※この作品はR-18です。

盗みのチャンスは一度だけ BAD END   作:muzineki

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3:泥棒コレクター

「あうっ! くぅっ! きゃぁっ!」

 

館長室へと戻された瞳には、すぐに制裁が与えられた。

手錠を嵌めたまま両手を吊るされ、つま先が床とかろうじて付く状態で、前後から鞭で打たれている。

 

「ひいっ! あっ! きゃああっ!!」

 

ボディーガードの男達が、先ほどの恨みととばかりに、容赦のない鞭を瞳に浴びせる。

ビシッ、バシッという音と共に、悲鳴が上がり、青いレオタードに包まれた身体がダンスを踊る。

 

「全く、手間のかかる野良猫だホイ」

 

平山はそう呟くと、ブランデーの入ったグラスを傾けた。

そして女怪盗への制裁を鑑賞しつつ、これからの事を考える。

予定では夜明けまでに写真撮影と指紋採取を行い、取り調べをするつもりでいた。

しかし脱走騒ぎのおかげで、時間を大幅にオーバーしている。

朝までには、マスコミや警察への応対を考えねばならないし、美術館の事後処理もある。

逸る気持ちを抑えて、平山は一部の予定を翌日へ持ちこすことに決めた。

 

「そろそろ止めろホイ」

 

平山の声で、ようやく鞭の連打が終了した。

がっくりと項垂れた瞳の身体が、吊るされままゆっくりと回転する。

 

「命令に逆らうから、こういう目に合うホイ、理解したら二度と逆らわない事だホイ」

 

平山が言うと、ボディーガードの男達が瞳を下ろした。

グラマーな身体がガクリと崩れ、ごろりと横に転がる。

荒い息には、時折苦鳴が混ざっていた。

 

「休んでいる暇は無いぞホイ、キャッツアイ。次は写真撮影を行う、まずはこれを持てホイ」

 

そう言って平山が差し出した板には『〇月〇日午前0時48分、キャッツアイ、平山美術館にて逮捕』と書かれていた。

その下には、WLA0116という番号がある。

 

「これはお前の囚人番号だホイ、必ず覚えるように。さあキャッツアイ、その板を持ってあの壁の前に立つんだホイ」

 

平山が指示した場所には、目盛りの刻まれた身長表があった。

壁の前には、三脚を使ってセットされたカメラがある。

鞭打ちで痛めつけられ、逆らう気力も失った瞳は、のろのろと身長表の前に立った。

そして手錠を嵌められた両手で、自らの敗北を証明する板を胸の前に掲げた。

 

パシャッ!

 

シャッター音が鳴り、瞳の青いレオタード姿が正面から撮影される。

 

「ちゃんと背筋を伸ばすんだホイ!」

 

平山は怒鳴りつつ、リモコンを瞳へと向けた。

首輪への電気ショックの恐怖に、瞳は慌てて背筋を伸ばす。

するとカメラのシャッター音が連続で鳴った。

 

パシャッ! パシャッ! パシャッ! パシャッ!

 

「よし、次は横を向くんだホイ」

 

続いて右側面から、撮影が開始された。

顔のアップと全身が、何十枚と撮影される。

左側面、そして後ろ姿も同様に撮影された。

撮影は執拗に、平山が満足する絵が撮れるまで続けられた。

 

「次は指紋採取だホイ」

 

続いて瞳は、銀行ATMのような機械の前に連れて来られた。

そこで全ての指、指の側面、手のひらの指紋を念入りにスキャナで読み取られる。

さらに口内を綿棒で突かれた。

そして舌の裏側から粘膜を採取され、DNAまで採取された。

 

「これで検査終了だホイ」

 

粘膜を採取した綿棒を、平山はニヤニヤと笑いながらジッパー付きのビニール袋へ入れた。

その姿に瞳は生理的な嫌悪を感じた。

 

「本格的な取り調べは明日から行う。それまでお前には、当美術館の留置場に泊まってもらうホイ」

 

平山が指をパチンと鳴らす。

すると館長室の扉が開き、警備用ロボットとメカドックが現れた。

 

「お前の監視はこのロボット達が行う、仲良くするんだホイ」

 

平山が命じると、ロボット達が部屋の中へと入って来た。

そして手錠をされたレオタード姿の女を囲み、カメラになっている目で何かのサーチを始めた。

 

「囚人番号WLA0116、本名不明、通称キャッツアイヲ認識、コレヨリ最優先監視対象二指定シマス」

 

「囚人番号WLA0116、抵抗シタ場合、我々ハ実力デ制圧スル事ガ許可サレテイマス、命令ニハ従ウヨウニ」

 

警告が終わると、ロボットがゴム弾の銃口を瞳に向けた。

メカドックも唸り声を出して、瞳を威嚇する。

彼らに敗北している瞳は、それだけでビクッと反応し、反抗心を削がれてしまった。

 

「さあキャッツアイ、歩くんだホイ!」

 

ロボットに囲まれたまま、瞳は館長室を出た。

隠し扉から地下へと降り、狭いコンクリートの通路を進む。

その先には、鉄格子で遮られた狭い空間があった。

 

「囚人番号WLA0116、入リナサイ」

 

ロボットが言うと、ガラガラと音を立てて鉄格子が開いた。

中はマットと毛布、そして洋式便器の他には何も無い。

牢屋としか言いようが無い空間であった。

 

「これが当美術館の留置場だホイ、いい場所だろうホイ」

 

嘲るような言葉に、瞳は唇を噛む。

 

「キャッツアイ、お前の取調べは昼から行う。それまで逮捕された現実をじっくり噛みしめつつ、身体を休めてくれホイ」

 

ガラガラと音を立てて、鉄格子が閉まる。

檻の中に入ったレオタード姿の女怪盗を、平山は薄ら笑いを浮かべつつ、しばらく鑑賞する。

そして勝利の余韻を味わった後、ようやく留置場を立ち去った。

 

(ようやく行ったわね)

 

太った館長の姿が消えると、瞳はすぐに立ち上がった。

そして手錠を嵌められた手で、鉄格子や壁を探り始める。

 

(ダメね、とても脱獄できる場所じゃ無いわ)

 

鉄格子を両手で掴みながら、瞳はため息をついた。

牢屋には、窓も換気口もない。

ステンレス製の鉄格子は電子ロックで、自力での開錠は不可能。

外からは警備用ロボットとメカドックが、常に瞳の動きに目を光らせている。

仮に牢から出られても、手錠と電気ショック付きの首輪を嵌められたままでは、逃げることなど不可能だ。

 

(チャンスがあるまで待つしか無いわ、でも平山が言う『取り調べ』に、私は耐えられるかしら……)

 

瞳は心の中でそう呟くと、薄いマットの上に身体を横たえた。

そして目を瞑り、少しでも体力を回復するよう努める。

それが今の瞳の出来る、唯一のことであった。

こうして怪盗キャッツアイ、来生瞳の囚人生活が始まった。

 

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