勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─【Another Story】 作:一般指揮官
「──初めて見るかも」
「──そうか?…まぁ、普段は戦闘服だからな」
ホテルは久しぶりに客を迎えていた。それも上客中の上客、貴賓である。
この御時世でクリーニングを頼む洗濯屋が営業している筈もなく、皺だらけの正装だったが、わざわざ総支配人がそれを纏って貴賓達を恭しく出迎える程度には重要な客だった。
心ばかりのサービスしか出来ないことが心苦しいが、滞在中の不便は掛けさせない努力を約束した総支配人は世界中のホテルマン達が模範とすべき人物だろう。
特に──この御時世ならば尚更。
ホテルのロビー──団体客としては恐らく少ない部類の者達を迎える前に精一杯磨き上げたのだろう床を踏み締めながら歩み寄る二人分の人影。
片方は高い女性の声を持ち、片や落ち着いた低い男性の声を持っている。
この低い声音を女性は好ましく感じているのだろう。迎えた高い声の中へ僅かな恍惚の雰囲気が混ざっていた。
早朝から司令部へ報告へ赴いていたのは知っていたが、こんな遅くに帰ってくるとは彼女も予想外である。日の入りは21時頃だったが、ロビーへ置かれた古めかしい年代物の振り子時計の針は既に23時を指している。
随分と待ち惚けを喰らった格好だが、珍しい姿を見れたのは役得であろうか。
勤務服ですら見た覚えがないと言うのに──まさか正装とは思いもしなかった。
こうして見ると、将校なのだな、と今更の感想すら胸中に芽吹いてしまう。
「司令部でパーティーでもあったの?」
「…まさか。偉い御歴々ばかりだぞ。敬意を払う為にそれなりの格好を──」
「本当は?」
「……
道理で。一歩分の距離まで歩み寄った彼女は上背のある青年を見上げ、納得の表情を浮かべた。
とはいえ、正装着用で良かったのかもしれない。勲章が良く映えている。
「──それ、戦傷章?」
「…あぁ。今日、受勲した。これで何個目かは忘れたが…」
「おめでとう──と言った方が良いかな?」
戦傷は別にめでたくはない。受勲そのものは名誉なのかもしれないが、生憎と負傷は好む所ではない筈だ。しかし一応の礼儀として──というよりも、からかいを多分に含めた物言いで祝うと彼がその場で靴の踵を合わせる音を奏で上げる。
「──光栄であります、
見慣れない正装──黒に極めて近いミッドナイトブルーの生地を使った股下まである詰襟の上着。それを腰回りより少し上で黒い光沢を放つ太いベルトで締め上げている。
詰襟は、かつての先人達が敵船へ接舷しての斬り込みを敢行する際に斬撃から致命傷を受けぬよう首へ巻いた革製のネックガードが由来だとか。詰襟を彩る金銀二色の徽章には錨も含まれている。由来を物語っているようだ。
上着とは色が異なり、青地のストレートパンツは赤い線が縦へ走っている。赤は──過去の戦いで斃れた先人達が流した血を表現していると聞く。
真面目腐った態度と表情で、しかも正装を纏った格好で──有り体に言おう。何度、惚れ直せば気が済むのだろう。
「──
それだけを述べつつ彼女は片手を胸の辺りまで持ち上げる。多くは語らない。何処まで、とも言わない。
すると青年はその片手を白手袋を嵌めた大きな手で支え、軽く身を折ったかと思えば甲へ乾燥気味の唇を落とした。
上空に打ち上がる解放を祝う花火。
夜空を彩るそれの下では各国から派兵された数万に及ぶ将兵が束の間の休暇を満喫している。
