※この作品はR-18です。

プレイアデスの瞳   作:甕下 星辰

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※別サイト(pixiv・ミッドナイトノベルズ)にも同作品を投稿しております。
※過去作品の引用・改作です。(概ねのストーリーは違います)

邇獅噛討伐の顛末、ヒツキ目線です。
不思議な縁に柔らかい気持ちになり、立派になったとため息を付き───それでも消えぬ懸念は足を進ませ、亡霊は警告を残す。


凛と響き、燃ゆる(篝は焔、焔は業火)③

『ウツツギ』の香は強力だ。不安こそあれど、もう少し工夫すれば彼女を、『ニシカ』を縛り留めることが出来る、そう考えられていた。

そしてその『工夫』と香との相性がよかったからこそ、ぼくが今こうして山の入り口に配置されることになったのだ。

 

中秋の名月のもとで汲んだ清水───境界を定め設ける験をもたらしてくれる水だ───静かな夜の下で醸された雫は、香の霧散と彼女の逃走を防ぐために。その水を張った皿を山の出入り口に置いた。ぼくはその補強としてここに居る。

元より『守る力』を増幅することはできなくはない。だから、清水の力を増幅できはするかもしれないけれども。

まさか、今のぼくが役に立ってくれるとは思わなかったよ。

境界に在り境界を守る───塞ノ神としての本来の役割なんて果たせないと思っていたのに。さまよっているからこそ、役に立つなんて。

 

───本当に、不思議な縁だ。

 

やわらかなため息が口から漏れる。

そんな場合ではないのに、ここまでの巡り合わせ、引き合わせてくれた縁を思い返してしまう。

 

『イッショー』、きみとの出会いでぼくの歩みは変わったよ。

進む方向は変わってはいないけれども、歩く内に見える風景が変わり、だれかと共に歩くということができるようになったよ。

 

だからこそ、今のきみが少し心配だ。

 

通信機器からは何も聞こえない。

有効打となるであろう矢玉は『ニシカ』へ撃ち込めた。成功だ。これから『ニシカ』に単独で接近する。絶対に逃がさないようにしたい、だから動かないでくれ───そんな通信がずいぶん前に届いただけだ。

きみはきっと、うまくやってくれている。だから手負いの彼女をこの山に留め、退路を断つために、ぼくはここに居続けないといけない。

 

それでも、不安は胸にかすかな灯をともらせた。

 

『イッショー』、きみは熱くなりすぎちゃいないかい。

 

熱くなりすぎて、留まることを忘れちゃいないかい。

 

不安で胸が熱い。寒さなど碌に感じぬはずなのに、胸にともされた灯があまりにも熱いものだから、周りの温度が凍えるように冷たく貼り付いてくる。

胸の中の熱はさらに熱く大きくふくらんで───いつのまにか、ぼくは一歩前へと踏み出していた。

 

踏み出した足は歩を踏み、やがて早足に。留まるように命じられた場所、山の入口を背にしながら、ぼくの足はどんどん速くなっていく。ふくらんだ熱はさらに嵩を増してしっかりとした輪郭を持ち始め、ついには明確な予感となってゆく。

 

死のにおいがする。ずっと前に旅立ち見送ったはずの存在が爪先をこちらに向け、走るぼくの背にぴったりと寄り添っている。

ぼくの背骨に沿うように密着した彼は、詠うようにささやいた。

 

───ヒツキ。六連くんが。六連くんが、あぶない。

 

死のにおい。暗く静かな闇のにおい。それに交じってなお馨しい、梅の香り。

 

それは、今まさに『ニシカ』を逃がさぬようにと醸された『ウツツギ』の香りだった。

 

遠くで硬質な音が聞こえる。純度の高い鉱物同士をぶつけたような、ぶつかり合うことで奏でられた噪音。おさな子のさんざめきに近い、それが添えられたさわやかな夜も、打ち合うことで生じたまばゆい火花をも見えるような、そんな純粋な音だ。

 

これが聞こえるということは、ぼくがこうして向かったのは正解だったのだろう。

 

───きみよ、どうか熱くなりすぎるな。

 

確信を持ち、さらに足を速める。走る速度は風となり、身体にぶつかる。

 

熱くなりすぎて疲れ果て、力尽き凍えてしまう、なんて、ならないように。

 

冬の空は青く、青い色はどこまでも澄んでいる。

その遠く澄み切った色にとらわれることなどないように、ぼくは前を向き直し、足を進めた。

 

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