「よぉ、お前さんがアーチャーのマスターかい?」
「っ!?」
夜中、偵察のために蛍と綺凛ちゃんを連れて歩いていると、ヒゲを生やした男に声を掛けられた。
だがこの男は人間じゃない。
サーヴァントだ。
「…あちゃー、そりゃあ身構えられるか…。
こっちも挨拶がてら、お手並み拝見で来たわけだけどな?うん」
「っ、螢太郎、指示を!」
「お、やる気かい? いいねいいねぇ、若いってのはそうでなくっちゃ。
……でもまぁ」
ヒゲのサーヴァントが槍を構える。
その動作は洗練されており、この男がかなりの手練れだと示している。
「ま、とりあえずやられてくれや」
そんな軽い言葉と共に、ヒゲのサーヴァントがこちらに駆けた。
その速度はまさに神速。
一瞬でこちらの間合いに入ってくると。
「悪いがこっちも仕事でね?
その首、討ち取らせてもらうよ」
「っ!!」
その槍が、俺の首を捉えたその瞬間。
綺凛ちゃんが、竹刀の内に仕込んだ刃で弾いた。
「…っ!」
「おっと、今のは入ったと思ったんだがねぇ。
おじさん、ランサーのサーヴァントだけどさ?
何でそこの嬢ちゃん、サーヴァントのおじさんの槍を防げたんだ?
しかもこの魔力、サーヴァントに匹敵してるじゃねぇか?」
ヒゲのサーヴァント改めランサーは、自分の攻撃を防がれたことにやれやれという感じで頬をボリボリと掻いている。
そこへ蛍が銃を発砲し、ランサーは槍を旋回させて弾く。
「…へぇ、その銃の腕前。
姿形は違うとはいえ、やっぱり生きてたのか」
「その口振り、二代目を知ってるの?」
「知ってるも何も、今回の聖杯戦争で戦ったことがあるからねおじさん。
あとは様子見で見かけた程度。
けどあれは中々だったよ。
まさか魔力すっからかんになるまで戦い続けるなんてな」
「…そう」
と、蛍は様々な銃を使ってランサーに肉薄する。
無数の弾を、槍を旋回しながら弾くもその勢いにランサーは後ろに下がる。
それを逃すまいと、蛍は懐に飛び込み、至近距離で蹴り飛ばした。
何度も地面を跳ねながら槍を地面に突き刺して、何とか耐えるランサー。
そこへ、綺凛ちゃんが素早く刃を振るい、ランサーへと追撃する。
「っ、おいおい、嘘だろこいつらっ」
ランサーは冷や汗を流すと、そのまま近くの森へと飛び込む。
その後ろを、蛍の銃撃が襲うが、それは木々に阻まれる。
「待てっ!」
慌てて追いかけようとする蛍だが、俺はそれを止める。
「……追わないの?」
「今深追いするのは危険すぎる。
……あのランサーは、多分かなり強い」
「でも」
「それに向こうも様子見程度だったらしいし、宝具を撃ってこないのが何よりの証拠だ」
「……」
「だから、今日は一旦戻ろう」
「……分かりました」
綺凛ちゃんは渋々ながら頷き、俺達は家へと戻るのだった。
……しかし、あのサーヴァントは一体なんだったんだ?
クラスはランサーらしいけど。
ランサー視点
俺はランサー、真名はヘクトール。
トロイア戦争の兜輝くヘクトールって言えばわかるか?
