「…さて、何から話そうかね」
「…」
巴比論弐屋の近くの川にある腰掛けに座りながら俺は警戒する。
間桐って家は、間桐臓硯って言う危険な男が居座ってる所だしな。
それに黒い噂も絶えない。
女を自分たちに嫁がせては蟲蔵に入れてるだの、魔術の人体実験に使ってるだの、子供が産まれたならその子供が女であれば胎盤として、男であれば蟲蔵に放り込むだのと、良い話を聞かない。
「おいおい、そう警戒すんなって!
おいらは本当におまえさんらに手出しはしねぇって!」
「だからってはいそうですかってなるわけないだろ。
敵同士だし、何より間桐にはあまり良い噂は聞かない」
「あー…、まぁ、そうなるよな、うん」
陽太は頭をボリボリ掻きながら、バツが悪そうにして笑っている。
「おいら、元々孤児なんだ。
そんで爺さんに見込まれて養子になったんだ。
魔術師としての才能と魔力の量とかでな。
…実際酷かったさ。
養子として迎え入れられたと思ったら、魔術とかに関してみっちり教えこまれて。
……正直おいらも、逃げ出そうと思ったよ。
でも爺さんは監視の目を緩めてはくれなかった」
「……」
魔術師として才能と素質があったから見込まれたって事か。
こいつはこいつで大変だったんだな。
「爺ちゃんが厳しい人なのは分かってたさ。
同時に酷い人だってのもな。
魔術師ってのは大成しなけりゃ意味が無いってのも分かってる。
けどおいらはどうしても割り切れなかったんだ」
「…」
陽太は恐らく、他の魔術師みたいに冷徹に徹しきれないんだろうな。
あいつらは根源に至るためなら非人道的なことも平気でやる。
けど、陽太は。
「それなら、聖杯戦争なんて降りて、あとは自分のやりたいことをやればいいじゃないか」
「いやいや、おいらはそうはいかねぇよ。
おいらなりに叶えたい願いがあるんだ。
バーサーカーと一緒に、平穏な世の中を生きるってな」
バーサーカー、あの角を生やした女の子か。
「それにな?
バーサーカーはすごいだぞ、嘘は嫌がるけど家事とかやってくれるし、あいつの飯も美味いんだ!
まぁ、召喚した当初は蟲蔵を焼き尽くして爺さんを発狂させて怖かったけどよ」
「はっ、ほんとよくできたサーヴァントだな」
ざまぁみろ臓硯。
良くない噂流すからそうなるんだよ。
「まぁ、そんなわけでな? バーサーカーと一緒においらは聖杯戦争を勝ち残る」
「…そうか」
若旦那が言ってた聖杯が汚物って言葉の意味はちょっと引っ掛かるけど、こいつなりに叶えたい願いがあるってことだな。
「そういやお前さんはどうなんだ?
聞いたぞ?アーチャーがやられてマスターは自分の息子に令呪を譲渡したって」
「……」
やはり、そういうことは知れ渡ってるか。
まぁ、隠してても仕方ないが。
「親父が病死する前に俺に令呪をよこしたんだ。
勝っても負けてもとことん生き残れってな。
それに、アーチャーは確かにやられたが簡単にやられるやつじゃない。
だからこうして一緒にいるんだよ」
「なるほどな。
ちなみにお前さんには願いってのはあるのか?」
「…正直に話すと、特には何も。
でも、もし勝って聖杯を手にしたら、その時はその時でゆっくり考えるさ。
…その聖杯が、何か汚物になってるとかどうこうで、碌でもないことになってるけどな。
お前も若旦那から聞いてるだろ?」
「あぁ聞いてる聞いてる。
聖杯が汚物になったって話だろ?
おいらはそういうの半信半疑だけどな。
…まっ、その時はその時だ!」
「…そうか」
「じゃっ、おいらそろそろ行くわ。
あんまりバーサーカー待たせるのも悪いし、それに怒ると怖いから。
それじゃっ!」
「あぁ、じゃあな」
そう言って陽太は立ち去った。
「…それもそうだよな。
聖杯戦争は、最後に勝ち残ったマスターとサーヴァントの願いを叶えるんだ。
あんなこと言われても、それではいそうですかって納得するわけじゃないし」
そう、聖杯は最後に勝ち残ったマスターとサーヴァントの願いを叶える。
例え汚物になったと言っても、そんなんで納得するやつなんてそうそういない。
聖杯戦争に参加するやつは大抵は何らかの叶えたい願いをその胸に秘めてるんだ。
それに比べたら、魔術が嫌いで魔術師辞めた俺に願いなんて…。
「…二人のところに戻るか。
いい加減心配するかもだし」
俺は二人と合流すべく、その場を後にした。