討伐?回です。(恋愛話だけでなくこういう話もあるシリーズです)
人ならざるものは思考やら感性・相性やらが(人間目線では)独特なんじゃないかな、という前話・前々話からの続きです。
冗長なので数話に分割しました。
それを見た時のお前の顔は、普段とあまり変わりがないように見えた。
けれども気は引き締まって、挑む何かを逃さないように、一心不乱に立ち向かおうとする心根は感じた。
ああ、これは人を守る神の顔だ。
これはずっと昔に俺を助けてくれた時の顔と全く同じだと、そう思ったよ。
変な手紙を使った事件が流行っていると聞いたのは、少し前だった。
その手紙を使うのは主に人ならざるもの達だった。人間を襲うのに、誘いだすなど技巧が要るのにそれに乏しい奴らが人を襲い出した。妙な力を持つ手紙が人を誘う役に立っているらしい、なんて酷く曖昧な話。それでもその被害はそれなりで。被害に即してちゃんと物証も出て来てくれたのだった。
その手紙からは梅の匂いがした。怪しげな香が付けられた物を不用意に嗅いでしまった、と顔をそむけた俺とは正反対に、カズトはまっすぐその手紙を見つめていた。
この香りは、と口にして何か考えている顔はいつもと変わらず、しかしそれは、ずっと昔に俺を助けてくれた時と同じ『神の顔』となっていた。
「文だけじゃない。『梅の香り』が絡む未解決事件を探って欲しい」
もしかしたら通常の警察あずかりとなり続けているものもあるかもしれない、と、厄介そうな前置きをしてから、カズトは語った。
「『梅の香り』と『姿のつかめない男』。身元が分からなくても外見の特徴が分かるものは省いてくれていい。『よくわからないもの』が出てきた、会った、話した、という奴だけを、おねがいするよ」
端的に言うと、未解決異常事件の捜査資料の洗い直しをやれという事だ。
脈絡が無いし、何処までという限度も無い話、人は多くは使えないぞ、と思いながら、俺はそれを許可した。
結果から言うと、起こっているどころではなかった。
不審な自殺や事故死。その被害者の縁者に声を掛ける不審な男が居た。事件発覚前、その縁者が被害者が死んだと知らない時にだ。
掛けられた声や質問やらの内容は覚えていない。不審に思わないような日常の話だったのだろうとの事だった。見知らぬ、不審な男が声を掛けて来たのに、である。そしてもっと奇妙なのが、その声を掛けてきた男の顔は誰の記憶にも残っていない。不幸が起こった当日だから曖昧になっている事もあるだろうが、他のどんな詳細な事も覚えている人間でも「男の人だと思います」で終わってしまうのは、流石におかしい。それとは反対に、男が動くと梅の花の香りがした、との供述も、ほぼ全員が答えていた。
───こんなに共通点が多い事件を、何故俺も含めた誰もおかしいと思わなかったんだ。
男と遭遇した場所に監視カメラが無いわけじゃない。またその場所を写真に収めている人間も居た。
しかしその男の顔だけは映らない。検分した写真にもそれらしい者はおらず、そして記憶にも残らない存在。
「彼は『ウツツギ』だ。首括り狸だと言っていたね。ぼくの倍は生きているらしいけれども、これも確かじゃない」
「彼だとこちらが分かるものでまだ確かだと言えそうなのは、梅の香りぐらいだ」
「彼はあいまいだ。頭にも心にも残りにくい。そして彼は、こんな風に人に関わって来る」
事件の資料を指差しながら、カズトはそう説明した。
やっぱり厄介な話だ、大事件じゃないかと、すぐさま俺達は動く事になった。
動くと言っても当てがある訳じゃない。地道に、先の手紙を使っていた奴らから聞き出す事にした。新しい事をやり始めると、ほころびが出る物だ。俺達はそこを叩く事にした。
『ウツツギ』がこんな手法を使うとは聞いた事が無いと、カズトは言っていた。だから今回のは誰かが間に噛んでいるのだろう。模倣犯の類にしても、どちらにしても存在感が掴み辛いらしい『ウツツギ』の存在やら以前の手口やらを知る誰かが居るのは間違いない。
人だけでなく全てを幻惑して、自らの存在感をも曖昧にして動き回る『首括り狸』か。これは、手こずりそうな相手だ。
捕縛された者達曰く、自分は直接の面識はないが自分達の所属する集団の上の方の存在と親しいらしく、目的があるならと喜んで手を貸してくれた。その上の者達も最近は『ウツツギ』を見ていないと言っていた。詳しい話は聞かされていないが、どこかの組織が囲っているとの噂もあるらしい。
「噂だよ。文の効力はともかく『ウツツギ』なんてのが本当に居るのか俺らも知らねえ。文やらを書かせたらしい上の連中も「こんな奴、昔居たような」ってボケた事抜かしてるんだ」
だから、俺らは何も知らねえよ。
尋問された輩は、何故だか胸を張って断言していた。
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