「うぅ……」
ズキンと、鈍い痛みに襲われて瞳は小さく呻いた。
うっすらと目を開け、俯せのまま顔を上げる。
「こ、これは……」
身体を動かすと、ジャラリと鎖が鳴った。
首には枷が嵌められおり、鎖で壁と繋がれている。
両手は背中に回され、こちらも頑丈な枷できつく締め上げられていた。
「やはり捕まってしまったのね、私……」
全身の痛みに顔をしかめながら、瞳は呟いた。
そこは四方を冷たい鉄板で覆われた部屋だった。
窓は無く、出入口にはステンレス製の鉄格子が嵌められている。
床には瞳が横になっているマットと、剥き出しの洋式便器。
天井には監視カメラが、瞬きもせずにジッと瞳を見張っている。
「警察……では無さそうね。ここは一体、どこ?」
起き上がった瞳は、首輪の鎖が許す範囲まで鉄格子に近づいた。
牢屋の外は、かなり広いスペースになっている。
床や壁は白っぽいコンクリートで、病院にあるような簡素な寝台が中央に置かれている。
他には肘掛けと足に鉄の枷が付いた椅子。
天井には滑車と鎖がぶら下がり、壁にはロープや鞭が掛けられていた。
「ま、まさか拷問部屋!? いったい私を、どうするつもり」
その時、拷問部屋の向こうでガチャリと鉄の扉が開く音がした。
続いて二人分の足音が近づき、やがてその姿が見える。
一人は瞳を捕えた、キャッツハンターと呼ばれる女だ。
さらにその後ろから、ブヨブヨと太った体形の男が現れる。
その脂ぎった顔に、瞳は驚愕した。
(あ、あれは……瀬口!)
日本美術連盟の代表、瀬口広幸。
財界の大物であり、美術品の蒐集家としても有名な男。
だがその正体は、多くの美術品犯罪に関わり、瞳を父から引き離したシンジケートの幹部だ。
「彼女が本当に、あのキャッツアイなのかね」
「はい、瀬口様が手に入れた警察資料によるキャッツアイの指紋と、この女の指紋を照合した結果、同一人物であることが確認できましたわ」
「さすがは元スペツナズ、高い金を取るだけのことはあるな」
瀬口は大きなアタッシュケース3つ、キャッツハンターに渡した。
中に札束がギッシリと詰まっているのを確認した女は、笑顔で瀬口と握手する。
そして二人で鉄格子の扉を開け、牢屋の中へと入ってきた。
「ワッハッハッ、私の財産を何度も盗みおって。その報いはタップリと受けてもらうぞ、キャッツアイ」
「フン、あなたの財産なんて汚い金と、汚い手段で手に入れた美術品ばかりじゃない。被害者ぶるのは、やめて欲しいわね」
瀬口を睨みつけながら、瞳は言った。
囚われの身になっても、彼女は悪党を前に強気だった。
「このコソ泥め! 自分の立場が解っておらんようだな」
たるんだ腹を揺らしながら、瀬口が前に出る。
そして瞳の顎を、太い指で持ち上げた。
「お前には恨みと、聞きたい事がタップリとある。今日から徹底的に調教をして、私の言う事を何でも聞くペットにしてやるから覚悟しろ」
瀬口の手が顎から胸元へと下がり、そして乳房を包む。
レオタードの布越しに豊かな乳肉を掴まれた瞳は、悲鳴を上げた。
「キャァッ!」
瞳は身体を捻ると、瀬口の手を振りほどいた。
そして後ろ手に拘束された身体をグルリと回転させ、瀬口に蹴りを叩きこむ。
「がはっ!」
瀬口の丸い体がゴロゴロと転がり、鉄格子へ叩きつけられた。
「何をするの、変態!」
鋭い眼光で瀬口を睨みつける瞳。
両手を拘束され、首輪で繋がれた姿でも、彼女の眼に込められた強い意志と、凛とした態度は健在だ。
「仕方ないわね」
そう呟くとキャッツハンターは、ヒュッと鞭を振った。
軌道を読んだ瞳が、初撃を避ける。
だが続く横なぎの鞭は、首輪の鎖のせいで避けることが出来ず、胴に鞭を巻き付けられてしまう。
「キャァァァァァァァッ!」
