「まじか」
思わずつぶや居てしまうほどの衝撃。
つい先程まで、自宅のパソコンの前でゲームをしていたはずなのに次の瞬間には見知らぬ海岸に放り出されたのだ。
手元にあるのは謎技術で作られたと思われる、薄っぺらい機械。
どうやらこれはスマホの様に操作できるらしく、現在地周辺を地図のように見ることの出来る機能があるらしい。
他にもやれることがあるかもしれないが、それよりもっと気にすべき点がある。
「にゃ?」
目の前にいるクソでかい薄ピンクの猫の存在だ。
しかも二本足で立っており、もはや猫と言うより猫人と言った方がいいのでは無いかと言うレベルで歩き慣れている。
「お前……猫なのか?」
そっと近付いて撫でて見ると、気持ちよさそうに目を細めて撫でられるままになる巨猫。
しかし見れば見るほどデフォルメされた見た目でそこはかとなく目つきが悪い。
そんな時、例の謎スマホが起動した。
巨猫を撫でつつ、片手で謎スマホもとい端末を操作して画面を見るとそこには目の前の巨猫の画像が浮かび上がり説明文と思わしき文章が浮かび上がっていた。
「え、もしかしてこのツッパニャンってのがお前の名前なのか?」
まさかと思いつつ視線を合わせると、巨猫もといツッパニャンは不思議そうに首を傾げた。
「……どうやら、これは図鑑の役割を持ってるみたいだな。そんでもって名付けた誰かがどこかにいると……ううん、とりあえず人がいる場所を目指してみるか」
考え事をしている俺から興味を無くしたのか、ツッパニャンはどこかへ立ち去ってしまっていた。
少し寂しいなと思いつつも、いつまでもこんな海岸沿いでたちほ受けている訳にも行かない。
端末の地図機能を確認しつつ移動を開始することにした。
どうやらここははじまりの台地と呼ばれる場所らしい。
始まりというのだからここは比較的安全な場所だと思いたい。
ふらふらと歩いていると焚き火の煙が見えた。
人の気配を感じて駆け足で向かっていくと、そこには一人の男性が焚き火の前に座っていた。
声をかけようとしたが、思わず声に詰まってしまった。
なぜなら、彼の手にはアサルトライフルと思わしき銃が握られていたからである。
俺はゲームで銃を使うことはあっても、現実に触ったことなどない一般人だ。そして銃を持つ人間と言えば警察もしくは犯罪者というイメージしかない。
あの男性が警察とは思えないかなりアウトローな格好をしているのがわかる。
もしかしてここは危ないヤツらのたまり場だったりするのだろうか。
そんな混乱をしている間に、向こうがこちらに気がついた。
「ん、何者だ」
警戒心を顕にしながら男がたちあがり、何時でも銃を撃てるように構える。
「あ、いや、おれは怪しいものじゃなくて、その、ここがどこか分からなくて、その、気がついたら海岸に居てそれで」
慌てすぎて要領を得ない言葉がぼろぼろと出てくる。どうしよう、と混乱していると男は少しだけ眉を寄せたあと「違うみたいだな」と呟いたあと銃を下ろした。
「まあ落ち着け。どうやらお前さんは新参者、それもかなり最近に来たばかりと見える。不安もあるだろうが、少し座って話をしよう」
彼はそう言って再び焚き火の前に腰を下ろすと手招きをした。
呆ける俺を無視して何やら金属のカップを取りだして飲み物を温め始める。
ついでとばかりに肉をどこからともなく取り出し、串焼き肉を作り始めた。
その彼の手元には、俺が持つ端末と同じものが握られていた。
「あ、それ」
「質問はまず口に何かを入れてからだな」
いわれると、不意に腹の虫がなったのを感じた。
「ほら」
差し出される串を受け取り、口元に運ぶとジューシーな肉の焼ける匂いが鼻腔をくすぐった。
ぱくりと食べれば口の中に甘みすら感じる肉の脂が広がる。
「うまっ」
「タマコッコの肉は食べやすいからな。胃もたれもしなくて爺さん婆さんからも重宝されてるよ」
「……タマコッコ?」
「アレだよアレ」
そう言って彼が食べかけの串を向けると、そこにはサッカーボールより大きくて真ん丸なニワトリがポテポテと無警戒に歩いていた。
「……ずっと気になってたんですがアレってなんなんですか?」
「おう、まずそこだよな。あれはパルモンっていう名のこの辺りに住む生き物だよ」
「パルモン……?」
なんだろう、どこかで聞いたような響きだ。
デジだったりポケだったり、いろいろあるが……もしかしてここはそう言った俺の知ってる世界とは別世界なのか?
