盗みのチャンスは一度だけ BAD END 作:muzineki
21:求人応募者、来生泪
それから1か月後、都心から離れた高級住宅街。
その中でもひと際大きい平山邸の前に、美しい女が立っていた。
「はい、どちらさま様でしょう」
インターフォンから低い男の声が聞こえる。
5メートルはある鉄柵門の前で、女は微笑みながら答えた。
「クィーン・スタッフの紹介で参りました、槙村と申します。本日10時より面接の約束を頂いております」
「会長の個人秘書として派遣された方ですね、お待ちしておりました」
門に設置された2台の監視カメラが、ウェーブのかかった髪の美女を認識する。
知的な美貌に薄い眼鏡をかけた女は、恵まれたプロポーションの上に、濃紺のスーツを着こなしていた。
その美貌をカメラから見た守衛は、思わずごくりと生唾を飲む。
「お待ちしておりました、槙村様」
大きな音を立てて、鋼鉄の門が開く。
守衛は鼻の下を伸ばしつつ美女を中へ入れると、屋敷へと案内した。
面接会場となる応接室では、主である平山が執事を従えて女を待っていた。
女は両手を前でそろえると、完璧な姿勢でお辞儀をする。
「クィーン・スタッフの紹介で参りました、槙村冴子と申します。本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます」
「ワシが平山だホイ、そしてこっちが執事長の瀬口だホイ」
「瀬口と申します、よろしくお願いします」
瀬口と呼ばれたのは、180cmを越すホッソリとした長身の男だった。
真っ黒な髪をオールバックでまとめており、なかなか良い男だと女は思った。
話の進行は瀬口が進めた。
「派遣会社から資料はいただいています。まあ採用はほぼ確定なのですが、一応いくつか質問させてもらいますね」
「はい」
「今回、平山会長の個人秘書に応募された訳ですが、志望動機は何ですか」
「日本有数の企業を一代で興し、美術にも造詣の深い平山会長を、是非とも身近で学びたいと思ったからです」
「君のような美人にそう言ってもらえると、気分がいいホイ」
平山はニタニタ笑いながら、女の身体を舐めるように見回した。
その視線に女もすぐ気が付く。
(全く、いつまで見ているのかしら)
女――来生泪は、軽蔑の感情が表に出ないよう気を配った。
彼女の目的は、この屋敷に囚われている妹の瞳を見つけることだ。
それまでは、平山の心証を悪くするわけにはいかない。
「槙村さんは語学が堪能と聞いていますが、何語が出来ますか。」
「専門はドイツ語です、それに英語とフランス語、スペイン語も少々」
「それは凄い、コンピューターについても問題はありませんか?」
「一般的なことなら、大丈夫だと思います」
「ならば早速、今日から働いてもらいましょう」
「えっ!?」
泪は驚いた。
採用される自信はあった。
しかし今日から働けと言われるのは、予想外であった。
「やって欲しい仕事が山ほどありましてね、もちろん賃金は払います、不都合ですか?」
「い、いえ……」
「ならば結構、よろしく頼むぞホイ」
「はい、お願いします」
泪が握手すると、平山は手を腰へと回してきた。
明確なセクハラ行為であったが、泪は微笑みながら耐える。
キャッツアイのリーダーは、妹を監禁する男の前で懸命に猫を被っていた。
その頃、泪が探し求める瞳は、地下の独房にいた。
極薄の青いレオタード姿で、身じろぎもせず正座で待機している。
相変わらず四方から常時監視カメラに見張られていて、緊張を崩すことは許されない。
それでも瞳は1秒でも長くこの独房にいることを願った。
(今日はいったい何を命じられるのかしら、もう身体がもたない、助けて……)
霞のかかった頭で、泣き言を叫ぶ瞳。
完璧な警備が敷かれたこの刑務所からは、いかなキャッツアイといえども脱獄は不可能だ。
それを心の底から思い知らされた瞳に、もはや反抗心は欠片もない。
過酷な囚人生活は、瞳を従順な模範囚へと生まれ変わらせていた。
「点呼を開始する、囚人は服従の姿勢だホイ!」
平山の声を聴いた瞬間、瞳は雷に打たれたように全身を強張らせた。
