討伐回・第二弾、前話の続きとなります。
ヒツキ目線の話です。
前は何もでなかったけれども念のために、と『イッショー』とは別にぼく達は引き続き高校での捜査や聞き込みを行っていた。『アオジャシン』の少年とつながりを持つものを、それがどんなつながりだったかを検分するために。
さわりいっぺんだと深いかかわりなどないように思えるかもしれない、しかし十重二十重と積まれた『あたりさわりのなさ』のその中に、とても重要な便りが隠されているかもしれぬ。
だからこれも、とても大事なつとめだ。
「どうも、おつかれさまでーす!」
『イッショー』の友の縁者のそのまた友───快活な少女はぼく達の聞き込みを楽しそうに見つめていた。ちょうど通りかかったんですよ、がんばってくださいね、と歩きながら話しかけ、隣の建物に居る『イッショー』の友の縁者である少女と合流した。向こうもぼく達の姿を認め、頭を軽く下げ一礼した。ちょっとしたねぎらいをもらってしまった。
学び舎同士をつなぐ渡り廊下。そこでぼくは聞き込みをしていた。取調室をもうけての聴取は終わっている。こう流れるようにすすむ群衆の中からの、一見無関係な誰かからの情報が欲しかった。
一旦聞き込みを止めて校舎の方を見た。生徒も教師もそれなりにいた筈の通路には誰もおらず、学び舎の片端は黒い口を開いてそこに在った。影になっていて中はよく見えない。
そんなところになぜか意識が向かった、その時だった。
───やあ、ヒツキ。
背後から声がしたのは。
なぜだか後ろを振り返ることが出来ない。けれども、この声の主はよく知っている。
「やあ、『ウツツギ』」
───六連くんはいい子だね。
そう静かな声は続いた。
───あの時もしぼくが逃げていたら、六連くんはぼくを忘れないままに追いかけてきただろう。あらたな奇跡すら起こして、ぼくを心に留めてくれただろう。
それはそれで幸せだったかもしれないね。静かな声はそう笑った。
───もしぼくと彼が深い縁を築いていたなら。その上で、もしぼくがどこか遠くの草むらの中で力尽きようとしていたなら、もしくは、数人に袋叩きにされて息も絶え絶えとなっていたとしたならば。一言でも名前を呼べば、きっと六連くんはかけつけてくれるだろう。抱き上げ汚れを払い、かついで一緒に歩いてくれるだろう。
あたりが煙のようにかすんでいる。かすむ中で、『ウツツギ』の声だけが響く。
───いい友達を持ったね、ヒツキ。
───あの子ならきっと、きみとの約束もちゃんと果たしてくれるだろうね。
それはそうだと思う。ぼくとしてもよくわかっている。『イッショー』と、六連と共に在る十六年間の中で、ぼくがわすれていた期間の中ですらも、それは十分知ることが出来た。
それでも、それでもぼくは。
「だけどぼくは、あの子に約束を果たさせたくないんだ」
そうだねえ、と『ウツツギ』がふたたび笑う。
そんな事態はできれば起こって欲しくない。『ウツツギ』もぼくのそんな考えをわかっているのだ。
───そうそう、きみ達と最後に会った時に珍しい子を見たよ。
そういえば、と『ウツツギ』が話を別の方へと向けた。
あの時のあの場所は、『イッショー』が『ウツツギ』にとどめを刺したのはすぐこの近くだ。この学び舎は、若者が多くつどう街の中に在る。
───あの子は、ここに居るよ。
ごめんね、せっかくきみと六連くんがちゃんと見送ってくれたのに、やっぱり迷っちゃって、と『ウツツギ』は笑い続ける。
けど大丈夫、もう道も見えてきた。
そう言って声が遠ざかる。
ここでやっと振り返ることが出来た。遠ざかる後ろ姿、白地に干し草色の重なったキジシロ猫は学び舎のもう一端、開かれた黒い口に脚を伸ばすところだった。すらりと長いとはいえない、けれども鞠の様に極端に短くもない、中庸な長さのしっぽは歩に合わせ、満足気に先端をぴこぴこと動かしつづけていた。
───じゃあね、ヒツキ。ありがとう。六連くんによろしくね。
その後ろ姿を見送る。徐々にかすみがかった空気が澄んだものへと変わってゆく。周囲はまた学び舎からの喧騒で包まれる。建物の中には明かりが灯っており、歩く人も中に置かれたものもはっきりと見える。
ああ、やっと『ウツツギ』は旅立てたのだな。
そんな思いが頭を巡った。なんとも言えない、ふたたび会えたのに満足に別れの言葉を送ることも出来なかった。それでも彼は、自分はこうやって旅立てるのだと、姿を見せてくれた。
ひとしきり旅立った友について考えた後、思考を別のところに巡らせることにした。
珍しい子を見た。あの子はここにいる。
そう、『ウツツギ』は言っていた。
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