深夜の田園地帯を疾走する列車。
ガタガタ激しく揺れる屋根の上で、女怪盗キャッツアイは犯罪組織と戦いを繰り広げていた。
「たぁッ!」
掛け声とともに、瞳の蹴りが列車から悪党を叩き落とす。
次いで左右から襲い掛かる男たちの攻撃をフワリと飛び上がって避けると、息もつかせぬ連続技でなぎ倒した。
瞳の目的は、最後尾の車両。
そこを切り離し、人質の幼稚園児を救出するのが目的だ。
だがあと一歩と来たところで、国際犯罪組織のボスである貝塚がナイフを片手に立ち塞がった。
「くっ!」
貝塚の鋭いナイフが瞳を襲う。
紙一重で不意打ちをかわした瞳は、大きく後ろに跳んだ。
そして隣の車両に飛び乗る。
「かかったな」
貝塚がニヤリと笑うと同時に、瞳の背後から5人の男が現れた。
更に貝塚の後ろからも、5人の部下が現れる。
「しまった!」
10人の男が前後から挟むように、レオタード姿の女へ襲い掛かる。
最初こそ攻勢に出ていた瞳であったが、疲労の蓄積、そして背中を守ってくれた泪と離れたのが災いし、ジワジワと人数に追いつめられていった。
「きゃぁッ!」
前の敵と戦っていた隙に、瞳は背後から男に抱き付かれた。
男はそのまま太い腕で、瞳の首を力任せに締め上げる。
「ああッ! ああッッ!」
激しく左右に首を振り、天を仰いで苦悶の叫びを張りあげる瞳。
その力はすさまじく、首の骨を折る勢いで満足に呼吸もできない。
男の口がニヤリと歪む。
だがその一瞬のスキを、瞳は見逃さなかった。
「たあっ!」
瞳は腰を落とすと、男を一本背負いで投げ飛ばした。
そして流れるような動きで、前の男達も薙ぎ払い、貝塚を除くすべての敵を列車から叩き落した。
「はぁ……はぁ……」
がっくりと瞳は片膝をつく。
ダメージと疲労はピークに達し、肩で息を始めている。
すると瞳の背後から、パチパチと拍手する音が聞こえてきた。
「さすがはキャッツアイだ、あの囲みを突破するとは見事な腕だ」
現れたのは、貝塚だった。
部下を捨て駒にして弱った瞳を仕留める、最初からそういう算段だったらしい。
「今度はサシで勝負してやる、行くぞキャッツアイ!」
「くっ……!」
疲れ切った瞳に、休む間もなく貝塚のナイフが襲う。
細かく動いて刃を避ける瞳だが、先ほどまでのキレは無い。
「そらっ!」
鋭いナイフの突きが、瞳の喉元を襲う。
寸前で避けた瞳だったが、そこへ貝塚が大振りな回し蹴りを放った。
「くうっ!」
かわしきれず、両腕で蹴りを受け止める瞳。
体格差のある相手の打撃に、グラリと姿勢が崩れる。
その隙を狙い、貝塚のナイフが繰り出される。
かろうじて避ける瞳だが、もはや反撃する余力はなく防戦一方だ。
「さすがにしぶといな、だがそろそろ終わりだ」
貝塚は間合いを詰めると、息も付かせぬナイフの突きを繰り出す。
次第に瞳は捌ききれなくなり、遂にナイフが青いレオタードをかすめた。
豊かな胸部を覆う布が、ナイフで引き裂かれる。
「キャァ!」
反射的に胸を抑える瞳。
貝塚はその隙を見逃さず、体を沈み込ませると足払いを仕掛けた。
「あっ!」
足を払われた瞳は、屋根の上に背中から倒れた。
そして貝塚に組み付かれる。
体格に勝る男に抑え込まれては、さしもの瞳も成す術はない。
たちまち右手を背中へ捻り上げられ、首筋にナイフを突きつけられた。
「勝負あり、だな」
「くっ……」
貝塚が勝ち誇ったように言う。
唇を噛む瞳だったが、首筋に伝わるナイフの冷たさに身動きができない。
「安心しろ、大人しくしていれば殺しはせん、お前とは話したいことがあるからな」
「あうっ!」
貝塚はナイフの柄で瞳の後頭部を殴った。
痛みに呻いた瞳が俯せに倒れると、更にその背中に馬乗りになる。
そしてポケットからハンカチを取り出し、瞳の口と鼻を塞いだ。
(これは……クロロホルム!)」
薬品の匂いを感じてハッとする瞳が、イヤイヤと首を振る。
だが背中から馬乗りにされては、逃げる事はもう出来ない。
次第に意識が混濁し、全身の力が抜けて動かなくなった。
「ふっふっふっ…面白い獲物が手に入った。さて、楽しませてもらうとするか」
貝塚はニヤリと笑うと、レオタード姿の女怪盗を肩で背負った。
そして列車の中へと降りて行った。