軽く痛む頭を押えながら、ゆっくりと朝霧陽子は立ち上がった。
薄暗い、地下室のような空間。
それほど広い部屋ではなさそうだ。
「ここは、いったい……」
辺りを見回すと、左右の壁には何かの計器類が所せましと並んでいた。
赤や緑や黄色の小さなランプが、音もなく点滅を繰り返している。
「まさか……実験室!?」
そこでようやく、陽子は自分の状況を思い出す。
浮遊城ガルバの戦いで、彼女は総統ゼルの催眠術の前に敗れたのだ。
幸いにも、拘束などは受けていない。
それどころか、剣すらも奪われていなかった。
「いったい、どういう事……」
訝しむ陽子だが、ゼルの意図を詮索している暇はなかった。
今は一刻も早く、ここから逃げ出さなければならない。
剣を握りしめ、鉄扉を開けて通路へと飛び出す。
するとそこには、冷たい目をした宿敵が待ち構えていた。
「お目覚めのようだな、レダの戦士」
「!?」
法衣を着た美青年を前に、陽子の足が止まる。
反射的に剣を構えた彼女に緊張が走る。
「気分はどうだね、身体に異変を感じたりはしてないかね」
落ち着き払った声でゼルは言った。
一度は勝っているせいだろう、妙に余裕がある。
彼の周りには部下すらいない。
戸惑いを感じながらも、陽子はゼルに切りかかった。
「たあっ!」
長い脚で跳躍した陽子は、一気にゼルとの間合いを詰める。
催眠術が発動する前に切り伏せるしか勝機はない、そう考えての行動だった。
「ふむ、どうやら身体に異常は無いようだな、結構」
そう言いながらゼルは、頭に装着した宝石を陽子へと向けた。
「しまった……催眠術!」
とっさに宝石を見ないよう、陽子は腕で目を覆う。
それを見たゼルは、笑みで口元を歪ませた。
頭の宝石が怪しく光った瞬間、強烈な快感が陽子の全身を貫いた。
「はぁん! あっ……あぁぁぁぁぁぁっ!」
バランスを崩した陽子の身体が、ゼルの足元へと崩れる。
体の芯から響いてくる刺激に膝を折り、立ち上がることができない。
「どうだね、面白いだろう?」
陽子を見下ろしながら、ゼルは言った。
床に腰を落とす陽子の呼吸は荒くなり、宿敵の顔を見上げるのが精いっぱいになる。
「い……いったい……何をしたの……」
ジンジンと疼く体を懸命に抑えながら陽子が叫ぶ。
心臓の鼓動が早くなり、ビキニアーマーから露出した肌からは、目にわかる速度で汗が噴き出していた。
「なに、簡単なことだ。君が眠っている間に、神経の中枢部分に特殊なチップを埋め込んだのだよ」
薄笑いを浮かべてゼルは答えた。
同時に陽子の背筋を、冷たい汗が流れ落ちる。
「君の中枢神経は、今や私の支配下にある。今の刺激は中程度だが、もしこれを高めたとすると……」
「うあっ! あっ……あぁん……あぁぁぁぁっ!」
陽子は悲鳴をあげて、床の上に倒れ伏した。
いきなり絶頂に達してしまったのだ。
「………くっ……はっ…はあっ………」
冷たい床に横たわったまま、陽子は息を弾ませ、熱く火照った体をよじらせる。
脳を貫くような快楽に、身体が言う事を聞いてくれない。
(そ、そんな……こんなのって……)
自分の身体に起きている事実に、陽子は絶望する。
これではゼルの玩具にされたも同然だ。
それでも怒りと屈辱の入り混じった瞳で、かろうじてゼルを見上げる。
「ほぅ、まだそんな眼ができるのかね」
「クッ……わ、私は貴方には、負けない!」
「さすがは伝説の戦士だ、そうでなくては面白くない」
ニヤリと陰惨な笑みが浮かべたゼルは、スッと左手を挙げた。
すると暗闇の中からロボットの兵士が現れ、陽子の身体を掴み上げる。
「いやっ! 何をするのっ!」
抵抗する陽子だが、チップで性感を操られた身体で反撃するのは不可能であった。
たちまちロボット達に両腕を掴まれ、引きずられるように連行されてしまう。
「い、一体、私をどうするつもり」
「決まっているだろう、君の身体に眠るレダパワーの秘密を調べるのだ。その後は奴隷として、ノアへの侵攻に協力してもらう」
「だ、誰が! あんたの奴隷になんて絶対に……がふっ!」
陽子の鳩尾にロボットの堅い拳が叩き込まれる。
言葉を遮られた陽子は、顔を歪め苦悶の息を洩らす。
「フフフ……その元気がいつまで続くかな? 愉しませてもらうぞ」
そう言うと、ゼルはくるりと背を向けた。
「その女は例の部屋へと連れて行け、大切な実験体だ、粗末には扱うなよ、クク…ククク……ハッハッハッ……」