※過去作品の引用・改作です。(概ねのストーリーは違います)
邇獅噛討伐の顛末、ヒツキ目線です。
六連の悲痛な・おぞましい姿と、ヒツキの心と。
何だか六連・ヒツキ共に仕事人らしくなくない?というのは仕様です。
みなが来るのを待ち、ぼくは六連の元へ戻った。
みなは迅速に、それでも無鉄砲ではなく、こちらの状況説明からの指示を順守した上で来てくれた。来るには及ばないと判断されたもの───少し離れた地で待機しているものも、別の動きを任されているものも、不安や心配に焦らされ無秩序になることなく自分のやるべきことをしてくれている。
指示は早乙女からだ。六連から不測の事態にと託されている彼は状況を熟考し、人員をどう動かすか、動いてくれるか決めてくれたのだった。
ヒツキさん、とメノウがぼくを呼ぶ。覚悟を決めた顔だ。
『ウツツギ』の香の効果は薄れていると、そして、使われた矢───『神殺しの鉄』にも近付いても支障ないだろうと、ぼくは伝えた。
ぼくが『ニシカ』に近付いても、彼女からの攻撃以外で眼に見えて何か障りがあるということはなかった。
もちろん身体に刺さってしまうとか、近付き過ぎるということがあれば違うかもしれないけれど、適切な距離を保つならば人ならざるものであっても問題はないだろう。なにせぼくが、人ならざる塞ノ神が何の瑕疵もなく戻って来られたのだから。
『ウツツギ』の香に関しては近付いた時ににおいが薄れていたからというのもあるけれども、ぼくが山の出入り口から動いてしまったから、中秋の清水の境界は立ち消えただろうという予測からだ。ぼくという補強が消えたなら、香りは霧散し逃げてしまっているだろう。ならば、ぼく達以外のものが醸された中に入っても、もう幻惑されることはない。
現にほら、メノウはこうして無事なままだ。
大丈夫だよ、とのぼくの声に、そうですね、とメノウは一瞬ほほえみを浮かべ、前に向き直った。香りにはことさら敏感な化犬である彼がこうして問題なく動けているということは、やはりぼくの仮定は当たっていたのだろう。
みなは無鉄砲ではない。ぼくのように思いに駆られるがままに持ち場を離れてしまうなんてことは、しない。
処罰なら、いくらでも受けよう。
すべてが片付いたら責を負おうなどと走りながら考える内に、ふと、『ニシカ』の眼窩に刺さった矢のことを考えた。
誰にも支障などないだろう、近付き過ぎなければ。
では、近付き過ぎたなら。例えば、素手で掴み相手に突き刺したりしたなら、どんな支障があるだろうか。
───きみとぼくは、思った以上に似ているのかもしれないね。
前提さえ違えばほほえましいとすら思える。けれども今は、とても笑えないよ。
気持ちが焦がされ、焦る気持ちばかりが空を切る。それを押して、ただ走る。
そうして辿り戻り付いた先で、きみは。
六連は、傷だらけだった。
すべてが無音だった。
『ニシカ』の硬質な被毛に六連の刃がかち合う音も、削られた飛沫が六連の素肌に突き刺さる音も、そこから流れる血の音も、六連のつぶやく声も。
何も、聞こえない。
『ニシカ』は、彼女は、四肢を投げ出し倒れていた。もはや話す余力もないようで、そこに馬乗りになり、六連は刺し続ける。
六連の身体は真っ赤に染まり、そこにおどろに乱れた黒髪が貼り付き、全身を、皮膚を、覆っていた。
昼下がりの青天、まだ陽も高いのに、そこに光はなく、熱も悲鳴もない。
そこは、真に無機質な空間だった。
六連は『ニシカ』を見下している。
乱れ貼り付いた黒髪の合間から見えるその眼はどろりとしており、まるで深い沼の泥のようだった。
赤で塗り潰された六連は、彼女を見下している。
恨みや使命感に焦がされ急かされ、もはや無機質な様相を成したあの子が、それでも意識を討伐に向けている。
塗り潰す赤は、嫌な色をしていた。
これは夕暮れだ。
ぼくがかつてあの村で、骸に囲まれながら見上げた沈む日だ。
すべてが朱に染まり、赤く朽ちてゆく。かつてぼくを祀ってくれた人びとも、人びとを見守っていた思い出も、守るものなのだという矜持も、ぼく自身という、大まかな枠組みも。
じきに日も沈む。なにもかもが夕闇に覆われ塗り潰され、夜になる。
夜は何もない。光も命も、他者も、自分自身さえも、そこには存在しないし、何も見出すことはできない。
枠組みも何もなく黒に溶け込んで、自分が何者だったのかさえ忘れてしまう。
六連、きみをそんなものにさせたくはない。
赤く塗り潰された六連の動きは止まらない。負傷が激しく弱っているだろうに、それでもなお、『ニシカ』を削ろうとしている。
六連さん、篝さん、と来てくれたみながどよめく。この状態でも止まらぬ六連に戸惑っているようだった。
ここでたじろいでいる暇はないんだ。
前に歩み出て、『イッショー』、六連、と声を掛けた。返事はない。再度問う。答えはない。
と、一瞬、六連の動きが止まった。
『イッショー』、と呼びかける。その声を聞き、六連がこちらを向いた。ナイフから刀に持ち変えた手は得物を掴んだままで、それでもこちらに気付いてくれた。
六連さん、篝さん、とメノウと犬養が呼ぶ声にも反応した。そのまま意識をこちらを向けた六連に手を───砕けた右手首を持ち、手を振るようにゆっくりと揺らす。
ぼくのそこないもそう大きくはない。すべて吹き飛ばされ亡くしたわけじゃない。大丈夫だ。
六連が視線をぼく達からずらし、『ニシカ』の方を向いた。殺意では無く観察の眼で、彼女の状態を見ている。
眼窩からの矢羽根は、黒い塵となって消えようとしている。見えづらいけれども、目玉に埋め込まれた鏃も、黒く朽ち、空に散ってゆくのが分かる。
これで、本当に彼女は滅びた。
気が抜けたらしい六連の顔に笑みが浮かんだ。そして緊張の糸が解けたのか、その身体がぐらりと傾き、倒れてゆく。
六連、と叫び声が出ていた。
ボロボロになってもなお警戒を失わない六連に痛ましさを、そして、六連を心配するあまり、『ニシカ』への警戒の大部分を解いてしまっていた自分に恥ずかしさを感じたまま、駆け寄った。
気を失った六連は安堵の笑みを浮かべつつ、それでも、刀の柄を離そうとはしなかった。
この小説にどのような描写を求めていますか。
-
アクション・動きのある描写
-
独白に近い心理描写
-
登場人物同士の交流描写
-
ぼかしている部分の明示
-
R18描写(性的な描写)
-
R18G描写(グロテスクな描写)