「──んっ…もっと…」
「──今日は欲張りだな」
白に近い菫色である
星を宿した瞳を閉じ、僅かに仰ぎ見ながら顔を傾ければ──頭上から乾いた唇が降ってくる。
それが潤った自身の唇に触れた途端、待ちかねたように彼女は花弁の如きそれを開き、口腔の奥から舌を伸ばす。
示し合わせていたのだろうか。彼も舌を伸ばし、互いのそれの先端が触れた瞬間、どちらからともなく絡み合った。
ホテルの一室を包む空気が次第に湿り気を帯び始める。
深い口付けの合間に青年の片手が彼女の滑らかな頬を撫で、やがて左肩に向かう。
「──んっ…」
裏地が薄紫色で染まる肩掛けにしたマント。それを留めるベルトが緩められ、足下に広がる毛足の長い絨毯へ諸共に落下した。
触れ合い、絡み合った口付けが解かれた。彼女は眼前の青年を蕩けた瞳で見上げ──彼の手が続けて慣れた手付きで自らの着衣を乱し始めると身体の奥から湧き上がる情欲で下腹部が熱くなる。
飾緒が右肩の肩章から下がるダブルボタンの軍服。ボタンがひとつずつ──敢えて焦らすようにゆっくりと外されていく。
もどかしい──そう顔に書かれていたのだろう。青年が薄く苦笑を浮かべ、額に乾燥気味の唇を落とした。
「──もう少し我慢してくれ、
こんな時にわざわざ階級で呼ぶ。これは彼の意地悪に他ならない。
からかう時に限って階級呼びだ。確かに自分の方が上官だが──と膨れ面を浮かべながらも彼女は青年のなすがままとなる。
細く括れた腰の辺りまでのボタンが外され、ストンと生地が絨毯へ滑り落ちた。
「…ベッドにお連れしても?」
シャツのボタンが外される──かと思いきや、この続きはベッドらしい。
問い掛けられた彼女は小さく頷きを返し、両腕を彼の太い首へ絡ませた。
何をして欲しいのかは、青年には一目瞭然だろう。
背中に右手が、そして左手は両膝の裏へ。
力強く抱き上げられた彼女は微笑みながら青年によってベッドルームへ運ばれる。
ギシリ。
流石に二人分の体重──或いは質量は人間用のベッドが耐えられるギリギリらしい。酷く軋む音が響いたのがなによりの証拠だ。
「……ヤッてる最中に壊れないよな?」
「ヤッてる、とか言わない」
デリカシーがない。
ベッドの整えられたシーツを少しだけ乱しながら仰向けとなった彼女は、自身の上へ覆い被さった青年の額を階級で見れば上官の特権を利用して指先で弾いた。
「…痛い」
「躾のなってない狼さんにはこうでもしなきゃね」
まぁ、本当に躾がなってないならこのようにエスコートされることもないのだろうが──
肩を竦めて見せた青年が改めて彼女に覆い被さる。ベッドのスプリングが軋む音が響くが、構いやしない。
再び唇同士が触れ合い、舌が絡み合う淫らな水音が響き始めた。
シャツのボタンがひとつずつ外される。次第に露わとなる白い肌。豊かな胸を収めていた窮屈なボタンが緩められ、彼女は息苦しさから解放されたのだろう。ホッと安堵の息を漏らした。
「…脱がせてあげる」
細い両手は彼の腰へ向かう。黒く太いベルトが緩められ、上着を留める金色のボタンが外される。シャツの裾をたくし上げ、深く刻まれた腹筋が、続けて厚く盛り上がる胸板が垣間見えた。
首を通し、そして彼にも手伝って貰って左右の腕から一本ずつ袖を抜き取って行く。
「…もう治った?」
「ん?…あぁ、治った。破片が突き刺さっただけだからな」
直ぐに治った、と青年は語るが脇腹に塞がって間もないだろう戦傷の痕跡を認めた彼女は眉根を寄せる。
