盗みのチャンスは一度だけ BAD END 作:muzineki
展示室で嬲られた後、泪は研究所の更に先へと案内された。
通路には監視カメラとセンサーが死角なく設置され、巡回する警備用ロボットが常に目を光らせている。
(まともに忍び込めば、3分も経たずに捕まるでしょうね)
厳重な警備を見た泪の頭脳は、そのように判断した。
(正攻法では無理、やはりセキュリティそのものを停止させるしかないわ)
通路を進むと、白衣を着た男たちが見えた。
奥では何かの作業が行われているようで、みな忙しそうに動いている。
「彼らはここで防犯設備を開発する研究員だ。ちょうど今、面白い実験が行われているから見学して行こう」
矢崎はそう言うと、研究室の奥へと泪を案内した。
そこには多数の研究員と、平山が待っていた。
「やあやあ、すまないね平山さん。槇村君がどうしてもここを見たいというのでね、断れなかったんだ」
(自分に責任が無いことを真っ先に口走るあたりは、さすが政治家ね)
調子のいいことを言う矢崎に、泪は心の中で皮肉を呟いた。
「槇村くん、事情はだいたい察しているホイ、すまなかったなホイ」
平山は小声で泪に呟いた。
矢崎に無理に連れてこられたことを、すぐに理解したらしい。
(……やれやれ、矢崎との付き合いには、平山も苦労しているようね)
泪の口から小さなため息が漏れた。
あのような男と人間関係を維持せねばならぬ平山に、少しだけ同情する。
「まあ来てしまったものは仕方ないホイ。だがこの場所で見たものは、他言無用で頼むぞホイ」
「はい、雇用契約書には業務で知った秘密は決して外へ漏らさないとあります。その点は心得ています」
泪が心にも無いことを言うと、白衣の男のリーダー格が現れた。
平山に何かの許可を求めているようだった。
「矢崎先生、これからWLA0116号を使った実験を始めますホイ。ご覧になりますかホイ?」
「もちろんですよ、平山さん。さあ槇村君、ここに座りなさい、面白い物が見られるよ」
矢崎と並んでソファーに座る泪。
人前でも堂々と肩を抱いて来る矢崎に、泪はため息をつくことしかできない。
目の前には、大型のモニターがあった。
そこに映像が映し出されると同時に、泪の全身が凍り付いた。
(ひ、瞳!)
探し求めていた妹が、鮮明な姿で映し出される。
青いレオタードを着た瞳の表情には、緊張、そして明らかな怯えが浮かんでいた。
美術館のような場所で、物陰に隠れて静かに様子を伺っている
「い、いったい……これは、何をしているのですか」
「おや、平山さんの説明を聞いていなかったのかね? 実験だよ、ここでは捕まえた泥棒を使って、開発中の防犯システムの性能テストをしているのさ」
震える声で尋ねる泪に、矢崎は上から目線の口調で言った。
同時に泪の柔らかさを楽しむよう、露骨に身体を密着させる。
「そして画面に映っている女が、君が見たいと言っていたキャッツアイだ。正真正銘、警察でさえ知らない怪盗の素顔だ。どうだ、凄いだろう」
矢崎に肩を抱かれながら、モニターの画面を凝視する泪。
物陰から出た瞳は、音も無く絵に駆け寄った。
だがそこで、パッとライトに全身を照らされる。
「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」
スピーカーから情けない声が響く。
その声は確かに瞳のものであったが、泪には信じがたいものであった。
(あ、あれが本当に、瞳……なの……)
目に涙を潤ませて逃げ回る青いレオタード姿の女を、泪は何度も見た。
そこにいるのは紛れもなく瞳だが、雰囲気がまるで違う。
どんな凶悪な罠でも怯むことなく飛び込んでいく、怪盗キャッツアイとして面影はまるでない。
画面に映る女は、ただ美貌を恐怖に染め、ただロボット達から逃げ回るだけの哀れな子猫であった。
「きゃ、きゃぁぁぁぁぁぁっ! た、助けて!」
画面から瞳の叫び声が聞こえてくる。
それは血を分けた泪でさえ始めて聞く、情けない声であった。
「わっはっはっ、情けないメス猫だ、あれが本当にキャッツアイかね?」
矢崎がどっと笑い声をあげる。
泥棒としての自信を完全に打ち砕かれているのだろう、瞳に目は恐怖の色に染められている。
男たちの玩具にされるだけの、哀れな囚人。
泪の目に映った瞳は、そんな風に変わり果てていた。
「もう許して! 助けて! ……あうっ!」
逃げ回る瞳に、円錐型のロボットが発射したゴム弾が命中する。
床に転がって悶える瞳の背中を、今度は人型のロボットが踏みつける。
ロボットは瞳をスタンガン付きの警棒で何度も打ち据えた。
「きゃぁっ! ひいっ! きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
電撃と打撃の嵐に瞳が悲鳴を上げる。
抵抗する気力も無いのだろう、床で身体を丸めたまま動くこともできない。
そんな妹の姿を見せつけられた泪は、たまらず平山に訴えた。
「も、もうやめてください、これ以上は見ていられません!」
「駄目だホイ、まだ彼女は決められた降伏の姿勢をしていないホイ。それにまだ満足のできるデータも取れていないホイ、このまま続行だホイ」
泪の懇願を平山は冷たく振り払った。
人型のロボットは瞳の髪を掴んで手繰り寄せ、半ば失神状態の彼女を無理やりに立たせる。
