※この作品はR-18です。

盗みのチャンスは一度だけ BAD END   作:muzineki

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1章:逮捕
1:平山美術館


東京郊外にある、とある美術館。

窓の無い廊下を青いレオタード姿の女が、長い髪をなびかせて走っていた。

 

ピッ!

 

女の目の前に突然、レーザーの網が現れる。

 

「ちょっと、そんなもの出さないでよ!」

 

女は舌打ちすると、長い足で跳躍した。

細身だが豊満な乳房をした身体が、レーザーの隙間をするりと抜ける。

その俊敏な動きは、まるで猫のようだ。

 

「ふぅ、助かった」

 

女は額に流れる汗をぬぐった。

その美貌には、凛々しさと可憐さが備わっている。

女の名前は来生瞳。

世間を騒がす三姉妹の怪盗、キャッツアイの次女だ。

 

大手電気メーカーの会長、平山が作り上げた電子の要塞、平山美術館。

ここが今日のキャッツアイのターゲットだ。

目的のダイヤは既に盗み出している、後は逃げるだけだ。

しかし唯一の脱出口を刑事に抑えられてしまい、瞳は逃げ場を失っていた。

 

「噂には聞いていたけど、とんでもない所ね」

 

曲がり角で壁にピタリと背を付け、慎重に先を探る瞳。

表情には、焦りの色が浮かんでいる。

超人的な運動神経を持つ瞳とはいえ、罠だらけの美術館に閉じ込められた状態では、さすがに動揺を隠せない。

 

「あれは?」

 

瞳は視線の先に階段を見つけた。

その先には扉がある。

おそらく上の階へと繋がっているのだろう。

 

「2階なら、逃げられる場所があるかも」

 

甘い期待を抱いた瞳は、素早く階段を駆け上がる。

2階へ続く扉は、鋼鉄製でかなり頑丈だ。

 

「頼むから、開いてね」

 

瞳は祈るような気持ちで、ドアノブをそっと回す。

幸運にもカギはかかっておらず、厚い扉はすんなりと開いた。

 

「まだ、運はあるようね」

 

瞳は笑みを浮かべつつ、慎重に中の様子を伺う。

扉の先は闇に閉ざされていた。

だが天井からは、かすかな月明かりが差し込んでいる。

 

「天窓だわ、あそこなら逃げられるかも」

 

光に引き寄せられるように、瞳は闇の中へと足を踏み入れた。

そして駆け出そうとした、その時――

 

バタン!

 

突然、瞳の背後で扉が閉まった。

同時に大きな影が飛びかかってくる。

瞳は考えるよりも先に横へと飛び、その攻撃を避けた。

 

「誰?」

 

体勢を立て直した瞳は、すぐに影を見据える。

視線の先にいるのは、体高が1メートルはある大型犬だ。

 

「警察犬!?」

 

不気味な唸りをあげながら、犬は前傾姿勢の構えをとる。

闇のせいで犬種の判別はできないが、筋肉質でがっしりした体格だ。

こんなのに噛み付かれれば、ひとたまりもない。

 

「悪いけど、あんたの相手をしている暇はないの!」

 

瞳はすぐに扉へ駆け寄り、ドアノブを掴んだ。

だがいくら回しても、ガチャガチャと空しい音を立てるだけで扉は開かない。

 

「どうやら、罠だったようね」

 

窮地を悟った瞳が舌打ちする。

その背中へ向けて、大型犬が猛スピードで襲ってきた。

 

「くっ!」

 

間一髪で身を伏せた瞳は、かろうじて攻撃を避けた。

ガンと大きな音を立て、鋼鉄製の扉に大型犬が激突する。

 

「ゴメンなさいね、ワンちゃん」

 

おどけた口調で両手を合わせる瞳。

だが次の瞬間、両眼を見開き驚愕した。

鋼鉄製のドアが、まるでハンマーで叩いたように、大きく凹んでいたからだ。

 

「な、何なの、コレ……」

 

呆然とする瞳の前で、大型犬は何事もなく立ち上がった。

裂けた頭部の皮膚からは、剥き出しの機械が見える。

 

「まさか……ロボット!?」

 

驚愕する瞳の背後から、新たな殺気が3つ現れた。

気が付くと瞳は、4匹のメカドックに囲まれていた。

メカドック達は、凄まじいスピードで獲物へと飛びかかる。

 

「くっ!」

 

瞳は空中へ飛び、メカドックの攻撃を避けた。

するとメカドック達も跳躍し、宙を舞うレオタード姿の美女へ鋭い爪を向ける。

 

「しつこいわねっ!」

 

