六連の仲間達の一部紹介(+α)です。
人ならざるものは思考やら感性・相性やらが(人間目線では)独特なんじゃないかな、と書かせて頂いた次第です。
カチャカチャ、チャカチャカ、カチャン。陶器の交わる音。
そこから更に加わって、ワンワン、くんくんとうるさいのが増す。
なあ、お前達。いい加減にしないか。
「だから、あなたの取る進路じゃ遠回りになるじゃないの。それじゃ遅いわ」
「だからよお、お前の道だと色々突っ切ることになるじゃねえか。色んなもんの境とか無視かよ」
───こいつらは、いつもこんな感じだ。
そしてその横でけんかしないでーとあわあわしているこいつも、いつもの通りだ。
まったく、いい加減覚えねえか。
そんな風だからいつまで経っても目の離せない、『新人』やら『後輩』やらと俺が思ってしまうんだぞ。
「はいはい、俺が来ましたよ」
奴らの間に割り込む。全員がこちらを見る。正確には新人がこちらに首を向け、あとのふたりは部位を傾け、視線を向ける。
六連さぁん、やっと来てくれましたねえ、という情けない声に混じって、むつら、六連さんと小さな小さな声がふたつする。
俺はその主達を拾い上げて───でかい奴は除いて───両の肩に乗せる。
そして、こう言った。
「ちゃんと両方の話を聞いていい案を作っているんだ、だから、少し静かにしていてくれよ」
瀬戸大将とティーセットの付喪神───両方とも名の様な物は持たず、問われると種族名やらを答えるので、便宜上こうする───は、いつもこんな感じだ。両名とも同じ所有者の元に属し、そこから俺達に協力を申し出、うちの正式な一員ではないものの『協力者』となっている。今回は『神器』と名される骨董品が紛失し、それに人ならざるものが関わっているとの事で巧妙に隠された痕跡を辿って貰う為に呼んだのだ。
このふたりは同じ所有者の元、つまり同じ家の中に在る。だから俺達よりもお互いに接している時間は長い筈なのだ。
しかし、少なくともやり取りを聞く限りでは、このふたりは『仲が良い』とは言えない。
「いくら殿方は粗野ぐらいが丁度いいといいましても、あの方のは度が過ぎてるのよ。顔だけの話じゃなくて、全てが雑なの」
そう付喪神の方が手描きで簡素な瀬戸大将の顔に始まり容姿、そこから言動などの全てを貶し始めたかと思うと、
「目も口も溶けたみたいで分からんのはまだいいよ。顔かたちにケチを付けるなんて事はしねえ。けどあの女、全部がそんな感じでぐちゃぐちゃして分かんねえじゃねえか」
「おりゃいやだね、そんな奴」
瀬戸大将の方も同じく相手を否定するといった具合になり、そこからは泥仕合が始まる。
この泥仕合に先程の新人が加わると、もっと泥だらけのえらい事になる。何しろあいつは慣れていない。このふたりへの取りなし方が分からずそのままにしてしまい、結果長引かせてしまうのだ。
新人、後輩と俺が呼ぶあいつは───ここにカズトが入ると『犬の子』と更に新たな呼び方が加わる───『
外見こそいかにも『新人』といった感じのこのメノウも人ではない。化犬だ。
犬だった時分に飼い主と散歩している途中に人ならざるものに襲撃され、そこに俺が駆け付け討伐した。当時は老犬だったメノウは俺の姿を見て「自分では母親を救えなかったけれども、この人は助けてくれた」とえらく感謝したらしい。そして人の形を成した後、前述の母親───飼い主のおばちゃんの事だ───と共に来て、感謝の気持ちと「ここの一員となりたい」との意思を申し出、色々あって今こうして共に居るという訳だ。
メノウも機微に疎い訳では無い。けれども、チャカチャカと陶器部分を鳴らしながら揉めるものという、今まで身近ではなかった存在の心理が今ひとつ掴めないのはしょうがない部分もある。
いや、ひょっとしたら、チャカチャカとした音そのものがこちらが思う以上に煩わしいとか、そのせいもあるのかな。
こちらが一見ではそうは思わぬもの、説明されても何でそんなのが、と思うものが苦手というのは、人ならざるものの間ではよくある話だ。
ここに居る瀬戸大将とティーセットの付喪神の場合は『硬いもの』だ。