彼は自信をモーガンと名乗り、パルモンという謎生物のことやこの島……もといこの世界のことについて色々と話してくれた。
パルモンとはこの世界の各地にて生息する原生生物の事で、友好的なものから敵対的なものまで数多く存在する。
彼らは人間の言葉を理解する程度の知識を最低限もちあわせており、個体によっては微細な作業などにも精通するほどの技術力を持つ種もいるらしい。
そしてこの世界に住む人々はパルモンを捕獲し、使役することで彼らと共生を図り何とか暮らしているとの事。
しかし危険な個体によって命を奪われたり、逆に密猟団という組織によって友好的なパルモンから希少度の高い個体が捕まったり、殺害されてその素材を裏取引による利益の犠牲となっている。
先程話題にも出たが、この世界にはいくつかの派閥が存在する。
ひとつはパルモンとの共生を図り、静かに暮らそうとする穏健派。
もうひとつは先程説明にあった、パルモンを道具として見ており犯罪による取引を主とする密猟団。
そして最後に、上記ふたつの組織に大して無差別に絡んでくる愛護団体だ。
愛護団体はとにかく「パルモンは人の道具では無い、開放されるべき」という理念の元に行動しており密猟団はもちろんのこと、平和に暮らしている穏健派にすら襲撃をかけて少なくない被害を生み出す世界共通の厄介者という認識だ。
ちなみに穏健・密猟団体はパルモンを使役するテイマーが存在するのだが、その際にパルモンと愛護団体がぶつかり合うこともあるのだが「束縛する人間の味方をするパルモンは既に野生に帰れない。せめてこの手で自然に返す」という狂った思想で攻撃を仕掛けてくるのだとか。
頭がおかしいとしか言えない。
なぜこれほどまでに狂ったことになっているのかと言えば、俺のような外の世界から流れ着く人間が原因らしい。
元々は穏健派と僅かな少数派閥にまとめられていたのだが、ある時期を境に大量に人々が流れ着くようにんった。
混乱が混乱を呼び、一時期は人同士で争い合う地獄絵図になりかけたらしいのだが、パルモンという野生動物による驚異もあり最終的な境界線を超えることは無かった。
だが今度は一部の人間の中に非常に高いパルモンテイマー適性を持った人物らが現れた。
彼らは外の世界から流れ着き、穏健派とも合流できなかったはぐれ者たちを纏めあげていった。
その結果、複数ーーそれもかなりの力を持った集団が各大陸を根城に暗躍する戦国乱世のような様相になってしまった。
ちなみに今いる大陸は密猟団が主に暴れ回っているらしく、名前はレイン密猟団と名乗っているのだとか。
とはいえ、外部勢力の偵察隊やら威力部隊が出入りしているためその他の勢力とも小競り合いは耐えないそうだ。
話を聞いて思わず頭を抱えそうになった。
たしかに俺のいた世界でも密猟や愛護団体が定期的に問題をやらかす事がニュースに取り上げられていたが、まさか異世界に来てまでやらかしているとは思いもよらなかった。
「その様子からしてあんたはまともそうだ。よかったよ」
「いやなんというか、同郷の者が済まないとしか」
「気にしないでくれ、確かに暴れ回ってるヤツらのほとんどは異世界人だがその中に我々の同胞がない訳じゃないんだ」
「そうなのか?」
「ああ、元々そういう気質だったのか影響を受けてしまったのかは分からんが、資材やパルモンを引き連れて向こうにねがえるバカが一定数いた。だからきっかけは異世界人だとしても、一概に全て君らのせいだとは言えない。遅かれ早かれこの問題は起きていたさ」
そう言うモーガンは肩を竦めながら冗談交じりに「厄介の種を向こうが抱えてくれたんだ。むしろ清々するさ」と、俺を気づかてか軽口を叩いた。
「とはいえ、俺達も自分のことで精一杯だ。何から何まで君を支援する余裕は無い」
「……そうだよな」
聞く限りじゃ、文字通り戦国乱世。そんな時代に右も左も分からない役に立つかも不明な男を抱え込むメリットは無い。
「とはいえ、それをほっぽり出して空に困って新しい密猟団になられても困る。なのでお前には生きる術を教えてやろう」
「生きる術……?」
「あんたらの世界がどうだったかは知らないが、この世界は良くも悪くもシンプル。弱肉強食、つまり強ければ生きられて弱ければ死ぬそんな世界だ」
……聞けば聞くほど生きられる自信ないんだが?
そんな俺の感情が顔に出ていたのか、彼は笑いながら告げる。
「おいおい、諦めるにゃ早すぎるぜ? 言ったろ、この世界はパルモンを使役する奴らがいるって」
その言葉を聞いてようやく彼が何を言いたいのか理解した。
「それってつまり、俺にテイマーになれって事か?」
「それしかねぇだろ? 一人の男が鍛えたところで限界があるし、何より一人じゃできることにも限度がある」
その通りだ。
元々荒事になれていない俺が今更身一つで生き残るなんて土台無理な話だ。
ならば二つに一つ、いずれかの派閥に身を寄せるか個人で生きられるだけの戦力をかき集める。
穏健派は先程モーガンに言われた通り既にキャパ限界で不可能。
そして密猟弾や愛護団体のような他人に迷惑をかけて生きるような生活も……できなくは無いがやりたくないというのが本音だ。
なら考えるまでもない。
俺は意を決してモーガンにの目を真っ直ぐ見つめる。
「教えてくれ、この世界の生き方を」
その言葉を聞いた彼はニヤリと口端を歪め「いいぜ、俺の教えはスパルタ式だぜ」と答えた。