※この作品はR-18です。

プレイアデスの瞳   作:甕下 星辰

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※別サイト(pixiv・ミッドナイトノベルズ)にも同作品を投稿しております。

六連視点の話です。
矢=『神打ちの鉄』に関する過去と、それに対しての六連の見解と何故これを使おうと思ったのかの心理と。


屠龍の技研ぎ上げ、金鱗を刮ぐ⑮

この矢の、『神打ちの鉄』の原点は───厳密には、鉄の採れる鉱脈のある山の話は、この様に伝えられている。

昔、旅の男が居た。その男は神を殺す武器を求め、各地を旅していた。

しかし長年の旅の中でも欲する物はおろか、有力な情報すら得る事は出来ず、困憊極めた男はやがて、とある山の中で力尽きてしまった。

男の死後まもなく、その山から───一説によると、男の遺骸の在った付近から鉄の鉱脈が見つかり、人びとは「あの男は尽力したにも関わらず、望み叶えるのは能わなかったのだ」「あと一歩だったのに、見えてはいなかった」「無念だったろう、皮肉だな」と口々に語り合った。

こう、伝えられている。

 

この話は、肝心な所が抜けている。

最初に聞いた時からずっと、俺にはそう思えてしょうがなかった。

 

───男はどうして、神を殺したかったのだろう。

 

親しい者や故郷を滅ぼされたのか。それとも誰かに頼まれたのか。

その気持ちが『神殺しの鉄』だなんて呪物を生む鉱脈まで足を進めさせたのか。

どんなに時間が掛かっても、当人が手に入れる事が出来なくとも、『奇跡』を成したのか。

 

いや、奇跡が起こるのにそんな高邁な理由は必要無い。もっと当人以外にはよく分からなくて馬鹿馬鹿しい理由かもしれない。

金や名声の為───いやそれでもまだ分かりやすい、いいや、もっともっと単純に───ただ単純に、男は『神殺し』という物を成し遂げたかったのかもしれない。

何を費やしてもいい。誰に知られなくてもいい。ただ、自分だけがこの大事を成したのだと、命を投げ打ってでも自己完結の満足感を得たかったのかもしれない。

 

その身勝手な執念が形を成し、害を成したのではないか。

 

男は『神打ちの鉄』の鉱脈を一歩及ばず探し当てられないまま、非業の死を遂げたのではなく、只の山を執念で取り巻き、霊験ある鉱脈を一から創り出すという大事を成し遂げたんじゃないか。

 

そう思えて、しょうがない。

 

身勝手な思い込み。全てを投げ打っても構わないと思うが故に一直線で、ブレや動きの偏りすら生じさせない。

 

それはある意味で美しいのではないかと、そう思った。

 

『さるとらへび』の討伐の時、俺はあの場に居た。作戦の補助としてあの場に居て、事の顛末を見ていた。三頭目のごたごただけではなく、一頭目と二頭目が射抜かれる所も、全て。

 

武器として鋳造され超常の場に持ち出された後も、未練たらしく次の犠牲者を求めて彷徨ったりせずに、まっすぐ一直線に向かい目的を果たした後は即時に撤退する。

 

そのある種の潔さ、まっすぐに向かう様に目を惹かれたのだ。

 

あれは絶対に、いつか俺の役に立ってくれる。

 

そんな風に心奪われたままだったから、何かしらの絶対的な有効打になるだろうと思えてしかたない感情が、心の片隅にはいつもあった。具体的な『いつか』は分からない。冷静な眼で見たら、来て欲しい事態だとは思えない、そんな時であろう事だけは知っていた。

だから今回この大事に乗じて───来て欲しくない、絶対に潰さなくてはいけない機会が来てしまったから───余ってしまった三本目を使えないかと積極的に交渉した。成り立ちも間に合いもしないだろうと思われた申請はしかし、承認された。

 

まさか、間に合ってくれるとは。

 

目途が付いた時にはまさしく、運命を感じたものだ。

 

この山まで運んだ時に、ニシカに撃ち込む寸前にも、俺はずっと思い続けていた。

 

『神打ちの鉄』よ、お前は悪神により良く効き易いというじゃないか。

力を見せつけてくる広大な存在、全てを薙ぎ倒し血に飢えた事象なんて、討ちたくてたまらないだろうよ。

俺達が狙うこの獣は───龍神の血を引くこいつは分類こそ神獣だが、例えようも無い悪獣だ。

単純に人を屠り踏み躙り、血肉を擦り撒き散らすなんて下賤極まりない奴だが、力と血筋だけは超一級品だ。相手にとって不足は無いだろう。

いい話だとは思わないか?

 

よろこべ、お前をヒーローにしてやろう。

 

そう語り掛け続けていた。口説く様に、乗り気に、気持ちが一点を向く様に。

狙う物はただ一点だけだと、それを間違えさせない様に。

 

───カズトも、メノウも、他の奴らも関係ねえ。お前が行くのは奴の元だけだ。

 

気持ちを鼓舞し、前を向かせる。

 

再度メノウと犬養が俺の名を呼ぶ。それを制止し、再度指示を伝えた。

 

俺が帰ってこなかったら早乙女に指示を仰げ。提携した機関の連中と物品が来るのを待て、撤退と言われたら従え、境界の中に入るな、と。

 

早乙女はこことは別の地点で協力関係となった組織・機関の連中と連絡が取りやすい状態で居る。俺が潰れたら奴の出番だ。

『ウツツギ』の香の中では俺達が一番明瞭に動ける。それが潰れたら早乙女に頼れ。次点の作戦の起点を結べ。

下手に香に満ちた中に入ると、ニシカを討つどうこう以前に消耗する。そんな事になるな。

 

───決して俺の為に、命を捨ててくれるな。

 

そう最後に言い残し、俺は歩を進めた。

 

速度を上げながら足を進める中で、俺を慕う部下達の顔が頭に浮かぶ。

 

───そんな物を取り入れるなんて、大丈夫なのですか。

 

作戦立案の初期も初期のそんな声まで思い出された。

そんな声が出たのは当然だろう。だって普段の俺ならば絶対にしない、やるなと部下達にも再三言ってある事をやって見せているのだから。

 

超常の場に落ちている物なんて簡単に拾うべきではない。

意図して置かれた仕掛けにしても、『そうなってしまった』物にしても、下手に拾い上げると碌な事にはならない。戦場に有る物は何かしらの罠を疑って掛かった方が良い。

 

ましてや鹵獲し、安全性や効果の確実性など満足に測定出来ない物を戦略に組み込むなど。

 

『ウツツギ』を囲っていた香も、『神打ちの鉄』にしても、所在の怪しい代物だ。本来なら易々と使うべきではない。

それでも俺は、こいつらを拾った。拾い上げ、手中へと招き入れた。

 

───奴を、ニシカを、討ち滅ぼす為に。

 

生まれながらにあやふやで自分の形すらも知らぬ、他者の記憶に残らぬ者が長年抱いたであろう『自らを知って欲しい』という願望と。

途方もない衝動として心身を突き動かし、命尽きた後は霊験を為し、とうとう願いを叶えた『神殺し』の妄執と。

 

それを伴い、進もうか。

 

執心共を引き連れて、俺は貴様の元へと向かう。

 

素材からして一級品、重く熟成された特別製だ。

───だから負ける気は、全くしない。

 

そんな強がりを心の内に吐き出しながら、前を進もうとした。

 

矢が当たっても黒く散る兆候など全く見せない、金色纏う奴の元へ。

 

進む道は険しく、走る脚に草が絡む。

先がどうなるかなんて、俺にも分からなかった。

 

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