ろに飛び退き、スピアーの放ったどくばりをギリギリで回避する。そしてクロが前に出て、眼前に飛び出してきたスピアーと対峙する。
「───!」
「きゅ!」
問答無用、そう言わんばかりにスピアーが再度、その両腕の大針から、紫色の大刺、どくばりを射出する。
クロはそれを横ステップで回避し、臨戦態勢へ。
相手はどく、むしタイプ。
クロのあくタイプに対して相性が悪すぎる。
バッグにモモンの実はあるとはいえ、毒を食らって、また虫ポケモンの機動力で飛び回られるのは不味い。それにスピアーの、あの大針。物理技の危険度は火を見るより明らかだ。
だが相手も無理な戦いはしないだろう。まずは撃退、良ければ倒す。悪ければ逃げる。逃げきれる、なんて甘い考えは最後の手段と思うしかないが。
「クロ、相手の動きに惑わされるなよ!
集中して確実に攻撃を当てる!」
「きゅおんっ!」
「──────!!」
吠えたクロに対し、早速スピアーはその両腕の大針を輝かせ、甲高い声を上げて大きく飛び上がる。
恐らく〝ダブルニードル〟。毒を直接刺しに来るか。そうして急降下しながら襲いかかってくるのを見極め指示を飛ばす。
「今!!」
「──────!!?」
クロが突き刺す針を寸前で躱し、そのまま反撃体勢に移る。回避されたことに動揺したらしく、スピアーは一瞬の、だが確かな隙を晒した。
「みだれひっかき!」
「こきゅあぁっ!!」
咆哮と共に、クロは両前足の爪を、連続でスピアーに叩きつけ始める。
一撃、そのがら空きの胴体へ。
一撃、その傷跡に追い打ちを。
そして一撃、反撃を許さず、その肩部を撃ち抜く。
「───────!!!」
そこで、スピアーが一層高く鳴く。
その気迫に押され、連撃が止まってしまう、が。
まだだ。
「ふいうち!!」
「───────ッ!!!!」
「きゅ、おぉおぉっ!!」
突き出される針を、地面スレスレまで身体を屈めて、クロは回避。そしてその明確な隙に、畳み掛ける。
スピアーの顎を、爪が打ち上げる。
シザリガー戦と同様、下から顎を撃ち抜く一撃。
だが。
「──、─────!!!!」
「っ!? しまっ、クロ!!」
その両腕の毒針が、凄まじい速度で振るわれる。
〝つばめがえし〟……確実に反撃してきたか!!
瞬く二連の斬撃に、こちらへクロは吹き飛ばされる。
「きゅ……!」
「大丈夫か!?」
「きゅおっ……!」
「──────………!」
まだいける、というように吠えたクロ。
それに、スピアーは恨めしそうに鳴き声を漏らす。
急所こそ外したが、もう一度攻撃を貰うと不味いか。今のがむしタイプ技でなかったことに感謝だが……
改めて、敵を見据える。
スピアーはその羽を震わせて飛び上がり、レンズ状の複眼を細め、こちらからは目を離さないまま、周囲へ視線を巡らせ………
「っ!!?」
そこで、羽音が耳に入る。
眼前のスピアーのものではなく、背後から……!
「きゅ!?」
咄嗟にその場から飛び退き、受身を取りながら草地を転がる。同時に、先程まで立っていた場所に真っ白な糸の塊が降り注ぐ。そして周囲に視線を送ると。
「……………クソッ!!」
二匹のスピアーが、上空から糸を吐き出してくる。
悪態と同時に地面を蹴り、なんとか回避。とにかく、今は急いでこの場から逃げなければ!
ベルトからボールを抜き、こちらに走ってくるクロにそれを向け─────
「き、ゅ……!」
「クロ!!」
降り注ぐ糸が、クロを捕える。
その糸塊を手負いのスピアーが器用に針で絡めとり、そして羽を震わせる。
「っ、届け!!」
ボールを起動し、クロをボールに戻そうとする、が。
「───────なに!?」
そこから伸びた赤光は、分厚い糸の塊に阻まれる。
距離が離れ過ぎている。
手負いのスピアーはそのまま森へ飛び込み、そして、それに続いて他のスピアーもまた、それに続く。
「ッ、待て───────!!」
すぐに立ち上がり、俺も森へと走り込む。
叫び、そして手を伸ばす。
走る。
走る。
走る。
「クロ───────!!」
離れていく影に、それでも、手を伸ばす。