ハンマーやら粉砕機やらを避けるのは分かるけれども、カズトを避ける理由がよく分からず聞くと、『石仏の気を持つ存在は石と同等なのだ』とふたりして返して来た。カズトは堅そうな外見でもないし、表面の柔らかさは人の肌と同じだろうと言っても『石の気は、属するところというものはそう簡単に変わらないし、拭えもしない』と返って来た。
これに関してはふたりとも申し訳なさそうにしていたし(カズトの人となりを嫌っているのではないのだ)、俺としても怖いものを好きになれというような真似をして悪かったと詫びて終わった。当のカズトも「属するものは簡単に変わらないからね」と、さして気にもしていない様子だったので、こちらに関しても安心した。
話は戻るが、このふたり組は決して扱いにくい方ではない。
誰かに対し申し訳ないと思える気持ちもあるし、お互いの意見が対立するなら、誰かが「お前達ふたりの気持ちは汲み取って折衷する」、「ちゃんと考えているから騒がないでくれ」と言い聞かせると静かになってくれる。俺の肩の上に乗せるのには「少なくともあなた、お前よりも子供じゃないよ」とは言われるが、嫌いではないらしいのでそうしている。どんなに大きくなっても、俺の膝よりも下ぐらいの大きさにしかならないだもの。さして苦にもならないしそれで喜んでもくれるんだから、やっぱり楽な話だ。
とにかくそんな感じで俺が宥め、瀬戸大将とティーセットの付喪神は真面目に捜査する姿勢に入ってくれた。
メノウにもあのふたりの陶器の音について聞いてみたところ、「今まであまり聞かない音だったので上手く説明出来なかったけれども、苦手かと聞かれたらそうかもしれません」と、曖昧な部分もありながらも苦手だとは分かったので、あのふたりが揉め出した時は無理に介入しなくていい、音を聞き過ぎて訳が分からなくなりそうなら誰か呼べ、と伝えた。
この後あのふたりは見事に『神器』の痕跡を辿り、それどころか何処に隠してあるかも見事に突き止めてくれた。
こうなれば後は楽だ。後は俺達の方で話を進め、窃盗に加わった奴らを討ちもしくは捕らえ、事件は解決となった。
いつも揉めている印象しかないけれども、協力すると凄いのだ、このふたりは。
いつにない大活躍だった為に、このふたりへの賞与の話が出たり、ふたりとその所有者の間で若干意見が分かれたりと、まあ忙しくはあったが、全ては平和的に解決した。
ここからは、その平和な話の続きだ。
先日、俺の事務所にふたりの所有者がやって来た。小さなトランク二つ───組み上がる前のふたりを連れて。
重要な話では無いのですよ、との前置きを聞いて、俺はそれでも三人を中へと通した。
「実は、このふたりから篝さんにお願いがあるらしくて」
私にはよく分からないし、このふたりの声は電話には通らんでしょう、だからご迷惑を承知で連れてきました、と所有者の老人はトランクを開ける。
「ねえ、おねがいだよ」
「あの子が好きなの」
───開かれたトランクから組み上がり、立ち上がったと同時に、ふたりはそんな事を言ってきた。
要領を得ない話を俺の方で組み立てるとこうだった。
ふたりは、俺の事務所にあった───いや、俺のデスクにあった『なにか』に心惹かれた。
想いを成就させる気も日が経っているからまた会えるとも思ってはいないが、せめて持ち主である俺に「大切に扱って欲しい」と伝えたいと、その為にここまで来たのだという。
「あんな幼い子に惹かれるなんて、と戸惑いもしたの。でも、この気持ちは変えられなかった。口も聞いた事が無いのに、不思議よね」
付喪神がなよなよと体をよじる。
よくまあ顔も無いのにそんな表情豊かに、と思わせる程、大袈裟な素振りだった。
「年端もいかぬ奴、何の変哲もない白磁なんてよくあるのに、見ていると胸が高鳴るんだ。ああ、これが『恋』ってやつかねえと、気付いたんだよ」
瀬戸大将の方も筆で書き付けられた簡素な顔を真剣に引き締め、負けじと主張する。
───また会わせてとは言わない。あの子はあなたの元に在る。どれだけ生きるかは分からないけれども、これからをあなたの元で生きる子だから。
───でも、こうして生きてる瀬戸物であるおれ達はあんたに「大切に扱ってくれ」としか言ってやれないんだ。せめてもの気持ちというのをどうすればいいか分からない。