「う、ああ……」
髪を掴まれたまま、瞳は呻くだけで反撃もままならない。
さらに無防備になっていた鳩尾を警棒で殴られる。
「がふっ!」
瞳の髪を掴んだロボットの警棒が、鳩尾に深々と突き刺さる。
青いレオタードに包まれた身体が衝撃で浮き上がり、掴まれた髪を支点に振り子のように揺さぶられた。
重い一撃に瞳は目を見開いたまま涎を吐き出し、激しく咳き込む。
「ぐぇ……おうぇ……げほっ! げほっ!! かはっ!」
咳き込む瞳を見下ろすロボットは、瞳の首を掴んだ。
そして棒切れを扱うように放り投げる。
その先にはメカドックの群れが待ち構えていた。
堅い地面に叩きつけられた瞳は、呻くと同時に両足首をメカドックに咥えられ、思い切り股を広げられた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
股関節への苦痛に瞳が絶叫する。
両足はほぼ180度に開かされ、その状態でメカドックに引っ張られていた。
身体の柔らかさには自信がある瞳でも、こんな拷問に耐えることは不可能だった。
「や、やめてぇぇっ! あ、脚が、脚が裂けちゃう! ゆ、許して!」
だが瞳がいくら懇願してもメカドックの拷問は終わらない。
他のメカドックは、さらに大きく開かされた瞳の股間に目掛けて、電極となっている頭を押し付けた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「や、やめてーーー!」
画面に映る電気ショックを浴びる瞳を見ながら、泪は絶叫した。
愛する妹がこれ以上痛めつけられる姿を眺めるのは、彼女にはもはや不可能だった。
「こ、これのどこが『実験』なんですか! あまりに酷すぎます! 許されることではありません!」
「心配はいらんよ、槇村君。この『実験』はね、大臣である私が関係省庁と警察の上層部にちゃんと話は通してあるんだ。もちろん内密ではあるがね」
激昂する泪の隣で、矢崎が鼻の穴を大きくしながら言った。
視線は真っすぐにモニターを向いていて、メカドックたちに痛めつけられる瞳の姿をニヤニヤと眺めている。
「防犯装置の性能を高めるために、これは必要な実験なのだよ。それに彼女は犯した罪に対する罰を受る義務がある。怪盗キャッツアイにふさわしい懲役とは思わんかね?」
ロボット達に弄られ続ける瞳を前に、矢崎は自慢そうに言った。
その態度に泪は頭の線が切れそうになるが、何とか踏みとどまる。
「そ、それでも……それでもこんなのは、同じ女として許せません! 犯罪者だからと言って、何をしても良いというわけでは無いでしょう、すぐにやめてください!」
今の自分に許される精一杯の言葉で、泪は平山と矢崎に訴えた。
二人の男は目を合わせると、やれやれと言った表情で両手を肩まで上げる。
「槇村君、落ち着くんだホイ。これはキャッツアイも納得のうえで受けている懲役なのだホイ」
落ち着いた声で、平山は言った。
背後にある大型モニターには、両手両足をメカドックたちに噛まれて動きを封じられ、股間や乳房への電気ショックに泣き叫ぶ瞳の姿が映っている。
「ワシの私設刑務所で懲役に服すれば、前科が付くことは無いし、素顔が世間に知られることも無い。刑期は10年だが、罪を償い反省し、二度と犯罪に手を染めぬと認められれば仮釈放もある。もちろん出所後の生活もワシがサポートする。キャッツアイはこの条件を喜んで呑んでくれたぞホイ」
「刑務所に叩き込まれ、マスコミに報道されて世間から永久に泥棒として叩かれることに比べれば、寛大すぎる条件と思うがね。むしろキャッツアイは我々に感謝すべきだと思うよ、ワッハッハッ」
矢崎の高笑いを聞きながら、泪はギュッと手を握りしめた。
モニターに映る瞳はようやくメカドックの拘束から解放されると、のろのろとうつ伏せになって両手を背中に回している。
ロボット達に手錠を嵌められる瞳の美貌は、涙と汗にまみれていた。
目は怯えて力が無く、心の底から打ちのめされているのがわかる。
(許せない……)
妹の無残な姿を目にした泪は、平山と矢崎にキッと刺すような視線を向ける。
もはや彼らへの敵意を隠すことは不可能であった。
泪の視線を感じた矢崎は、ビクッと背中を震わせ後ろに下がる。
だがそんな矢崎とは対照的に、平山は落ち着いた態度で言った
「どうやら槇村君は、まだワシの言うことが信用できんようだホイ。なら直接、キャッツアイと話してみるかホイ?」
「えっ!?」
泪は思わず声を出した。
「30分だけ面会を許可するホイ。そこでキャッツアイが自ら望んで懲役に服していることを、自分の耳で聞いてみるといいホイ」
(ひ、瞳と……面会?)
思わぬ展開に、泪の思考が一瞬止まる。
話が上手く行き過ぎていることが不気味だった。
だが瞳と直接、顔を合わせるこの機会を逃すわけにはいかない。
「わ、わかりました、彼女と直接会わせてください。彼女の口から聞くことができたら、私も納得します」
その言葉に平山は頷くと、面会の準備をするよう研究員たちに伝えた。
モニターの向こうでは、手錠で拘束された瞳の首輪に、ロボット達が鎖を繋げている。
首輪の鎖を引っ張られた瞳は、のろのろと立ち上がると、まるで犬のようにロボット達に連行されていった。