まぁ、そんなことはまぁいいとして、俺はマスターの命令でアーチャーのマスターに鎌を掛けた。
…見るからに戦う力は持ってなさそうだが、ありゃあ魔力がやばいな。
近づいた時に気づいたが、あんな濃厚な魔力感じたことねぇよ。
それに、あのアーチャーも強かった。
数日前に戦ったあいつは大柄な男だったが、ありゃあ継続召喚のスキルで復活したんだろうよ。
あいつもあいつで強かったが、あのアーチャーも強かったな。
前は狙撃も含めてで厄介だったが、あいつは様々な銃を僅かな間に使いこなして、それでいて、本気を出してなかったとはいえ俺の懐に飛び込みやがるとは大したもんだ。
それにあの刀を持った嬢ちゃんだ。
刀も肉体も魔力で強化してんだろうが、ありゃあ普通の人間じゃねぇ。
その気になりゃあサーヴァントと渡り合える程だ。
槍の柄を短くしてたら、多分やられてただろうよ。
それもこれも、あのマスターだ。
二人からあのマスターと同じく濃厚な魔力を感じた。
恐らくは、あの二人はあのマスターから魔力供給を受けたんだろう。
俺の宝具を真名開帳すれば勝てないわけじゃねぇが、あんまり相手にはしたくないねぇ…はぁ…。
「よっと、やっと戻ってこれたぜ…」
森を抜け、霊体化しながら街を抜けた先にいかにも豪華な屋敷がある。
こここそが俺とマスターの本拠地、遠坂邸だ。
中へ入り、俺のマスターがいる部屋に入る。
「よぉマスター、言われた通り、アーチャーのマスターに鎌をかけてきたぜ」
「戻ったか、ランサー」
俺のマスターである黒髪の男、遠坂礼斗は優しく微笑みながら俺を出迎えてくれた。
「どうだった?アーチャーのマスターは。
あの病床の老人が病死したのは聞いたが、それを引き継いだのはその息子と聞いているが」
「あいつ自身、魔力が濃厚過ぎるってこと以外は大したことねぇよ。
…でもな、奴から魔力供給を受けたアーチャーとその協力者の嬢ちゃんはかなりヤバかった。
とてもじゃねぇが手出しする気が起きねぇよ。
宝具使おうにもすぐに間合いを詰められるのがオチだ」
「ふむ……。
ならばしばらくは様子見をするべきだろう」
「ああ、おじさんもそう進言するよ」
俺は疲れたんでとりあえず椅子にドカッと座るとため息をつく。
「…ランサー、この聖杯戦争が始まって、エーデルフェルトのライダーとの戦闘の際、アインツベルンのアヴェンジャーと戦ったの、覚えてるか?」
「ん?あぁ覚えてるよ。
けどありゃあサーヴァントとしてはどうなんだって思ったよ。
あまりにも弱すぎる」
「確かに、そうかもしれない。
だが、その後に、皆には若旦那と呼ばせてるサーヴァントが現界した。
ルーラーが現界するというのは、今回の聖杯戦争があまりにもまずい状況にあることだ」
礼斗が、暗い表情になる。
俺と礼斗は、一度あのルーラーが開いてる縮緬問屋に足を運んだ。
そこで聞いたのが、聖杯が汚染されたことだ。
あの若旦那が嘘をついてるようには見えねぇが、このままじゃあ聖杯戦争そのものが破綻しちまう。
それ以来礼斗はずっとこの調子だ。
過ぎたことは仕方ねぇとは言い辛いな。
「ランサー、私の選択は間違っていたのか?
父様からの期待に応えるべく、御三家の魔術師として、聖杯を掴むために君のことを指揮してきた。
だが、その掴むべき聖杯がアヴェンジャーを倒したことが原因で汚染されたとあっては、私はどうすれば……」
「…ふぅ、あのなマスター」
俺はため息を一度つくと、真っ直ぐにマスターの目を見る。
「確かに俺とライダーとで、あのアヴェンジャーを倒した。
サーヴァント同士で戦うんだ、そんなの当然だ。
それに、確かにあの若旦那の言うように、聖杯が汚染されちまってるかもしれねぇ。
正直な話、そうなっちまったんなら、聖杯戦争はここで終わりだ。
未だに姿を見せねぇアサシンとキャスターはどうするかはわからねぇが、ここで終わりにするかは、あんたが決めることだぜ?
やめるならそれでも良いし、続けるなら俺はあんたの槍として、そしてあんたという俺のトロイアを守るために、この槍を振るうぜ?
どちらでも、俺はあんたの意思を尊重する」
「ランサー…」
「ま、他の連中がどうかは知らねぇが、俺はあんたの為に戦うぜ。
マスター」
俺がニッと笑うと、礼斗は少し目を伏せる。
そして顔を上げて俺を見ると、柔らかな笑みを向けてくれたのだった。
「……そうだな。ありがとうランサー」
礼斗はそう言うと、椅子から立ち上がり窓へと近づく。
そして外を眺めながら呟いた。
「……聖杯戦争はまだ続いてる。
他のマスターがこの件のことをどう思っているか、訪ねてみたいものだ」
「となると、まずはアサシンとキャスターのマスターの二人を探さねぇとな。
他のマスターにも声をかけながらな」
「でもライダーはどうするんだ?
あのマスターのエーデルフェルトの嬢ちゃんとか、あんな病弱でお淑やかだが好戦的だぜ?」
「その時はその時だ。
とりあえず私は今自分のできることをしようと思う」
「お、良いこと言うじゃねぇかマスター」
俺は思わず感心してしまう。
マスターは魔術師ではあるが、魔術師らしくないというか、こいつの芯の部分には人間らしさがある。
他者への思いやりが強いんだ。
そのくせ、気の弱さが目立つんだよな。
こいつに召喚された時、俺もこいつ大丈夫なのかって心配したぐらいだ。
そこんところは、この遠坂家の現当主であるこいつの親父さんも心配してんだよな。
ま、そんなところが俺は気に入ってる。
「さて、他の陣営のマスターにアポイントメントを取るとしよう」
「あいよ」
そして俺と礼斗は部屋を出て、他の陣営に話を持ちかけるための算段をし始めたのだった。