モーガンの教えは予想以上にスパルタだった。
「1にも2にも体が資本だ! その怠けきった体を鍛え直せ! どうせすぐには無理なのはわかってるから、メニューを用意したから暫くはこれをこなしつつ生活をしろ! 余裕が出来たら内容をもっとハードにするとか工夫しろ」
そう言って渡さられた自主練メニューは、まるで「どこのオリンピック強化メニューだ」と言いたくなるほどの密度だった。
しかしそれを指摘したらモーガンは目の前でその運動量をあっさりとこなし「これくらい出来ねぇと死ぬぞ」と有無を言わさぬ眼力で俺の反論を押し込めた。
次にパルモンの捕獲方法だが、これまた別の意味でキツかった。
なんせ見た目だけは可愛いパルモンを棍棒でぶん殴って弱らせて、パルスフィアと呼ばれる捕獲玉で捕まえろというのだ。
ツッパニャンあらタマコッコといった明らかに女子ウケしそうな見た目をした子達。彼らは基本的に友好的な個体でこちらから何かをしなければ襲ってくることは無い。
それを不意打ちの如く棍棒でポカリとやらねばならんのだ。しかも一度ではなく数度。
どうにもパルモンの耐久値は地球でみた似た生物とは雲泥の差らしく、最低でも5回以上はフルスイングを叩き込まなければ弱らない。
その間、ツッパニャンやタマコッコの悲痛な声を聞く時の辛さと来たら想像を絶した。
「こいつらも野生だ。どちらが上かを思い知らせてやらねぇと服従しねぇ! 前の世界でどうだったか知らねぇが、牙と爪を持つ生き物の前で『可哀想』だなんて阿呆のすることだぞ! そういう気持ちは仲間になったあと存分に注いでやれ!!」
モーガンから激を飛ばされながら、心を鬼にして棍棒を振るい弱ったところでパルスフィアを取り出す。
パルスルフィアはこの世界に存在する特殊な鉱石から作られるパルモン捕獲道具の名前だ。
青色で金細工で文様をやら突起物やらあれこれ装飾された見事な逸品だ。
これをパルモンにぶつけると、一定確率で捕獲出来る。
捕まった時点でパルモンは捕獲主に完全服従し、従順な姿になる。
ただ屈服が未熟だと、スフィアから飛び出してしまうそうだ。
だからこそ戦う時は妙な偽善を出さずに、手早く終わらせてやるのが何よりもパルモンのためだと教わった。
「そもそも、生きるために別の生き物を利用したり殺して食うのは生き物の本質だ。それを一々可哀想だとか酷いだとかで感傷に浸るのは人間だけだぜ。下手に同情心出して負ければ、その日の晩飯になるのは自分自身なんだからな?」
モーガンの言葉が胸の中にストンと落ちた。
弱肉強食、こんな可愛い見た目でも雑食性。
肉も食うし木の実も食う。
その項目に俺が含まれない日が来ない保証なんてどこにもないのだ。
そう考えてから、パルモンを攻撃する際に動揺はかなり減った。
見た目が可愛いのでちょっとアレだが、それでも最初の頃より遥かにマシになった。
ちなみにパルスフィアはフィールドを駆け回っているとそこかしこに落ちている。それどころか鉱石も地面から露出しているのを何度も見かけた。
「不思議なことにパルスフィアやその上位互換らは、人が通らない道に自動生成されるんだ」
モーガンたちもまだ解明できていない部分らしく、こればかりは首を傾げていた。
ともあれ、スフィア切れの心配がないのはありがたい。
そして最後に拠点作りについて教えてもらった。
なんでも浜辺で拾った端末、あれはかなりの逸品で、最初に拾った人間のDNAをいつの間にか取得してそれ以外の人間には一切操作できないようになるらしい。
さらに端末はあらゆる建築・製造データが含まれているらしく拠点生成なども通常に比べると遥かに楽に住む。
異世界人たちが拠点をさっさと築き上げることが出来た理由がわかった気がする。
やり方は簡単、ガラスのようなディスプレイを掲げて設置したいところを見るように製造物を確定させる。
