※この作品はR-18です。

プレイアデスの瞳   作:甕下 星辰

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※別サイト(pixiv・ミッドナイトノベルズ)にも同作品を投稿しております。
別サイトでのコンテスト応募作品です。

時候にまつわる小咄その2(中秋の名月&月見団子+カスタード)になります。
お月見に臨む榮美里がお月見団子や月光に絡めて六連とのやり取りを考える話です。


月とカスタード

予定が変わってヒツキは来られなくなったのだと、それは聞いていた。

 

だから買う量を変えて調整した。別にたくさん食べるものでもないもの、多過ぎてもよくないわ。

けれどそれでも、ちょっと多めだったみたいだ。

 

おお、たくさんだなあ!とはしゃいだ声は決して大袈裟に言っているのではないよと子供じみた響きを持ったままで、次の言葉を紡いだ。

 

「中はカスタード味かな?」

 

その声を遮り、いえちがうわ、こっちのお団子がこし餡でこっちがつぶ餡ね、と説明した。まったく、何故そんな物を用意していると思っているのか。

何でそこだけオーソドックスなんだと不思議そうに言う六連に、どうして?と聞き返した。

 

「だって、そんな格好しているから」

 

洋風をそこまで推して来るなら、何かしら用意でもしてくれているのかな思ってなと、答えになっていない返事を寄越すと、彼はあらためて視線をわたしの方に向けた。上から下まで見下ろす視線と声は、用意したお月見団子を示す前にこちらを見ておお!と上げた歓声と共に見やってきた眼と、さして変わらない。

 

「なら聞き返そう。何でお月見でバニーガールなんだ」

 

───月見団子を見るより前。出会いがしらの彼の歓声は、この格好を見て掛けられたのだった。

 

確かに今のわたしはバニーガールの姿を取っている。赤い蝶ネクタイも黒いレオタードも、脚を透かす網タイツも、何もかも気を抜いてはいない本格的な物だ。

だってお月見といえばウサギでしょう、と返すわたしに六連は、よくわからんという顔をして、こう続けた。

 

「カズトが居てもそんな格好をしていたのか」

 

あんまり困らせてやるなよ、なんて言い草に、あら、と一言付け加えた。

 

「ヒツキだったらきっと、それとなく流してくれるでしょう」

 

目的や大事なことにあまり関係無いものには深入りしないわ。何か妙でも『そういうもの』だと済ます。あなたとはちがうもの───そう返したわたしに六連は、そんなもんかねえと納得がいかない様子を漏らしていた。全体的に不服そうだ。

 

けれども『あなたとはちがう』という部分を耳にした時だけは、不服だけではない何かが混ざっている様な気がした。

 

それは今回、ヒツキが居ない理由にも少し結びついているのかもしれない。

 

ヒツキは今夜───『中秋の名月』であるこの夜にしか受け取れぬものを取りに行ったのだ。これは時期が限られるし、受け取り手も誰でもいい訳ではない。

名水だからなあ、そう簡単には手に入らんよ───とは、六連の談だ。

 

『今まで生きた中で誰も傷付けあやめたことがなく、あやめる術を今後とも持てぬもの』。

 

その条件を満たすものはそう多くはない。ましてや条件を満たしたまま無事に帰って来られるものは、もっと少ない。それで言うと、ヒツキはまさに適任中の適任なのだ。

そんな入手が難しく、他に任せるわけにもいかないものが急遽入り用になってしまった。だから、彼は今夜ここには来られなかったというわけだ。

 

本当にいきなり来られなくなったから。だからお団子を買うのも直前になってからでも問題無かったし、その時に量も少し変えたんだったわね。

 

そういえば、と思い出す。お団子を買いに行った時にカスタード味のお団子も見かけた気がする。いつものお店はあまりそういう変わり種を置かないから、あら、こういうのもあるのね、なんて思ったような覚えもある。

けれどもそれは入り用じゃない、もっと言うと『邪道』だと思ったから、あまりよく見ていなかったのかもね。

 

用意した団子の方に眼をやる。

筒胴(とうどう)に掲げられ、真っ白い折敷(おしき)の上に並べられたお月見団子に崩れはない。ちゃんと盛りつけたもの、当然だ。

このバランスを、均衡を、崩してはいけない。

 

「まさか今から買いに行けと、いや、『作れ』とでも言うんじゃないでしょうね」

 

『邪道』を求められても───細かな好みに沿えと、そこまで求められても困るわ。

 

「手作りを求められても困るわ、わたし」

 

別に何か言われたとか言外に促されたとかじゃない。六連は純粋に聞いてきたのだと、それは十分にわかっている。

けれども二人きりで居ると、何故だか棘が多くなる。だからわたし達の間にはヒツキが居てくれた方がありがたい。今回ヒツキが居ないのはそういう意味でも望ましいとは言えなかった。

 

六連との場にヒツキは要る。

 

そうでなければわたしはこの子の中に鉤を掛け、何もかも引き出して見つめようとしてしまうだろうから。

 

「……面倒な事をやれなんて言わない。今回は買って来て貰ったけれども、それさえ面倒だったら俺が作ってもいい」

 