「…そんな顔しないでくれ。今更だろう」
確かに今更──なのかもしれないが、負傷の報せを聞いた瞬間、自身が味わった動揺と不安を分けてやりたい衝動に彼女は駆られた。
長生きは──きっと出来ないのだろう。
太い首へ下げられた2枚の認識票。
それが通されたボールチェーンに細い指先が引っ掛けられる。
引っ張ってみると、彼の頭が下がり──導かれるように唇同士が触れ合った。
鼻を擦り合い、飽きることもなく重ねた唇を互いに貪る中、双方の手が動き出す。
節榑が目立つ指は彼女のシャツへ。細い指先は青年の腰のベルトへ。
衣擦れが響き、やがて熱を帯びた切なく高い声が部屋の中で反響した。
「──ッ…!」
胎内に迎えた青年の分身が膨張し、ビクビクと忙しなく痙攣する。同時に彼女の胎内は強く収縮し、媚びるかの如く彼の分身たる怒張へ絡み付いた。
「──来て…!」
蕩けた表情のまま太い首筋と背中へ細い両腕を絡ませながら彼女は余裕なさげに求める。眉間へ縦皺を刻み付けた彼の頭が細い肩へ埋まり──それを合図としたかの如く、腰が震えた。
汗ばむ肌へ触れる細い両腕が覆い被さる青年を強く抱擁し、唇の隙間から切ない嬌声を響かせる。全身に駆け抜ける快楽が電気信号となって脳へ届き、唯一の生体であるそれが溶けてしまいそうだ。
「…少し休むか?」
「…ううん。続けて良いよ。全然、足りないでしょ?」
基礎体力から違うというのに気遣いから伺いを立てて来るのは──おそらく生来の優しさ、或いは
「…まだ…大きい…」
「…キミが魅力的すぎるのが悪い」
「なにそれ」
顔を上げた青年は続けて豊かに実る胸へ顔を埋める。甘えられている──のだろうか。
司令部へ赴く前に散髪したのだろう。頭部の両側面の頭皮が見える程に刈り上げられた頭が
クスクスと笑っていたのも束の間。ベッドを軋ませながら青年が上体を起こす。途端に深く繋がり合っていた結合が解かれた。
「──んうっ…!」
切ない快楽と共に唇が震える。
避妊具を交換し、再び覆い被さろうとした青年だったが──彼女がベッドを軋ませながら上体を起こす。
「…次は私の番」
何故か逆襲を受ける気分だが、そう悪くもない。
促されるまま彼はベッドへ仰向けに寝転がった。
すると彼女もベッドを軋ませ──見た目以上に重量を有している、と証明するかの如く軋みを奏で上げながら青年の腰へ跨る。
深く刻まれ、浮かび上がった逞しい腹筋に細い手を添えて支えにしながら片手で衰えを知らないまま昂る雄の象徴を蜜口へ導いた。
「…大っきい…んっ…」
相も変わらずの質量と熱量を手の平で感じた後は胎内だ。人体を精巧に模した己の中へ火傷すら起こしそうなそれを招き入れる。
蕩けた胎内へ割り入らせ、腰を落として行く。
収縮し、締め付けてしまう媚肉を掻き分ける圧倒的な質量を奥へ、奥へと導き──やがて互いの恥骨が触れ合うまで結合が深くなれば彼女は溜め込んだ熱い吐息を漏らした。
薄い水気を湛えた星が宿った瞳を眼下へ向け、腰を揺らし始める。ベッドが奏でる軋みは間隔が短くなり、弾む肢体からはしっとりと汗が滲む。
呼吸すら覚束ない。唇を震わせるのは嬌声のみ。
細い腰へ大きな両手が添えられる。彼女は身構えたが、それすら嘲笑うように逞しい肉体が突き上げて来る。
「──やっ…!待っ…!」
「──待たない」
今は自分の番──不満を漏らしたいが、そんなことは些細に思える程の快楽が全身を蝕むのが恨めしい。
髪を振り乱し、嬌声を響かせながら再びの絶頂へ至るまで時間はそう掛からなかった。