「ナァー!!」
「うぉっ!?」
次の日、蛍と綺凛ちゃんとで街を出歩き、昼間から、物陰から何やら魔力を感じたから来てみればサーヴァントに襲われた。
電気を放つ大槌を持った西洋の花嫁のような見た目の少女のサーヴァントだ。
何とか避ける俺の前に、蛍と綺凛ちゃんが躍り出る。
「螢太郎は!」
「やらせません!」
「グッ、ウゥー!!」
歯を剥き出しながら大槌を振るうサーヴァント。
「ッ!」
何とか躱す二人。
そして、その隙に俺は目の前のサーヴァントをじっくりと見る。
この感じ、この理性を失くしたような凶暴さ。
もしかしてバーサーカーなのか?
…いや、バーサーカーはあの陽太にいたはずだ。
もしかしてこいつは、逸れなのか?
いや、だとしてもこの辺りは霊脈が弱かったはず。
バーサーカーは7つのクラスの中でも魔力消費が激しい。
霊体化してる時はともかく、実体化しただけで魔力の消耗も激しい。
それが逸れなら尚更。
もしかしたら、どこかに契約したマスターが?
だとしたら、早くこのサーヴァントを止めないと。
「二人とも、そのサーヴァントを無力化してくれ!
俺がその間にマスターを探すから!」
「はい!」
「分かった」
そう言うと二人は一瞬でサーヴァントを囲い込む。
吠えながら大槌を振るうサーヴァント。
だが、それよりも速く綺凛ちゃんが刀で鍔迫り合いにして、弾き返した。
そして続けざまに蛍が懐に飛び込み、銃を使わずに軽い身のこなしで殴り倒した。
…あれ?
二人とも偉く強くなってません?
というか綺凛ちゃん人間だよね?
確かに人間よりも遥かに上なサーヴァントを相手にしてるとはいえ、武器を弾き返すなんて、ねぇ?
蛍も武器を使うまでもなく殴り倒すとか何なの?
そりゃあ二人には魔力供給はしたけどさ?
強くなりすぎじゃない?
え、なに? 俺の魔力ってそんなに凄いの?
「ウーッ、ウゥーッ!!」
二人して押さえつけられてなお呻くサーヴァント。
その間に、俺は周囲の魔力を察知する。
すると、近くの建物の陰に魔力を感じた。
けどこの感じ、弱ってる?
とにかく確認しようと、様子を見に行くと、そこには白い外套を纏った、長くて青い髪の少女が苦しそうに倒れていた。
でもこの感じ、この子は人間じゃない。
もしかして、ホムンクルスか?
それに、手の甲を見たら令呪があるし。
「おい大丈夫か?」
とりあえず声をかけるが、返事ができないくらい苦しんでいた。
「ウゥッ、ウーッ!!
ますたーに、さわる、なぁ!」
歯を剥き出しにしながら、サーヴァントが吠える。
…ということは、やはりこの子がこのサーヴァントのマスターか。
でもこの感じ、傷はないけどほぼ衰弱しきってる。
魔力の枯渇ではないそうだが、まさか寿命か?
いや、それにしてはあまりにも早すぎる。
だって、もし聖杯戦争にホムンクルスを送り込むなら、少なくとも聖杯戦争の期間は生きられるようになってるはずだ。
それでもこれは…。
「そこのサーヴァント、言葉はわかるな?
俺たちはお前のマスターに手出しはしない。
だから安心してくれ、宛はあるから」
「ウゥ…?ウー…」
サーヴァントは不服そうにしながらも、敵意を感じなくなったのか大人しくなった。
彼女はあくまでこの子を守ろうとしてたって感じか。
とにかく、俺たちは二人を連れて、巴比論弐屋に向かった。
「若旦那!たのもー!」
「何だ開業早々騒がしいぞ雑種。
客が遠のいたらどうしてくれるんだ?」
「すみません!けどこの子をどうにかしたくて」
怪訝な眼差しをする若旦那に、例の少女を見せる。
「…ほぉ?
何を見せに来たかと思えば死にかけの人形ではないか。
しかも、同じ造り物まで連れてくるとは、どういう了見だ?」
「人形……?あ、この子やっぱりホムンクルスか!」
若旦那の言葉に俺は納得する。
だってこの見た目だし、完全に人間と同じだし。
「…察するに、そこの死にかけの人形を治せ、とでも言うまいな?」
「できなくても、せめて治せる方法を」
「ふん、まあよかろう。
それより雑種、お前まさかこいつの正体が分かっていないのか?」
「……どういう事ですか?」
若旦那は呆れたようにため息を吐くと、話を続ける。
「良かろう、無知な貴様に教えてやる」
そして若旦那は俺にこう告げた。
「そやつは聖杯が汚物となった原因を作ったサーヴァントのマスターだ。
行方知れずとなっていたが、まさかこんなところで死にかけておるとはな」
「聖杯が汚物になった原因!?」
俺たちは若旦那の言葉に驚く。
聖杯を汚した原因?何だそれ?