おねがいだよ、というふたりの言葉を聞きながら老人は彼らを宥めつつトランクに戻らせ、頭を下げた。
見送る時に俺は若干頭を抱える様な気持ちになった。
いや、その前からそうだったけれども、やっぱりよく分からない。
家に帰っても尚、分からんなあという気持ちのままだった。
あのふたりが熱を上げ、わざわざ幸せになってと俺の事務所まで伝えに来た、その相手とは。
───マグカップである。
何の変哲も無い白い陶器のマグカップ。自宅用にと買った物を事務所にしばらく置いていた、それだけの代物だ。別に作られて長い年月が経っている訳でも無い。精々作られてから一年といった所か。時を経ていなくても見ただけで「これは違う」、「関わってはいけない」と思わせてくる、生まれながらのいわくを持つ呪具の様な、言うなれば『魔器』なる物もあるにはあるが、これはそんな物では無い。
なあ、何でお前そこまで好かれているんだ、なんて口にしても返事をくれるでもない。何の命も宿っていない、只の陶器だ。
何でこんな物に熱を、と思いながら俺は、こちらに愛を語る付喪神の姿を思い出していた。
あの時のあいつは、姿形も相俟ってまるで『ティーセットの女王』の様だったじゃないか。
協力者であるティーセットの付喪神は何だかよく分からない姿をしている。
辛うじて人型の様な姿を取ってはいるが眼鼻口は無く、身体の部位も流動的な形で繋がりその形状を保っている。前に行った『南欧展』の彫刻コーナーの展示物にこっそり紛れていても誰も気が付かないだろう、そんな独特な形をしている。そういや似たような形の展示物もあそこにあった様な気がするな。
以前に戦った瀬戸大将の亜種───『ティーセットの女王』と俺がよぶあいつも、同じような形をしていた。
同じようなものから生まれた同士で何か流行りでもあるのか、それとも好きな作家でも居てふたりともその作品を真似ているのか、それとも「これが良い」と思う原風景やら心象世界が同じ物なのか───もしかしたらあの『南欧展』で展示されていた作品の作家も───それは分からんが、とにかく形は元から似ていると思っていた。
この『ティーセットの女王』は、とある古い屋敷を侵食していた。噂を介して人を呼び、入ってくるものを取り込む。『庇護欲の様な何か』の赴くままに、人の肉を、鼓動の動く様を見て、愛おしく感じる。とはいっても人の身体から出した部位が長く温度や生きている様を保つ訳も無く、また『人恋しくなって』人を呼び込み自らに組み込む───そんな事を繰り返していた。
───あなたの心臓の鼓動も、拍動する筋の動きも可愛らしいわねえ。
俺を陶器で固め拘束しながら、そう、奴は笑った。煽りでは無く、本気で俺の鼓動と心筋を『可愛らしい』と思っていたのだ。
拘束中に奴は語った。何故自分が人の鼓動を、体温を愛するようになったのかを。
ティーセットである自分を扱う人間の手先に、自らの取っ手に触れる感覚と体温に、奴は惚れ込んだ───だから時を経て力を付けた際に人を捕らえ、血肉と心筋を愛でる事にした。
俺が奴に勝てたのは、俺の手の辺りの拘束が比較的甘かった事、奴の溶けた様な身体に溶けたなりに分かりやすく『取っ手』の部位が見て取れ、近くに在った事からだろう。
何とか片手の拘束を脱した俺は、奴の『取っ手』に触れた。奴の表情は分かり辛かった───けれども、「ああ、なつかしい」と漏れる言葉は陶酔が含まれている様に思えた。
それが当たっていたかは定かでは無いが、全体の拘束が緩み、ほんの少しの間、奴は何も見えていないかの様に振舞った。
そしてそれが、奴の最期だった。
俺は完全に拘束を抜け、奴の周辺を刀で斬り付け、銃弾を撃ち込んだ。昔の夢より目を覚ました奴は対応しようと動いたが最早遅く、俺の銃弾と刃は、奴の全てをこそげ落としていた。
───ねえ、篝さん。わたし、あなたに会えてよかったわ。
───だってあんなにあったかいんだもの。
───なつかしいわあ、うれしいわあ、わたし。
完全に崩れ落ち、存在が消える前に奴は笑った。
そうか、それはよかったな、との俺の返事に何を思ったのか。奴は静かに笑い、そして完全に消滅した。
奴の好みは何か寂しいから生まれたとか、自分を哀れんだから生まれた訳じゃない。奴は自分の『好き』を生きる中で研磨し『美しく飾り立て』、そして死んだ。