わからないな、という顔のままで六連が言う。

あなたそんな暇ないでしょうというわたしに、そうじゃない、例えだなんて余計な解説を付けながら、更に言葉を続ける。

まったく、変な所で真面目なんだから。そんな真剣な顔なんてしなくていいのに。

 

それに、あなたが買おうとするのを止めて任せてもらったのはわたしじゃないの。

 

「何だったら菓子なんて用意せずに外も眺めず、月の写真を眺めるだけでもいい」

 

「お前さえよければどんなのでもいいんだ」

 

実物を見ずに月の写真を眺めて『月見だ』なんて、あなた時々変わったというか、浮世離れしたこと言うわねえ、なんて言葉は喉の奥にそのまま飲み込まれた。

 

やりかたは何でもいい、何にしても俺達が、お前が楽しければそれでいい。

 

───こうして、つながれるなら。

 

静かな声は深く、空気は張り詰めて苦しい程だった。

 

月を見ようと開けられたベランダの戸から月が覗いている。皓々と光り、地上に迫る満月。

おどけたような月、ぐっとこちらに迫った、いっとういい姿で写真に撮られる様にと見栄え良く、よそ行きの姿をした月。あざやかな黄色が目にまぶしい。

 

あざやかな黄色。卵色の深い部分、粘り気の高い───濃く甘いカスタード。

 

「……まだ和菓子屋さんは開いているはずよ」

 

ようやく口に出せたのはそんなことだった。

張り詰めた清浄な空気を破り誤魔化せるならば、もう何だってよかった。

 

───まったく何でこんな時に、ヒツキは居ないのかしら。

 

「ねえ、カスタード味のお団子を買い足しに行きましょうよ」

 

「もしもう閉まっていたり売り切れていたら、スーパーかコンビニで何か買えばいいわ」

 

シュークリームなんかいいんじゃないかしら、というわたしに、シュークリームはもう月見とは離れてないか、と六連が返す。清浄な雰囲気は消え、いつもの、親しみやすく締まりのない表情に戻っている。

そこに何だか安心して、ほっと一息吐き出したその時だった。

 

彼の瞳に灯る星明りが、一層深く輝いた。

 

冴え渡る月の光。開けられたベランダからは、まっすぐに月光が差し込み、六連の顔と髪がまばゆい光で薄っすらと縁取られている。

月光に縁取られた長い黒髪。そこへ更にこまやかな光が微かに波打ち渦を巻いて絡まっていた。艶やかな黒髪は夜の色よりも深く、一層光のまばゆさが際立って見えた。

そういえば、この子の普段の軽口とおどけたような素振りは、今夜のこの月とよく似ている。

やたら目立ってわざとらしいぐらいに色を目立たせるけれども、それは本質じゃない。本質である清浄さはちゃんと保たれたままで、そんな風に装っているのだ。

 

六対の光、十二の灯は冴え渡る清浄な光によって点されきらめいて、月の輝きにすら負けない熱を以て燃えている。

彼の眼窩の中には星の海が存在し、何処までも広がっていた。

 

───やり方なんて何でもいいと言ったのはあなたでしょう。

 

そう言って、彼の顔から目を逸らした。

六連はどんな道でも進むし切り開く。やりにくいことはやりやすく、傍目に見た悪路でも、自らが好むやり方ならば避けもしない。この子には『邪道』などというものはきっと無いのだ。

それはもしかしたら、こちらの歩み、わたし自身についてでも同じことが言えるのかもしれない───そんな事実から、目を背けたかった。

 

着替えるからちょっと待ってなさい。

流石にこの格好のままじゃ、おいそれと出歩く訳にも行かないからね。

 

そのままの格好で出るのか、と聞いてくる六連に待ったを掛けて、わたしは着替えることにした。ふらつくほどに高い踵のピンヒールを脱ぎ、羽織るものも用意する。だって出られないもの、このままじゃ。

 

段々重ねに並べられた月見団子。そこに崩れはない。乱れてなんかいない。

このバランスを、均衡を、崩してはいけない。

 

ぐっとこちらに迫った、いっとういい姿で写真に撮られる様にを見栄え良く、よそ行きの姿をした月。

 

出掛ける準備をしている間、はいはいと六連がこちらを見ている。その表情は妙に柔らかく、月の光の中で妙にしなやかさが強まっている。

 

こちらを見つめる瞳。柔らかい視線にも光が灯り、宿っている。

 

地上に迫る月。甘く濃厚で見栄えが良く、おどけたような色合いで輝いている。

 

月の光は、皓々と照り続けている。




六連はあらゆる意味で形式にこだわりません。
別にこれは榮美里に関してだけではなく、部下や僚友、友人達に関しても同じです。
(ヒツキに関しては言わずもがな)
相手が楽しく・楽であり、支障ないと思えるならば、物事の形式は問題ではない。第三者からどれ程おかしな形に見えようが、ちぐはぐだろうが、共に居る事自体が大切なのです。
ただ一部の事柄に関しては『絶対に譲れぬ自分の希望』のようなものがあり、なるべくそうなって欲しいなあと働きかけはしますが。

ヒツキに任された用事が何だったのかはまた今度。
(機密情報じゃねえのという問いには話の都合&入手先・受け取り手が限られた物であり、加えて条件は本編で明示された情報だけではないので問題無いと作中人物達は判断した、とさせて頂きます)

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