空中で身体を捻った瞳は、飛んできた2匹の爪を避けた。

しかし地上では、残る2匹が着地を狙って身構えている。

 

「ちょっと、ワンちゃんのくせにチームプレイしないでよ!」

 

メカドックの間へ落ちた瞳は、勢いのままバク転した。

飛び掛かった2匹のメカドックが、交通事故のような音を立てて激突する。

だがどちらも頭の形が歪んだだけで、すぐに攻撃の構えを見せた。

 

「本当に、タフなワンちゃんね!」

 

レオタードから大きく露出した瞳の背中に、冷たい汗が流れる。

相手は金属の塊だ、半端な打撃は通用しない。

スプレー、閃光弾の類も同様だろう。

爆弾でもあれば話は別だが、今はその持ち合わせが無い。

 

「となれば、方法は一つ」

 

暗闇の奥へ向かって、瞳は駆け出した。

戻れないのなら、先に進む以外にない。

メカドック達もすぐに後を追う。

暗闇の中、金属の犬が猫を追う狩りが始まった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

息を切らせて走る瞳。

通路は狭く、曲がったり、分かれ道があったりして、まるで迷路のようだ。

どの場所も同じような作りで、目印が全く無い。

同じ場所をグルグル回っているような感覚に陥る。

 

「泪姉さんの調べた見取り図に、こんな場所は無かった、いったいどこへ続いているの?」

 

瞳はチラリと背後を見た。

メカドック達は、ピタリと後ろに張り付いている。

走っても走っても、振り切れる気配はない。

逃げ始めてから、かなりの時間が経っている。

全力疾走はもう限界だ。

 

「このままでは、捕まってしまう……」

 

瞳の美貌に焦りが浮かぶ。

その時、目の前に直角の曲がり角が現れた。

 

「しめた!」

 

瞳は壁に向って突進すると、最後の力を振り絞って跳躍した。

そして足から壁に飛びつき、三角飛びでメカドック達の頭を飛び越える。

猛スピードで走っていたメカドック達は、止まることが出来ず次々と壁に激突した。

 

「これで少しは時間を稼げたはず、今のうちね」

 

瞳は短時間で呼吸を整えると、通路を逆方向へと走り出す。

だが次の瞬間、鈍い音と同時に背中へ強い衝撃を受けた。

 

「がはっ!!」

 

瞳の息が完全に詰まる。

背骨が折れたと思うような一撃だった。

 

「がっ! ぐうっ……」

 

呻き声を上げながら、瞳は膝を折った。

両手を床に付けると、十字の硬質ゴムが転がっているのが見える。

 

「ゴ……ゴム弾!?」

 

自分を撃った正体に気が付いた瞳は、すぐに頭を上げた。

すると今度は、前方からの強烈な光に襲われた。

 

「ああっ!」

 

闇に慣れた目が眩み、瞳は視力を奪われる。

その隙に前方から飛んできたゴム弾が、左肩へ突き刺さった。

 

「ああああっ!!」

 

青いレオタード姿が半回転しながら、後ろへと吹き飛ぶ。

床に倒れた瞳は、肩を押さえて苦悶の声を上げゴロゴロとのた打ち回った。

 

「あぁぁぁぁっ! がぁぁぁぁっ!」 

 

「侵入者二告グ、今スグ俯セ二ナリ、両手ヲ背中へ回シテ、降伏ノ意志ヲ示シナサイ」

 

合成音声に反応した瞳が、はっと頭を上げる。

ようやく光に慣れた目に、ロケットの先端部のような影が見えた。

それは円錐型のロボットであった。

大きさは1.5メートルほどで、頭から威嚇灯を発している。

 

「ま、またロボット!?」

 

後ろへ逃げようと振り向く瞳。

だがそちらにも、同じロボットが待っていた。

とっさに立ち上がる瞳だったが、身構えるよりも早く長い脚にゴム弾が命中する。

 

「あうっ!!」

 

バランスを崩した瞳は、その場に転倒した。

痛む足を抑え、額に脂汗を垂らして苦悶する。

その間にメカドック達が、通路の前後からやってきた。

狭い通路の中、瞳は2体の警備用ロボットと、4匹のメカドックに包囲されてしまった。

 

「侵入者二告グ、今スグ俯セ二ナリ、両手ヲ背中へ回シ、降伏ノ意志ヲ示シナサイ」

 

警備用ロボットが、再度の警告を行う。

 

「くっ……そういう訳にはいかないのよ!」

 

気力を奮い立たせ、立ち上がろうとする瞳。

だが脚に走る激痛が、それを許さない。

 

「あうっ!」

 

呻き声と同時に、瞳の身体が床へと崩れる。

骨折こそ免れているが、この脚ではもうメカドックからは逃げられない。

絶望を悟った美貌が、レオタードと同じ真っ青に染まる。

 

