討伐回・第二弾、前話の続きとなります。
(読みやすさの為に話数を再度分割致しました)
夜の気配はもうすっかり周囲を飲み込んでいた。本格的な夜になりつつある。
舗装された順路を歩く。ここは街中にしてはやたら敷地が広くて緑も多い。流石いい所の学校だと驚嘆でも漏らそうか、なんて思えてくる。構内を歩くだけでも子供ならちょっとした冒険として楽しめるかもしれない、そんな広さだった。
「あれ?篝さん、ですよね?」
声に振り返ると、そこには女子高生が居た。あいつの姪の友達───一緒に居る事の多いあの娘だ。
ああ、丁度良かった。
ちょっと付き合ってくれないか、確認したい事があるんだ、というこちらの誘いに、娘は嫌がる素振りを見せた。
「ええー、あたし、これからあの子と約束してるんですよぉ」
そんなに時間は掛からないから、という説得に、ならいいですけどぉ、とわざとらしく頬を膨らましながら後を付いて来てくれた。
肩から下げられたスポーツバッグからは、水の音はしなかった。
夜の構内の道を二人で行く。
帰宅後は自宅待機する事になっていただろう、というこちらの説教には、解決してなくなったからいいんですー、と返して来る。減らず口だ。まあ、言ってもしょうがない。
そこから始まって、捜査の話や学校生活で何をしているのかを簡単に話す。お互いに語る事柄が尽きて、言葉少なになったその時に、俺から話を切り出した。
「お前、あいつと仲が良かっただろう」
『あいつ』が誰を指す言葉なのかすぐに分かったのだろう、娘は黙った。
「あいつが一家総出で居なくなる前後の防犯カメラには何も映ってなかったけどな、そのちょっと前、通報前のデータが残ってたんだ」
撮られない様にしていただろうに、それでも甘かったな、と俺は続けた。
「後、あいつが居なくなった後に、バスに乗ったよな。繁華街の辺りで降りる便に」
「あの時間帯にあんな場所に行ったら危ないだろう。一体どんな用事があったんだ?」
答えは無い。無言だ。道には俺達の歩く音だけが響く。まだまだ、追及は止まらない。
「俺は古い人間だし詳しくないから、イトミミズとか粒になってる奴とかしか思いつかなかったよ。けど今は大分洒落た物が出回っているんだな。あの形なら水に浮いているのも見栄えが良くて面白い」
「けどあれもまだ主流じゃないみたいだな。限られた店にしか流通していなかった。聞き込みに行って確認も取ったよ」
「なあ、自分自身を常に持ち運んで金魚の餌を喰わせ続けるのって、どんな気分だい」
鑑識によってペットボトルの影に落ちていたのは金魚の餌だと分かった。特殊な形状だから流通先も限られていて、それは調べたら簡単に足が付いた。そして、ペットボトルの破裂の原因も。
───あのペットボトルは、
『アオジャシン』が自らの『未来の姿』と一体化しても、普段からその姿を人間達に見せびらかしている訳ではない。普段は人間と同じ姿を保ち、人を喰らう時や仲間同士で集まっている時だけ、本性を現す。
奴らは血縁でなくとも、同種同士だとそれなりに仲が良い。狭いコミュニティーに血縁以外の複数の個体が居るのは珍しいけれども、争うという事は無い。むしろお互いの利益の為にそれなりに協力しあう。
蛙型は珍しい。正確に言えば、水生生物の姿を取っていたり、懐に入れても支障無い大きさをした形態は珍しい。俺達が認識していないだけで、『よちよちと地上を鰭で進む鮫型』なる存在も居るのかもしれないけれども、まだそれは確認されていない。
胸躍らせて繁華街への便に乗ったのだろう。夢が叶う事を望み、如何に自分を言葉巧みに引き寄せ、もしくは暴力的な手法によって傍に寄せ、『死に至らしめてくれる適当な誰か』が現れてくれる事を願いながら。
そして腹の立つ事に、全ては首尾よく行ってくれた。
突然変異で生まれる一族、もしくは、通常の人間から突如生まれた変異体。
───言ったでしょう、あたし、やくそくがあるんですよ。
静かな声が響く。振り返るまでもなく、静かな夜の雰囲気がゆらめくのを感じる。
硬質な刃を交わし合う態勢になったのは、ほぼ同時だった。
振り上げられた右肘の下には鰭があった。硝子のように透明で、且つ、硬質な鰭は、俺が片手で揮った刀を見事に防いでいた。裏路地のチンピラ共の首筋を切り裂いたのも、これだろう。
そして、左腕はといえば。
十分に硬質化されていない、優雅なドレープを保ちながらある程度の柔らかさを保った左の鰭は、俺の
娘の口がぱくぱくと動く。
俺の友達でお団子頭の女が好きだ、あの髪型がいいとやたら熱弁していた奴がいたが、あいつならこの形態も好きかもしれない。娘の頭は、鼻梁の半分から上は赤い鱗で覆われ、その眼は頭頂近くで隆起し、まるで『両把頭』でも結ったかの様な状態になっていた。
───出目金だ。
鱗に覆われてはいない口も、金魚らしさと人間らしさを兼ね備えた物へを変化し、言葉も何も放ちはしないのにぱく、ぱく、と動き続けている。
獣の姿と一体化した『アオジャシン』は人を喰らう。『自らの素晴らしい形を保つ為に』、『より美しくする為に』喰らい続ける。そして狙われるのは、身近な人間だ。親兄弟では無い。自分の世話をしたり、これからの自分にも必要な存在だから───これは、親兄弟が『アオジャシン』ではない只の人間でも同じで、喰う対象にはならない。もう少し疎遠な、友人やら知り合いがそれに入る。
しかし身近な人間ばかり消えたら流石に不自然だ。あまりに頻繁に喰らうと足が付き、人ならざるものを追う存在に自分が狩られてしまうだろう。それを『アオジャシン』達も分かっている。身近な人間を狙う『傾向』があるだけで、融通がまるで利かない訳じゃない。だからもし、『アオジャシン』同士の伝手が得られたとしたら、奴らはお互いの知人の情報を交換し合う。自分が狙っても自分との関連性が掴めない相手をお互いに提供するのだ。
しかし比較的安全な機会を得ようとも、『傾向』に押し負けてしまう奴らも居る。自らの内側にある本能が欲する要素に誤魔化しは利かない、といった所だろうか。
───あの子いっつもぼーっとしてるでしょう。あたしはその逆。だから、ちょうどいいんじゃないかと思って。
ぱくぱくと動き続ける口から娘は、そんな寝言を漏らした。
───本当にふざけた話だ。
友達を喰おうってのも、この俺を倒して無事で済むつもりなのも、何もかもがふざけている。
本当に、虫唾が走る───
神経を若干焦がされた様な気分になりながら、俺は再度斬撃を放とうと動いた。
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