新キャラ登場回です。
ギャル?で若干ガサツな『ニシカ』は肝が据わっているというか、かなり度胸のある子です。戦う時にこういう動じなさは大事ですし、それを訓練もせずに持ち合わせているのは『強者の証』とも言えるでしょう。
ちなみに六連が知らないだけでサビ猫のオスは居ります。
ただし三毛猫のオスと同じく生殖能力はありません。
(三毛のオスと同じく幸運を呼ぶとされて珍重されていた)
この話はしばらく続きます。
夏の日は長く、空からの光はちくちくする。
ちくりとした感覚。光はとても熱く、そして輝いて見えた。
───ああ、似ているな。
そんな昔を、ちょっとだけ思い出していた。
「っつーか、篝さんスゴいですね!」
そんな笑い声が事務所に響く。
きゃっきゃと響く音はご機嫌そのもの、事務所の空気を適度に震わせる。
適当に省略した話にそんな面白がる部分はあっただろうか、と思う俺に、娘はもっと話を聞かせてとねだって来た。
「だって滅多に聞ける話じゃないじゃん、だったらどんどん聞かなきゃ、だし?」
尚もそう笑うご機嫌な娘の眼は輝き、今自分は上機嫌でご満悦なのだと俺達に示していた。
『アオジャシン』の一件以降、あいつの姪は俺の事務所に訪れるようになった。
最初は『アオジャシン』についての話から始まった。俺が討った、あの娘の友達を装った個体に関しての話せる部分全てと、こちらが把握していない繋がりや未確認事件を見つけるための情報収集───生憎、これは他に繋がる何かを得られはしなかった───そして全てが明らかとなり、真実に直面している状況へのアフターケアと。
そこから何かと事務所の入口らへんに顔を見せる様になり、最初は無事でよかった、危ない繋がりには気を付けてなと戸口で言葉を一つ二つ交わす程度だったのだが、何時の間にか事務所に上がり茶を飲みながら、俺を含めた皆とちょっとした近況を話し合うまでになっていた。
今思い出してもはっきりしたきっかけは無かったのではと思う。いつのまにか、そうなっていた。
控えめという訳でもないが適度な落ち着きと年相応の愛らしい活気を以て、あいつの姪は相応に俺の事務所に馴染んでいった。俺の部下達ともよく話す。話題は大体学校の事やら友達の事やら。仲が良さそうでなによりだ。
───時折、食い入るような真剣な眼でこちらを見てくるのは困ったけれども。
俺と話している時も、向こうが他の奴と話している時もその逆の時も、そんな目線を感じた。
まあでも、これは問題無い。これは大体予想出来る。
問題なのは、ここからだ。
「友達がここを見学したいって言うんですけど」
そう相談された時には───いやもう既に決定事項として引っ張られてきたらしき時には、その娘は既に居た。
「ニシカちゃん、こういうお仕事に興味あるらしくて」
あいつの姪の隣でちーっすと明るく笑うその娘───『ニシカ』は、こうして俺達の前に姿を現した。
ニシカというのはなかなかエネルギッシュというか野性的な娘で、それは外見だけで無く、こちらの感じ取れる全てに表れていた。
「えー、あたしならそこでがーっとやっちゃうけどなあ」
俺たちの戦果の一部を聞き、そうけらけらと笑う顔に添えられる髪は金色。窓から射し込む日光と電灯からの光を受けて、軽やかに渦を巻く毛並みの中で、妙に勢いを持ち輝いている。
───人命やら色々な事に配慮すると、そんな手は使えないけどな。
そんな言葉は飲み込む。まあこういうのは、言ってもしょうがない話だ。
体力が有り余ってる感じねえ、何か特別な事でもやってんの?