「や、やめて……」

 

憐れみを誘うような言葉が、瞳から漏れる。

だが美女の懇願は、感情の無いロボット達には通用しない。

降伏する気の無い獲物へ向けて、ロボット達は容赦のないゴム弾を発射した。

 

「きゃぁ! ああっ! いやぁぁぁ! ああああっっ!」

 

とっさに身体を丸めた瞳へ、嵐のようなゴム弾が降り注ぐ。

急所こそ守っているが、一発ごとの威力が尋常ではない。

全身に強烈な打撃を浴びた瞳は、ぐったりと動けなくなった。

そんな瞳へメカドックは近寄ると、足首に噛みついた。

 

「きゃぁっ!」

 

脚への痛みに、悲鳴を上げる瞳。

メカドックは首の力だけで瞳の身体を持ち上げると、勢いよく振り回した。

 

「キャァァァァァァァ!!」

 

棒切れのように振り回された瞳が、悲鳴を上げる。

勢いがついた所で、メカドックは咥えていた瞳の脚を離した。

青いレオタードに包まれた身体が宙を舞い、壁へと叩き付けられる。

 

「ぐうっ!」

 

背中から打ち付けられた瞳が、ズルズルと床へと落ちる。

全身の骨がバラバラになったような衝撃に、意識が朦朧として動くこともできない。

 

「侵入者二告グ、今スグ俯セ二ナリ、両手ヲ背中へ回シテ、降伏ノ意志ヲ示シナサイ」

 

「従ワナイ場合ハ、攻撃ヲ再開シマス」

 

2体の警備用ロボットが、再び警告を行う。

その手には、銀色に光る手錠が見えた

 

「うぅっ……」

 

瞳は最後の気力を振り絞ると、壁に寄りかかりながらヨロヨロと立ち上がった。

無駄な努力ということは、解っている。

だがキャッツアイとして逮捕され、警察に引き渡されれば、瞳は全てを失う。

抵抗しないわけにはいかなかった。

 

「侵入者ノ抵抗ヲ確認、攻撃ヲ再開シマス」

 

無機質な声と共に、ロボットがゴム弾を発射する。

それは瞳の無防備な鳩尾へと突き刺さった。

 

「ぐふっ!」

 

胃液を吐き出しながら、瞳は膝から崩れ落ちた。

かろうじて頭を上げると、目の前には唸り声をあげるメカドックが見える。

 

「こ、来ないで……来ないで!」

 

床にへたり込んだまま、駄々っ子ように手を振り回す瞳。

最期の瞬間を長引かせるだけの、無意味な抵抗だ。

やがてその手は、にじり寄るメカドックの頭に触れた。

 

「ギャァァァァッ!!」

 

バチッという音と同時に、瞳の空気を震わせるような悲鳴が響く

強烈な電気ショックが、身体を貫いたのだ。

その隙にメカドックが、瞳にのしかかった。

 

「やめてっ!! やめてぇっ!!」

 

仰向けに倒された瞳は、両腕をメカドック達に押さえつけられた。

それでも身をよじって、なおも無駄な足掻きを続ける。

するとメカドックは、抵抗する獲物の豊かな乳房へ電極となっている頭を押し付けた。

 

「キャァァァァァァッ!! アァァァァァァッ!!」

 

強烈な電気ショックに、涙を流して絶叫する瞳。

メカドックは胸の谷間に顔を埋め、なおもグリグリと頭を押し込む。

 

「ギャァァァァァァッ!! ヒィィィィィィッ!!」

 

全身をビクビクと震わせる瞳。

やがて抵抗していた身体から力が抜け、動かなくなる。

整った美貌は白目を剥いていて、口元からは涎が垂れていた。

失神してしまったらしい。

 

「侵入者、抵抗ヲ停止」

 

動かなくなった瞳に、警備用ロボットが近寄る。

青いレオタードに包まれた身体が乱暴に転がされ、うつ伏せにされた。

ロボット達は両腕を掴んで背中に回すと、銀色の手錠を手首に当てがった。

 

「0時48分、侵入者、通称キャッツアイヲ逮捕シマス」

 

ガチャリと音がして、瞳の両手が手錠で戒められた。

 

「場所ハ2階Gブロック、性別オンナ、年齢ハ20代ト推定」

 

「コレヨリ館長室へ連行シマス」

 

2体のロボット達は失神した瞳を抱え上げると、メカドックの背中の上に乗せた。

そして暗い通路の奥へと運んでいく。

こうして怪盗キャッツアイ、来生瞳は平山美術館の中で姿を消した。

 

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