※この作品はR-18です。

正真正銘、現地の魔物です。(なお現代知識インストール済み)   作:⬛︎黒幕⬛︎

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蛇人ララム【3】

 誰かの叫んだ警告を聞いた瞬間、ルルムは弾かれたように身を翻した。

 

 戦わねばならない。

 遠征隊に列せられる程の強者である彼の、当然の責務だった。

 

 最愛達(メトラとララム)も気掛かりではあるが、互助の精神に溢れる同胞達が彼らと共に避難してくれる筈だ。

 そも、討伐されねば止まらぬと名高い盲這竜(オルゴ・イコル)が相手なのであれば彼らに被害が及ぶ前に討伐してしまうのが確実な対処法となる。

 

「俺は戦う。お前達は逃げろ」

 

 すれ違った最愛達(メトラとララム)に告げ、ルルムは得物の置いてある棲家に急いだ。

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 ララムはメトラに手を引かれ、食堂にいた蛇人達の群れに混じって先の警告が聞こえた方とは逆の方へと逃げていた。

 

「ああまったく、よりにもよって盲這竜(オルゴ・イコル)とは最悪だね。今回は何体喰われるんだろう」

 

 するすると這走(はし)りながらメトラが呟く。

 周囲を碌に気にせずに吐かれたその思考は、この時ばかりはその場の全員の総意だった。

 

 幼いララムは、まだ盲這竜(オルゴ・イコル)の脅威を実感できているわけではない。

 だがまるきり能天気でいるわけではなかったし、戦いに向かったルルムや共に避難しているメトラが喰われていなくなる可能性を漠然と想起しては背筋も凍るような恐怖を湧き上がらせていた。

 

 そして。

 重苦しい恐怖に怯えながら避難を続けて、巣の外苑にある農耕エリアまで到達した頃。

 再び誰かの断末魔が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 前方から。

 

 

「逃げろ!も(・)う(・)一(・)体(・)い(・)る(・)!」

 

 

 農耕エリアの天井は高い。巣の外苑たるそこでは、巣の全階層が吹き抜けとなっているからだ。

 その、高い天井に向けて伸び上がるように。

 数瞬前まで蛇人だった肉片を顎の端から溢す巨大な怪物が──── 盲這竜(オルゴ・イコル)が鎌首をもたげた。

 

 

 絶望が始まる。

 

 

「逃げるよ!」

 

 メトラの判断は早かった。

 ララムの手を強く握り、即座に身を翻して這走(はし)る。

 ルルムたちが戦っているはずの、環状の農園エリアの反対側へ。

 

 蛇人達のうち何体かはメトラと同じように身を翻して、散り散りに逃げ出した。

 いずれも幼体の手を引いていたり、抱えていたり、みごもっていたりする者たちだ。

 

 そしてそれ以外は、恐怖を押し殺して盲這竜(オルゴ・イコル)に向き直った。

 

 盲這竜(オルゴ・イコル)はより強い魔力に反応し食らいつこうとする。そのうえ俊敏だ。

 だから全員で固まって逃げれば、瞬く間に追いつかれて喰い尽くされる。

 

 こういう絶体絶命の場合のための、巣が出来上がった頃から伝わる方針がある。

 メトラでさえ覚えているそれは、こういったものだ。

 

 せめても幼体と孕んでいる者は逃す。

 それ以外のものは犠牲になる覚悟でそれを助ける。今回の場合、するべきは足止め。

 

 逃げゆくものたちの背後、盲這竜(オルゴ・イコル)と足止めの蛇人たちを囲うように、魔法によって即席の障壁(バリア)と石壁が組み上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 這走(はし)る。

 知覚できる範囲内でないと危険な転移魔法も、開けた農耕エリアならば長距離で使える。だからメトラは這走(はし)りながら何度も、ララムを連れて転移する。

 

 運の悪いことに、盲這竜(オルゴ・イコル)は足止めの蛇人達を幾らも経たず平らげた後はメトラたちを次の餌に選んだらしい。

 ずるずると這いずる音が背後から二体を追いかけてくる。

 血と土と盲這竜(オルゴ・イコル)の粘液とが混ざったひどい悪臭が刻一刻と近づく。

 

「大丈夫だよララム。僕が必ず助ける。君も、まだ名の決まっていないこの仔も」

 

 背後から迫る盲這竜(オルゴ・イコル)から転移を駆使して逃げるメトラは、己の腹を撫でて呟き、ララムに気丈に微笑って見せた。

 

 当のララムは、それに頷く余裕もないほどに思考を回していた。

 脳裏にある星からの知識の中に、何か役立つものがありはしないかと探すが見つからない。

 今までで最大の危機にあって、彼はただ無力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルルム達、蛇人の戦闘員と盲這竜(オルゴ・イコル)との戦闘はいよいよ佳境にあった。

 

 盾役(タンク)が魔法障壁や手にした盾で動きを制限しつつ、敢えて作り出した大きな魔結晶で気を逸らすことで隙を作る。

 そこでルルム達攻撃手(アタッカー)が、手にした武器や魔法で生み出した物理現象で攻撃を加える。

 

 その繰り返しにより、ルルム達は犠牲を出しながらも盲這竜(オルゴ・イコル)の長大だった身体を半分以下にまで削り取ることができていた。

 だが、溶解液を吐く頭部は未だ破壊されていないため依然として注意は必要だったし、ま(・)だ(・)全(・)長(・)二(・)十(・)メ(・)ー(・)ト(・)ル(・)は(・)あ(・)る(・)巨体である。