だからもし、『何故そんな愛で方をするの』と尋ねられても、奴自身にも分からなかっただろう。
───人が好きなのでしょう。何か嫌な目に遭って恨んでいるとかでも無いのでしょう。
───だったら、どうしてそんな事をするんだ。
───『愛し方』なんて、好きなものの役に立つ方面で沢山あるのに。
そんな事は当事者にだって分からない。
何故そんな方向に心が行くのか、何故そんな相手に心を向けるのかなんて、尋ねられても答えようがないのだ。
「あのふたり、ずっとあのままなんでしょうかね。一緒に居るのに怒鳴り合うだけって何かもったいないと思うんですよ」
「だって、あんなに気が合ってるのに」
あのふたりの所有者の帰り際、少しだけこちらに顔を覗かせたメノウがそう呟いた。
俺もそう思うんだがなあ、と返す。やはりこいつは鈍くはない。
反目し合っているようでいても、あいつらは根本では似ているし気が合っている。そしてそれをお互いも何となく分かっている───そう、俺達は受け取っている。
だが、あいつらふたりの間ではまた違う法則があるのではないか。
当人同士にだけ通用する法則は、当人同士にだけ見える真実には他者は介入出来ない。
何がどう流れ着き、どんな決着を迎えるにしても、全ては二人の間で進めるしかないのだ。
「篝ちゃん、厄介そうな女に手を出したわねえ。俺が言うのもなんだけどさ、ああいうタイプは色々難しいんじゃないの?」
職場で得意の女言葉を使い、俺をからかうあいつの言葉を思い出す。
───うるさい、わかってる。
「よそにもたくさん適した相手は居るでしょうに。人もそうでないものも、世の中にはたくさん居るのよ」
「お互いに別を探せば、わたしは楽しく裸で絡み合う相手が見つかるし、あなたは楽しく語り合ったり一緒に『将来』を歩む相手が見つけられる、それでいいじゃない」
情事の後、空のカップを持ち、宥める様な、気の毒な誰かを慰める様な眼をして、言われた言葉を思い出す。
───俺にだって分かるかよ。何でお前だったのか、だなんて。
何で好きになったのか、どうしてそいつじゃなきゃいけないのかなんて、誰にも分からない。
それでも気持ちはその方向に定まって。今まで生きた上で研磨してきた『好き』を、言葉や態度を添えずにはいられなくなるんだ。
どうにも治まらない気持ちを抑える為に、コーヒーを沸かした。
俺のよく分からぬ形で愛を注がれた白磁と、その色と対比する、黒色の液体。それを一気に飲み下す。
熱され注がれた『愛』が身体の中に浸透してゆく。
───それは、脳まで焦がす迄に苦い味がした。
六連は好意を寄せてきた・感性や突き進む姿勢自体は純粋だけれども、それが結構な害を成す相手を討った時は心に留めております。討った&独特な感性で受け入れられないもの(好意含む)を持ってきた存在であろうとも、覚えている、というよりも心から離れない。
『ティーセットの女王』に関しても『純粋に「人が自分を使う時に触れてくれる時に伝わる体温が好き」から独特過ぎる方向に突っ走った』&『討たれた後に自分に「会えてよかった」とすら言って来た』ので心に残りまくりです。
ちなみに『ティーセットの女王』もティーセットの付喪神も人型ではありません。イブ・タンギーの絵画みたいな造形の不定形な存在です。
瀬戸大将が申した「目も口も溶けたみたいで分からん」というのは悪口という訳ではないのです。(本当によく分からない造形をしている)
傍目には仲が良いし感性も似ているけれども、お互いにはそうではないと思っている。
傍目に見える真実と当人同士に見える真実は異なるかもしれません。
ただ何にしても物事は動いているし、それ故の結末というものが出てくるかもしれない。(当人達には自覚ありませんが)
今回登場した六連の後輩、『九十九 メノウ』(実年齢・外見年齢共に19歳)はメインにはなる予定こそ無いものの、この後もちょくちょく出そうと思います。
この小説にどのような描写を求めていますか。
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R18G描写(グロテスクな描写)