※この作品はR-18です。

プレイアデスの瞳   作:甕下 星辰

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※別サイト(pixiv・ミッドナイトノベルズ)にも同作品を投稿しております。

前回の続きです。
六連視点・動向をどう掴んだんだ?という説明回です。
ここから『何をどう仕掛けたのか』を説明する六連視点の話が続きます。


屠龍の技研ぎ上げ、金鱗を刮ぐ⑧

───奇跡なんて、偶然なんて、そうそう起こらない。

 

そうそう起こらないんだ。的確な利を与えてくれる、都合のいい奇跡など。

しかしながら報われるのかも分からなかった取り組みも、長きに渡る労務も、全ては意味を成し、奴への道を繋げてくれた。

 

追い風が、俺達の背を押し始めた。

 

俺達にとって幸運な事に、ニシカは別に自分を知る者、相応に関わった者を全て潰して回っている訳ではなかった様だ。

奴と相応に利害が一致する者、『後世の為に姿や生態を文献に残しておこう』なんて高邁な意識なぞ持ち合わせぬ者、深く関わらない様にと意図して記憶にも書面にも残さぬ様に務めた者───少なくとも、その一部は奴の手から免れたらしい。

 

俺達がそれを知ったのは偶然だった。

 

ニシカの狼藉で色々やりたがる奴らの動きや席次は大きく変わった部分もある。しかしながら、それは元から暴れまわっている連中や水面下で動く者共を完全に抑制する方には動かず。俺達の忙しさは相変わらずで、奴らもまた同じくだった。

ニシカの事はひと先ず置いて普段の活動を続ける者、むしろ奴の生んだ混乱に乗じて新たな騒動を起こす者、そんなごたごたの中で馬脚を露してしまった奴。

 

俺達に『それ』を教えてくれたのは、一番最後の奴だ。

 

『いつも穏やかで話を聞いてくれるバーのマスター』。そんな印象を周囲に与えていたそいつは、実は人ならざるものの組織同士の中継ぎを行っていて。人を喰らったり無法の中で暴利を貪ったりの連中を店の地下に引き入れ商談をしていたそいつはしかし、ニシカからのごたごたが故に甘い汁だけ吸えばいいだけとはいかなくなったようだ。ニシカが蹴散らしたが故の勢力図の変更、そこからどうにかお互いに話を付けようと仲介業者へと殺到。怪しげな奴らの動きを不審に思った民間の調査専門の奴らが色々と洗って背後関係が判明。突入するが自分達だけでは戦力的に厳しいからと、この話が別業者───俺達の元にやって来る。民間の調査員連中と共に俺達がカチコミを掛け、そこで乱闘。捕縛より討伐が主目的となり───

 

───と、ここまでが経緯である。

 

とにかく、その場に居た殆どの連中と共に店主は床に伏した。

血に塗れ伏した店主の口からはもろもろと言葉が漏れていた。多くはこちらへの恨み言、自らの迂闊さを嘲笑う物で、何ら心に留める必要も無かったのだが───

 

そいつは、最期らへんにこう言い残した。

 

あの女、ニシカのせいで大変だ、と。

 

詳しく聞かせろとそいつの胸倉を掴み上げた。伏した上半身は持ち上がり、嘲笑し続ける顔が露わになった。

───『ニシカ』という名を、あの睥睨獣の呼称を、俺達は極力明言しない様にしていた。どんな些細でも情報が漏れてしまうと、奴の名を騙るものが出てくる。それを防ぎたかった。

明言せずとも個体としては何者かは分かるし、もし何処かで俺達に関係なく奴の名前が出てきたなら、それはそれで何かしらの厄介事の証拠となる。これは俺達───俺が情報を共有した組織の全ての総意でもあった。

 

その『何かしら』が今、目の前に居る。

 

嘲笑いながら店主は話し続けた。

それなりに長きを生きた事、色んな奴に深くは関わらないまでも付き合いがあった事、ニシカともごく稀に遭遇しながらも、それでも生かして帰して貰える程の付き合いではあった事、先日、ニシカがこの店に酒を呑みに来た事───

 

「サワリだけ遊んだけどまだまだヤりたい、少し休んで、そこから本気出すんだとよ」

 

ほら、あそこの山辺りだってさと、何処で一息付くと言っていたと問いたいこちらの言葉を先回りして、店主は言葉を続けた。

 

血と共に吐き出される言葉が、その場に散る。

 

───まあ、精々頑張ってくれよ。

 

一段と赤く吐き出されその場で散らされた、何処かで聞いたような台詞。

店主が床に沈む。叩き起こして再度話を聞こうとしても無駄なのは、一目で分かった。

 

───鵜呑みにするのは愚かであると、それは知っていた。

 

奴が仕掛けた何かしらの罠かもしれないし、そもそも本当に知り合いかも分からない。あいつではない本当の『知り合い』からの差し金、何かしらの企みかもしれぬ。

疑ってはいる。別口で捜査も続けるし、動くにしても何かあればすぐに方向を変える。

 

それでもそれは、その時点での唯一の手掛かりだった。

 

───繋がりなんて何処にでもあるんだから。だから、それらしい物を辿っていったらいつかは着くだろ?

 

あの時の、笑う声を思い出す。

 

確かにそれはそうだ。しかし、その繋がりは奴にのみ手繰れる物じゃない。俺達もまた、繋がりを元に奴を辿れる。糸口さえ見つけ、掴めたならば。

 

だから俺は、それを掴み手の中に置く事にした。

 

不確かな要素を多分に含んだ糸口はしかし、俺達を導いてくれた。

 

山に至るまでの防犯カメラ。

山の『近辺』ではない。全てのカメラにでもない。街から山までの道のりにて、何かしらの符丁の様に、ニシカは自身の姿を特定のカメラに残していた。

 

───別に見つかってもいいと思っているのだろう。

 

姿を隠すのも現わすのも趣味の範疇。仮に映像を手掛かりとして追っ手が来ても、迎え撃ち潰してしまえばいい。

楽しいが流石に飽きた、煩わしいと思うならば姿を消すなぞも容易だ。誰にも告げず───あんなわざとらしい『言付け』など残さず、ただ黙って何処かに潜るか紛れたらいい。

 

でも、あえてそれはしない。

 

その腹立たしい傲慢具合に、今回だけは感謝した。

 

───俺は、貴様を見つけたぞ。

 

だが、喜んでばかりはいられなかった。

 

山間部近辺の施設に置かれた防犯カメラ。軽トラックの後部座席に、ニシカは乗っていた。

運転席には中年の男───二、三日前から姿が見えず、捜索願を出されていた近隣住民だ。車両ナンバーも照合した。間違いない。

 

どうしてもっと早くに気付かなかったのかと悔やみながら、再度画像を確認する。

二人は施設にて飲食物を買った後、和やかに話しながら車に乗り込んだ。音声こそ聞こえないが粘度有る甘さや脅迫めいた辛味などは無く、『車に乗せてくれた親切な人間とついでに他愛ない話をしている』以上の何も無い様に思えた。飲食物にしても各々の弁当などで、財布や行動を共にしている様子も無い。

そんな見て取れる些細な事を全て確認し終えた後、車は発進した。何の躊躇いも無く、まっすぐ山中に向かっていった。

 

遅かった。

 

男が生きている可能性は低い。仮に未だ息があるにしても助けられる状態ではないだろう。

逃げられる、助けられる余地を設けてくれる程、奴は慈悲深くは無いし、愉しむ事に躊躇う性質でもない。

 

───そんな前提は、今からやる事への建前かもしれない。

 

俺達は何の変更も加えず、作戦を続行する事にした。

 

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