※この作品はR-18です。

盗みのチャンスは一度だけ BAD END   作:muzineki

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30:面会室

平山私設刑務所、面会室。

瞳との面会を許された泪は、コンクリート壁で囲まれた遮音性の高い部屋に案内された。

 

「すぐに平山さんがキャッツアイを連れてくる、それまで待っていよう」

 

ソファーに座った矢崎が、右手で泪の肩を掴んで抱き寄せる。

そして左手は当然の権利のように、太ももの上に置いた。

根は小心のくせに、相手が無抵抗となるとこの態度である。

そんな矢崎に泪は辟易した。

 

(まったく、いい加減にして欲しいものね。それにしても……これが本当に面会室?)

 

泪はセクハラに耐えつつ、部屋を二つに分けるアクリル板に目を向けた。

声を通すためだろう、板には複数の小さな穴が円形になって空いている。

透明の板の向こう側は薄暗くて椅子さえなく、コンクリートの上に粗末な筵が敷かれていた。

フカフカの絨毯の上にソファという、泪のいる側とはあまりに対照的であった。

 

ガチャ

 

ガラスの向こうにある扉が開くと同時に、泪が息をのむ。

最初に現れたのは、円筒形の警備用ロボットだ。

その金属の手には鎖が握られていて、後ろにいる女の首輪へと繋っている。

 

(ひ、瞳!)

 

妹の姿を見た瞬間、泪は声を出しそうになるのを必死にこらえた。

レオタード姿のまま手錠と足枷で戒められた瞳は、まるで犬のように首輪を引かれ、泪の前へと連れてこられた。

そして裁きを受ける罪人のように、身をかがめて筵の上に正座をすると、三つ指を付いて土下座する。

 

「囚人番号WLA0116、来生瞳、窃盗罪で懲役10年です。かつてキャッツアイと名乗り、善良な方々から美術品を盗み続け、平山美術館にて無様に逮捕された惨めな泥棒猫でございます。今日は私のような者のためにお時間をいただき、ありがとうございます」

 

瞳はそう言いながら、アクリル板の前で額をコンクリートの床に打ち付けた。

そして口上が終わっても、奴隷のように惨めに頭を下げ続ける。

 

「そろそろ頭を上げろホイ、キャッツアイ」

 

背後から現れた平山の命令で、瞳は床に三つ指を付いたまま頭を上げた

その動作はあまりに自然体で、このような屈辱的な作法を普段から強いられていることが、容易に想像できるものであった。

 

(ああ……瞳……)

 

変わり果てた妹の姿に、泪は言葉が無い。

面会用に身ぎれいにされたのだろう、レオタードは着替えさせられていて、薄い化粧が施されている。

だがその美貌には、明らかに疲れと影が見えた。

少なくとも泪の知る、凛とした瞳の姿はどこにもない。

わずか1か月でここまで変わり果てたことが、泪には信じられなかった。

 

(瞳……辛かったでしょうね……本当にごめんなさい……)

 

泪は心の中で瞳に何度も謝罪した。

平山のコレクションにされた瞳が、どんな惨い仕打ちを受けてきたかを想像すると、胸が張り裂けそうになる。

 

「どうした槇村君、キャッツアイに聞きたいことがあるのではないかね?」

 

無神経にポンポンと頭を叩く矢崎に、泪は髪が逆立つのを感じた。

だが寸前のところで感情を噛み殺すと、床に指を付いたまま跪いている瞳に目を向ける。

そして落ち着いた声で、瞳に語りかけた。

 

「あなたが本当に、あのキャツアイなの?」

 

「はい、そうです……ええと……」

 

「槇村君だホイ、次に間違ったら、どうなるかわかっているなホイ」

 

「は、はい、申し訳ありません、槇村先生!」

 

言葉と同時に、コンクリートの床に向けて瞳が頭を下げる。

勢いよく頭を下げたせいか、ゴツンと大きな音が鳴った。

その怯えかたは尋常ではない。

これだけでも瞳がどんな仕打ちを受けてきたのか、泪が理解するには十分すぎた。

 

「こ、怖がらなくていいのよ、私は貴女には何もしないわ。ただ、ちょっと話がしたいだけなの」

 

精いっぱいの優しい声で語りかける泪。

同時に目をパチパチと瞬きさせて、瞳に合図を送る。

 

(私がわかる、瞳……助けに来たわ……)

 

泪は発音とは別の形に口を動かして、瞳と意思疎通を試みる。

それは人前でも内密の会話ができるよう、姉妹で訓練した技術であった。

しかし過酷な囚人生活で頭が鈍っている瞳は、なかなか気が付くことができない。

 

「防犯装置の実験の様子は見学させてもらったわ。同じ女があんな暴行を受けるのを見て、黙っていられなかったの。貴女はあんな目に合って、辛いとは思わないの?」

 

アクリル板越しに語りかけながら、泪は何度も合図を送る。

どうすれば懲罰を受けずに済むかだけを考え、緊張と恐怖に支配されていた瞳であったが、次第に槇村と呼ばれた女の視線に気が付く。

そして目と目が合った所で、ようやくその正体を認識した。

 

(ね、姉さん!)

