※この作品はR-18です。

プレイアデスの瞳   作:甕下 星辰

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※別サイト(pixiv・ミッドナイトノベルズ)にも同作品を投稿しております。

六連視点の話です。
どんな物品を用意して、どんな思惑で挑むのか。


屠龍の技研ぎ上げ、金鱗を刮ぐ⑬

───奴の笑いは迫と来て、大きな波動となりこちらに伝わった。

 

迫る笑いは初動を過ぎてもなお力強く、細かい衝撃波となってビリビリと響く。

弓を持つ手も、奴の方に向けた顔からも痺れが取れない。ひとつところに縛り付け、丘一つ挟んでいるというのに、なんて威力だ。

六連さん、篝先輩、と俺を心配する二人の声に気付く。二人の方に振り向くとする動作に合わせ、はらりと、髪が揺れて下りる。

その時になって俺はようやく、髪を結っていた水引が千切れていた事に気付いた。昔の弓の名手に倣って、また験を担ぐ意味合いも込めて、子供時代の様にみずらを結っていたのだ。

顔に手をやる。やはり、前と同じく擦り傷を負っていた。拭った手の平に薄っすら血が滲む。

十分に距離はあり、前とは違い窓ガラスの破片も何も飛び交ってはいないのに、である。

 

黒革の手袋の上にこうもしっかり付くとは、それなりに深いな、これは。

 

大丈夫ですか。あいつ、しこたま撃ち込んでやったのに。弾だって特別製だぞ、それでも削られてないなんて───そんな声達を制して、俺は再度双眼鏡を覗いた。

 

───効いている。

 

表情そのものはここからでは明確には分からない。けれども動くスピードが格段に落ちている。

元から攪乱されてはいて動きの精度も速度も落ちてはいたが、それでも、俺達にとってはまだまだ強すぎた。そこから更に力をこそげ落とさないと、話にならない。

それが、今ようやく、話が俎上に載ってくれた。

動きの鈍り具合も、首筋への意識の向き方も演技とは思えない。ようやく見えた勝ち筋、そこに賭けたかった。

 

───ここまでしてやった感があったというものだ。

 

まさか、ここまで上手くいくなんて、なんて呟きは内に飲み込み、前に進む事だけを考えた。

ここまで順調に来ているのに、今更弱気になってどうする。

 

黒い銃身は───今しがたひと働きしてくれた機銃は相変わらず、昼下がりの陽光の下で鈍く輝いている。

俺達の心情などどうでもいいといった具合に、そこに在る。

 

今しがた雨霰と撃ち込んでやったのは、特殊な弾丸だ。

特殊な結晶を軸に精製した弾丸に、儀式によって『祝福』を付与した代物。手間がかかるし手続きもややこしい。その分威力はお墨付き。通常ならば、拳銃で撃ちこんでやるだけで大抵の奴は大きなダメージを受ける。入手さえ容易ならば、常に俺達の手元に置いておきたいぐらいだ。

 

それをガトリングガンで連射し、浴びせてやった。

 

弾を特殊な形状にするのは今回が初めてだったらしく、結構色々面倒だった。メノウ達もそれを知っているからこそ、わやわやと色々言ってくるのだ。

 

───あれほどの手間を掛けて手に入れた貴重な弾丸が、ニシカの元では何の脅威にも成り得ず、消費されただけだったのだから。

 

しかしこれも想定内だ。

 

奴の魔除けや守りの類を毀損させる力については、とっくに承知の上だ。

少しでも効いてくれたら、削れてくれたらいい、御の字だ。そう思って撃たせたし、勿論これはメノウも犬養も知っている話だ。

 

何故なら本命の第一撃までの時間稼ぎと攪乱、それが主な目的だったのだから。

 

俺が撃ち込んだ矢は───ここまでやって来てくれたあの矢は、曰く付きの代物だ。

曰くなんて物はこんな仕事をしてたら嫌というほど見ているが、それでもあれは、ちょっと毛色が違った。

 

この矢の原料は、とある山の鉱脈から採れた鉄だ。

 

この鉱脈は曲者で、山を管理する鍛冶の家系以外の人間は勿論、神や妖怪など人ならざるものは───いや、人ならざるもの『なればこそ』、絶対に入ってはいけない。

入ったら二度と出られない事が多いからだ。仮に出てこられても、消耗激しく消えゆく寸前といった感じになり、二度と元には戻らない。

 

───この鉄は『神打ちの鉄』、もしくは『神殺しの鉄』と呼ばれている。

 

この何百年もの間、この鉱脈を潰そうと色んな奴らが動いてきた。しかしどれもうまくいかなかった。

下手に動き、鉱脈の瘴気に当てられ、消えていった。

 

人間でも入るのを薦められないのも同じくだ。存在を消されはしないが、体調が著しく崩れて、酷い時には寝付いてしまう事もある。

どんな人間でも微弱ながら神との縁がある。健康の神、日々の安全の神、食物の神。姿は見えなくとも、皆、こういった存在に支えられている。細いが確かな絆がある。それを一時的にでも消されてしまうから体調が崩れるんだ。

そしてそれは鍛冶屋の家も変わらない。だから、その家系の人間でも鉱山には足を踏み入れたがらない。

 

鍛冶の家系の人間が鉱山に入らざるを得なくなるのは『必要』に迫られた時だけだ。

 

『必要』に駆られて───正確には、必要になるだろうという強い予感に導かれ、鍛冶屋の家系の連中は鉱山に入り、鉄を掘り起こす。それに加工出来るぐらいに手を付け、作業が終わった辺りで武器を作ってくれと連絡が入る。その時手元にあるのは丁度、必要な分だけ。事前に連絡でも入っていたのかとでも思える程に、入り用な分と加工済の原料量が一致しているのだ。

きっと急いてくる『必要』が教えてくれているのだろう。

それは、ずっとそうだった。

 

───あの一件以外は。

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