電気ショックにより、ビクビクと瞳の身体が痙攣する。
床に両膝を付けた瞳が、前のめりに崩れる。
だが床に倒れる前に首輪の鎖を掴まれ、強引に起こされた。
銀髪の女は、呼吸を荒くする瞳の耳元でそっと囁く。
「言うことを聞きなさい。でないとあなたの正体を内海刑事にバラすわよ」
その言葉を聞いた瞬間、瞳の頭がハッと上がった。
激しく動揺し、先ほどまで怒りを孕んでいた視線も勢いを失ってしまう。
「オイ、君! 大丈夫かね! 部下を呼ぶなら、早くするんだ!」
牢屋の隅でガクガク震えながら、瀬口が叫ぶ。
思わぬ反撃を受けたショックから、まだ立ち直っていないらしい。
「大丈夫ですよ、瀬口様。このメスネコにはきつく言い聞かせました。もう逆らう事はありません」
キャッツハンターは首輪の鎖を引っ張ると、瞳を瀬口の前に放り投げた。
そして俯せに倒れた瞳の後頭部を、ヒールで踏みつける。
「ほ、本当に大丈夫なのかね」
「ええ、この女は捕まえる時に、私が徹底的に叩きのめしましたので。少し痛めつけてやれば、すぐ素直になりますわ」
「そ、そうなのか。ならもう、触っても大丈夫なのだな」
「はい、私の睨みが効いている間なら、暴れたりはしませんよ」
キャッツハンターは首輪の鎖を引っ張ると、再び瞳を起き上がらせた。
そして鎖を掴んだまま、瀬口の前で膝立ちになる瞳の耳元で再び囁く。
「大人しくしているのよ。少しでも逆らったらどうなるかは、解っているわね」
悔しそうに唇を噛む瞳だったが、脅迫者の言葉には逆らえない。
ビクビクしながら近づき、胸の谷間を見下ろす瀬口の前で、瞳は何もせずただジッとしている。
「グフフ……見事な胸だ。泥棒にしておくのは勿体ないな」
瀬口の両手が瞳の両胸を掴む。
目を瞑り、嫌悪の表情を露わにする瞳だが、今度は逆らわなかった。
「おぉ、素晴らしい揉み心地だ」
左右の指の中で揉み潰される乳房を見ながら、瀬口が感嘆する。
レオタード越しに感じる乳肉は、マシュマロのように柔らいが、しっかりと弾力もある。
その感触は、男を夢中にさせるには十分過ぎた。
キャッツアイに対する恐怖心が薄れた瀬口は、次第に厚かましさを増し、顔を舐めたり、脚を触ったりし始めた。
「イ……イヤッ!」
キスを迫られた瞳が、思わず顔を背ける。
するとキャッツハンターに、後ろから頭を押された。
これ以上逃げるな、ということらしい。
観念して瞳が正面を向くと、ヒキガエルのような瀬口の唇が吸い付いてきた。
「んっ、んむぅ! むぅん!」
それは悪夢のような衝撃だった。
恋人でもない男に触られるのも嫌なのに、よりによって父の敵である男と接吻をしているのだ。
我を忘れて瞳は首を振る。
だがキャッツハンターに後ろから頭を掴まれ、ささやかな抵抗すらできなくなる。
「むうっ! んんっ! ふぅん!」
生温かい大きなナメクジのような舌が、瞳の口内に侵入する。
口の中を舐め回され、犯される度に、背筋がゾゾッと凍り付く。
すぐに瞳の舌も絡め取られた。
唾液ごと淫らな水音を立て、舌が吸い上げられる。
「クックック、なかなか良かったぞ、キャッツ。」
そう言いながら、瀬口はハァハァと呼吸をする女怪盗の頭を撫でた。
生意気だった女とのディープキスを終え、気分を良くしたらしい。
「どうです瀬口様。もしよろしければこの女の監視と調教も、私が引き受けますよ」
そう言うとキャッツハンターは、瞳の髪の毛を掴んで頭を上げさせた。
あのキャッツアイがすっかり従順になっている姿に、瀬口は満足する。
「うむ、追加料金は払うからぜひ頼む。そしてこの女を、私の言うことを何でも聞く従順なペットに躾けてくれ」
楽しそうに笑う瀬口の足元で、瞳は悔しそうに身体を震わせる。
そんな姿をキャッツハンターは、口元を歪めつつ眺めていた。