 

はっと目の色を変えた瞳は、すぐに額を床にこすりつけて土下座した。

それは囚人としての礼ではなく、表情を監視カメラや平山に悟らせぬための行動であった。

 

「いえ、辛いなんてとんでもありません、槇村先生。私は盗人として許されぬ罪を数多く犯してきました、罰を受けるのは当然のことです。にもかかわらず社会復帰のため、私がキャッツアイであることを世間に隠しつつ、罪を償う環境を与えてくれたご主人様には、いくら感謝しても足りないと思っています」

 

模範的な囚人の口上を述べながら、瞳は少しずつ女怪盗としての思考回路を蘇らせていく。

そして哀れな囚人の表情を作りつつ、指を付いてゆっくりと頭を上げながら、目で泪に合図を送った。

 

(良かった、私に気が付いたのね)

 

(ええ、姉さん。まさかこんな所にまで来てくれるなんて思わなかった……)

 

(昨日から平山の秘書として潜入しているの。それで運よくこの私設刑務所に入れたのよ。瞳、まずは今の貴女が置かれている状況を、できるだけ詳しく教えて)

 

泪は適当な質問を発音しつつ、瞳にだけわかるよう口の形を変えて話す。

瞳もこの刑務所がいかに素晴らしく、平山の親切さ、偉大さを発音しながら、口の形で泪に刑務所の情報を伝えた。

 

(この首輪がある限り、私は平山の玩具のようなものなの。どこに逃げても遠隔操作の電気ショックで制圧されてしまうし、発信機のせいで逃げられない)

 

(大丈夫よ、ある程度の構造さえわかれば、愛なら外せるわ)

 

(首輪が無くても、私の行動は常にAI搭載の監視カメラに把握されているわ。不審な行動は、すぐに通報されてしまう。それにここのロボット達は強すぎる、逃げるなんて絶対に無理よ)

 

(それも何とかしてみせる、諦めないで)

 

(それに平山は、私の正体を含めたあらゆるデータを持っているの。仮に脱獄できたとしても、それを公表されたら私はどのみち警察に追われる身だわ)

 

(データなら盗めばいいだけのことよ、私たちはキャッツアイでしょう)

 

弱気になる妹を、泪は懸命に叱咤する。

そんな姉に励まされたのだろう、瞳の心にも少しずつ、元来の明るさ、気丈さが戻ってきた。

 

(ありがとう姉さん、涙が出るほど嬉しい、いつか助けがくると信じている)

 

(ええ、任せなさい、この屋敷が調べ終わったら、すぐにでも行動に移るわ)

 

笑みを浮かべて泪はパチリと片目をつむる。

すると瞳はチラリと視線を平山の方へと向け、そして泪に戻した。

 

(でも無理はしないで、平山は手強いわ)

 

瞳はコンクリートの上に付いた三つ指を、僅かに強張らせた。

泪は自分へ向けられる視線に、妹の強い意志が込められているのを感じた。

 

(この刑務所を攻略するには、生半可な作戦では無理。時間をかけなければ、きっと姉さんたちも私みたいに捕まってしまう。準備には何年かかってもいい。いざとなったら私を見捨ててもかまわないから、自分の安全を第一に考えて)

 

(馬鹿を言わないで、これ以上あなたが平山の玩具にされるのを、私が見ていられると思っているの!)

 

愛情と怒りを込めた姉の視線から、瞳は目を逸らして首を軽く横に振った。

そして反省の口上を発音しつつ、口の形だけで泪に返答する。

 

(今日、私は平山にキャッツアイの仲間について尋問されたわ。ひょっとすると平山は、姉さんの正体に気が付いているかもしれない)

 

ビクッと泪の背中が震え、視線が思わず平山へと移る。

泪には瞳の隣にいる肥満体の館長が、ニヤッと笑ったように見えた。

 

「さて、30分経ったホイ。槇村くん、そろそろよいかホイ」

 

平山の声に、今度は瞳がビクリと反応する。

正座で三つ指を付いていたレオタード姿の女怪盗は、すぐに両手を頭の後ろで組んで、大きく股を開いて膝立ちのポーズになった。

 

「あれが囚人に定められた服従の姿勢だよ、槇村君」

 

矢崎は指をさして笑いながら、泪に説明した。

青いレオタード越しに晒されるボディラインをことさら強調し、一切を見る者に委ねた隷属のポーズ。

そんな屈辱的な姿を強要される妹を前に、何もできない無力さに、泪は思わず唇を噛む。

 

「キャッツアイ、起立して回れ右だホイ」

 

「はい、ご主人様」

 

躾けられた犬のように、瞳はピンと背筋を伸ばして立ち上がった。

そしてレオタードから大きく露出した背中を泪へと見せる。

平山は背後から瞳に近づくと、青いレオタードに浮き出る尻肉を掴んだ。

 

「……!」

 

形の良い尻が平山に掴まれる様を見た泪は、怒りで美貌を歪ませる。

だが瞳の悲しそうな表情を見て、かろうじて激情を抑える。

 

(お願い、もうこれ以上私を見ないで、姉さん……)

 

そう訴えるように泪に目配せする瞳。

この後に課せられる夜の労働のことだけは、愛する姉に知られたくなかった。

 

「さあキャッツアイ、独房へ戻るぞホイ」

 

この女怪盗は自分の所有物だ、そう泪に見せつけるように尻肉を揉み込みながら、平山は外に出るよう促す。

ロボットに腰縄を巻かれた瞳は、項垂れた背中を泪に見せながら、連行され面会室を後にした。

 

「さあ槇村君、約束どおりキャッツアイには合わせたぞ。次は君の番だ、わかっているね」

 

平山と瞳が消えたのを見た矢崎は、待ってましたとばかりに泪の肩を抱く。

乳房へと手を伸ばされるのを感じた泪は、演技をする冷静さを取り戻すために、血液が逆流するほどの忍耐を必要とした。

 

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