思考するよりも先に両手を頭の後ろで組み、胸を反らして膝立ちになり、足を大きく開いて全ての急所をさらけ出す服従の姿勢を作りあげる。
それは何千と反復練習を繰り返し、失敗するたびに首輪への電気ショックを受けて身体に覚え込まされてきた成果であった。
「囚人番号と本名、泥棒としての通称名、そして罪名と刑期を言うんだホイ!」
「囚人番号WLA0116、来生瞳、窃盗罪で懲役10年。かつてキャッツアイと名乗り、世間に多大な迷惑をかけてきた、淫らで卑しい泥棒猫でございます、ご主人様」
服従の姿勢をしたまま、自らを卑下した言葉を吐く瞳。
少しでも平山の機嫌を損ねぬよう、考え抜いた挨拶であった。
このような言葉を口にすることに、今の瞳は少しも抵抗を感じていない。
「来生瞳、お前の認証とメディカルチェックを行うホイ」
ロボット達による顔認証、網膜認証が行われる。
その間、瞳は服従のポーズをしたまま頭を下げ、平山へは決して視線を向けない。
これも囚人に定めらえた作法の一つだ。
少しで間違えれば首輪の電気ショックが待っているため、瞳は姿勢の維持に全神経を集中させる。
「認証終了、房内ノ囚人ハ99.9%の確率デ、囚人番号WLA0116、来生瞳、通称キャッツアイト同一人物デス」
「メディカルチェック終了、健康面二大キナ異常ハアリマセンガ、少シ疲レ気味ノヨウデス」
「ふむ……」
ロボットの報告を聞いた平山は、鞭の柄で瞳の顎を持ち上げた。
ここでようやく囚人は、ご主人様の顔を見ることが許される。
その美貌から以前の気丈さは消えていて、目には怯えがあった。
「来生瞳、疲れ気味とのことだが、本当かホイ」
「はい、その通りです。しかし労働のためベストの体調管理をするのは、囚人の義務です。これは私に罪を償う気持ちが足りないせいだと思います。どうか罰を与えてください、ご主人様」
その言葉を瞳は上目遣いで、そして媚びながら答えた。
どれほど卑屈な言葉で答えたとしても、仕草や口調が平山の好みから外れることは許されない。
もしそうなれば反省の態度が足りないと言われ、即座に首輪から電気ショックを流されるのだ。
「ふむ、よい心がけだホイ」
「んっ!」
張りのある豊かな乳房を、平山がいきなり掴む。
だが瞳は身じろぎせず、服従の姿勢を維持する。
続いてレオタードの上から陰部を触られるが、もちろん抵抗はしない。
その態度に満足した平山は、瞳の頭を掴んでご褒美のキスをした。
「あふぅ……ちゅっ……れろ……ちゅっ……」
貪るようなディープキスに、瞳は必死に耐えた。
舌と舌が絡み合う度に、吐き気を催す不快感がこみ上げる。
だが同時に平山の機嫌が良いことに安堵もした。
(この分なら、今日の労働は加減してもらえるかも……)
淡い期待を抱いた瞳は、平山の機嫌を少しでも取るため積極的に舌を絡ませる。
胸や股間を愛撫され、舐められても、服従の姿勢は決して崩さない。
瞳が最も恐れるのは、囚人への『労働』だ。
それを少しでも軽くしてもらうためなら、どんな屈辱でも耐えることができた。
「フフッ、素直になったものだホイ」
唇を離した平山は、極薄のレオタードを下から突き上げる乳首を指で弾く。
勃起した乳首への刺激に美貌を歪ませる瞳だが、平山を不快にさせるような表情は決して出さない。
そんな女怪盗の姿に、平山は心の底から満足する。
生意気な囚人を調教し、自分の思いのままに支配することが、彼にとって最上の喜びなのだ。
「来生瞳、通称キャッツアイ。今日はお前に研究所での雑用と実験の手伝いを命じる。そして夜は『奉仕』だホイ。しっかりと働くのだぞホイ」
「はい、キャッツアイとして重ねた罪を少しでも償うため、精一杯頑張ります。今日もこの淫らで卑しい泥棒猫が、少しでも真人間に生まれ変われるよう厳しく躾けてください、ご主人様」
そう言うと瞳は、正座をして三つ指を付き、床に額をこすりつけるようにして頭を下げた。
ロボットたちが拘束具を持ってくると、自ら両手を差し出して戒めを受ける。
その卑屈な姿には、泪の知っている快活な瞳の面影は、もはや欠片も残っていなかった。