 優勢ではあるが未だ魔石を探し当てて破壊するには足りない、そんな状況だ。

 

 戦線が動いたのは一瞬だった。

 

 

 転移を繰り返してもう一匹の盲這竜(オルゴ・イコル)から逃げてきたメトラ達が、付近に現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで来たことで安堵してしまったのだろうか。

 

 一瞬動きを止めてしまった彼(メトラ)の上半身を、背後から迫った盲這竜(オルゴ・イコル)の顎が食い千切った。

 

 

 

 

 

 

 

 咄嗟に突き飛ばされたことで助かったララムが。

 今まさに盲這竜(オルゴ・イコル)の頭部に攻撃を加えようとしていたルルムが。

 

 

 鮮やかな中身を散らして倒れるメトラの下半身を知覚して硬直した。

 

 

 メトラの上半身を魔石ごと飲み込んだ盲這竜(オルゴ・イコル)が今度はララムに食いつこうとする。

 ルルムに切り刻まれようとしていた盲這竜(オルゴ・イコル)が溶解液を噴射する。

 

 

 ララムは、咄嗟に誰かが魔法で発生させた斥力で移動させられて難を逃れた。

 

 

 

 

 ルルムは、溶解液の吐息(ブレス)をもろに浴びた。

 

 ずるり、と。

 

 ルルムの形が崩れる。

 

 

 

 

 

 すらりとした六腕がべちゃべちゃと滴り落ち、灰色の髪も白皙の面も、何もかもが形をなくしてぐちょりと地に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 奇跡は起きない。

 

 今度こそ、盲這竜(オルゴ・イコル)の牙がララムを噛み砕『縺ソ縺帙※縺翫¥繧後h縲√Ν繝ォ繝?』

 

 

 奇跡は起きない。

 

 

 ルルムが、身を起こした。

 もう殆ど魔石以外はぐずぐずの身体で、六振りの鎌剣(ハルパー)を持って。

 

 転移。

 

 鋼が閃めく。

 

 そして突き刺して手繰り寄せて切り取って、只管にそれだけが、一瞬の内側にあった。

 

 

『縺翫l縺ョ縺薙↓縺ヲ繧偵□縺吶↑』

 

 

 無傷だった盲這竜(オルゴ・イコル)の三分の二が瞬刻の間に細切れになり、逃げきれなかった魔石を突き立てられた鎌剣(ハルパー)が砕く。

 

 

 

 目の当たりにした両親の神技が、ララムの脳裏に焼きついた。

 

 

 

 魔法で無理矢理動いていたルルムが、今度こそ芯まで溶けて倒れる。

 それと同時、半分消化された状態で放り出されたメトラの魔石が盲這竜(オルゴ・イコル)の肉片と共に地に落ち、砕け散った。

 

 それが合図となったかのように、引き伸ばされていたような時間の速さが戻って、ああふたりはしんでしまったのだと呆然と、見た、少し離れた場所に倒れたままだったメトラの下半身からまだ透明の小さなたまごがこぼれるのを、

 

 まだ名前のない弟。

 

 卵としても未完成のままに母体から溢れたことで生まれる前に死のうとしているそれに、ララムは咄嗟に這い寄る。手を伸ばして拾い上げ、掌で包んで己の魔力を分け与えた。

 自分が孵ったばかりの頃、両親にされたように。

 

 

 

 そして、魔法を発動する(大罪を犯す)。

 

 

 

 がむしゃらに、星の記憶の導きのままに。

 小魚が卵の中で育つ様子を思い浮かべながら。

 

 

 

 掌の中の卵が、瞬く間に成長していく。

 内部の胚は蛇人の形へと育ってゆき、透明だった殻は白く厚くなっていく。

 

 

 

 そして、彼の手の中には。

 産み落とされたばかりのような、真白でつるりと丸いたまごがあった。

 それは確かに生命を宿して、脈動と共にララムから僅かずつ魔力を吸い上げている。

 

 

 

 

 

 ああ

 

 よかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 限界を超えた魔法を行使したことで気絶してしまったララムが倒れるのを、戦列から抜けた盾持ちの若い蛇人が抱き止める。

 

 彼らの背後では未だ戦闘が続いているが、もう一匹の盲這竜(オルゴ・イコル)はルルムを攻撃した隙を衝かれて大幅に体積を削られていた。

 溶解液を噴射する器官や顎までもを失ったそれはもはや脅威の殆どを喪失したと言っても過言ではない。

 

 趨勢は、既に決していた。

 

 掌に大事そうにたまごを包んだまま気を失っているララムを、若い蛇人は優しく抱える。

 

 彼が無念そうに視線をやった先は、ルルムとメトラが盲這竜(オルゴ・イコル)を倒した場所だ。

 

 ほとんど液状にまでなったルルムだったもの。

 粉々になって魔力に還っていくメトラの魔石。

 

 それさえも、盲這竜(オルゴ・イコル)の亡骸から流れ出した消化液が無に帰さしめていく。

 

 才媛、天才として名を馳せた彼らが残したのは、地に臥すメトラの下半身と。

 ルルムがいた場所に墓標のように横たわる、六振りの鎌剣(ハルパー)の刃だけだった。

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