すると現実に製造物の半透明な残像が出力される。
あとは端末から自動的に取り出される金槌でトンカン叩くだけだ。
必要素材を自分が持っている必要があるが、組み立てる手まもなく叩くだけで自動消費で組み上げられるのはまさに楽の一言。
場所を見回し小高い丘の上を拠点にすることを決めた俺は、最初に作業台を設置することに決めた。
後で再設置ややり直しも聞くらしいのでまずはトライだ。
まずは最初に作業台を出力すると、モーガンが腰に着いていたスフィアを取り出す。
余談だがスフィアは縮小が可能で、直径10センチ位のボールから1センチボールになり、突起物を押すことでサイズを切り替えできる。おかげで多数ボールを持っていてもあまり嵩張らない。
「ほれ、見てろ」
モーガンが不意にスフィアからモコロンを出した。
モコロンとは羊型パルモンで、ボールのようなシルエットに顔と手足だけが出た毛玉だ。
ツッパニャンと同じで二足歩行で歩く姿は非常に癒される。
そして、飛び出してきたモコロンはトテトテと歩いてきたかと思うと金槌をどこからともなく取りだし、作りかけの作業台をトンテンカンとやり始めた。
「おお」
「こうやって手伝ってくれるんだよ。かわいいもんだろ」
「ですね」
頑張るモコロンの頭を撫でるとこちらをちらっと見て笑顔になった。
やばい、かわいい。
そんなことをしているとあっという間に完成。
「こんな具合で拠点を作っていくんだ。素材の木材だが、この辺りで困ることはねぇだろ。伐採されても数日後には元にもどってるよ」
「なんというご都合主義」
そんな生活を2週間ほど過ごした。
拠点もそこそこの出来上がりで、敷地内には
この2週間で捕まえたパルモンたちで溢れかえっている。
「随分と立派になったな」
「モーガンのおかげだ。1人だったら今頃餓死してた気がする」
「ははは! あの時はひょろっちすぎて警戒するのも馬鹿らしかったからなぁ!」
この二週間で肌も僅かに日に焼けて、うっすらと体も引き締まった気がする。
体力もちょっとついたし、運搬で持てる量も増えた。
「とにかくこれで問題なさそうだな。ちょいとばかり長居しすぎた……そろそろ俺は行くぜ」
「寂しくなるな」
「何気色悪ィこと言ってんだよ。それにお前にゃそいつらがいるだろうが」
そう言って指さした先には、周辺で捕まえた仲間達が居る。
「……そう、だな」
俺は改めてモーガンに向き直って頭を下げる。
「お世話になりました、このお礼は必ずします」
「気にすんな……と言いてぇところだが、こっちも色々手が足りてぇねえ状況だ。困ったら遠慮なく頼らせてもらうぜ」
「喜んで、今よりもっと仲間も俺も鍛えておくよ」
「おう、そうしろ」
そんなこと言って背中を向けて歩き出す……が、不意に足を止めて振り返った。
「そういやお前の名前はなんて言うんだ?」
言われて思わず笑ってしまった。
ずっと「おい」だとか「おまえ」でやり取りしてたから名乗るのを忘れてた。
「わるい、名乗ってなかったな」
「いや俺も聞こうと思わなかったからしゃあない」
「俺の名前は冬馬……いや、トーマって呼んでくれ」
「トーマか、覚えたぜ。もしどこかの集落や民間人似合うことがあったら旅人モーガンの弟子って言えば話が通るぜ。伝言なんかあればそれを使えや」
「わかった」
「んじゃあ今度こそ行くわ、またどこかで会おうや。死ぬなよ」
それだけ言うと、今度こそ彼は旅立って行った。
寂しさだとか哀愁のようなものは一切感じさせず、まるで明日また顔を合わせそうな雰囲気だ。
そのくらいがちょうどいいってことなんだろう。
ならば俺もいつまでも見送らず、いつお通り拠点を運営していこう。
「さあみんな、今日から俺たちだけでこの拠点を守っていくんだ! 気合い入れていこうな!」
俺の声に合わせてパルモン達がそれぞれ声を上げた。