どんな精密な検分など行うまでもなく、彼女の中に在るのは自明の理。
思っていたより重くなるのねえ───
最初に感じたのは、そんな事だった。
膨れた腹は嵩張り常に視界の隅に、乳房も重みを増し張り詰めて痛む。
身体も妙に重だるく、細々とした用を済ますだけでも一苦労だ。
けれどもきっとこれは、実際よりもずっと軽い。
わたしの胎には何もない。それは分かっている。
赤子どころかどんなものも入っちゃいない───老廃物やら何かしらの細工やら『本来入っているべきではないもの』すら、何もない。空洞なのだ。
不自然なまでに膨れた腹。それを見ていると皮肉な笑みすら浮かぶ。
わたしの胎には何もない。どんな種も芽吹かず、誰の胤も育みやしない───こちらは検分など受けるずっと前から分かり切っていることだった。
だからこそ、こうなっているのがおかしく思える。
さあて、どうしてこうなったのかしら───なんて、思い始めた時に彼がやって来る。
大丈夫か、と問われる声と、どうして来たの、と尋ねる声が重なった。
「どうしてって、不便だし、不安だろう」
だから来たんだよ、と柔らかい笑みを浮かべる顔に、そうじゃなくてと返す。
意味なんて分かっているでしょうにこう返す彼に、ほんの少しだけ、苛立ちを覚えた。
彼には、六連には敵が多い。
討ったり交渉したりの生業は、理不尽なもの含めて恨みを買いやすい。そんな恨み持つ相手が彼の親しい相手に目を付けて何かを仕掛けたのかもしれない。
彼由来じゃない、わたし自身が理由でこうなったにしても───それなりの時を生き、夜の街にあるのだもの。思わぬところで恨みを買われていてもおかしくないわ───やれ好機だ、弱みを得たりと、彼の敵が更に何かを仕掛けて来るなんてこともあり得る。
だから、来て欲しくはなかった。
「俺は平気だよ」
「何かあるのなんていつもだろう?それで『いつも』ちゃんと切り抜けるし帰って来る。だから大丈夫だ」
検分やら隔離、保護の為に置かれた、あまり物のない白い病室。
その部屋の中で、彼の声は柔らかく滲む。
辛くないか、大丈夫か、と頭を撫でる手は優しい。
今は俺じゃなくて自分の身体の事だけ考えてくれ、なんてこちらに向ける視線は、翳りを含みながら星の如き光を抱いている。
いつもそうだ。だからこそ、こう思う。
もしこれを仕掛けたのが彼の敵でも。
わたし由来の何かでも、いいえ脈絡などない只の災難でも。
どんな由縁があるにしても、何事もなく無事に戻ってきますように。
彼を苛むことなどありませんように。
妙な顔をしていたのだろう。不安なのか、と六連が気づかわし気に抱きしめて来る。
身体の奥底から魚が跳ねるような音が響く。
───内側から肉を打ち付け、絡み付く胎動を感じた気がした。
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