※この作品はR-18です。

プレイアデスの瞳   作:甕下 星辰

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※別サイト(pixiv・ミッドナイトノベルズ)にも同作品を投稿しております。

前回の続きです。
ひょっとしたら見つけたかもしれない、あえかな糸口。


屠龍の技研ぎ上げ、金鱗を刮ぐ③

襲撃時以外でのニシカの動向は、杳として知れないままだった。

 

俺や事務所の連中をからかっていた時もそうだが、奴は痕跡を残さずふいと隠れてしまうのが得意らしい。それは、人ならざるものの間でも同じ様で。あいつが好んで足を踏み入れそうな荒くれた場にいる連中に聞いても、潜伏先どころか襲撃抜きで現れた、話した、見かけたといった些細な情報すら掴めなかった。

 

何も掴めちゃいない。けれども、ここで足踏みしている訳にはいかなかった。

 

分かる範疇から洗い直そう。襲撃時の様子から何か分かるかもしれない。

 

───『生存者』から話を聞くのは、正直かなり気が進まなかった。

 

先に言った通り、『生存者』は奴に散々に嬲られている。傷が癒えず長く証言の時間が取れない者、心的な要因により未だ錯乱する者、そもそも話が出来る容体でない者も居る。もとより手掛かりだと判ずる物があるならばとっくに話している筈であり、新たな情報が得られる可能性は低い。

 

しかしそれでも、やるしかなかった。

 

時間を掛けてゆっくりと、慎重に探った。

心身に負荷を掛けさせぬ様に気を配った地道な調査だった。当てや確証が有る訳でもない、実入りなど無いかもしれない、その繰り返し。

そんな中、少し毛色の違う証言を得られた。

 

それは、俺達と同じ民間の機関の奴からだった。

別件で討伐に向かっていたそいつと同僚は討伐対象らの遺骸と、そいつらを屠ったニシカを発見した。追加された『美味そうな武芸者』をニシカが見逃す筈も無く交戦となり、成す術も無く返り討ちに。先の討伐対象らと同じく、打ち倒された連中の遺骸は喰われ、そしてもっと美味い物を寄こせとの『催促』の為に一人だけ息の根を止められず打ち捨てられた───ここまでが俺達の知る情報だった。

 

ここからは、少しだけ回復したそいつからの言である。

 

ニシカと対峙した同僚達は奇襲でも受けたかの様に翻弄され、倒されていった。

そんな中、ある男が日本刀でニシカに斬り付けた。

しかしそれも、目に見えぬ装甲を剥がすには能わず。

斬り付いたが効果が無いと分かるや脇腹を突き、それも通らないと分かるや距離を置き、男は態勢を整えようとした。

 

そんな動きを、ニシカが見逃す筈は無かった。

 

距離を置こうとしたその身体は、容易に引き止められ、地に倒れ伏した。

さして力を込めた様にすら見えない動作は、しかしながら、有無を言わさぬ圧倒的な力で満ち溢れていた。そんな有り余る力を込めた状態でニシカは男の手から日本刀を奪い取り、背後に回りながら全身を締め付けた。

 

ニシカは笑顔だったという。思わぬ手応えでも感じたのだろう、ご機嫌だった。

手に持つ日本刀は刃毀れし、その刀身はまるで鋸刃の如く不揃いに刻まれていた。

それをニシカは手から放り、クルクルと宙を回転するそれを見る事も無く、事も無げに掴んで見せた。

先の襲撃者を羽交い絞めにしたままで、である。

 

次に起こる惨劇を予想していながら、ニシカを攻撃し抜け出せる隙を作ってやろうなどとは誰も思わなかった。

隙を作れるであろう人材は、既にニシカに引き裂かれていた。

 

ニシカは、楽し気に喉元に刃を押し付けてきた。先程『鋸刃の様』と形容した破損しギザついた刃を、それこそ鋸の様に押し引きし、ゆっくりと首筋を切り裂いていく。微かな抵抗など物ともせず、時間を掛け、実に洗練された動きで。

完全に為し終える前に、ニシカは鋸刃を深く男の首筋に捩じり込み、こう言った。

 

「飽きた」と。

 

目の前の惨劇。単位としたら数分、しかし硬直している本人らにしたらその数百倍の長さを感じたであろう時間。飽いたニシカは、今度は硬直が解け切らず動けない奴らで遊ぼうと動いた。何とか硬直を解き戦闘態勢に入り、しかりやはり成す術が有る訳でも無く───ここまでなら現場の詳細を除き、俺達の知っている情報と然程変わりはしない。

 

そいつは、続けてこう語った。

 

「何だか、動きが鈍っていたように思えたんですよ」

 

ほんの少しだけ、それでも自分達を殺すには十分すぎるぐらいだけど、あの目を見張る暇も無いぐらいに素早い動きが鈍く、もしかしたら追いつけるんじゃないかとすら思えた。もちろん事前に情報はもらっていたから、ただ遊んでいるだけの可能性も考えましたけど。それだけじゃないんじゃないでしょうか。

それに───

 

「突かれた腹を、少しだけ気にしているようにも見えました」

 

これもそう見えただけ、あの人の攻撃が少しでも通っていてほしいと思ったからかもしれませんがね、と言葉を締め括り、そいつは休みたいからと、俺を病室から出る様にと乞うた。

礼を言い外に出る。あんな状態にされたのを気の毒だと思う気持ちはあった。だがそれ以上に俺の頭の中は既に、とある疑問でいっぱいになっていた。

 

ニシカを、奴を鈍らせたのは、何だ。

 

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