早乙女の口から出たそんなやんわりとした質問には、運動部でーす、まんべんなく助っ人やってまーすと、これまた力の有り余った返事を打ち返してきた。
───あいつの姪とはタイプが違う。接点無さそうだけどな。
ふと疑問に思った。そもそもあの娘はこんな力の有り余った感じの相手と親しくしている印象がない。もっと落ち着きのある娘だ。「つながりなんてよその人から見たら分からないものなんですよ」と返されたら納得するしかないが、それでも何だかその疑問は、妙に頭に残った。
「ニシカちゃんは───ちょっとどういう友達か説明したらいいのか難しいですね」
あいつの姪は話し始めにそう語った。
「ほらニシカちゃん、色んな部活やらサークルに顔を出すのが好きな子みたいで。人の出入りが激しいところで動くのが当たり前だから、お互いどこの学校かとかあんまり気にしないらしいんですよ」
俺は目の前の娘の着ている制服を見つめた。あっちのはかなり気崩しているが、なるほど確かに色こそ似ているけれども型は少し異なる。
「私も運動部の友達繋がりで仲良くなったんです。人懐っこい明るい子だからすぐに仲良くなりました」
ちょっと強引にひっぱられちゃって、と笑うあいつの姪は、それでも何だか楽しそうだった。
「それで色んな事を話すうちに、篝さんとみなさんの話になって」
明るく笑って見せるその顔が一瞬、笑顔がしぼんだ様に見えたのは気のせいだろうか。
話したくないなら無理に話さなくていい、無理に『命を助けられたんだから』とまるでいい事にでも遭ったかの様に言って回らなくてもいいんだ───勿論、俺達の前だろうと。
───そんな文言を口にしようとした、その時だった。
「ニシカちゃんが私の話に食い付いてきたんです」
どうやらずっと前から、こうやって戦う人達が居るのを知っていたみたいなんですよ───
「ほら、私達が『こういう世界』があるって分かるようになったのってまだまだ最近の話じゃないですか。専門家の人達はずっと頑張ってらしたんでしょうけれども、多くの人は知らなかった」
「でも、ニシカちゃんは違った。そんな人らがこんな近くに居るなんて、ぜひ会いたいって、身を乗り出して来たんです」
昔に何かあったのかとか詳しい話は聞けませんでした。もしかしたら、前に危ない目に遭ったのを助けてもらったのかもしれません。
───私と、同じように。
娘がこちらを見やる。その眼差しは重く、真剣だ。俺達事務所の奴らと出会った時のやり取りを、出会ったきっかけ、知らない内に危険に巻き込まれ命永らえた、その時の自分自身を思い出しているのかもしれない。
だからこうして連れてきたのか、という問いは、その顔の前ではどうしても吐き出す事が出来なかった。
あいつの姪を伴わず、ニシカは次第に一人でもやって来るようになった。
やっぱいいっすねえそういうの、と俺の部下達に笑いかけ腰かけているそこは俺の机だ。
机に尻を置くな、と払いのける素振りをすると、はーいと笑いながら立ち上げる。今の今まで上に置いていた手提げ鞄も一緒だ。まったく、座るなよこんな所に。
学校指定らしき手提げ鞄。そこにぶら下がったキーホルダーやぬいぐるみがちゃらちゃらと揺れた。
似たようなキーホルダーやぬいぐるみが多い。茶色い猫だ。三毛猫、いや、『錆猫』という奴かもしれない。黒や茶色が混ざった毛色の奴を再現した、凝った品だ。
「なんかのブランドとかキャラクターなのかな?オレ、そういうの詳しくないから分からないけど」
たくさん付けてるねえ、好きなの?と聞くメノウにニシカはいいでしょこれ、と満面の笑みを浮かべて見せた。
「いいでしょこれ、『ケンヤ』」
ケニヤ?などととぼけた問い返しをするメノウに、ちがーう、ケ・ン・ヤ!と復唱しながらニシカは再度けらけらとした笑い声を上げる。
ずっとハマっててーと笑いながら、ニシカはキーホルダーがぶら下がって重そうな鞄からハンカチを取り出し、メノウの目の前に掲げて見せた。
「ちょっとブサイクなんだけど、そこがまたウケるし意外に可愛いっていうかぁ」
掲げられたハンカチ。その右下の隅には茶色い猫の刺繍が施されていた。ぬいぐるみやらプラスチック板のキーホルダーと同じく毛並みや毛色までしっかり縫い取られていて、なかなか凝っている。
