※この作品はR-18です。

キャッツ・ハンター   作:muzineki

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1:猫を追う女

「キャッツアイだー!」

 

時計の針が明日を刻もうとする深夜、静寂をかき消す内海刑事の声が辺りに響く。

 

「いたぞ、屋根の上だ!」

 

けたたましい声と同時に、闇の中から警察官が現れた。

彼らは広大な美術館の敷地をぐるりと囲むと、一斉に屋根を見上げる。

そこには満月の柔らかな光に照らし出された、若い女性のシルエットがあった。

サラリと流れる長い髪、長くしなやかな手足、スレンダーなボディライン、レオタードを内から押し上げる豊かな胸。

素顔こそボンヤリとして見えないものの、その女怪盗がとびきりの美女であることは、誰の目にも明らかだ。

 

「観念しろ、キャッツ。もう逃げ場は無いぞ!」

 

幾度となく煮え湯を飲まされている相手を前に、内海刑事がハシゴを使って屋根へと登る。

続いて十数人の警察官も、屋根へとよじ登った。

レオタード姿の女怪盗は、そんな彼らの姿をしなやかな腰に手を当て、余裕の笑みで待ち構える。

 

「逮捕だ、キャッツアイ!」

 

足場の悪さなど気にせず、内海刑事が女怪盗へ飛びかかる。

美術館の屋根は急角度で、立っているだけでも危険な場所だ。

しかしキャッツアイと呼ばれる女怪盗は、その名のとおり軽やかに動きで、内海刑事の手をヒラリと避ける。

部下の警察官たちも次々と手を伸ばすが、猫のように俊敏な動きを捕まえることができない。

 

(そろそろ、いいかしらね)

 

女怪盗は心の中で呟くと、躊躇なく屋根の上から飛んだ。

そして近くにある木の枝へと飛び移る。

 

「逃がすな、キャッツを追え!」

 

地上にいた警察官たちが女怪盗のいる木へと向かうが、時すでに遅し。

彼女はまるで猫のように木立の中を枝から枝へと飛び移り、闇の中へと消えていった。

 

 

 

「ふぅ、ここまで逃げればもう大丈夫ね」

 

人気の無い深夜の公園で、来生瞳は息をついた。

そして木の陰に隠れ、呼吸を整える。

 

「今回も、上手くいったようね」

 

額に汗を浮かべつつ、瞳は微笑んだ。

瞳が注意を引きつけている間に、警察官に変装した泪と愛が絵を盗み出す。

それが今回の作戦だ。

既に作戦成功の連絡は届いている、あとはアジトである喫茶店へと戻るだけだ。

 

「俊夫にはまた悪い事をしちゃったわ、次のデートでは、何か埋め合わせをしないとね」

 

自分を追う刑事であり、恋人でもある内海俊夫の顔を思い浮かべる瞳。

盗みに失敗したことが無い彼女とはいえ緊張はしていたのだろう、表情がホッと緩む。

すると突然、背後から鞭が襲って来た。

 

「……ッ!」

 

考えるよりも先に反応し、瞳は鞭を避けた。

バシッと音がして、木の幹に鞭が叩きつけられる。

 

「この不意打ちを避けるなんて、やるじゃない。さすがはキャッツアイ」

 

それは辺りの空気を凍り付かせるような、冷たい声だった。

驚いただけでなく、背筋がゾッとするのを瞳は感じた。

 

「あなたは、誰?」

 

振り向いた瞳の目に入ったのは、銀髪を腰まで伸ばした女だった。

冷徹で鋭い視線をしているが目鼻立ちは整っていて、瞳とは違うタイプの美人だ。

身長は瞳より高く、モデルのようなボディに、挑発的な赤いボンテージを身に付けている。

 

「フフフ……そうね、私のことはキャッツハンターとでも呼んでもらおうかしら。あなた達キャッツアイを捕まえるために雇われた女よ」

 

「私たちを捕まえる……ですって」

 

その言葉に瞳は身を引き締めた。

先ほどまで軽くあしらって来た警察官とは、明らかに異なる雰囲気を女は発している。

簡単に逃げられる相手ではなさそうだ。

 

「目的は何、誰の命令で私たちを狙っているの?」

 

「それは捕まればわかることよ。素直にしてくれれば、痛い思いをせずに済むわ」

 

コツコツとヒールの足音を鳴らし、キャッツハンターが間合いを詰める。

いつの間にか二人の間合いは、互いの僅かな表情さえ読み取れる位置となっていた。

突然、何かが瞳の頭上をかすめる。

 

「……ッ!」

 

とっさに瞳は身を屈めた。

攻撃の正体が、蹴りだと気づくのに数秒かかる。

それほど早く、鋭い一撃だった。

瞳が体勢を立て直す前に、キャッツハンターは次々と攻撃を繰り出す。

常人離れしたその動きに、瞳は避けるだけで精一杯だ。

 

「ホラホラどうしたの、キャッツアイ。反撃してみなさい」

 

立ちの状態から、キャッツハンターが鋭いパンチを放つ。

攻撃を捌ききれなくなった瞳は、バク転で距離を取った。

するとキャッツハンターは、瞳に向けて鞭を振り下ろした。

寸前で避けた瞳のレオタードを、鞭が僅かにかすめる。

 

「くうっ!」

 

バチッという音が鳴り、瞳に衝撃を与える。

僅かだが電気ショックが体を貫いたのだ。

身体を硬直させた瞳がヨロヨロと後ろへ下がる。

そして地面に膝を付いた。

 

「スタンガン付きの鞭の味はいかがか? これはかすっただけでもご覧の威力。まともに当たれば、どうなるのかしらね」

 

呼吸を荒くする瞳に、更に鞭が襲い掛かる。

瞳は後ろに飛ぶと、大きく距離をとった。

そしてバックステップをしながら、襲い掛かる鞭を避けていく。

 

「チョコマカとしぶとい子猫ちゃんね。いい加減、諦めなさい!」

 

止めを刺そうと、キャッツハンターが鞭を大きく振り上げる。

その隙を瞳は見逃さなかった。

力任せに地面へ叩きつけられる鞭を瞳はジャンプして避けると、空中からキャッツカードを投擲した。

 

「ぐうっ!」

 

右手にカードを受けたキャッツハンターが、鞭を地面に落とす。

その隙に瞳は一気に距離を詰め、回し蹴りを叩きこんだ。

 

「がはっ!」

 

吹き飛ばされたキャッツハンターが、ゴロゴロと地面を転がる。

仰向けに倒れた彼女は、何が起こったのか分からない様子で、視線を宙に彷徨わせていた。

 

「生憎だけど、今日はあなたに付き合っている暇は無いの。これに懲りたら二度と私の前に現れないことね」

 

それだけ言い残すと、瞳はキャッツハンターに背を向けた。

そして泪と愛が待つ自宅へ向けて、駆け出していった。

 

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