いや、今はそれよりも……。
「若旦那!
そんなことよりもこの子を助けてください!
お願いします!この通りです!」
「螢太郎!?」
「螢太郎さん!?」
俺が土下座して懇願する姿を見て、二人は困惑する。
彼女たちも、この子が原因のサーヴァントを召喚したマスターだって聞かされて動揺し、その上で俺がこうしてるからだ。
だが、俺にはこれしかできない。
だから俺は土下座して、若旦那に頼み込むしかなかった。
「ふん」
そんな俺の姿を見て、若旦那は愉快そうに嗤うと告げる。
「雑種風情が無様に土下座とは。
まったく、笑わせるな」
「ッ……」
俺は何も言い返せなかった。
今の若旦那の言葉は、その通りだからだ。
「だが、雑種の頼みを聞くのも退屈しのぎとしては面白いかもしれんな」
そう言って若旦那は立ち上がると何も無い空間から黄金の波紋が浮かび上がる。
そこから、黄金の釣り竿を取り出した。
それを少女の体に向けて糸を垂らすと、まるで水面に釣り針が沈んでいくかのように、黄金の波紋に入っていく。
「まったく、面倒な事この上ないな」
そして若旦那はそう呟くと、釣竿を引き上げる。
そこには蠢く何かが釣られていた。
釣り針からポイッと上に投げると、黄金の波紋より出た杖からの熱線により消失する。
「…おいそこの継ぎ接ぎ。
貴様ならこの窮地を脱することができるのではないか?」
「ウッ?」
若旦那がそう言うと、少女のサーヴァントが反応する。
「今我がやったのはあくまで今ある虫の一部を取り出したに過ぎん。
だがこの虫は、体内に自分がいたという概念を残し、無限に湧き出るように再生する。
貴様の強い電気を、此奴が死なん程度に浴びせれば、その根本が消滅させられるであろうよ?
まあ、これで此奴が死ねば、貴様も消滅するがな」
「ウゥ……」
サーヴァントは少し躊躇うと、少女の身体に掌を当てる。
そしてバチバチと帯電させ始めた。
「グッ!?」
少女の身体が電気で包まれる。
どうやら体内にある虫を除去するために放電しているらしい。
確かにこれなら上手くいけば跡形もなく消滅させられるかもしれない。
「ウゥゥ〜〜〜ッッ!!!」
震える手を、何とか抑えて放電を続けるサーヴァント。
そしてついに、少女は苦しみから解放されたかのように身体を反って、動かなくなる。
どうやら虫は除去できたようだ。
「……すぅ」
苦しみから開放された少女は、静かな寝息を立てる。
俺たちは一安心した。
だが、若旦那はまだ終わってないと言った。
「まだだ雑種。
今は窮地を脱しただけで、こいつは衰弱しきってる。
…そうさな、貴様みたいな濃厚な魔力を持つものが魔力供給すれば、長く生きられるだろうよ」
「魔力供給?それってまさか」
若旦那の言葉に、俺は嫌な予感がした。
「おい雑種、その人形を助けたいのだろう?」
「ッ!」
そうだ、この子を助けたいんだ!
だがそれは……。
「俺は……」
俺はチラッと綺凛ちゃんと蛍ちゃんの方を見る。
魔力供給と聞いて、ちょっとむくれていた。
…うん、そりゃあそうだけどさ。
でも、俺は。
「俺は、この子を助けたい。
マスターだろうが何だろうが、放ってはいおけない」
「螢太郎さん……」
「螢太郎……」
二人は少し悲しそうな顔をしていたが、それでも止めはしなかった。
ごめん、二人とも。
でも、やっぱり俺は。
すると若旦那は面白そうに嗤いながら告げる。
「良いだろう。
では雑種よ、我が一室を貸してやるから、そこで精々魔力供給に励めよ」
若旦那に言われて、部屋に案内されて、彼女を寝かしつける。
「…」
「…っ」
無防備に寝ている彼女。
これからすることに何も知らないで寝ていると思うと、ちょっと罪悪感が湧いてくる。
だが、だからってこんな所で止まったら彼女はどうなる?
俺は覚悟を決めて、彼女の服に指を掛けた。