「ね?可愛いでしょ?」
───おいあんまり変な絡み方をするなよと、ニシカが居なくなった後、メノウにそう伝えた。
それに対してメノウはというと、これだけ絡めましたよ!と全く反省する様子は無い。
それどころか、こんな事を聞けました!重要情報です!!と言わんばかりの顔をしている。
───何故そんな得意げな顔なんだ。
そう口に出しそうになって止めた。いや、今はいい。
事を成してご満悦なのはいいけれど気を付けてくれよ、と言う俺に、はい!申し訳ありません!と背筋を伸ばしたしゃっきりとした返事が響く。
まったく、とお小言を続ける中で、俺はぼんやりと『ケンヤ』の顔を思い出していた。
ぬいぐるみもキーホルダーも、果てはハンカチ上の小さな刺繍まで、あの錆猫達の顔は整った表情をしていた物は何一つ無かったように思う。
伸びをしたポーズがメインで顔が溶けてしまった様になっている物、顔がしょぼついて訳が分からなくなってしまっている物、そんな例外もあるにはあったが、殆どの顔が猛獣の様な威嚇の表情を取っていた。
金色と土色の中間の様な色合いの眼は大きく見開かれ。丸く見開いても尚こちらを鋭く射貫いている。
眼に負けじと開かれた口に立ち並ぶのは鋭い牙。目の前に居るであろう誰かの肉を抉ろうと鋭利な形を取る。
そんな風に大きく開かれた口元は黒っぽい茶毛が目立ち。まるで「もう既に大勢喰らってきましたよ」とこびり付いた血か何かで主張している様だった。
如何にも獰猛な、獣の面構え。
───不細工な面してやがる。
思い出した姿に、苦い言葉が浮かぶ。
舌打ちの音は口の内側と、心の中で響かせるだけに留めておいた。
「アレー?今日人少なくないですかー?」
そして今日もまた、ニシカはやって来る。
大切な用があってな、大勢がそっちに出払ってるんだよと返すと、篝さんとヒツキさんはいいんですか、それとも後で行くとかー?などとこちらをつついてきた。大切な用とやらには行かず『留守番』をしているのに帯刀やらしている俺を妙に思ったのだろう。視線がそちらに向かっている。
いつもこんなもんだ、俺達みたいな仕事だと何時『そういう事態』になってもおかしくないからな、『常在戦場』って奴だと答えると、ニシカはほへーっと感心したような声を上げた。
これは決して大袈裟に言ってるのではない。時々によって装備の差異はあれど、俺は何時でも動ける様にしている。事務所内だろうが、何処だろうが。
すごいもんですねえ、とニシカは部屋の中をうろうろと歩き回る。ベッチャベッチャと妙な響きの足音をしているのは、この寒いのにビーサン───ビーチサンダルを履いているからだ。流石に寒いだろう、と聞いても、この方が歩きやすいもーんと、平気な顔をしている。
「ねえ、きみは───きみはずいぶんここを気に入ったみたいだね」
足音騒がしいニシカの後ろ姿にカズトが声を掛ける。
ぴたりと、歩き回る足音が止まる。
「……だってあたし、強い人好きだもーん」
なあんだそんなことかと、ニシカは続けてこう言った。
「ここの人らは、よく分からないモノの相手してるんでしょ?頭は使うだろうし、もちろん身体も使う。怖い思いもする」
「そうやって色々頑張りながら一生懸命に動くのは、『強い人』」
───そういう人らが居るのはここだけじゃないんでしょ?でも、あたしはここに来たの。
あたしが見つけたのは、ここなの。
「一日一日一生懸命頑張って強くなってくとか、なんかいいじゃん、そういうのって」
そう言ってばちりと大袈裟なウインクをキメた後、ニシカは、もちろん、あたしは最強なんだけどさー、などとけらけら笑った。明るい色の髪を通して反射した午後の太陽光が、その虹彩に宿る。
金色の光。その輝きが、俺の眼に刺さった。
大丈夫かい、とのカズトの声。今の今までニシカの動向を見つめていた筈のカズトの目線は、今や完全に俺の方を向いていた。気遣わしげな声と、覗き込む視線。
どうやら俺は表情に何か出してしまう程の反応を、してしまっていたらしい。
ああ大丈夫だ、何でもないと返した。
尚も笑い声響く事務所の中。
いちいち大袈裟な反応をしてしまうのが、酷く煩わしいと、そう感じた。
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